第20話「ランク判定模擬試合」

冒険者ギルド総本部のサブマスター、エヴラール・バシュレさんと戦うにあたり、

俺にはとっておきの『切り札』がある。


この切り札は、俺がこのゲーム、

『ステディ・リインカネーション』を「やり込んだ」特典だ。


え?

それは、何かって?

早く教えろ?


……申し訳ない、少しだけ待って。

本番で、エヴラールさんと戦った時にはっきりさせるよ。

なあんだ、って言うかもしれないけど。


ひとつだけ、ヒントを言うのなら、

このゲーム、『ステディ・リインカネーション』製作者の、

とんでもない『こだわり』……である。


さあ、試合の準備は完了!


俺はロッカーを出て、闘技場のフィールドへ向かった。


フィールドでは、既にエヴラールさんが待っていた。


あれえ?


俺は違和感を覚える。


ああ、そうか。

俺は気付いた。


エヴラールさんが『左手』に雷撃剣を持っているからだ。


本来、エヴラールさんは右利き。


利き手じゃない左手で、剣を扱う。

という事で、さっきクロエさんへ告げた通り、手加減するという意味か。


まあ、エヴラールさんが左手も、右手のように自由自在に使える。

そういう可能性はゼロではないだろう。


しかし、ここは考えすぎるのは禁物。

それに俺の知っている『ステディ・リインカネーション』のエヴラールさんは、

そこまで『腹黒い策士』ではない。


ここは素直に「付け込むスキが増えた」と、受け止めよう。


つらつら考える俺。


フィールドの中央へ。

開始線に立つ。


対面には、エヴラールさん。


ああ、ほんと嬉しそうだ。

この人、いつもは沈着冷静だが、

自分が興味を持った未知の相手、ものに対しては、凄い執着を見せるからなあ。


ここで魔導スピーカーから、クロエさんの声で、場内アナウンスが流れる。


「では、おふた方、向かい合って礼を」


「はい!」

「はい!」


俺とエヴラールさんは礼をした。


クロエさんのアナウンスは続く。


「試合制限時間は10分。先に5ポイント先取した方が勝利者となります。時間が来て5点にポイントが満たない場合はポイント上位が勝者。同点の場合は、魔導審査機が戦況を判断し、判定で勝利者を決定します」


うん!

やはり、『ステディ・リインカネーション』のギルド模擬試合のルール通りだ。


「ロイク君、素人相手のハンデとして、魔法は一切使わない。それと私は本来右利きだが、左手で戦おう」


おお、やっぱりゲームの俺アラン・モーリアが親友付き合いしただけの事はある。

先ほど述べた性癖以外は、強くて冷静沈着、フェアな男なのだ。


よっし!

俺も今、持てる力の全てを出して戦おう。


「始め!」


クロエさんの合図が入り、ランク判定の模擬試合は開始されたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


しかし!

作戦通り、俺はその場で、身体をほぐし軽く動かすだけで、攻撃を仕掛けない。


俺が打ちかからないので、エヴラールさんは首を傾げている。


「ふむ、攻撃して来ないとは……ロイク君は、カウンター攻撃狙いですか?」


惜しい!

それ半分当たってる。


エヴラールさんは、ニヤッと笑う。


「……分かりました。その誘い、乗ってあげましょう」


だん!


エヴラールさんはフィールドの地を蹴り、神速で、踏み込んで来た。


間合いへ入り、剣を振りかざし、鋭く振った。


音が鳴って、風で刀身が唸る。


俺の胴、近辺がなぎぎ払われる!


素人考えなのだが、一流と呼ばれる武人は、

攻防のあらゆる面が優れていると同時に、

攻撃に関しては必殺の間合いに入る事がめちゃ早く、更に巧みだ。


しかし!


避ける事だけを考えていた俺は、相手の剣の軌道を追い、

ステップバック……何とか、かわす事が出来た。


うわ! 危なかった!


山賊なら余裕でかわせるが、さすが剣聖、スピードが半端ない。


「お、おお!! かわしたか! やるな!」


「何とかです!」


言葉では言いつつも、俺には勝機がはっきりと見えていた。


あっちはまだ手加減しているだろうが、俺もまだ、『ギア』に余裕があるからだ。


そして、俺は確かめた。


やはり……変わっていない。

これなら見切れる。


ここで、約束通り、切り札の『種明かし』をしよう。


先述したが、俺はゲーム『ステディ・リインカネーション』において、

100回以上、真剣勝負、練習含めエヴラールさんと戦った。


その時、当然だが、しばらくの間、何度も何度も何度も……負けた。

惨敗だった。


剣の素質では敵わない。

だったら、どうするのか?


勝つ為には敵の弱点をつく。


そう弱点をつく俺の切り札とは、エヴラールさんが攻防の際に出す『癖』だ。


この『ステディ・リインカネーション』の開発製作者は、相当の凝り性。


メインキャラクターのひとり、エヴラール・バルシュへ、

そこまでの思い入れを持ち、細かくプログラミングしたのだ。


癖を見せたら、エヴラールさんの次の動きを予測し、

見切って、反撃する。


野球の投手が、走者を出した時、

その走者の癖で、『盗塁』を予測するのと同じだ。


逆に野手であれば、投手の癖を見抜き、盗塁する。


とまあ、癖を把握したおかげで、ず~っと連敗していたのを脱出。

俺アラン・モーリアは、エヴラールさんに、3連勝する事が出来た。


何だ、もったいぶっておいて、単なる癖かよ!

と言うなかれ。


例えば、突きを放つ前に、まばたきを2回するとしたら。


袈裟懸けに斬る場合、右足から踏み出すとか、


攻撃して来ない場合、右肩の角度がわずかに違うとか、


剣聖だから、癖のデメリットに気付き、悟られないようにしたかもしれない。

だが、エヴラールさんの癖は全部で、数十以上あった。


そして俺は、エヴラールさんと何度も戦った魔法剣士アラン・モーリアではない。

まあ、この世界でアランが存在したのか自体、不明だけど。


変に聞くと、話がややこしくなりそうな予感がする。

だから、尋ねたりはしない。


話を戻せば、俺は、エヴラールさんとは縁もゆかりもない、

素人の16歳少年、ロイク・アルシェなのだ。


まさか初対面の元よろず屋店員が、自分の癖を熟知しているとは分かるまい!

もしも分かっていたら、手加減などしない。


そして俺が有利なのは、模擬戦で、雷撃剣を当てればOKな事。


致命傷や大ダメージを与える必要はない。


俺に一撃をかわされ、闘志を燃やしたのか、エヴラールさんの第二撃目。


ああ、どことは言わないが、癖がしっかり出てる。


俺は余裕でかわし、エヴラールさんの胴を突く。

ほんの軽くだ。


つん!


しかし、雷撃はしっかり伝わった。


びりびりびり!


ヒット!

大当たりぃ!


「あっつう!」


サブマスターのエヴラール・バシュレさんは俺の電撃を受け、悲鳴をあげる。


すかさず、クロエさんの声が魔導スピーカーから響く。


「ロイク様、ポイント、ワン!」


よし!

俺が先制!


あっさりポイントを奪われ、エヴラールさんは驚き、呆然としていたのである。

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