第100話 異端が集まる

 ライバーたちがフィールドで戦っている。

 前衛が3人いる。目立つのは若い女戦士。

 女戦士?!

 ついにライバーのチームに、念願の女子が入ったのか?!

 街に着いた。

「ありがとう。」

「何なら手伝うぞ?」

「うん、困ったらそうする。」

 女戦士が手を振る。別れてしまった。

「どこかの塔を探している……か。何やら複雑そうだな。」

「余裕が無さそうだったが、大丈夫かな?」

 街中に走り去る彼女を、ちょっと心配そうに見る4人。後ろを誰かが見ていたなら、次なる悲劇は起きなかったかも……

「バクッ。」

 ライバーが頭をかじられた?!

「のわあーーっ?!」

 本人、叫べたので、まだ大丈夫そうだ。

 視界が真っ暗だ。そのはずだ。顔の上半分をバックリと咥えられている。

「どわわわわっっ?!!!」

 外から見た他の3人の方が慌て方がすごい。

 リーダーがドラゴンに頭をかじられている、当然の反応だ。

「わわっ!スミマセン!うちのガッちゃんが!」

 飼い主?

 うちのワンちゃんがスーツを汚しちゃってスミマセン!くらいの感覚で現れた。

「あーっ?!びっくりしたっ?!」

 鉄兜がきれいに無くなってはいるが、他は無事だったライバー。

 重たい重戦士の装備、結局最後まで着けていたのは兜と篭手だけ。その兜を食われた。

(兜があって良かった……)

 思っているライバー、兜があったから咬み付かれたとは思っていない。

「キュルルル!」

 何事も無かったかのように、飼い主に甘えるドラゴン。メタリックな銀色、大きさは小型車くらい、ドラゴンとしてはかなり小さめ。

 この何十倍ものドラゴンと戦ったばかりだ。ドラゴンでも恐怖は無い……頭をかじられたり、してなければだが。

「兜を弁償させて下さい……できたら、ツケで」

 ターバンを巻いたこの青年、蛇使いならぬドラゴン使い。あまり使いこなせては無さそうだが。

「いやあ、咬み付いた相手が優しい方で良かったです……もう、見境なく食べちゃうから、借金でパーティも追い出されちゃって……」

 明るく話す。

「採用。」

「えっ?」

「まあ、言うと思ったよ。」

 と、先生。他の2人も笑っている。

「採用って、仲間にですか??」

「そっちに気があれば、だけど。」

「も、もちろん願ってもないですけど、借金、どんどん増えますよ?」

「パーティの武器も食われちゃうかな?」

「レア装備(Aランク以上)は食べないです。あと、人にも咬み付かないです。」

 必死のアピールをするドラゴン使い。

(あれは咬み付いたに入らないのか?)

 確かに兜しか食われてはいないが。

 ライバーが自分の剣をドラゴンの前にチラつかせた。[連撃の剣]バトルで奪ったレア剣だ。

 くんくんと匂いを嗅ぐドラゴン。

 そして……食べない。

「おりこうだね。」

 右手で優しく撫でてやるライバー。

「バクッ!」

 右手には、鉄の篭手があった。

「お、おおーーっ?!」

 咬み付かれて慌てるが、凄い力でどうにもできない。

 きれいに、篭手だけ食べられた。

「お、おりこうだね……」

 腰を抜かしながらの感想。まだ、お互いに色々慣れる必要がある。

 ドラゴン使いは[ヒョウ]、ドラゴンは[ガッちゃん]と紹介。

「ヒョウか……」

「似つかわしくないですよね。」

 自嘲するヒョウ。自分に勇猛さの要素が無いのは自覚している。

「いや、ヒョウよりアラレだったら良かった。」

「確かに、相棒がガッちゃんだもんな。」

「ガッちゃんは、ガッチャンガッチャン音がするからです。」

 ……

 少し年下でも、もう知らない世代なのか……と思う、ライバーと先生。かくいう自分たちも、再放送しか知らないのだが……

 

 北上しているヤマトとユア。

 ヤマトが力尽きた場所、中立地帯の小さな村へ、行ってみようと言う事になった。

 色々良くして貰ったと話したら、

「じゃあ、顔見せて、安心させましょう。」

 ユアが提案した。

 途中で違うイベントに遭ったら、そっちを優先させるのも決めた。

 ……で、今、西の王国の最西端で最北端の街にいる。

 そこでランチを食べている。

 いつも選んでしまうハンバーガー。外のテーブルで、他と離れた場所に座って。

 周りには、2人の会話が、ヤマトの独り言に映ってしまう。ハンバーガーも、ドリンクも、ユアが手に取った途端、一般には見えなくなる。

 不思議がられるのが面倒なので、いつも離れた場所に座る。

 ヤマトはちょっと落ち込んでいる。

 あれから、抜けないのだ。

 一度もドラゴンスレイヤーが使えていない。

 ここまで町村をいくつか経由しての移動、一度もドラゴンスレイヤーで戦っていない。

 真の主とは認められていないのだ。

「ウォン!」

 犬だ。

 いや、相当デカい犬だ。いや、狼だ。

「何か用?」

 トラサイズの狼が近づいてきても、全く動じないユア。

「ウォン!」

「えっ?!そうなの?」

「ウォン!」

「解った。連れて行くわ。」

 会話できてる?

「狼の言葉、解るの?」と聞こうとするより先に、すぐそこの、街の出入口までユアに引っ張られるヤマト。食事後のユアはパワーがある。

 街の外に出されてしまった。

「こんにちは。」

 見知らぬ女性から挨拶された。

 先に出ていたはずの狼は見当たらない。

「そのバーガー、いい?」

 まだ手に持っていたヤマトのバーガーを食べだす女性。ユアは早食い、もう全部食べた。ヤマトはのんびり、ゆっくり食べるので残っていた。

「ウルルひょ、ほれはらひょろひくへ。」

「何て言ったの、今?」

 狼の言葉は聞き取れたユア。

「ウルルよ、これからよろしくね。」

 飲み込んでから言い直したウルル。

「私はユア、こっちはヤマトよ。よろしくウルルさん。」

「ウルちゃんでいいわ。」

「じゃあ、ウルちゃん、これからよろしく。」

 ヤマトが一言も発する前に、仲間に決まってしまった。

 ……ユアがライバーチームからの誘いを断った理由は、

「私が見えていないから。」

 全員が見えていないと、間に入る人が大変だ。彼女はそう思っている。

 そして、会話が通じない苦労も解る。

 再び、街へ入ってテーブルに着く。

 またハンバーガーを買いにいくヤマト。ウルルが追加注文したのだ。買い物ができるのは自分一人だ。これからは3人分買わされる。

 イケメン人狼族に囲まれて幸せに暮らしていたウルちゃん、多数からプロポーズを受けた。誰か一人を選べず返事を引き伸ばしていたら、全員別の相手を見つけてしまった。

 闇の空が始まると、一転スパイ扱いされ、居場所がなくなる。里を去る決意をした。情けで、この街の近くまで人狼族が送ってくれた……という経緯があったのだが、

「ウォン!(色々あってね。)」

 中学生相手には愚痴れない。

「ウォン!!」

 もう一度吠えたウルちゃん。内容は

(キャ~!イケメン!)

 西洋風の顔立ちの、若い金髪剣士を見つけてしまった。全然懲りていないウルちゃん。向こうもこちらに気づいた。

 近づいてくる。弟か、従者か、ヤマトたちと同い年くらいの少年も1人いる。

「まさか?ドラゴンスレイヤーか?!」

 金髪剣士が目を付けたのは、ウルちゃんではなくヤマトの剣。そして、

「精霊もいます。この方たちなのでは?」

 少年が目を付けたのはユア。またも精霊が見える者と遭遇した。

「残るは亜人1人と人間2人か……」

 寄って来たわりに、話しかけては来ない。しかし、内容は見えないが、数には入れられている感じだ。

「何か用?」

 謎の2人が、自分を認識しているかの再確認でもある質問。

「……失礼しました。アストラルと申します。こちらは兄のレオンです。」

 兄がレオンで弟がアストラル、うん、解りやすい。金髪で、エメラルドの瞳の兄弟。合体光線は多分出せないと思うが……

「長老の予言に合致する者たちを探している。」

 と、クールな金髪兄。

「長老って、エルフの長老?」

「ほう、やはり知っていたか。それはワルパス殿のドラゴンスレイヤーだな。」

「……ワルパスさんは、やっぱり…その……」

 弟は感情表現が豊か。予言を知っているのだろう。ワルパスの宿命もおそらく知っている。

「……ええ。亡くなったわ。」

 悲しむアストラルを、兄が叱咤する。

「そこは喜ぶところだぞ、アストラル!村が救われた証だ。そんな事では、我々の役目を背負えぬぞ!」

「役目?」

 また、別の予言を背負っていそうだ。

「……詳しくは言えないのですが、砂嵐に入れるメンバーを探しています。」

「今、砂嵐と言ったか?!」

 離れた所から別の声。

 長身の剣士と修道士が、こちらを見ている。

「実は俺たち、もう何日も砂漠で砂嵐を探してい、うぉおおおおおおおお!

 何だ?何だ、その剣?!すげぇな?!」

 2m近い長身男が、座っているヤマトに駆け寄って来た。背中の剣に、興味津々だ。

「ちょ、ちょっとだけ触っていいか?」

 興奮して手を伸ばした。あれから剣が抜けないヤマト、何かのきっかけになればと、嫌がる素振りを見せない。

 別の手が、それを止めた。

「これはドラゴンスレイヤーだ。リザードマンはドラゴンの亜種だろ?右手が焼け落ちるぞ。」

 レオンに警告され、慌てて下がるトリパー。

「な、何で俺がリザードマンだと解った?!

 あ、いや……その前に、ありがとう、かな?」

「人化のロザリオ、それは我々のアイテムだ。」

 トリパーの首に下がるロザリオを指している。

「貴方がたはエルフなのか?」

 トリパーの連れ、修道士のリムが尋ねた。師匠に貰った時、エルフが作った魔法アイテムだと聞いた。

 エルフ……にしては特徴的な長い耳をしていない。その代わり、

 トリパーと同じロザリオを、レオンもアストラルも付けている。

「何か、ゴチャゴチャしてきたわね。」

 そう言いつつも、さほど気にしていないユアたちだ。ヤマトは途中だったバーガーをまた食べ始めた……のだが、

 じーーーーーっ。

 見られている。凝視され、手も口も止まるヤマト。レオンがじーーーーーっと、バーガーを見ている。

「た、食べますか?」

 食べかけだけど、もうこれしか無い。

「人間の食べ物か……珍しいな。」

 人間の町に変装して来るエルフも少なくないのだが、このレオンは剣一筋、あまり人間と関わったことがない。

 バーガー仲間がまた1人増えた。

 いや、1人に終わらなかった。

 どうせならと、みんなでテーブルを囲んでバーガータイム。またヤマトが買いに行ってきた。

「おおっ!これは旨い!」

 人間の姿の時は人間の味覚になる。トリパーもバーガーが気に入ったようだ。

 彼以上に、表情の変化はほとんど無いが、黙々と、結構なペースで頬張るレオン。こちらも気に入ったようだ。

「実は予言に示された人数がありまして、」

 兄に代わってアストラルが説明する。

 兄と違い、大人に連れられて人間の町にも行った経験があるアストラル。バーガーも時々食べている。仲間からのお土産でも食べている。子供なので抵抗がないし、喜ぶのでお土産をよく貰う。

「亜人3名、精霊1名、人間3名……これが砂嵐の中に入る人数の予言です。」

 レオン兄弟とトリパーで3、ユアが1、ヤマトとリムで2……あと人間が1人足りない。

「人間の街で人間一人を探す、逆に厄介だな。」

 口の周りにソースを付けたままで、レオンが言う。ヒントは他にない。自然と集まると聞いていたらしい。

「ウォン!」

 ずっといたウルちゃん。

「召喚獣ですか?」

 実は犬好き。さっきから触りたくてソワソワしているアストラル。

「『わたしが人間よ』って、言ってるわ。」

 ユアが通訳。

 でも通じていない。

「誰が?」

「彼女。」

 ウルちゃんを指す。

「彼女?」

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