第5話 幕間的日常と祭りの仕込み その2

「早速来てもらいました」


食堂の木戸を押し上げてダナが顔を見せる、食堂ではユーリとソフィアがコンロを前にあーでもないこーでもないと論争していた、


「どうします?先に現場かと思ったのですが」


ユーリとソフィアは一旦論争を切り上げて外にでる、馬屋前にはダナとヘッケル夫妻が並んで立って物置小屋を見上げていた、


「ブノワトも来てくれたの、ありがとね、忙しいところ」


「いえいえ、先生の呼び出しなら即時に対応致しますよ」


妻のブノワトがにこやかに二人を迎える、


「後が怖いからな」


旦那のブラスが軽口を叩くと、ブノワトは横目で睨んで肘で小突いた、


「言うわね、まぁそう思ってくれてるのならそれでいいけど」


ユーリは何処吹く風と聞き流すと、


「この物置小屋と寮の間の通路に目隠しが欲しいのよ、それと横穴の崩落防止の工事」


単刀直入に本題に入った、


「目隠しに崩落防止?何するんだそれ?」


「地下遺跡の探索・・・の為の通路」


「・・・何それ、ホントかよ」


「ホントよ、その作業を大っぴらにしたくないからね、その為の目隠しと、横穴の崩落防止の土留め?」


「・・・地下遺跡?」


唐突にブラスは腕を組んで首を傾げる、


「・・・目隠しについては範囲と高さを指定して欲しいかしら、それと目隠しとなると筵?それとも麻袋にする?」


沈思するブラスに代わってブノワトが聞き取りを始める、


「そうねぇ、高さは2階まで覆ちゃって、幅は馬屋全部と寮の端まで・・・でいい?ソフィア」


「大丈夫と思うわよ、それと、筵よりも麻袋の方が使いでありそうだけど」


「材は一緒すよ、筵も麻袋も、単に一枚ものか縫い合わせて袋にしてあるかって違いですね」


「ふーん、それはお任せするわ、安い方でいいわよ」


「了解しました、それと・・・」


「あ、すまん、ブノワト・・・」


「何よ、どしたのよ・・・」


ブラスは腕組みを崩さずにブノワトを制すると、


「地下の遺跡ってのは、あれかい、結構広い?」


「・・・えぇ、そうね、広いと言えば広いかしら」


ユーリは言葉を選びつつ答えた、


「どうして、それを探検?調査する事になったのか、詳細を聞いてもいいですか?」


ブラスは眉間に皺を寄せてやや小声になる、


「まぁ、その内大っぴらになると思うから、今話してもいいけど、他言は控えてね」


ユーリもつられて小声になりつつ、二人にそう言い含めると経緯を要約して話して聞かせた、


「なるほど、分かりました、この工事必要ないですね」


ブラスは漸く納得がいったといった風情で朗に宣言した、突然の断言にユーリ達は言葉を無くす、


「なによ、折角の仕事に何て事いうのよ」


ブノワトが非難の声を上げるも、


「いや、無駄な事はしないに限るよ、その遺跡・・・下水道ですか、入り口ありますね、それももっと便利な場所に」


「どういう事」


「地下遺跡でしょ、この街のあちこちにある、というか地下に根を張っている感じですか?建設業というか井戸屋にとっては常識ですよ」


ブラスは当たり前のようにそう言った、


「俺も現場に入って知ったんですけどね、街中で井戸掘ると遺跡に当たるか青銅パイプが良く出るんですわ、青銅パイプなら売りもんになるからまだいいけど、遺跡に当たるとね、掘り直しでしょ、まぁうちらの中では評判悪くてねぇ」


「それで、なんで今まで問題にならなかったの?」


あっけに取られたユーリが詰め寄ると、


「うーーん、なんでって井戸屋に言わせたら井戸掘ってなんぼっすよ、遺跡は邪魔でしかないでしょ、遺跡だって言って騒いでも腹は膨れないっす、俺らにしても一緒ですよ、井戸掘った後の内側の土留めと建屋作ってなんぼですもん、つまり、俺らにとっては何の価値もない代物って事です」


「・・・よく考えたらそれもそうよね・・・」


ユーリはブラスによる明確な説明に目から鱗であった、


「うん、確かに今まで問題にならなかったのは、不思議に思ったけど、そういう事なのね・・・」


ソフィアも同意する、曲がりなりにも200年の歴史ある街で今更新しくその地下に遺跡が発見されるというのは、レインが絡んだ状況であったとしても出来過ぎではある、


「さらに言えば、恐らくですが大昔には問題になったんでしょうけど、いつの間にやら有耶無耶になったんじゃないですかね、井戸掘る時に邪魔ってだけでしたし」


それでとブラスは話を続ける、


「進入口についてですが、うちの店の裏の崖にその遺跡の一部が丸っと顔を出してます、そこから入れると思いますよ、結構広い空地になっている所なので便利に使えるとも思いますし、現地見ます?」


「それは凄いわね、うん、行きましょう、今からでもいい?」


ユーリは状況の変化に動揺しつつも俊敏な理解力を示す、


「いいですよ」


「ありがとう、では、ダナと私で現地確認します、ブノワトはソフィアから発注があるからそっちの対応をお願いしていい?」


「おう、発注すか、喜んで、鍛冶仕事?」


「そうですね、作って欲しいものがあるんですが、お知恵を拝借したいです」


ソフィアとブノワトはにこやかに寮に入り、ユーリ達はブラスの言う遺跡の一部へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る