本編
第1話 寮母就任 その1
女性が4人、小奇麗な館を見上げ佇んでいる、
「ここが貴方たちの新しい住居兼仕事場よ」
紫色の派手な三角帽子を被り、その小柄な身の丈と同じ高さの杖を持った女性が楽し気にそういって3人を見廻した、
「・・・随分大きい家だな」
艶やかな黒髪を足元まで伸ばした小柄な少女が溜息交りにそう言った、見た目に反し妙に老成した言葉使いである、
「寮だからねぇ、でも住む場所は別でしょ?」
特徴の少ない主婦然とした女性は小柄な少女の頭に手を置いて窘めるように言うと、三角帽子の女性に問い掛ける、
「・・・ふぇぇぇ」
最も小柄な幼女といって良い女子はただ感嘆して、夕焼けを受けて赤く輝く館を見上げていた。
「・・・そうだっけ?」
「その筈よ、まさか寮内で住み込み?それは止めた方がいいと言ったのはユーリじゃない」
「・・・そうだっけ?うーん」
ユーリと呼ばれた三角帽子は手にした鞄から書類を取り出すと数枚捲り、
「うん、大丈夫、住むのはこっちの、
ユーリと呼ばれた女性は
「
「うん、まぁ使わないんでないの?馬を連れてくる寮生は珍しいと思うよ」
その廃屋と寮の間は人3人が並んで歩ける程の広さがあり、そこを通って寮の裏側、一般的には内庭と呼ばれる空間へ4人はズカズカと入っていく、
「あぁ、これね、うん、充分じゃない」
ユーリは
「そうね、日当たりはそれほどだけど、まぁ、充分そうね」
主婦然とした女性は満足したようにそう呟いた、
「ねぇ、ソフィ、此処に住むの?」
ソフィと呼ばれた主婦然とした女性の名はソフィアである、ソフィとは家族と友人にのみ許している愛称であった。
「そうよ、ここが私とミナとレインの新しい家ね」
優しく少女達に語りかける、
「・・・・ふぇぇぇ」
ミナと呼ばれた少女は先程と同じようにしかしやや嬉しそうに住宅を見上げ、レインと呼ばれた少女もまた、
「まぁ、丁度良かろうの」
と、鼻息を荒くして了解の意を伝えた。
「うん、庭も広いし井戸もあるし」
ソフィアは腰ほどの高さの煉瓦塀で囲われた敷地内を見渡す、雑然としていたが手入れをしていないわけではない様子である、尤も今は初夏の始まりの季節であるから雑草が生い茂るのはこれからではあるのだが、
「庭は使っていいの?」
「うーーん、たぶんいいと思うけど、でもまぁ一応確認しとく、でも使うと言っても何に使うの?」
「菜園」
間髪入れずにとても元気な返答が来る、
「この広さなら果樹園もいいよね、
「まぁ、大丈夫でしょ、事務屋が気にするのは建物内だけだと思うし」
「
好物の名を聞いたミナは眼を輝かせてソフィアを見上げる、
「そうねぇ、ミナがお手伝いしてくれたら採れるようになるよ」
「む、ならアケビが良いぞ、イチジクもよいな」
静観していたレインの意見である、
「どうしてそう年寄り臭いのよこの娘は」
ユーリは不思議そうに呟く、
「なんじゃ、失礼な奴じゃ、アケビもイチジクも美味いじゃろ、アケビは甘いぞ、あの甘味は極上だぞ、砂糖で煮詰めたイチジクは最高じゃぞ、うん、ザクロも良いな、ソフィ、ザクロも追加じゃ」
「失礼って・・・ソフィアこの娘、なんか変?」
「変とはなんじゃ、ソフィアこのおなごはなんじゃ」
「なんじゃといわれても・・・、ねぇ?」
ソフィアは困った顔でユーリを見る、しかしその眼は楽しんでいる時のそれであった、
「ミナは苺がいい、苺好き、ね、ソフィも苺好きだよね、ね」
ミナはソフィアの脚と言わず手と言わず纏わりついてきた、
「そうねぇ、苺好きよ、じゃぁ苺は決定ね、他はどうしよう?」
「やった、苺は決定」
決定、決定と喜ぶミナと微妙に噛み合わないユーリとレイン、
「ザクロなら葡萄の方がいいんじゃない?葡萄酒、そうよ自家製葡萄酒、ソフィいいじゃない自家製葡萄酒」
「む、それは良いな、葡萄酒なら協力するのもやぶさかではないぞ、ソフィ、どうじゃ?」
ソフィアは静かに右手の人差し指を立て三人の注意を集中させると、
「菜園はまた後で、では、新居に荷物を置いて、それから寮生に挨拶ね」
ソフィアはもう二仕事と3人の背を叩いた。
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