第98話 ドラゴン退治

 夕方、村の集会所で集会が開かれた。

 ドラゴン討伐の作戦会議だ。予言だと、目覚めるのは明日だ。

 村の働き盛りの男衆ほとんどが参加している。他には、村長のエミリオ、ルルシェッタ、そして助っ人のユアとヤマト……それだけである。

 一番の戦力は精霊のユア。そのユアが、

「勝てない」と言ったのを、参加者に伝えて良いものか悩んでいる、エミリオとルルシェッタ。

 大きな音がした。

 乱暴にドアを開けて入って来たのはワルパス。

一人で入って来た。誰も連れて来てはいない?

「ワルパスさん、あんた生きてたのか?!」

 驚く村人たち。それも伝えられていなかった。

「農民どもが、何している?明日の作業があるだろ?とっとと帰って休め!」

 挨拶の代わりに悪態をついた。

 音信不通の7年の不満が爆発する。

「あんた一人で、やれるってのか?!」

 ワルパスが背中の剣を手にして構えた。怖気づく村人たち。武芸の心得のある者はほとんどいない。剣は抜かれてはいない、鞘付きのままだったが、

「全員いっぺんにでもいい。俺を倒せると思うなら、かかって来い!」

 きつい目で、村人たちを睨みつけた。

 誰もかかって行かない。誰一人動かない。

「俺に勝てぬ者が、ドラゴンを倒せる訳などなかろう!!」

 静まり返る。

「俺と戦うか、家に帰るか、今すぐ決めろ!!」

 ……

 誰も、いなくなった。

 エミリオとルルシェッタと、ユアとヤマト、それと、みんなを追い返したワルパスの5人だけ。

「また邪魔をして!!どうするんだよ?!」

 食ってかかる息子に、

「お前もとっとと消えろ!目障りだ!」

 大きな音がした。

 乱暴にドアを開けてエミリオが出ていった音。やはり変な所が父親に似ていた。

 とうとう4人になってしまった。

「……待たせた、客人!」

 ワルパスは外に向かって言った。ヤマトたちへでは無い。

 ゾロゾロと4人、若者が4人、

「本当に、あれでいいのか?」

 先頭に入ってきたリーダーらしき男が訊く。

「できるだけ予言の状況に近づけたい。今はこれでいい。」

「そうか……」

 追加組は、ヤマトたちよりは、色々聞かされていそうだ。

「俺はライバー。隣がショーイン、で、ミツにハリィだ。よろしく、少年!」

 全員の紹介をするリーダー。

 しかし、

「私が見えてる人、手を挙げて!」

 突然叫んだユア。

 ……4人とも手を挙げない。

 が、

「少年は失礼だった。謝るよ。」

 山伏姿の僧侶ショーインが謝った。彼は聖職者だ。見えていた。現実でも聖職者(小学校教師)

だったりする。

「えっ?!まだ誰かいるのか?!」

 ライバーの問いに、

「セクシー美女の精霊がいるって伝えて!」

 悪ノリが大好きな先生、その通りメンバーに伝えた。

「嘘だろ?!ナイスバディのアダルト精霊?!」

 その通りではなく、もっと尾ヒレを付け足していた。

「スマンが時間がない。説明に入らせてくれ。」

 ワルパスの言葉で、全員真顔に戻る。

「まず、この中で一人、置いていく。」

 全員を見るワルパス、視線が止まった先は、

「ルルシェッタ、お前は村に残り、村人が近づくのを止める係だ。」

 少し不満な顔を見せたルルシェッタ、

「特にエミリオを抑えろ、お前にしかできん!」

 これは納得するしかない。

 テーブルの上にワルパスが地図を広げた。みんなが周りに集まる。

「ここで、ドラゴンを食い止める。」

 印のついた場所を指差すワルパス。

「高い岩がある。俺ともう一人、この岩の上でドラゴンを待つ。」

 指をずらすワルパス。

「残りはここで、ドラゴンを足止めする。両方とも命懸けになる。正直、勝算は高くない。」

 正直ではない。決め手が何もない。ただ、極めて低いなどとは口に出来ない。

「希望はある。」

 ドカッと、地図の上に、自分の背中の剣を鞘ごと置いた。立派な鞘と柄の剣だ。

「これは[ドラゴンスレイヤー]!!」

「ドラゴンスレイヤーだって?!」

 ライバーたちも知らなかったようだ。

 驚くのも当然だ。今回を考えるなら、聖剣よりも有り難い剣だ。

 SSレアの剣[ドラゴンスレイヤー]竜を退治するためにある剣。

「探すのに、7年かかった……」

 音信不通の7年が、ここにあった。

「しかし……」

 歯切れが悪いワルパス。

「俺には使えぬのだ……」

 そういえば、一度も鞘から抜いていない。

 今、剣士は他に2人、その2人、ライバーもヤマトも試してみたが、剣に受け入れられない。

 聖剣クラスは、扱いも聖剣級、剣が主を選ぶ。主以外には反応しない。

「可能性は、ある。」

 剣が反応するもう1つのもの……ドラゴン、

「ドラゴンとの戦いの中なら、抜けるやも知れぬ……」

 つまりは、ぶっつけ本番の大博打。

「当日、剣が抜けなかったら……全員、逃げてくれ。」

 作戦は失敗。討伐は失敗。

「村とは逆へ、逃げてくれ……」

 村は壊滅、となる。

 静まり返る。

「……もう1つ、希望を話そう。」

 エルフの長老に会ったという。

 予言においては右に出る者はいない、エルフの長老に会えたという。

 他の予言者とは違い、万能ではないが、見たい事柄の予言ができるという。

 剣聖フリードの[先読み]と似ているが、先読みは1日程度先しか見えない。エルフの長老は数年先を見る。

 ただし、予言は変わり易い。他人に話すと余計に変わり易い。だから内容を話せない。話すと良い結果になる確率が下がってしまう。

「まあ、なんとか……予言通り出来ている。」

 だから安心しろ、とは言わなかった。


 戦いの時が来た。

 2組に分かれて待機する。

 ドラゴンが通るであろう道の横に立つ大岩、この上に2人、ドラゴンスレイヤーを持つワルパスと、ヤマトが待つ。

 かなり高い岩だ。四足歩行状態のドラゴンに、無謀にも飛び移る作戦。10m以上は下の背中めがけて飛ぶ。その途中で剣を抜く。抜けなかったら全てが終わる。これをワルパスが行う。

 対するドラゴン、

 体長30m。映画でよく見る首の長い草食恐竜、あれで25m前後。このドラゴンは、首は長いのではなく太い。コモドドラゴンのような好戦的な姿の30m。移動速度も早い。加速すると時速40mを超える。人間が全力で逃げても逃げきれない。分厚い皮膚、パワー、爪、牙、尻尾、全てが破壊兵器となる、一本角の巨大ドラゴン。

 2人が乗って待つ大岩の横を通る前提の作戦。村への最短距離となるこの場所を必ず通る。でなくては、予言自体が成り立たない。

 そして、通過するドラゴンの背に飛び移る空中で、ドラゴンスレイヤーを抜き放つ。

 剣を突き立てて背中を攻撃。何故背中かと言うと、普通は腹側、皮膚の薄い場所を狙う。しかし四足歩行の巨大なドラゴン、立ち上がった時でないと腹側は攻撃しにくい。立った時を狙って刺したとしても、すぐに四足歩行に戻ったら潰されてしまう。

 問題点はまだある。

 歩道橋の上から、40キロで走ってきたトラックの荷台に飛び移るのは難しい。歩道橋より高い場所、団地の5階くらいの高さから狙う。

 そこで足止め班。岩よりも少し先、進行ルートを塞ぐ位置に待機している。このチームも、ドラゴンの速度を落とすのに失敗すれば、すぐに攻撃射程に入ってしまう。安全とは言えない。むしろ危険な役割だ。

 超貴重な[エルフの丸薬]、巨峰一粒程度の黒い玉を、2つ先生が取り出した。ワルパスから貰ったものだ。

 超貴重だと言われると食べたくなるが、とても苦い。そう聞いている。

「まず、姐さんが手本を見せる。」

 まだナイスバディのアダルト精霊だと思っているみんなの前で、勝手に宣言したショーイン。ユアから睨まれているが、自分にしか解らない。

 丸薬と水を渡す。受け取った途端に見えなくなったので、先生以外は飲んだか解らない。

 実際、飲んだ。物凄い顔になった。

(よし、いい子だ。)

 仮にゴネられたら困るので最初に渡した。姐さんと呼べば、先輩意識も働くと考えた。

 次はハリィ、余りの苦さで体が拒絶する。口の中にだいぶ残っている。

(中学生も飲んだんだぞ!)

 と、内心思う先生。

 渡した水で流し込んだ。(ちなみに、ユアに渡したのはジュースだった。)

 これで2人の魔法の、威力と持続力が強化された。ハリィが詠唱の準備を始めた。

 ミツが戻って来た。

「こちらへ来るのが見えました。」

 ドラゴンの接近を確認した報告。

 偵察ではなく、アイテムを設置に行っていたミツ。

[ポイントマーカー]。復帰早々にバトルした時の戦利品の1つ。ナイフや矢、魔法など、放つだけでこのマーカーのある所に飛んでいく補助アイテム。バトルで模擬戦をして試してみた。魔法を撃てないはずのハリィでも、遠くのマーカーに命中させられた。実は一番の戦利品だった。

 ちょうど、ワルパスたちがいる大岩の下辺りに置いた。

 準備が進む。先生が輪唱の数珠を使って、強化魔法を唱え始めた。

 土煙が見えて来た。ドラゴンが迫っている。

 可視化させていないので、ハリィの火球がどれくらいまで大きくなったか解らないが、本人の表情が険しくなって来ている。もうすぐ限界に達する。

 大岩の上のワルパスから合図が来た!

「行け!ドラグスレイブ!!」

 ライバーが勝手に命名した大火球が放たれた!

 疾走するドラゴンへと真っ直ぐ飛ぶ!

 大爆発!!

 ……

 等しく滅びを与えることは無理だったが、ドラゴンの足は止まった。

 ダメージは、見て取れない。何が起きたか警戒のための停止のようだ。目が怒りに燃えている。

 しかし、作戦①は成功!

 ワルパスが飛び降りた!

 剣を、剣を……

 抜けた!

 背中に突き立てた!

 作戦②も成功!

 ドラゴンが暴れ出した。ロデオのように、体を上下に乱暴に動かす。

 習性なのか、プライドなのか、ドラゴンは横にゴロゴロ転がったりはしない。

 あとは剣を、剣で、

 ……

 何も出来ずに必死に剣に掴まっているだけだ。ドラゴンスレイヤー、抜けただけ?ドラゴンを見て興奮して出てきただけなのか?!

「2発目準備だ!」

「ダメです!」

 ライバーをミツが止めた。

 目も利くミツ。マーカーの破損を確認した。ドラゴンに踏まれて粉々に壊れた。

 ワルパスが落下した。

 これは全員に見えた。

 作戦失敗?!

 全ては終わったのか?!

「いや、それは危険だ。」

 先生の声がした。

 ユアと話している。

「何て言ってるんだ?ユア姐さんは!」

 ライバーに聞こえないように小声にしたのだが、知られてしまい、顔をしかめる先生。

「全力の炎を撃て!私が砂で守る……だと」

「……よし、行くぞ!ハリィ!」

 少しの間があった。

 当然だ。マーカーが無い今、ドラゴンに大接近する必要がある。

「これを決めるのは、リーダーじゃなくてハリィだ……」

 先生の真剣な眼差しが、ハリィに向けられる。

「完全には守れない、大けがすると思う……そうも言っている。」

 姐さんの言葉を、全部伝えた。

「……行きます!」

 覚悟を決めたハリィ。

 ドラゴンは、背中に残った剣を嫌がって、まだその場で暴れている。毒蜂に刺されたような感覚なのかも知れない。

 その間に、全員進んだ。前方にユアが砂煙を作り出し、視界をカムフラージュして進んだ。

 ハリィと先生は詠唱をしながら進む。

 止まった。まだ距離がある。そこから先は、ハリィとライバーのみが近づく。

 大火球を放つ合図がライバーから来た。

 炎は撃てないまま爆発するのだが、元々頭上2mくらいに発生、2mだが隙間はある。

 大火球が可視化、ドラゴンのすぐ間近、2人にも間近、炎と2人の間に砂の壁が造られる!

 一瞬の出来事だった。

 再びの大爆発!!

 ……

 砂の壁ごと、2人は勢いよく飛ばされた。

 2人はそのまま地面を転がった。ただでは済まない勢いで。

 火傷も負ってしまったようだ。

 目を閉じたまま動かない2人。

 ドラゴンはどうなった?

 ……怒っている!!

 ダメージもあまり無さそうだ。

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