第99話 予言の先
大火球が間近で大爆発し、2人が飛ばされた。まだ勢いよく地面を滑っている。目を閉じたまま動かない。
まだ滑る。滑り過ぎなくらいに、そして、もう1人増えた。
ワルパスも並んだ。3人が地表を滑る。これは不自然だ。砂で運ばれている?!
先生たちが待つ地点へ真っすぐ滑り、手前で止まった。
ここで、ユアが力尽きた。
大爆発直後の砂の壁、これは防御壁ではなく、砂で包んで後方へ飛ばした防御膜。だから目を閉じていた。予め、目と口を閉じるよう指示されていた。
爆発の力も利用して後方へ飛ばし、クッション状の砂で受け止めてから滑らせた。ドラゴンの近くに倒れていたワルパスも、砂を利用して運んできた。
しかし、それだけ同時に行ったので、ユアの消耗は激しい。その場でダウン。今、ドラゴンが突進してきたら終わりだ。
ライバーたちも無事とは言えない。火傷している。打撲もある。動くと激痛が走るくらいのダメージは受けていた。
現実なら、救急搬送で集中治療室行き。
この[世界]なら、とりあえず回復薬。ミツに指示して命の心配は無くなった。
先生は、2人の回復を後回しにし、命が心配な方を診る。
「……俺はいい……無駄だって解っているだろ?
手遅れじゃない方を診てやってくれ……」
互いの目をじっと見る。
「解った。」
ショーインが言うと、ワルパスは笑った。
「そこの少年と代わってくれ。」
ミツを指名した。
先生が何も出来ないのに、指名されて戸惑うミツ。
「話し相手になってくれればいい……」
そして、
「これでいいんだ……私が助かっては、予言が変わってしまう……今、順調に進んでいる……」
うわ言ではない。苦しそうだが、意識ははっきりしている。
「光が見えたら……勝ちだ……」
ワルパスが言った直後だ。
ドラゴンの上で、何かが小さく光った。
「見えました?!光?!」
「……あんな小さな光ではない……もっと大きな
……激しい、」
その瞬間、今度は、眩しく光った。
『大きな炎を見たら飛べ!
小さな光を見たら飛べ!
大きく光るまで耐えろ!
目覚めの時が来る!』
ワルパスがヤマトに伝えたのは、それだけ。
細かく説明すると、予言が変わってしまう恐れがあるから。
大岩の上でそれだけ教えると、ワルパスは、
大きな炎を見て飛んだ!
それからずっと、大岩の上で見ていた。
必死にしがみつくワルパス、力及ばずに飛ばされ、地面に叩きつけられたワルパス。
(僕の出番は、いつだ……?)
待っているが、小さな光が現れない。
2度目の大爆発、負傷者が増えた。
(まだか……?!)
思っていると、
両腕の、義義の腕輪が光った!
(これが、小さな光?!)
ヤマトは飛んだ!
暴れているドラゴンの背中に落ち、刺さっている剣を何とか掴めた。
今度はヤマトが振り回される。足が宙に浮いたまま、必死にしがみつく。ワルパスと変わらない。力尽きて落ちるのを待つだけ。
いや、ヤマトが待っているのは『大きな光』。
自身の腕輪の光が大きくなるのを耐えて待つ。
……違っていた。
光った?!
眩しく輝いたのは、ドラゴンスレイヤー!!
ドラゴンスレイヤーに目覚めの時が来た!!
バターに熱したナイフを置いたように、力も入れていないのに、ドラゴンスレイヤーが、背中を斬り裂きながら滑って進む。
巨竜が暴れる。確実にダメージがある。
大きな傷、しかし、致命傷ではない。暴れ方が激しくなる。2人が待機していた大岩が、暴れる尻尾の一撃で砕け散った。
ヤマトの方は剣任せ、背中を斬り進み、尻尾の付け根あたりで、地面に着いてしまった。
今度はヤマトが走るしかない。横に走って斬り進むしか……しかし、それは危険過ぎる。
ドラゴンの尻尾が地面スレスレを薙ぎ払うように迫って来た。痛みの根源、痛みをもたらしたモノがある。気づいている。ヤマト目掛けて迫って来る!
横に飛んでも逃げきれない、巨大な尻尾だ。
凄い音がした。
尻尾がドラゴン本体と激しくぶつかった音。
その間に、ヤマトは、
いない!
間一髪、上へ……とかではない。
空中を、ステップしている。
まるで踏み台があるかのように、宙へ昇っていくヤマト。
彼のレア特典は[空中ステップ]。MPの消費はあるが、瞬間的に空中に足場を作れる。
(上へ行け!!)
剣に言われた気がして飛んだ!
(今だ!!)
剣に導かれるまま、
豪快な一撃を放った!!
ドオォォォーーン!!
ドラゴンの首が、地に落ちた。
「エルフの長老を探せ。」
これは、村長である父の予言。時がかかった。その長老に言われ、ドラゴンスレイヤーを探しだすまでに、さらに時が過ぎた。
世俗を捨てよと長老に言われ、村への連絡を断った。住所に定めていた場所へ戻ったのは、つい最近、剣をやっと手に入れ、帰り支度に寄った。
届いた手紙が山になっていた。父の危篤の知らせより先に、上にあった他界の知らせを読んだ。
だが、父の予言「お前の人生をかけねば、村は救えん」その言葉通りにした。覚悟はしていた。
父は無理をした。少ししか予言の力がないのに、村を救おうと無理をした。私に予言を話したあと、記憶障害となり、予言を伝えたこと自体を忘れていた。
だから私は、父に黙って村を出た。
ヤマトくん……君にも謝らなければならない。「討伐に同行した少年が、ドラゴンを討つ宿命を負う。」エルフの長老の予言にそうあった。
……だから息子を遠ざけた。君に宿命を背負わせてしまった。本当に済まない。
息子では、背負いきれないと思い、君に押し付けてしまった。このドラゴンなど足元にも及ばない、凄いドラゴンと戦う宿命を。
ミツに話した後、ワルパスは静かに息を引き取った。淡い光となって消えた。
重たい空気のあと、
「俺と代わってくれ!バリバリの主人公ルート、ぜひ俺にやらせてくれ!」
ライバーがヤマトに詰め寄る。
「アイさんなら受け入れるかな?」
ユアに訊くヤマト。
「当然でしょ!」
「なら、僕もやるよ。凄いドラゴン退治を目指すよ。」
「……ちょっと待ってくれ、アイと知り合いなのか?」
「はい。僕の目標です!」
キラキラした目をして答えたので、とりあえず、勇者アイの悪口は自粛したライバー。
「なら、やるしかないな!」
「はい!!」
(確かに……アイツに似ているかもな。)
しかし、譲れないことが1つある。
「言っておくが……奴の一番のライバルは、
この俺だぞ!」
これだけは譲れない。
そして、仲間になろうという話を、ライバーから持ちかけた。
「悪いけど、」
ユアが断った。
「私の姿が見える相手としか組まないわ。通訳されてる間に待つのが、面倒なの。」
理由を聞いた先生。チームで唯一理由を聞けた先生。先生は大人だ。真意も読み取った。通訳する自分への配慮でもあると。
「その、もっと凄いドラゴンを探すために、別行動を取りましょうってさ。」
チーム全員が納得した。流石は社会人、とっさの方便も的確だ。
村に戻った。
村からの報酬は、ほぼ無かった。
いや、断った。
それなりの金額を用意していたようだが、ドラゴンがドロップした「竜のウロコ」「竜の牙」、高く売れるらしいので、断った。
[重戦士用の鎧]を一式、対ドラゴン用に村で購入したが、誰も重くて使えない。それだけを受け取った。ヤマトにはドラゴンスレイヤーがあるので、ライバーチームの物となった。
ライバーが装備してみる。兜、鎧上下、靴、篭手、動きづらそう、重たそうだ。
「まるで養成ギプスだな。」
先生の一言で、ライバーが調子に乗った。
「よし、これで行く!」
スキルなし、防御力はほどほど、重たいだけでそれほど高価でも無い。でも面白そうなので決めた。このあとやはり不便で、1つずつ外していくことになるのだが……
「次に会うときは、ナイスバディが見えるくらいに、モラルを上げてるからな。」
ライバーたちは、そう言い残して別れた。
ヤマトたちが北へ進むと言うので、北東に向かった。その先には、塔が壊れている町がある。
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