第10話「今は、目の前の山賊ども100名に勝ち、生き抜くことが先決だ」

俺は素早く革鎧を装着、バックラーを左手に持ち、こん棒を右手に握ると、

猛ダッシュし、弾むように走り出した。


街道のすぐ脇は草原である。


身を隠す場所はないが、俺がやろうとしている作戦に支障はない。


殴りかかるオヤジ店主の拳が止まって見えたとか、

軽く楽勝で、その拳を受け止めたとか、

そのまま拳を握り潰すくらい力があるとか、


……オヤジ店主とやりあった際の感覚は、やはり錯覚ではなかった。


どうせ、ロイク・アルシェは地味な一般NPCだと諦めていたから、

確かめた事などなかった。


しかし俺は俊足だった。


それも人間の域を超えている。


韋駄天いだてんという言葉をご存じなら、まさにそれ。


馬並みのスピードだし、全速で300mほど駆けても全く疲れない。

スタミナもまるで、7時間以上獲物を追って走れる狼である。


改めて自分自身に驚く。

俺って、こんなに足が速かったんだ。


オヤジ店主の浮気現場を目撃した時にも感じたが、

単に視力、聴力が他人よりは優れているくらいに思っていた。


しかし、違った!!


オヤジ店主と戦い、分かった。


屈強なオヤジパンチの軌道を楽々見切った動体視力、

素手で拳を受け止めても、全く痛くなかった防御力を含めた頑丈さ、

そして、パンチを軽々と受け止めた筋力。


更にこの足の、驚くべき速さ。


予感が確信に変わる。


俺の身体能力は全てが凄いのだ!!


多分、この世界の『並みの人間』

例えば元のパンピーNPC、ロイク・アルシェの『10倍』くらいはある!!


え、さすがにそれは「盛ってるだろう」って?

何で、「10倍と言い切れるのか」って?


実は心当たりがある!!


身体能力に加え、先ほど実証したスキル、

遠方の敵を事前に察知した、凄まじい索敵能力。


更に、『初期』という言葉で引っかかり、ピンと来た。


しかし、検証するのは後回しにしよう。


今、俺は生と死の狭間に立っている。


ストレートに言えば、生きるか死ぬか、の状態である。


今は、目の前の山賊ども100名に勝ち、生き抜くことが先決だ。


ちなみにオーバンさんやクラン猛禽ラパスを見捨て、

「逃げる」という選択肢はなかった。

村から連れ出してくれた恩義を忘れ、逃げるなど俺には出来なかったし、

後味も悪すぎる。


そんなこんなで、俺が馬車から降りて、逃げ出さず、

山賊に向かい、駆け出したのを見ても……


戦闘態勢に入っている、クラン『猛禽ラパス』のメンバーは、

あまり気にしなかった。


何故なら、俺は警護対象ではないからだ。


ルナール商会の社員でもない、顧客でもない、


たまたま立ち寄った村で、商隊のリーダーが、仏ごころを出し、

「旅の途中で拾った16歳の孤児」としか見ていない。


クラン『猛禽ラパス』の雇い主は、

あくまでオーバンさん達ルナール商会の面々。


縁もゆかりもない俺が、もしも死んだって、

彼らの護衛任務の、減点材料にはならない! ……のだ。


しかし、俺はポジティブ思考で行く。


これはかえってラッキー。


逆に、クラン『猛禽ラパス』のメンバーが、自然にふるまい、

俺を無視して、全く意識しない方が、秘密の作戦は上手く行く。


高速で俺は走り続け、あっという間に山賊ども100人の背後へと回り込んだ。


ぶんぶん! と、右手のこん棒を素振りする。

初期装備と馬鹿にしたが、このこん棒、意外とバランスが良く使いやすい。


さてさて!

こういう場合、100人のうち数人くらいは、たったひとりの俺を、

寄ってたかって大勢でなぶり殺そうとする、

ひゃっは~&パリピに染まった『Sな、おバカ』が出て来るもの。


「へへへへぇ! あいつう、何考えてんだ! 恐怖のあまり、正気を失ったぜえ!」


「ひゃ~ははははっ! 単細胞のガキがあ! 俺達から、逃げられるわけがねえぞ! 一番最初にぼっこぼこにして、ぶっ殺してやるう!」


「よっしゃあ! 思いっきりぶった斬って、血祭りにしてやれえ!」


おお!

案の定!!である。


計算通り、若い山賊3人が隊列を離れ、剣、メイスなど、

武器を滅茶苦茶に振り回し、俺を追っかけて来た。


うんうん!

こういう、ひゃっは~&パリピな奴らは、

大体がど~しようもない『愚か者』である。

せっかく飛び道具の弓を持っているのに、全く使わないし。


更に、俺は大声で叫んで、山賊ども全員を挑発する。

素振りを兼ね、こん棒を再び振り回す。


「お前らあ! ばあか! アホ! 間抜けぇ!」


更にダメ押しで、お尻ペンペンもしてやる!

ケツ丸出しはしないけど。


ぱんぱんと、ズボンの上から、尻を叩く。


「おしりぺんぺ~ん」


すると挑発された山賊どもは、怒った! 怒った!


ふっ、ちょろいぜ!


「てめえぇぇ!」

「ごらあぁぁ!」


更に!

ふたりの山賊が隊列を離れ、俺の方へやって来る!


都合5人が相手。


よっし!

引き離し成功! 作戦の第一弾はクリアだ!


「この、ガキぃぃ!! ぶっ殺す!!」


足が、やや速いひとりが突出、

剣を振りかざし、俺を容赦なく叩き切ろうとした。


だが!!


「甘い!」


やっぱりそうだ。


さっきの自称レベル40のオヤジ店主以上に、超が付くスローモーさだ。


スポーツ中継における特殊なカメラを使った見せ場のシーン再現のように、

スローモーションで、相手の剣の軌道が、はっきりと読み取れる。


これこそ!

俺の超スーパーな動体視力。


そして、俺の身体もすぐ反応。

こちらも超が付くぐらい、俊敏に動く。


楽勝だあ!!


俺は剣撃を「すっ」と楽々かわし、お返しのカウンターとばかりに、

相手の顔面へ、樫のこん棒を叩き込む。


ばご!


重く鈍い音がした。


手ごたえあり!


ちら見すると、山賊は顔面が陥没。

顔面から血をまき散らし、あっさりと気絶していた。


……もしかしたら、死んだかもしれないが、構いやしない。


ここは、弱肉強食の異世界、やらねば俺がやられる、

RPG『ステディ・リインカネーション』の世界なのだから。


俺はこん棒を構え直し、次の敵を待ったのである。

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