第116話 北を目指して
「魔導師が、魔導書忘れて、まぁどうしよう」
「8点!」
「6点!」
「15点!」
「10点満点だって!」
「でも面白かったから!」
すっかりオモチャにされてる僕。
「戦士が戦地で現地の兵器で戦死した。」
「今のダジャレ?」
「早口言葉みたい。」
「ダジャレ以外は無いの?」
「シュールなのしかないよ。」
もうネタ切れなのにやらされる。
「ではっ、タイトル『字余り』、
五月雨を、集めて、林!
『俺一人じゃ無理です!』『頼むよ、林!』」
……レンくんにだけ、ちょっとウケました。
スベった時に笑うジェイルさん。その笑顔にも救われる。
僕らは北を目指している。
ダンジョン攻略で、ゴールドも少し増えたから
次の街で、武器屋に入った。
あまりいい武器が無かった。
その次の街、また強い武器が売っていない。
「どこかのダンジョンを攻略しよう!」
強い武器の入手ならそっちが早い。
……しかし、そうそう無い。
「イベントを攻略しよう!」
……しかし、そうそう無い。
ギルドとか無いのかな?依頼が欲しい。
「帝国に大きなギルドがあるって話だよ。」
街で情報を得た。行ってみよう。
で、西の王国の最西端で最北端の街にいる。
砂漠を越えて帝国に向かう。
「強い魔物、出るかな?」
確かに、ちょっと不安だ。
中途半端に強いと、僕はダメ、子供たちも厳しい戦闘、となり得る。
幌馬車が僕らを通過して……停まった。
「子供連れか?乗っていきな!」
怖そうな顔の人が、幌から顔を覗かせた。
「その顔じゃ、子供が怖がりますよ!」
別の温厚そうな顔が現れ、手招きをした。
荷台には3人。商人の髭のおじさんと、用心棒の大男のおじさん。もう1人、ニコニコ顔の商人のおじさん。それと多数の積荷、商品かな?
でも、僕たち5人、余裕で乗れた。
前には2人、太めの御者と、若い御者見習い?
若い方が、時々手綱さばきで怒られている。
「子供だけで砂漠越えする気だったのか?」
おじさんから見れば、僕もジェイルさんも子供だ。そして怖い顔の大男の用心棒のおじさん、子供が好きそうだ。優しい目をしている。
「強い敵だと強くなる?そんな話、聞いたことないぞ?」
用心棒歴が長そうなおじさん、半信半疑だ。
魔物が現れた!
コマンドー?
右と左に1ずつ、サンドワームが出現。体が反応した、行ける!
荷台を飛び出して、一刀で斬り捨てた。
反対側のは、用心棒のおじさんが行った。
ジュピターソードで一刀にして、背中でくるりと、時計回りに一回転、鞘に収めた。
「やるな、青年!」
「用心棒さんもすごいです。」
「マイトと呼んでくれ。」
NPCと友達になった。
荷台に戻り、馬車が進む。
「冒険者ギルド?北都だな。」
「北都?」
「南都の北が帝都、その帝都の北が北都だ。」
「3つ先?」
「そうだ、3つ先だ。」
怖い顔だけど、子供好きなマイトさん。
「南都の北門まで乗せてってあげるよ、そっちに用事があるから。いいですよね?旦那様?」
御者のスタンプさんも子供好き。
「いいとも。何を食べたい?南都でご馳走してあげるよ。」
商人のジェベさん、やっぱり子供好き。
そして、ニコニコ顔で見ているワンドさん。
御者見習いのサブさんだけは、馬車の手綱に集中、免許取りたてみたいで余裕がない。快適ですよ。いい運転ですよ。言ってあげたい。
名残惜しく、南都の北門で別れる。
「気をつけろよ。」
見送られながら、街の外に出るディーノたち。
その姿が見えなくなってから、
「魔物以外にも気をつけろよ。」
ポツリと呟いたマイト。いや、ゴライアス。
「報告しますか?」
「だな。放置はできん。」
「ルームーン様にもですか?」
「しばらく南都だ、礼儀を通さねばな。」
「まあ、南都以外なら、それほど危険はないだろう。」
「黒教徒……出ますかね?」
「報告前はないだろう。全然気配もない。戦闘中だけだ。変な妖気を感じたのは……」
「しりとりします。
らせん階段、カブト虫、廃墟の町、イチジクのタルト……って、それ、しりとりじゃねーだろ!」
ジェイルさんだけ笑っている。
予想してたが、子供たちには意味不明。
「最初に「ん」がついちゃってるよ。」
(ゴメンね、知らない人には、何言ってるかも解らないネタなんだ。)
南都の大教会。ここのトップ、ルームーンに来客があった。
簡単には会えない。法王に次ぐ地位の司教7聖の第六席。高額寄付の富豪ゆえ、面会が叶った。
「コマちゃん、ケーキもお願いね。」
「はーい。」
小柄な若いシスターがお皿の準備をする。普段のルームーンの付き人は、このシスター1人。
小柄だけど「コマちゃん言うな!」とは言わない付き人1人のみ。
小さなテーブルを挟み、座って向かい会う。大男で髭面の信者である富豪と、若く美しい、自称29歳のルームーン。
大男の富豪、さっきから冷や汗が止まらない。ここまで緊張する富豪、いや、ゴライアスも珍しい。
「アレくんが相手なら、ここまで緊張しないでしょ?もっとリラックスなさい。」
アレくんとは、司教7聖第七席アレクサイト。ゴライアスのボスの、さらにボス。何度もあっているが、穏やかで高貴な感じ。たまに直接依頼されるが、普通に話せる。
しかし、ルームーンは、首に堂々と赤い十字架をかけるこの7聖は、
「ケーキは嫌い?アレくんは大好きよ。実は甘党なの。」
アレクサイトの実の姉で、亜人や魔物を嫌う大派閥の[赤教徒]のナンバー1なのだ。彼女の一声で「数十万の教徒が亜人廃絶に動く」と言われている。食べても味なんて解らない。言葉を選ぶのに必死だ。
赤教徒は教会非公認だが、基本、公然と主張している。ロザリオに赤い模様を少し入れてる。全部が赤の十字架は彼女だけ。まさにナンバー1。
「怒らせるなよ」と、ボスに言われている。
「よろしくね」と、ボスのボスに言われている。
「本題に入りましょうか。」
彼女から切り出す。賛成だ。早く済ませて帰りたいゴライアス。
「お茶のおかわりをどうぞ。」
コマちゃんが運んできた。結構です、早く帰りたい、と言いたい。
聖結界、それも高度な聖結界が張られている。コマちゃんはこちらを認識しているが、どんな会話をしようと聞こえていない。ゴライアスは富豪だと、少しも疑ってはいない。
「その『訳あり青年』を南都から逃がしたあと、私に報告に来た。」
静かな、優しい声なのだが、落ち着かない。
「うん、いいわ。正しいと思うわ。うちの幹部が知ったら怒り狂うかも知れないけど。」
優しい声なのに、突き刺さる。
「アレくんには、逃がす前に報告すべきね。」
指摘も正しい。だから怖い。
「ところで、聖教会内で3人しか知らない秘密、知りたくないかしら?」
もっと怖い話が来た?!
思いっきり首を振ろうとしたが、
「丁度いいわ。彼女にも聞いてもらいましょ。」
さっきまで聖結界で部外者にしていた、コマちゃんを呼んだ?!
左手にティーカップ、空いてる右手の人差し指で、ゴライアスを指差してから、こちらに来たコマちゃんへ指の向きを変えたルームーン。
(どういう意味だ?!)
一瞬、考えるゴライアス。
一口紅茶を飲んだルームーン、
「世界で3人しか知らない秘密を話すわ。貴方は5番目になりなさい。」
平然と言うと、ケーキのおかわりだと思って持って来ていたコマちゃん、皿ごと落とす!
……が、ゴライアスが空中でキャッチ。指の動きの意味が解った。
「わ、わた、わたた、」
言葉にならないコマちゃん。
同じ気持ちでいるゴライアス。
「毎回、聖結界を張るの面倒なのよね。貴方にも悪影響があるかも知れないし、」
大雑把な一面を見て、アレクサイトを思い出すゴライアス。
まだ震えているコマちゃんに、
「大丈夫よ。何か聞かれた途端、記憶が消える魔法をかけてあげるわ。」
どう考えても、そっちの方が悪影響出そうだ。
そして、本題。
10年近く前の話になる。司教7聖の三席、赤教徒の筆頭が余命数ヶ月。赤教徒は、次の旗頭に、第一席[ガーゼット]、最大派閥を持つ強硬派のこの司教に目をつける。
強硬派は限りなく赤に近い中立。入ってから亜人廃絶を主張すれば、同調する信者も多いはず、赤教徒の派閥になりえると考える。
「魔物、亜人に家族を奪われた者にこそ、救いの手を」この理念があるからこそ、敬虔な信者を生む赤教徒。不要な存在では無いが、最大派閥になっても困る。
法王は考え、若き期待の星、司教10賢のルームーンを選んだ。
「赤教徒として生きて下さい」ルームーンは受け入れた。次の7聖、赤教徒派閥を引き継ぐ者として推薦することを。
彼女なら、赤教徒の連中も納得する。すでに人望はある。
しかし、難しいのはここから。少しずつ、赤の主張を前に出し、短期間で、現筆頭他界の前に、ルームーンは見事に赤教徒と目された。
さらに難しい密命。
「赤を主張しつつ、赤の期待に応えつつ、赤を抑えて下さい」現在まで、見事にこなしている。
一番辛い密命。じきにもう一席空く。温厚派の白のリーダー格。その席に弟を推薦する。白教徒として推薦する。誰よりも仲のいい姉弟、少しずつ主張を違え、すれ違うように生きて下さい。
法王の頼み……その日から、少しずつ対立を見せる。表面は仲の良いまま、裏で対立するのを見せる。全てフェイク。内面も仲良し姉弟のまま、本音を語らず生きていく密命。
泣き出すコマちゃん。号泣している。
「仕事はしやすくなったでしょ?」
笑うルームーン。
濁っていたのは自分の目だと、やっと気づいたゴライアス。素直に見れば、素敵な笑顔だ。
決して口外できないが、
「聞けて良かったです。」
ゴライアスに、ボスと呼べる人が増えた。
「では、もう一つの本題よ。」
ゴライアスのチームが南都に来た理由の方だ。
失踪した王女ハーティアスの行方を探す、と見せかけて原因、黒幕を探すこと。
「その任務は失敗しなさい。」
ズバリ言われた。これには困る。
「黒幕は皇帝、そして、うちの幹部が多数、」
これはゴライアス側の推測と一致する。
「どうにも出来ないわ。」
これも、ある程度は予測していた。
ルームーンには計画への誘いは来ない。赤教徒は亜人反対主張、武力排除は黒教徒。黒教徒は赤教徒内の過激分子だが、ルームーンには、黒の要素はない。赤以外の者は疑っている。ゴライアスもそうだった。しかし、赤の者は知っている。敬虔な赤信者を増やす上でも、ルームーンには黒く染まられては困るのだ。
「多分、ハーティアス様は生きてるわ。」
中から全体を見ていて解るという。最近、そわそわしている。すでに亡き者なら、こうも慌てない。
「記憶を封印されているか、体を封印されているか。(両方です。)
だから、作戦を変えましょう。」
南都の大教会のトップを、自分から弟のアレクサイトに替えようと言う。
これには驚く。しかし、有効かも知れない。赤教徒が動きづらくなる。
「だから、失敗しなさい。突然消えたら怪しまれるわ。失敗して撤退が自然だわ。」
そして、トップ交替計画をアレクサイトに伝えに行き、法王の許可を取る。
面会が終わり、大男の富豪が帰って行く。
このあとルームーンは、ゴライアスをマークするように指示を出す。そして動きづらくなって退散する予定だ。
印象は想像と違ったが、アレくんのお姉さん、やっぱり凄い大物だった。
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