第97話 討伐隊募集
難易度が高いとされる、募集イベント。
その中でも、さらに難易度が高いとされるドラゴン討伐。
以前は尻込みする者が多かった高難易度のドラゴン討伐なのに、みんな参加に前向きに見える。
闇の空が晴れたあと、エンディングのあとの通知のせいかも知れない。
『世界でゲームオーバーになっても、現実では大丈夫になりました。ご安心下さい。』
複数のチームで戦えば、もしかしたら行けるかもという雰囲気だ。ただ、参加を宣言する者はまだいない。みんなの出方を待っている。
通知の後半部分も影響しているだろう。
『[注意]ゲームオーバーになると、[世界]には復活はできません。』
この一文で迷っている。せっかく復活したのに、早々にリタイアになる可能性もある。
そこへ、
警報?!
アラーム?!
魔物が攻めて来た警報とは違う。街からではない。脳から?頭の中から?!
フリーズしたように、プレイヤー以外が静止している。
『申し訳ありません……』
女性の声、頭の中から聞こえる。プレイヤー全員に聞こえているようだ。
『ゲームオーバーでも大丈夫は、間違いでした。
また、また……』
女性は泣き出し、声は途切れてしまった。
『……失礼いたしました。』
男の声に変わった。
『運営です。運営の者です。』
はっきりと答えた。今までは、ゲームだと想定はしていたが、これで完全にゲームと確定した。
しかし、
『本来、世界観を害するので、このような形で介入するのは気が引けるのですが……
ゲームオーバーの危険は、以前と同じだとお考え下さい!』
プレイヤーがざわつく。叫ぶ者が何人もいた。
『……誠に申し訳ない。我々も引き続き対処いたしますが……早急の解決は厳しいと思われます。本当に申し訳ございません……』
……そこで終わった。
後にサイトを中心に[大誤報]と呼ばれることになる。正確には、エンディング直後の『大丈夫』の通知の方が大誤報なのだが、衝撃を受けたのは、今の緊急連絡の方だ。
静止していた[世界]が動き出した。
不満、愚痴、絶叫……怒りを表している者は多い。しかし……どこへ文句を言えばいいのか解らない。カスタマーサービスなど存在しない。
連絡に1つ嘘があった。
運営は、もう無い。
監視員が数名いるだけ。
対処はする、している。打開策を探している。しかし、修整してアップデートは無理だろう。
一瞬で、以前と変わらぬ[世界]に戻った。
……ここで、プレイヤーがまたも二分、三分する。エンジョイ組(生存優先組)、アウトロー組(自分私欲最優先組)、そして、攻略組。
攻略組の考えは単純だ。
「以前とやることは同じじゃん。どちらか1つの世界を選ぶなら、どっちにする?以前から決めてたよ。ゲームオーバーしてもいいなんて、最初から考えに無かったから。」
広場の人だかりが、かなり減った。
NPCは、何が起きたか解らない。
募集をしていた少年と、お供の20歳くらいの女性、ショックを隠しきれない。
そこへ、
「諸君!どんなドラゴンか、理解してから参加しろ!デカいぞ!特大だ!超級のドラゴンが相手だぞ!」
突然現れたおっさんの叫ぶ声で、人だかりは、無くなった……。
3人の花嫁候補を選ぶ有名ゲームの主人公の、父親で元王様だったあの戦士、背中に剣を背負い立派な口髭、雰囲気がその戦士に似ているおっさんの介入。
ただ、目つきが悪い。視線が冷たい。悪いパ○ス、悪○パスによって、募集は終わった。
「ワルパスさん!」
お供の女性が叫んだ。おっさんの名前はワルパスだ。○を使わずに済む。
「生きてたのか……今頃……」
少年の声には怒りが籠もっている。
「今頃何をしに来た!クソ親父!!」
憎しみと怒りの目は、悲しくも、父親の目つきとそっくりだった。
「もう時間が迫っているのに、どうしてくれるんだ!」
殴りかかろうとしたのを、女性が止めた。
「村長!落ち着いて下さい!せっかくの親子の再会ですよ!」
村長?……少年が、村長?!
「……少しは強くなったのか?良かったな、ルルシェッタに止めてもらって。」
口も悪パスだったおっさん。
「まだ2人残ってて、良かったじゃないか。」
そう、広場には2人、ヤマトとユアだけ残っていた。
「何で邪魔を!」
「邪魔?……戦闘中に逃げ出すような奴を雇ったら、それこそ討伐は失敗するぞ!」
逆に睨み返される息子。元々きつい目なので、睨んだのか、普通に見たのか、判別しづらい。
「あの……僕でも大丈夫ですか?」
ヤマト、親子に近づいていく。
「あんた、剣持ってないの覚えてる?」
「あっ?!」
折れた剣の代わりを買いに行く途中だと、やっと思い出したヤマト。
「俺のをやろう。」
ワルパスが、腰の剣を鞘ごと投げた。
「俺にはこっちがある。」
背中の立派な剣を見せた。鞘からして凄そうな剣だ。
今度はユアが近寄って行く。
「私のこと、見えてますよね?」
再び、あっ?!という顔をしたヤマト。
「ああ、精霊とは珍しい。手伝ってくれるなら、有り難い。」
「うちの村の者は、みんな精霊が見えます。」
と、ルルシェッタ。どうやら、亜人の血をひく村らしい。
「もう村へ戻れ。子供の足だともうギリギリだ」
「でも、まだこの方たちだけで……」
「私がギリギリまで粘る。さあ、行け!」
「集めてくる訳ないさ!邪魔をしたいだけだ!」
少年はずっと不機嫌だ。
あの父親の評価は難しい。亜人の子孫じゃなければ、解りやすかった。モラルが高くて精霊が見えてたことになる。
「昔は村を大事に思う立派な方でした。」
ルルシェッタの剣の師匠でもあるらしい。
「エミリオ様も慕っておられて、」
「昔の話なんて止めろ!あいつは村を捨てたんだ!」
7年前、村の近くに眠るドラゴンを退治する方法を探しに、エミリオの父ワルパスは旅立った。
でもそれっきり……半年前、エミリオの祖父、先代の村長が危篤だと知らせを届けても、ワルパスは戻らなかった。
7年間、返信もずっと無かった。
「逃げたか、死んでいるかだ。」村の者はみんな言う。
祖父が死に、エミリオが村長を継いだ。
闇の空が始まり、下っぱの少数部隊だったが、村へ魔物が攻めて来た。
しかし、眠れるドラゴンのオーラを感じ、魔物たちは退散したという。
「それほど恐ろしいドラゴンなのです。」
そして、魔物が逃げたのは、いよいよ目覚める兆候なのだと。
前村長には、少し、予言の力があった。
目覚める日を予言している。その通りなら、ワルパスの言う通り、もう戻ったほうがいい。
「どんなドラゴン?私、活躍できるかも。」
ユアがルルシェッタに尋ねる。
「翼のない四足歩行です。多分、地属性ではないかと……」
「地属性か……可もなく不可もなくね。」
そこへ魔物が現れた。
人より大きいサソリが3体、砂漠の砂から姿を出した。
砂が動いた!
大きく動いた!
有り得ない動きをした!
魔物サソリ、1体は砂にバネのように飛ばされた。50m以上飛ばされて、地面に激突。
隣の1体は、両側から迫ってきた砂が、岩のように硬くなって挾まれ、潰された。
残る1体は、隆起した砂が大きなトゲに変わって、次々当たって串刺しにされた。
「このくらいの相手なら、同じ地属性でも倒せるんだけど……」
エミリオとルルシェッタは驚いて固まった。
ヤマトも固まっている。
こんなに強かったのか……精霊ユア?!
「せ、精霊様の御力、初めて見ました。」
様がついて敬語になっていた。
精霊は、デートしてデレさせないと大災害が起きるくらい強いのだ。
元気になる村人2人、光が少し見えてきた。
「あまり期待しないで……地形とか天候とか、空腹具合とか、コンディションとか、相性とかで、ホントに全然違ってくるの。」
それでも、希望にはなった。
一方で、
ヤマトも戦闘力をお披露目。
……普通だった。
今日がプレイ4日目だと知ってたら、中々と言えるけど、ドラゴンと戦うには不足、不安だ。
エミリオの護衛を兼ねてるルルシェッタの方が強そうだ。
「残念だけど、彼は討伐隊から外されると思います。」
ヤマトの戦闘を見ながら、ルルシェッタがユアにそっと告げた。
「ワルパスさんの目当ては精霊様の力の方だと思います。」
「うん……私もそう思う。」
ユアも不安に思っている。
(素直に留守番してくれるかしら……?)
村が見えて来た。
元々は西の王国領、数代前の国王が兵の分散を嫌って、いくつかの町村を切り捨てた。その中の1つだった村。以来、どこの国にも属さずに独立している。
村へ入ろうという時、
ゾクゾクゾク?!?!
……ユアは感じ取ってしまった。
そう離れてはいない場所に眠る、ドラゴンの気配を。
「だめ……私の力じゃ、全然勝てない……」
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