第8話「しかし! その言葉はすぐ裏切られた」

俺は改めて「あくまで一身上の都合により、円満によろず屋を円満退職した」

とオーバンさんへ告げた。


その上で、退職証明書、及び退職金支払い証明書を見せた上……

頭を下げて頼み込み、彼らの商隊の3台の馬車の1台に便乗させて貰った。


そして、故郷のひなびた村を後にし、王都ネシュラへと向かったのだ。


俺の故郷の村は、王都ネシュラから南へず~っと下った場所にある。


なので、俺が乗る馬車はひたすら街道を北へ向かっている事となる。


ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!

ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!


ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……

ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……


ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!

ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!


街道を走る俺を乗せた商隊の馬車。

その後に続く商隊の馬車2台の都合3台。

護衛役の冒険者クラン『猛禽ラパス』の面々騎馬5名。


……これらがルナール商会商隊の構成である。


ちなみにクラン『猛禽ラパス』の名は、プレイ中、

ゲーム内で誰かが話しているのを聞いた事がある。


冒険者ギルドで結構仕事をした俺だが、かかわりはなかった。

その時聞いた話からすると、

全員ランクB以上のランカーの『強豪クラン』との認識がある。

まあ、彼らが居れば、無事に王都へ到着出来るだろう。

安心、安心!


馬のひずめが、車輪の音がのんびり響く。


音だけ聞いていれば、とても平和で牧歌的である。


それに、周囲は何もない大草原。

草原には、あちこち雑木林が点在している。


まるで、遠足気分のようになってしまう。


しかし、ゲームの世界とはいえ、現実はリアルで過酷だ。


広大なフィールドには、危険がいっぱい潜んでいる。


フィールドを歩いていると、または乗り物で移動していると、

魔物や人間の賊などの『敵』と容赦なく遭遇し、リアルなバトルへと突入する。

RPGなら、お約束の外部環境である。


自称レベル40オーバーのオヤジ店主を倒した自信から、

ちょっとだけ、バトってみたいとは思ったが、怪我や死ぬのもあほらしい。

なので、やめておく。


さてさて!

俺が今を生きる『ステディ・リインカネーション』の世界観は、

中世西洋に準じていた。


中世西洋に魔法と魔物が加わった異世界。

こういった世界観を持つゲームは多い。

どこにでもあるというか、万人受けする世界だからだと俺は思う。


魔物が出ない、リアルな中世西洋世界でも危険は多かったという。

そういう、うんちくは大好きだし、ゲームの中でも役に立ったっけ。


俺は、ラッキーで馬車に乗せて貰ってはいる。


だが、一般人の移動は基本的に徒歩が多かったという。

金銭的に余裕があれば、こうやって馬車で街道を移動していたらしい。


ちなみに馬車、徒歩以外では騎士は馬で、

商人や郵便配達人は馬、もしくはロバを使って移動したりもしたそうだ。


また、中世西洋世界の町村間は距離がだいぶあり、

道は街道でさえも舗装などされていない。


夏は土ぼこりが舞い、雨がふれば、どろどろ。

雪が降れば、馬や乗り物はすぐ使用不可となり、徒歩で歩くのも難儀な事となる。


そして、先述したように魔物以外にも、人間の賊がガンガン出た。

山賊、おいはぎ、喰い詰めた傭兵等々、

酷いと不景気な貴族でさえ、身分を隠して、旅人を襲って来るのだ。


こうした事に対し、一応ルールはある。

強盗行為は当然犯罪。


いや、犯罪を未然に防ぐ為の自衛ルールって奴。

例えば、街道で対面者とすれ違う時は、左側通行というルールだ。


これは、突如相手から襲撃されても、右手の武器で立ち向かえるから。

相手が左ききの場合は……もう注意するしかないという頼りないもの。


時期的には、やはり冬季を避け、春秋に移動は行われ、

天候の変更にも要注意だった。

昔は、天気予報などないのだから。


更に通行税等、課税の問題もあった。

領主達は関所を設け、しっかりと通行税を徴収する。


という事で、ちょっち旅をするにも、大変な金がかかったという次第だ。


今回俺がラッキーだったのは、

旅慣れたルナール商会のオーバンさんに拾って貰った事だ。


先述したが、防犯面は、全員ランクB以上のランカー腕利きクラン、

猛禽ラパス』のメンバー5人が警護にあたっているし、

税金関係は全額オーバンさん持ち。


前世、この世界とも、薄幸な人生を送って来た俺にも、

ようやく運が向いて来たなと、大いに喜んでいたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……と、思ったら、俺は大甘だった。


引きが強いという人が居る。

素敵な幸運を引くのが強いのなら、全然ノープロブレム。


しかし「間が悪い」とか、「やたらに災厄を引っ張って来る」奴が居る。

多分、それがこの俺……なのだ。


そう!

何か、悪い予感がした。

たくさんの悪意が、俺達に向けられている。


超弱い草食動物ロイク・アルシェの、危機回避能力って奴だろうか。


分かる!

これは多分、人間の賊、そして襲撃だ!!


騎馬の冒険者クラン『猛禽ラパス』のメンバーに周囲を警護され、

俺はオーバンさんと一緒に、先頭を走る馬車の御者台に座っていた。


「あ、あの! オーバンさん!」


「おう! ロイク、どうした? 慌てて」


いや、どうした? 慌ててじゃあ、ないっす。

ホント、やばいっす!


「凄く、嫌な予感がします。クラン、『猛禽ラパス』のメンバーさんへ、緊急指示をして、戦闘態勢に入ってください」


しかし、オーバンさんは元よろず屋店員『素人』の俺なんかの言う事を、

全く信じてくれない。


「凄く、嫌な予感? おいおい、ロイクは気が小さいな。ほら見て見ろよ」


「え?」


「クラン『猛禽ラパス』のシーフ、アメデが全然慌ててない。泰然自若としてるじゃないか」


補足しよう。

シーフは、

本来「泥棒」「盗人」を意味する言葉である。


しかし、ここでいうクランのシーフ職とは、様々なゲーム、小説と同じく、

冒険者のパーティ、クラン等に同行する、『職業』としての位置づけなのだ。


危険な魔物から見つからないように工夫したり、

罠の解除、宝箱の捜索、発見をする。

開かない鍵の解錠などを担当する役割である。


つまり、賊にいきなり襲われないように防ぐ、索敵担当という事だ。


さてさて、オーバンさんの言う通り、

クラン『猛禽ラパス』のシーフ、騎馬のアメデさんは馬上で、

広く青い大空をぼ~っと眺めていて、全然余裕のよっちゃん状態。


「あちゃあ~」


「あははは、全然大丈夫だって! 敵なんか居ない。若いが、アメデの索敵能力は一流だから!」


索敵能力は一流だから!


しかし!

その言葉はすぐ裏切られた。


俺達の行く手には、何と、何とぉ!!

『約100人もの山賊らしき者ども』が、街道をふさいでいたのである。

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