第90話 光は見えるのか
「カレーが食いたい。」
言い出したのはシュガー。
東門の近くに、カレー屋があると言う。
『次は東……』と占い師の言葉を伝えたら思い出したらしい。
「何でも買ってあげるよ。」の新入り、救われたな。カレーならそんなに、
『トッピングカレー』
看板が出ていた。
「お嬢ちゃん、何乗せる?」
「全部。」
「24種類あるよ?」
「全部。」
唐揚げ、コロッケ、ハンバーグ、カツ、エビフライ、ポテト、焼肉、シーフード、肉団子……
福神漬けや半熟玉子、コーン等もあったので、トッピング平均は200円程度。
カレー600円+トッピング5000円……
チィちゃん、完食。
「あははははは」
目が笑っていないキャン君。所持金ギリ足りました。
さて、お次の洗礼。
外へ出た。
最初の魔物と遭遇、
そして、チームナンバー1を諦めたシュガー、
「ドラゴン……」
ハイエナみたいな魔物の群れを、尻尾で蹴散らす食後の運動。
戦闘が終わると、あどけない子供に戻ってルークに抱きついた。
「なるほど……ルークを攻撃したら死ぬな。」
こちらも笑いが引きつっていた。
「今は見せるために戦わせたけど、できるだけ、チィの戦闘は避けたいんだ。」
ルークの新方針。チィは保険、
「自分たちが、強くなる!」
そして迎えた2戦目、
南都がもう小さく見える場所で、
『待っていたぞ、貴様ら。』
おぞましいオーラの堕天魔、ゼルグゼフが現れた。
新方針を掲げたばかりだが、保険を使わざるを得ない。
『おや?戦闘力が上がっているな。』
「仲間が増えたからね。」
セピアが答えたが、ゼルグゼフとは違う意味。
挨拶代わりに放ったセピアの火炎魔法が、自分でも驚くぐらいに大きかった。
その炎を浴びても平然としている堕天魔、
(あの精霊が……宿ったのか?)
冷静に分析している。
精霊の選択で役目を終えた精霊が、力となってセピアのステータスを跳ね上げた?
しかし、問題外。そしてもう1人を観察。
(御体を途中まで覚醒させた影響か、全然別人のようだ……)
ルークを分析している。
『まあ、誤差程度だな。』
計画通りに進める決意。御体の器の回収、他は不要!
チィが変身した。
ドラゴンが飛び立つよりも早く、ゼルグゼフが魔法を放つ!
バリア!
『何?!』
驚くゼルグゼフ、
そして味方も驚いた。
反撃の一番手は、
「うりゃああああ!!」
ビキニアーマーの武闘家シュガー!
その一撃よりも早く、ゼルグゼフの2発目!
構わず突っ込むシュガー、ビキニアーマーが勝手に変形?!
魔法が命中する場所を自動でガードした!
欲しい場所に分厚い装甲ができる、それが彼女のレア特典[呪われたビキニアーマー]!
魔法にも物理にも自動対応。代償の「呪い」は
脱げない!そして、人が多いほど露出が増す!
通常でもビキニアーマーなのに、人混みだともっと過激な紐ビキニサイズとなる。
わざと人の多い場所に連れ出し、彼女の怒りを買った前の保護観察者たち、この戦闘力を手放したのは、勿体ない!
『ふん。』
しかし、相手が悪かった。
飛べるだけでも不利だが、準魔王級はそれ以上のハンデだった。
ガードしてても弾き飛ばされたシュガー。
ゼルグゼフの魔法連弾。
バリアが……もう持たない……
チームが……個人が……パワーアップしてても及ばない。
チィが炎を吐いた。
いつもより、さらに赤々と燃える真っ赤な炎!
パワーアップはまだあった?!
『何だと?!』
下がるゼルグゼフ。
炎がもう一撃!これも強烈!
防ぎきれないゼルグゼフ!
チィの3撃目!
??
普通の炎?色もオレンジ、どうなっている?
「カレーの影響?!」
いや、違う!
真っ赤が2回……
「まさか、キャンディー?!」
怪しい占い師、真っ赤なキャンディーまで怪しかった?!
……そうなると、占いの言葉が気になる!
『次は東……ここで、とてつもない困難に遭遇』
合っている!今まさにそうだ!
『耐えましょう。』
耐えている、だが、限界に近い!
『耐え抜けば、きっと光が見えます。』
光?!光はどこだ?!
光は見えるのか?!
……
矢だ。
矢が一本、飛んで来た。
簡単に掴んたゼルグゼフ。
……でも、どこから?
気配はない。遠くに南都が見えるだけ。
矢だ。
矢だ。矢だ。
矢矢矢矢矢矢矢っ?!
大量の矢、そして、大量の光の玉、それらが、なんと、南都から、大群で、流星群のように、ゼルグゼフ目掛けて飛んで来た?!
「簡単ですよ!じゃんじゃん撃って下さい!」
南都の城壁の前、怪しい占い師が叫んでいる。
普通の弓矢?普通の杖?量産品にしか見えない武器が、山のように積まれている。
それらを手に取るプレイヤーたち。
次々矢を放つ。魔法を撃つ。
到底届きそうにない距離を、武器適性が低いプレイヤーが撃っても、キレイに真っ直ぐ飛んでいく。連なって大きな光の群れを成す。
「攻撃を受ける心配なしで、経験値とゴールドたんまりですよ!」
城壁の上は最初に埋まった。
だから城外で追加募集。
参加プレイヤーが後を絶たない。
『ザコがどれだけ揃おうと!!』
光の防壁で受けようとするゼルグゼフ。
防げ、防げ、防、防、防、防げない?!
空中で爆発が起こり、ダメージを受けたゼルグゼフが撤退をして行った。
何が起きたのかは把握出来なかったが、
光は見えた。
そして南都では、
「おーっ!2000ゴールド!」
「経験値も来たーっ!」
約10分で2万円。待ち時間合わせても、30分で2万円、移動時間を合わせても、1時間で2万円、時給2万円と経験値。
おいしいイベントに満足するプレイヤー達。
だが、一部では、
「あの誤報のお詫びかな?」
「だとしたら少なくねえ?」
声が上がっていた。
大誤報の補填などではない。
……そうだとしたら、確かに少な過ぎる。
「もうこれ以上は手伝えないけど、頑張ってね、チィちゃん。」
怪しい占い師が呟いた。
……
この[世界]の制作者の、婚約者の話をする。
「キャラクター考えてみない?」
制作者に言われて、彼女は案を出した。
ダメ出し連発のあとに初めて採用されたのが、ドラゴンの少女、愛着が生まれた。
そして彼女、
この大イベントの後、兄たちに怒られた。
深入りは2度とやるなと叱られた。
そして、もう一言、
「面白い企画だったよ。」褒められた。
砂漠の真ん中に、何故か博物館がある。
北の帝国と西の王国の間の砂漠。その中間点、街道から西へ行った場所、何故か博物館がある。
両国の出資で造られた旅人用の休憩場所。
しっかりと結界を張るのだから、どうせなら何か造っちゃおうとできた博物館。
『次は南西……』言う通り来たらあった。
見学は有料、1人約1000円。子供は無料。高校生は無料の美術館も都内には多いのだが、ここでは有料。ただし、ゆっくり休める。
中に入った。ほぼ貸し切り。いや、まさに貸し切り、誰も客がいない。
客はもう一組いるのだが、広い館内、全然見当たらない。
企画展示があった。
まさにタイムリー、勇者の像のレプリカが飾られている。
あれ?
この人?!
ミラクルマン?!
あの時に助けて貰った人達とそっくりだ!間違いない!
こうなると、勇者の情報やら足跡やら、企画展示を見なくては!
チィは手持ち無沙汰になり、一人で館内の探検を始めた。安全なのに人がいない。堂々と一人歩きできて不安もない。
剣の展示、試し斬りコーナー、展示自体に興味なし、奥が続いているかに興味あり。
話し声だ。
人混みは嫌いだが、絵本を読んでから、好奇心は旺盛。遠くから見る。2人連れ。1人が何かを持ち上げようとしている。
それが剣とは解らないチィ。他の人でも解るかどうか。何てったって、初登場時の大豪院○鬼が持つサイズの剣だ。
「これは無理だ。ビクともしねえ」
二人組が諦めた後、チィがゆっくり近づいた。台に乗せられ横たわっている大きな剣。
他人の真似はしたくなる。
触る、?、押す、?、思いっきり、押す!
「カーーーン!!」
かなり広範囲に響いた。
何だろう?ルークたちが思っていると、
「お嬢ちゃん?!大丈夫かね?!」
声が聞こえた。
何だろう?とは思わない。急いで向かった。心配だった。
大柱が倒れている?!近くにチィがいる?!
「大丈夫か?!チィ?!」
「お洋服……」
服の一部が大柱に踏まれて取れないようだ。
「今、専用の機材を準備しています。台座から落ちることなんて無いはずなのに……」
館長らしき中年が、慌てている。
「魔王の剣?」
展示の紹介文を読む。大柱ではなく剣?
「持ち上げて、鞘に納めた方に差し上げます、だと。」
大きな鞘も隣に飾られている。
「持ち上げようとしたの?チィちゃん?」
「まさかぁ」
館長が笑っている。
「そのへんの大型悪魔だって、無理ですよ。」
「トカゲが剣を触ってたの。」
「トカゲ?この砂漠にはトカゲはいません。」
子供のたわ言と思っている。その子供が動かしたなどとは思いもしない。
(あれ?)
ルークが誘われるように近寄り、大きな剣に触れた、すると?!
剣が縮む?!
どんどん縮む?!
一般的な大きさに、そして手に取れた。
「な、ま、ま、まぁ??!!」
さっきは「まさか」と言えた館長。
「鞘に、入るんじゃねえ?」
納めたら貰えると書いてある。
入った。そして、鞘も縮んで一般サイズに。
館長大慌て、&、パニック!
「いや、これは、当館の目玉、その、あれ、いやダメ、……お待ちをーーー!!」
と、奥へ消えた。
……少しして、冷静になって戻ってきた。
「その剣は約束通り、差し上げます。
これから西の王国の方がお迎えに来ます、
ぜひ馬車の旅をどうぞ。」
接客スマイル。スポンサー?の王国に連絡を取ったのだろう。
断った。
思惑や裏があるかはどうでもいい。
旅はもういい。冒険をするんだ。
今度はチィが見学者、僕が敵を倒す!
倒して強くなる!
チィを守れるくらい強くなる!!
『クハハハハハハハ!』
かなりのダメージを負い、まだ回復中のゼルグゼフ。しかし上機嫌だ。
『魔王剣を取ったか!もう急ぐ必要はない。
覚醒されておられるのだ。
魔王様の意思が器を導いているのだ。
あとは力を貯めるだけ。
ガイナルドよ、魔王様を守るがよい。
すでに世界には、神器も勇者もない。
あとは、完全覚醒を待つだけだ。』
[第三章? 完]
そして [章分け 完]
(これからは、さらに細かく平行します)
[ m(_ _)m ]
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