第117話 帝都にて

 帝都に着いた。

 遠くに帝都城が見える。屋上に何か建設中?

 そんなどうでもいい物ではなく、いきなり凄いものが見れた。

 戦っている!

 全方位から帝都城が見える帝都。高い建物が少ない。その2階建てが多い建造物の上を飛びまわり、2人の戦士が戦っていた。

 超白熱のバトル。追跡者と逃亡者。

 下では同じように、追跡者の仲間が、逃亡者の仲間を追っている。

 逃げているのは[レジスタンス]。帝国の圧政に異を唱える者たち。屋根の上にいるのは、そのレジスタンスの英雄[エクス]。覆面の剣士。

 追っているのは朱雀隊。帝国が誇る最強部隊。したがって、上から追うのはその隊長、赤い髪の聖剣使い[剣聖フリード]!

 身軽に飛び回り[氷の剣]でツララを次々飛ばしてくるエクス。

「氷の剣?いいハンデだ。」

 炎の聖剣には、最悪の相性の水属性。

 しかし、物ともしない。軽々と焼き払う。

 レジスタンスたちが慌てている。英雄エクスがこうも押されているのは初めてだ。

 相手が剣聖だから?

 相手が聖剣だから?

「相手が隊長だからに決まっている!」

 朱雀隊の隊員なら、こう答える。

 この覆面男に、フリードは先読みを使わない。

 プライドが許さない。

 エクスが下に飛び降りた。

 物陰に隠れたあと、同じ覆面男が7人出てきて別方向に散った。

「なるほどね、6人は影武者か。」

 全員腰の両側に剣、二刀流の証。さっきまで使用していた氷の剣をしまい、もう一方の剣を手にしている。氷の剣のコピーは無い。そういう事だろう。

 屋根の上から確認し、部下の方へ飛び降りた。

「帰るぞ。」

 と副隊長シェルクラフトに告げた。

「よろしいので?」

「全部追うは無理だ。ハズレを引く確率が高い。身代わりの面を見てもつまらん。」

 先読みは使わない。プライドが許さない。

「あんなのが居たほうが、まともな政務をするかもしれん。馬鹿な工事を止めるとかな、」

 ゆっくりと帰路につく。

 実は先読みをする余力はない。あったとしても使わなかったのは変わらないが、すでに使いまくって消耗していた。

「あんなのより、人斬りの方を探せ!」

 部下には捜索を指示、数人ずつ組んで散って行った。

 女子供を狙う人斬りが出ている。もう被害者は20人を越えた。

「そんな小物は賞金稼ぎに任せよ。」

 皇帝の命令に、

「承知した!」

 答えて捜索を始めた朱雀隊。レジスタンスなど探さない。

 人気のない場所へ向かっては、フリード隊長が先読みをする。標的が解っていない先読みは難しいのだが、

(帝都を汚す、悪党め!)

 怒りを露わにする。

 何ヶ所もまわり、そこでレジスタンスと遭遇、さすがに無視できない、戦闘となった。

 戦いが終わって、

「かっこいい!」

 目を輝かせる男たち。

「あの剣スゴかったな!」

「うんうん」

 憧れつつも、この時、気づいたディーノ。

(体が反応しなかった……)

 強い相手でも、人間とは戦えないようだ。


 北都へ向かうため、帝都の中を北上する。

「君たち、そっちは危険だよ。」

 兵士が3人、安全なルートを教えると、声をかけてきた。丁寧に道案内もしてくれた。

 で、裏路地に出た?

「もう大丈夫ですから。」

 まだ進みそうなので断ろうとすると、

「大丈夫な訳ないだろ?俺等に目をつけられたんだから。」

 兵士3人が、剣を抜いた。

「なるほどね、」

 こちらも剣を抜こうとする前に、横道から声がした。女性の声だ。

 振り向くと、そっちにも3人いた。

「兵士に化けてたのかい、人斬り。」

 長い黒髪の女性と、太いのとヒョロいの。

 そしてなんと、妖艶な黒髪女性が、仲間に蹴りを入れた?!

 太いのが、飛んで転がって、我々の方へ?!

 人斬りたちが避ける。我々と人斬りの間で止まって、太いのが、盾を出した。

「もう大丈夫だからね、姐御が守ってくれるよ」

 転がってきた太いのは、ガーディアン。しっかりと間に立ち塞がってくれている。

「ずらかるぞ!」

「バカ!顔見られてんだぞ!」

「くそ、人質も取れねえ!」

 ゴチャゴチャ言っている間に、射程の長い鞭で、1人やられた。

「鞭だ、間合いを詰めろ!」

 迫って来るのを待ち、鞭を剣に変形させて2人目も倒した姐御。

「くそ、最悪だ。」

 と、3人目。

「いいや、ラッキーだよ、お前ら。

 子供が見てるから、殺さないでやったんだ、

 この人殺しのクズが!!」

 峰打ちで、3人目も倒された。

「こいつらの賞金額、いくらだい?」

 姐御の問いにヒョロいのが答えると、

「少し置いてってやんな。

 嫌な記憶は、美味いもんでも食って忘れちまいなよ。」

 ディーノたちに金を渡し、倒した連中を引きずって去って行く。

「かっこいい!」

 目を輝かせる女たち。

「強くて綺麗でステキ!」

「うんうん」


 ディーノは気づいてしまった。

 やはり人間の強さには反応しない。人間には勝てない。再認識した。

 そしてもう1つ、

「みんなに約束して欲しいことがある。」

 多分、レア特典[第六感?]が働いた。頭に浮かんだ。解ってしまった。

「もしも、万が一の話をするね。」

 確定ではない話をする。突然のことに、不思議そうにディーノを見る子供たちとジェイル。

「僕の中にある力は『善』の力じゃないかも知れない。もしも、万が一『悪』の力だったとして、僕が、もしも、万が一、暴走してしまったら、」


「君らが僕を、倒して欲しい。」


 みんな、固まった。


「支配されてても、僕が必死で隙をつくるから、僕にトドメを刺して欲しい。」

 ……

「……やだ、そんなのやだ!」

 泣き出すヒナちゃん。

「ゴメンね、こんなこと言ってゴメンね……

 万が一だからね、僕もそうならないように努力するからね……」


 大浴場を借り切って、お楽しみの入浴タイム。

 しかし、今日の姐御の機嫌が心配。

 賞金稼ぎの組合本部に、情報料として、上前をはねられた。

 いない地区、探しても無駄な地区の情報が、本部から来た。そのお陰で範囲を絞れた。

 その情報を組合に流したのは朱雀隊。フリードが先読みで調べた地区を外させた。無料で情報を与えた。無料でもらい、がっぽりハネた。金が大事と思う者と、金より大事と思う者がいる。

 入浴中の姐御は上機嫌だった。

「上前?事件解決したんだ、我慢しな!」

 湯船に浸かりながら、他人事のように言う。

「ムカつくというなら、子供が見てたから、あいつらを半殺しに出来なかったことくらいさ。」

 金も大事と思いつつ、金より大事を解っている者もいる。

「やっぱり姐御、かっこいいよな。」

「うんうん」


 ヒナちゃんたちが落ち着くために、食事をゆっくり取って、それから、帝都を再び北上中。

「何か言って。」

 街中なので魔物は出ない。僕は暇つぶしのオモチャにされる。

「真面目なのでいい?」

 正直、笑わせるネタはもう無い。笑わせようとして笑ってくれるかも微妙だ。

「では、問題。マラソンで4位にいた人が、3位の人を抜きました。今何位でしょう?」

「2位!」

「バカ、3位だろ。」

「えっ?何で……?」

 実際に検証。ハルト君を4番目に並ばせ、3位のヒナちゃんを抜かせる。

「あ、ホントだ!」

 この素直な所が、ハルト君のいいところ。

「次、ちょっと難しくなるよ。

 今、地下2階にいます。3階上がって2階下がって、4階上がりました。今、何階でしょう?」

「……3階?」

「ヒナちゃん計算早かったね。でも正解は4階」

 地面に石を置いて説明。

「0階があったらヒナちゃんが正解なんだけど、建物には0階がないの。引っ掛け問題なんだ。ゴメンね。」

 そして、

「じゃあ次は、難しそうで、実は簡単な問題。」

(飽きずに聞いてくれている。いけるかな?)

「階段の1階にいます。2階上がって、4階上がって16階上がって、」

「いきなり増えた?!」

「9階下がって、22階上がって、14階下がって」

「言うの早い!」

「計算出来ない。」

「……全部走って動きました。今、疲れているでしょうか?」

「疲れてるー!」

「疲れてるー!」

「疲れてるー!」

「全員正解ー!」

 笑顔が戻って良かった……


「ねぇ、何でお姉さんはジェイルって名前なの?外国人?」

 ヒナちゃんの素朴な疑問。僕も興味はある。

 でも、意味なく付ける人もいる。

「宝石だろ?」

「それはジュエル。」

 ハルト君とレン君はいいコンビだ。

 本名、あだ名、好きなキャラクター、それらのアレンジ、思いつき、付け方は色々あるが、

「それはね、」

 ジェイルさんが、左手側からヒナちゃんの顔の前に右手を出し、

「私の左手が右手だから!」

 ……ジェイルのだんな、ウケなかった。

 僕は解ったが、小学生は知らないかな。高校生だって、リアルタイムの週刊掲載を知らない。

 そのあと、「左手が右手って何??」と、何度も聞かれる彼女が気の毒だった。

「ディーノくんは凄いよね。あんなに子供に懐かれて。」

 いや、僕も一杯一杯です。

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