第21話「特例中の特例」
「ロイク様、ポイント、ワン!」
よし!
俺が先制!
あっさりポイントを奪われ、
サブマスター、エヴラールさんは驚き、呆然としていた。
しかし、頭を何度か横へ軽く振る。
気持ちを切り替えたようだ。
「な、成る程。さすが、ひとりで山賊どもを40人以上倒しただけの事はある」
エヴラールさんは納得したように言い、
「よし、リベンジマッチだ」
と微笑んだ。
いや、『リベンジマッチ』って勘弁してよ。
今、やってるのは模擬戦で、本来は冒険者ランク判定をする趣旨なんだから。
と、思ったが、仕方がない。
「いつでもどうぞ」
と、俺も微笑んだ。
やはり攻めかけず、徹底して『待ち』の構えである。
「ふむ……相変わらず、カウンター狙いかい? ロイク君」
「………………」
こういう時は沈黙は金。
俺は無言、ノーコメントである。
「ふ、まあ、良いだろう。ロイク君のポイント先取は、ビギナーズラックということで許容しよう」
エヴラールさん、こうは言うけど、実は相当な負けず嫌い。
こめかみに血管が浮いている。
『素人』の俺にポイントを先取された事が許せなくなって来たらしい。
ここで魔導スピーカーから、クロエさんの大きな声が闘技場へ響く。
「サブマスター! 冷静に! 冷静にですよ!」
「ははは、分かっているよ」
エヴラールさんは苦笑し、どん!と闘技場の地を蹴った。
そして!
凄まじいスピードで、俺へ向かい、迫って来る。
ここで、俺は気が付いた。
おいおい、何だよ!
いつの間にか、右手に雷撃剣を持ち換えているじゃないか!
エヴラールさん、全然冷静じゃない。
超・熱くなってる。
しかし!
防御と
攻撃をあっさりと避ける。
しかし、今度はエヴラールさんも俺に打たれないよう、防御に気を付けながら、
二撃、三撃目を放って来る。
でも俺の身体能力は、剣聖にも通用した。
動体視力は、ハイスピードカメラのようにコマ送りで剣の軌跡を追えるし、
反射神経もすぐ応え、『俊敏初級』が後押ししてくれた。
癖は絶対ではないが、ほぼ動作が予測出来た。
10回ぐらい、
びしっ!
とまたもヒット!
大当たりぃ!
「うぐおおおお!」
うわ、やばい!
エヴラールさん、切れる寸前だ。
「サブマスター! 冷静に! 冷静に! 冷静にぃぃ!!」
しかし、闘技場内に大音響で響く、
クロエさんの必死な制止も、あっさり無効化されてしまう。
何故なら、三度目。
びしっ!
とまたまたヒット!
超大当たりぃ!したからだ。
こうなると、ますますエヴラールさんはヒートアップ。
完全な本気モードへ。
しかし、これは模擬試合。
俺は、『時間』に救われた。
ぶ~~~~~!!!!!!
試合終了のブザーが鳴った!
さっき闘技場内に鳴り響いたクロエさんの声以上の大音響。
結局俺の3ポイント「ゲット」で、模擬試合は終了したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
試合が終わってしばらく経つと、エヴラールさんはクールダウン、
さすがに、冷静となっていた。
苦笑して、俺へ言う。
「いやあ、5ポイントまでいかずとも、私の完敗だったね」
「はあ、たまたまです」
俺が答えると、エヴラールさんはひどく真剣な表情になる。
「いや、私に完勝した結果は、絶対にまぐれなんかじゃない」
と、言い切り、
「カウンター攻撃は、ロイク君の戦法かもしれない。しかし、今度は真っ向から、打ち合ってみたいものだ」
と微笑んだ。
ああ、ホッとした。
安堵した。
癖狙いの作戦も、どうやら、ばれずに済んだみたい。
と、ここでクロエさん登場。
「もう! サブマスター、本当に大人げないですよ。少し反省してください」
エヴラールさんに対して、まるで姉のような言い方で軽く叱り、俺へ向き直った。
「ロイク様は、素晴らしいです。この試合結果は、ランク判定に大きく影響されますよ」
「大きく影響? 本当ですか?」
「ええ、本当です」
微笑むクロエさん。
……その後、当初の約束通り、サブマスター室で、
エヴラールさんとクロエさんが講師となり、冒険者ギルドの意義、規則、営業内容、そして冒険者の心得などの講義が行われた。
質疑応答も行われる。
俺は、講義前によろず屋店員の頃から、ギルドについて学んでいましたと前振り。
その為、講義、質疑応答は円滑に進み、冒険者ギルドに対し、
よく認識と理解が及んでいると判断される。
当然ながら、冒険者ギルドを熟知した中二病の性癖、
そして、このRPG『ステディ・リインカネーション』をやり込んだ賜物である。
さすがに、決定が出るまでしばし時間はかかった。
約30分は待たされたと思う。
しかし待った甲斐はあった。
俺は無事、所属登録証をゲットした。
ミスリル製の所属登録証に記載された、ランク判定は何と何と!!
ありえない、異例の『B』!
否、異例どころではなく、
いきなりBなど『特例中の特例』と言って良いだろう。
冒険者未登録だった俺は、ランクBの『ランカー』となり、
いきなり上級冒険者の仲間入りをしてしまったのである。
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