第7話「ざまあの円満退職、そして旅立ちへ」

「ぎゃあああああああああ!!! わ、わ、わ、分かったああ!! き、き、き、金貨300枚!! い、いや! ご、500枚払ううう!! ずびませんでしたあああ!!!」


ざまあああああああああ!!!


俺は思わず、心の中で絶叫した。


前世で苦しめられた社長と部長の分も合わせ、

憎たらしい店主オヤジへ、勝利の大喝采だいかっさいを込めて!!


でも何か……オヤジ店主の奴、最後の最後で謝ってくれたみたい。


だが、そんなの今更もう遅いわあ!

……と、いう事で。


俺は500枚の金貨を、あくまでも形としては好意的に? 

オヤジ店主から気持ち良く?支払って貰う事となった。


まあ、1日17時間労働で日給はたった1000円、

週7日のうち半日しか休めず……

3年間、今までびっしり働いた。


その分を考えると、

金貨500枚……500万円でも全然少ないくらいだけど。


そしてオヤジ店主には、あくまで好意的な証拠として、一筆書いて貰った。

直筆サイン入りで。


私はロイク・アルシェへ、当店を円満に退職につき、『退職金・金貨500枚』を確かに支払いました。創世神様に誓い、相違ありません。 よろず屋店主


退職証明書、及び退職金支払い証明書……という事で。


「退職金、確かに頂戴致ちょうだいいたしました。これまで、いろいろお世話になりましたあ! お互い、余計な事は言いっこなし! ではでは! さようならあ~」


ふてくされ、扉を閉め、自室へ閉じこもったオヤジ店主へ、


扉の向こうから、見えないから構いやしないと、俺は思い切り、Vサイン!

更に舌をベ~っ出し、Wざまあ! した。


そして有り金を全てを持ち、少ない荷物をまとめ、よろず屋を出た。


よっし!

円満退職完了!


前世では、退職代行業なる商売もあるらしい。

だが、俺は自分自身で、ダークサイドな職場をやめる事が出来た!


よし!

生活費も確保出来た!

改めて、人生をやり直そう!


そう、俺は決めた。


生まれてから25年……

好きの偏りはあるかもしれないし、

「そんなの浅いよ」と上級のファンからはバカにされる知識かもしれない。


だけど、数多のラノベ、マンガ、アニメ、ゲームで詰め込んだ、

自分で認めた、濃いおたく知識が、俺にはある。


そして! 

このRPG『ステディ・リインカネーション』を、

やり込みにやり込んだ末に得た、膨大なゲーム知識もある。


手持ちの金貨もオヤジ店主から受け取った金貨500枚があるから、

しばらく余裕で生活は出来るし、小さな商売くらい立ち上げられるかもしれない。


育て上げたスーパーキャラ、

魔法騎士アラン・モーリアみたいに、かっこよくなれなくとも、

平民の少年という雑魚なモブキャラであっても……夢は大きく持つ!


俺は絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!


そう固く固く決意し、村内を意気揚々いきようようと、歩いていれば……


「お~い、ロイクう」


何と!


ラッキーな事に、懇意になっていた店の常連、

王都にある、ルナール商会の幹部社員オーバンさんに出会った。


オーバンさんに聞けば、3台の馬車から構成された護衛付きの商隊を率いて、

たまたま村へ来訪中。


休憩が終了したので、そろそろ王都へ出発するという。


俺は「しれっ」と、言う。


「はあ、実は俺、いろいろあって、よろず屋を退職する事になりまして」


対して、オーバンさんが『神』だと思える申し出が、


「そっかあ、じゃあ、ロイク。お前、一緒に王都へ来るか? タダで馬車に乗せてってやるし、道中は通行税も不要、飯も3食、食わせてやる。その代わり、王都へ戻るまで商会の雑用をやってくれや」


「王都へ戻るまで商会の雑用っすか? 雑用なら慣れてるし、ただで乗せて頂いた上、通行税不要で3食飯付きならば全然OKでっす」


おお!!

超ラッキー!!


これは、本当に渡りに船って奴だ。


さっきの反撃といい、この出会いといい、 

おいおい、俺って、……ロイク・アルシェって、

これまでの薄幸な境遇が信じられないくらい、

『運のパラメーター』だけは高いNPCなのか? とも思ってしまった。


そういや、俺のアバターだったアラン・モーリアも、

ランダムボーナスポイントで、身体能力、運は最高レベルにして、

いくつかのスキルをつけて、初期設定したっけ。


懐かしい!

でも、まあ、良いや。


俺は改めて「あくまで一身上の都合により、円満によろず屋を円満退職した」

とオーバンさんへ告げ、退職証明書、及び退職金支払い証明書を見せた上……

頭を下げて頼み込み、彼らの商隊の3台の馬車の1台に便乗させて貰った。


そして、故郷のひなびた村を旅立ち、、王都ネシュラへと向かったのである。

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