第6話「追放? いや! ざまあ!して、こっちから、やめてやったぜ!」
「く、くっそ!! てめえっ!! ロイクっ!! したでに出てりゃ、ガキのくせしてなめやがって!! 元ランカー冒険者の俺を脅す気かっ!! ぶち殺してやるっ!!」
俺に
拳を振り上げ、殴りかかって来た。
ぱぱぱぱぱ! と、速攻で俺は計算した。
ここで一方的に殴られれば、すっごく痛いけれど、法律的には正当防衛。
俺が責められる事は絶対にない。
その上で、殴られた俺が「わあわあ」騒いで、全てをオープンにすれば、
このオヤジ店主の人生はおしまい。
何故ならば、我がファルコ王国は一夫多妻制は認めているけれど、
不倫は厳禁、厳罰なのである。
そして、この国の民は信心深い。
なので、この村では『村長』と同じくらいのもうひとりの『権力者』
『創世神教会の司祭様』に「理不尽に殴られたあ!」とちくり、
オヤジ店主の不倫も含め、全てをぶちまける!
「事を大きくしても構わない」と考えたのである。
ここで、信じられない不思議な事が起こったのだ。
冒険者崩れのこの店主、50歳過ぎなのに、
「そう見えないだろ」が口癖の元気オヤジ。
浮気相手は20代後半だから、さもありなん。
確かに年齢の割にガタイは強靭。
放つパンチも相当なもの。
以前、このオヤジ、自分はレベル40以上だと言っていた。
実際、この店で働き始めてから、俺は何度も何度も、数えきれないくらい殴られた。
殴られたのはさしたる理由もなく、99%が言いがかりか、八つ当たり。
後の1%は俺のミスなんだけど。
でも、殴り返すとか、反論とか、抵抗は全く出来なかった。
何故なら、切れたオヤジ店主から放り出され、宿なしで野垂れ死ぬ恐怖、
そして、ロイク自身、
HPが低く、弱っちいNPCでは仕方がないと諦めていたからだ。
あざだらけで、顔を
しかし……奇跡が起こった!?
あれれれ、オヤジ店主のパンチが超スロー。
これじゃあ、ハエでも何でもとまる。
超一流ボクサーの身のこなしの如く、
すいっ、すいっと、よける俺。
何回、オヤジ店主に殴りかかられても、楽勝でよけられた。
おいおい、何?
今まで散々殴られて、こいつのパンチは身体で
いきなり、オヤジ店主のパンチが超スローになったのか?
「ちっくしょー! このやろ!」
パンチが全く当たらず、焦り、罵声を上げながら迫るオヤジ店主。
ここで俺の内なる声がささやいた。
こんな『くそオヤジ』の拳、かる~く、受け止めちまえって。
よし!
イチかバチかだ!
殴られるのは、やっぱ、嫌だし。
覚悟を決めた俺は手を開いて「すっ」と突き出す。
すると!
ぺちん。
乾いた音がして、俺は楽勝でオヤジ店主の拳を受け止めたのだ。
全然痛くない!
そして本当に嫌だったが、ぎゅ!と、オヤジ店主の拳を握った。
何故か、力が、みなぎって来る。
めきめき!
オヤジ店主の拳の骨がきしむ。
「いてててて」
悲鳴をあげるオヤジ店主に対し、俺の口から自然に言葉が流れ出る。
「今まで理由もなく、何百発もあんたには殴られたよ……お返しに俺が一発、思い切り殴ったら、あんた、多分死ぬな」
「ひ、ひえ!」
「今まで世話になったなあ、殴られた慰謝料はいらねえから、会社都合で店をやめるという事で、退職金はきちんと払ってくれよ。不倫の事も黙っといてやるからさ」
うんうん。
このように妥協案を出したのは、虐げられながらも3年間世話になったから。
紙より薄いが、それくらいの恩義は俺にもある。
しかし、オヤジ店主に俺の『思いやり』は通じない。
「な、なにぃ! そんなんOKするわけねえだろが!」
「へえ、嫌なの? じゃあ、あんたに殴られ、反撃して、俺は正当防衛。半殺しにした上で、司祭様に一切を話そうか?」
俺はそう言い、もう一回オヤジ店主の拳を握った。
めきめき! めきめき!
「ぎゃああああ!」
「どうする? 半殺しにされた上、破滅するかい?」
「わ、わ、わ、分かったああ! た、た、退職金を! は、払う! き、き、金貨20枚払う!」
おいおい!
3年間、1日1000円で、17時間働かされたあげく、
いきなり『首』になって、その上、追放!
10枚がたった20枚にアップか?
せっけ~、オヤジ!
てめえは、冒険者時代の貯えも合わせて、
金貨100,000枚……10億円以上貯め込んでんだろ!
俺は再び力を入れた。
めきめき! めきめき! めきめき! めきめき!
「わ、分かったあ! き、金貨30枚!! 30枚を払うよぉ!!」
めきめき! めきめき! めきめき! めきめき!
めきめき! めきめき! めきめき! めきめき!
「ぎゃああああ!! わ、わ、分かったああ!! き、き、金貨50枚!! いや、ひゃく! 100枚払ううう!!」
めきめき! めきめき! めきめき! めきめき!
めきめき! めきめき! めきめき! めきめき!
めきめき! めきめき! めきめき! めきめき!
めきめき! めきめき! めきめき! めきめき!
「ぎゃあああああああああ!!! わ、わ、わ、分かったああ!! き、き、き、金貨300枚!! い、いや! ご、500枚払ううう!! ずびませんでしたあああ!!!」
よし! 500枚……500万円か!
まだまだ全然少ないけど、これくらいで許してやるか!
ざまあああああああああ!!!
前世で苦しめられた社長と部長の分も合わせ、
憎たらしい店主オヤジへ、勝利の
俺は思わず、心の中で絶叫したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます