第9話「どうせ、このままなら殺されるんだ!!」

俺達の行く手には、何と、何とぉ!!

『約100人もの山賊らしき者ども』が、街道をふさいでいた。


脅すとか、降伏しろとか、山賊どもから言っては来ない。


それが逆に怖い。

問答無用でなぶり殺しにされる予感がする。


「うっわあ! 何じゃ、こりゃああ!!」


大量の敵出現に驚き、大声で悲鳴をあげるオーバンさん。


ええっと、今更、そう言われても遅いんですけど。


台風の時、交通機関が止まるのに、さっさと帰宅命令を出さない、

前世の部長のような判断の遅さっす。


「いや、だから、ヤバイって言ったんですよ」


「うわあああ!」


俺が言ってもオーバンさんは大慌て。

聞こえちゃいない。


だが当然というか、商隊の護衛役、

クラン『猛禽ラパス』は全員馬を降り、戦闘態勢に入っている。


馬もこういう事に慣れているらしく、そそくさと離れた。

少し後方でじっとしている。


クラン『猛禽ラパス』のメンバーは、

30代半ばとおぼしき、たくましいリーダーの盾役戦士。


剣を抜いた攻撃役の10代後半と思われる若い女子剣士。


メイスを握りしめる回復兼支援役の元司祭は、

ベテランという感のある50代のおっさん。


そして、へまをやらかした斥候役のシーフ、アメデは、

若い20代前半の男。

リーダーに怒られて、泣きそうになってる。


最後に杖を振りかざす、後方攻撃役は40代後半おっさん魔法使いである。

オーバンさんが、結構な攻撃魔法を使うと言っていたっけ。


このクラン『猛禽ラパス』は、強いと思う。


しかし……

相手にもよるだろうが、5人対100人は、さすがにきついだろう。


小さな期待と大きな不安を持って、俺が眺めていたら……

戦いが始まった。


まずおっさん魔法使いが先制攻撃とばかりに、

遠距離攻撃魔法『火弾』を連続して撃つ。


何だよ!

凄い魔法使いって聞いたから、爆炎とかで一気に吹っ飛ばすかと思えば、

火球レベルかあ……


とりあえず期待と不安を胸に戦いを見守る。


お前も、戦え?

いやあ、いくらなんでも無理っしょ。

武器もないし、平服だもの。


話を戻せば……

元傭兵らしき山賊どもは、攻撃魔法戦の対策は、ばっちりだった。


全身が隠れるような、魔法防御効果をかけたらしい巨大な盾で、

全部弾き返してしまう。


おいおい!

どうするんだ、クラン『猛禽ラパス』!!


そのまま、山賊どもは、ざっ! ざっ! ざっ! 

と、こちらへまっすぐ進んで来る。


さすがに、クラン『猛禽ラパス』はひるまない。

あっさり降伏したり、寝返ったりせず、とりあえずは安心した。


俺は引き続き、戦況を見守る。


まず、回復兼支援役の元司祭が、全員に魔法をかけた。

身体強化、防御力アップの魔法だと思う。


先頭に立った盾役のたくましい戦士リーダーの戦士が、

山賊同様、大型の武骨な盾を前面に押し出し、進んで行く。


その後を、武器を持った、女子剣士、司祭、シーフの順に進んで行く。

何だよ! 

数で圧倒的な差があるのに、力押し?


こいつら、アホの子か!


そんな戦いの様子を見て、

俺は、ぱぱぱぱぱぱぱ! と考える。


クラン『猛禽ラパス』は相当強そうだが、

このままでは、持久戦となり、数に勝る山賊どもに押され、全滅する。


またもそんな悪い予感がする!


もしも、あいつらに敗北して捕まったら……


俺は有り金始め、みぐるみはがされ、

殺されるか、良くて奴隷で国外へ売り払われる。


そんな『ど』が付く不幸はまっぴらごめん!


せっかく、素敵なゲーム世界へ転生し、自由の身になったんだ。


人生をリセットし、リスタート出来るんだ!


俺はこのゲーム世界で前世よりも、1億倍! 幸せになると決めた!


思えば、前世では社畜……奴隷のような毎日だった。

転生したこの3年間のロイク・アルシェも、ほぼ奴隷状態だった。


そして今度は、国外に売り払われ、鎖につながれたリアルな奴隷になるなんて!


嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!


絶対に嫌だあああ!!!


クラン『猛禽ラパス』が、山賊どもと戦えるうちに俺も参戦する!


これまで16年、戦闘未経験のモブキャラ、

ロイク・アルシェこと俺が、そんな決意をした理由、そして根拠。


それは先ほど、戦って「勝った!」から。


引退したとはいえ、自称レベル40オーバーの、

元冒険者のオヤジ店主には余裕で圧勝出来た事。


俺が転生し、融合した事で、パンピーNPCロイク・アルシェの中身は変わった。

そう、信じたい!


否!!

そう信じて戦う!!


戦って、戦い抜いて、道を切り開き、突き進む!!


己の人生の幸せを、己自身で勝ち取る!!

必ず勝ち取ってやる!!


それしかないっ!!


どうせ、このままなら殺されるか、奴隷にされるんだ!!

怖いとか、殺すのはいけない、何て、甘ったるい事を言ってはいられない。


ここは中世西洋風『ステディ・リインカネーション』の世界。

前世の倫理観など通用しない、戦わねば殺される、弱肉強食の世界なんだ!


大きく息を吐いた。

何か、吹っ切れた。


俺は覚悟を決めた!

そして作戦も決めた!


しかし、今の俺は全くの素手。

何か、武器防具をゲットしなければ!


俺は茫然自失状態のオーバンさんへ呼びかける。


おいおい、あんた、幹部社員だろ!

少しはしっかりしてくれよ!


これじゃあ、具体策のない精神論のみの前世の社長、部長と同じだ!


やっぱり俺が自分で何とかするしかない!


「オーバンさん!」


「あ、ああ……」


「武器防具を貸してくださいっ!」


「ぶ、武器、ぼ、防具って……ど、ど、どうする、つ、つもりだ……」


「戦います! このままでは全滅ですから!」


「え? で、でも……」


「迷っている暇はありません! 借りますよ!」


「あ、ああ……こ、この馬車につ、積んである」


馬車は3台とも止まっていた。

と、いうか、少し先で戦闘真っただ中なのだ。


俺は急いで、馬車の荷台を探した。


あ、あった!!


……だが、武器は樫製のこん棒、

防具は廉価版のノーマル革鎧、それと小型盾のバックラーしかない。


何だ、これゲームの典型的な『初期装備』じゃね~か!


と思ったが、素手で無防備よりは全然マシ。


『初期装備』!?


ここで、俺の心に引っかかりが生じる。


何か、変だ?

初期……装備?


『初期』という言葉に心がやけに引っかかる?


しかし、考え、思い悩む時間はない!


俺は素早く革鎧を装着、バックラーを左手に持ち、こん棒を右手に握ると、

猛ダッシュし、弾むように走り出したのである。

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