第89話 怪しい占い師
南都の街が勝利で沸き立つ中、
ルークが退院、再び冒険が始まる。
建物を出ると、正面に「いかにも」な占い師がいた。紫のローブ、フードで顔が隠れ、口元しか見えていない。水晶を乗せたテーブルを前に置いて客を、
……いや、我々を手招きして呼んでいる。
いかにも怪しい。
しかし、チィが寄っていってしまった。
「初めまして、」
挨拶された、声が若い。若い女性の占い師だ。
「初めましてじゃないよ。」
チィが答えた。
(絵本で見たのかな?)
何にしろ、チィが会話している、少し安心。
「まあ、嬉しい。」
占い師、チィに棒つきキャンディーを渡す。
用意されてた椅子に座って、嬉しそうに真っ赤なキャンディーをなめるチィ。
椅子は丁度4つあった。我々も座った。
「改めまして、怪しい占い師です。」
自分で怪しいって言ったよ、この人!
「私を信じなさい。言う通り進めば、全滅は回避できます。」
そして、いきなり深刻なことを言い出した。
「全滅?!」
ついこの前、ギリギリ回避できたばかりだ。
ついでに言うと、南都防衛もかなりヤバかった。つまりは2度回避したばかりだ。
「まずは下です。」
下を指差す怪しい占い師。
「次は東……ここで、とてつもない困難に遭遇。
耐えましょう。耐え抜けば、きっと光が見えます。」
とてつもない困難?!……光?!
「次は南西へ……建物……武器が見えます。
……そのあとは、」
チィがキャンディーをなめ終わった。
「もう1個食べる?」
「うん。」
チィに真っ赤なキャンディーを手渡したあと、
「……以上です。頑張って下さい。」
(ええっ?!そのあとは??!)
あとは何を言っても、
「0円の占いですから。」
と、スマイル(0円)で手を振られるだけ。
占い師と別れた。
「具体的なヒントが欲しかったな。」
「当たってるのかしら?」
「0円だって自分で言ってたからな……」
0円か……0円?……0円?!
慌てて振り向いたが、もう占い師の姿は無い。
「どうした?」
「円……って言った。」
「0円のこと?」
「?! まさか?!」
NPCは円とは言わない。彼女はプレイヤーだ。
……
余計に怪しくなったが、信憑性は増した?
チィがまた、走り出した。
「お家?」
地下へ続く階段をチィが見つけた。
入院中に読んだ絵本に、地下に住む動物家族の本があった。それとダブらせているのだろう。
「まずは下だ!」
占い師の言葉を思い出す。
階段を降りた。螺旋状の階段。
……地下牢に出た。
「ここは王女様の命により、冒険者だけ入ることが許されている。」
入口の番兵に言われた。
ただ、チィもすんなり入れた。子供だから?NPCでも一緒なら冒険者扱い?冒険者が1人でもいればOK?……そのどれかだろう。
「保護観察には、最低1名責任者をつけ、パーティで補充は2名までだ。」
知らないで来たが、仲間補充の場所らしい。
「寛大な王女様に感謝するように。」
その王女が、まさかプレイヤーだとは知る由もない。
奥に入って行く。
狭い檻に大勢が入れられている。
普段は違うが、保護観察希望者が来ると、急遽こうなる。
殺人などの、凶悪犯は入っていない。
俺を、私を、と、前に出てくる囚人たち。
「本当に犯罪者を仲間にする気か?」
シュロスは迷っている。当然だ。来る予定の無かった場所、する予定の無かったこと、占い師に言われてなければ、もう帰っていただろう。
「チィちゃんは、誰がいい?」
セピアは冴えている。そうだ。チィなら人を見極められる。
チィは、自分の万能袋から、退院時に貰った絵本を取り出した。
「ご本、読んで。」
これがチィの答え。つまりは合格者無し。
「もうちょっと待ってね。後で読んであげるね」
チィはうなずくと、檻から離れてしまった。
諦めようかとも思ったが、保護観察にはメリットが2つあった。
囚人には首輪が付けられ、反抗的だと通報される。(保護観察者が契約解除と思った時点で自動送信。パーティに何かあっても自動送信。)簡単に捕まって戻されるので、従順になる。さらに罪を犯すと重犯罪者に成りかねないのだ。
もう1つは単純、戦闘経験が多い。新人をスカウトするより役に立つ。
「戦力強化はしたいよな……」
つぶやいた一言で、俺は、私は、の、アピール合戦が始まった。
「ほら、大人しくしろ!」
檻の中の連中への言葉では無かったが、条件反射なのか、一斉に黙った。
刑務官2人に両脇を抱えられて、若い女が入って来た。この女性に向けた言葉だった。
初めて見た、ビキニアーマー!
実在したのか、ビキニアーマー!
両手足はしっかりと、肩までと膝上までは鎧のように鋼鉄に護られているが、胴体はビキニの部分しか覆われていないという、伝説の装備。
(胸の谷間がモロだな……チィの教育上良くないかも。)
パパ目線になっているルーク。
「よし、彼女にしよう!」
男目線のシュロス。
「あいつはやめとけ!」
「さっき出てったばかりだぜ!」
つまりは出戻り?しかも速攻帰還?
「今度は何人だ?!」
囚人たちが冷やかす。
フン!とそっぽを向くビキニアーマー。ガサツそうだが、結構かわいい。
「4人を瞬殺だってよ。」
刑務官が面白がって答えた。瞬殺とは倒したという意味。殺していたら、ここには戻れない。
「正当防衛だよ!痴漢は死ねって、四朗も雅人も言ってるだろ!」
それを言うのなら、言っているのは幸太郎?
叫んだあと彼女は、見える所にある、一人用の檻へと連れて行かれた。
「よし、彼女にしよう!」
セピアの言葉で、シュロスがひきつる。
チィも待たせている。そろそろ決めたい。
「準魔王級と戦う予定なんだが、それでも行けるって人はいるかな?」
一瞬で静まり返る。
準魔王級……堕天魔ゼルグゼフ。奴との戦いはきっとまたある。
「バ……」
後ろの方で、手を上げた者がいた。
見た目はヤサ男、目立ないタイプ。
「バ、バリアが使える……」
これは?!
……使えるかも知れない。
一方のビキニアーマー。
名前はシュガー。苗字の佐藤でシュガー。
尾藤で微糖とかけてビターなら合ってた。友達に良く言われる。
でも、小学校からのあだ名がシュガー。
ウエディング・ベルがいつになるやら……などと母親に言われてしまう、シュガー。
実は、暗所恐怖症で閉所恐怖症。
「暗いよ~せまいよ〜こわいよ〜」と泣き出すほどでは無いのだが、暗所と閉所が大嫌い。
だから、男だらけのパーティでも断らない。そして痴漢も大嫌い。
この[世界]では、正当防衛的な過剰防衛の罪が軽い。回復魔法があるせいだろう。隔離して、反省したら、また元通り。そしてまた、仲間に指名されて、セクハラされて、殴って戻ってくる。
檻に入れられ、鍵を掛けられた。一面だけ壁がある。そこを背もたれにして座る。脚を伸ばし、目を閉じる。こうしてると、少し落ち着ける。周りの音も気にならない。さっき金属音がしたが、気にしない。音がある方が、暗所であることも閉所であることも忘れられる。
「どん!」
どん?!
目を開けた。
何故か少女が自分の膝上にいた。
「ご本、読んで。」
誰だ?……どうやって?!
見回すと、横の鉄格子の一部がひん曲がっていた。ここから入ったのか?!
「おい、看守!」
刑務官を呼んだ。正直、子供は苦手だ。
鉄格子が壊れていると伝えると、すぐに修理を始めた。いや、子供を何とかするのが先だろ!
「……の……に……いて……です」
絵本を読み始める少女。
平仮名を読めるようになったばかりなのか、たどたどしい。
辿々しいと書くと読めない人も多いだろう。私も読めない。だから平仮名、たどたどしい。
「……が……を……ると、」
内容が解っているのか?
ちゃんと読めているのか?
ええーい?!くそ?!
「子狐が、蓋を取ると、」
「おおーーっ!」
少女に褒められた。嬉しくないけど。
てか、何で絵本が漢字だらけなんだ?
てか、漢字に小さくフリガナ付いてるじゃん!
「ここは?」
先を指差す少女。次を読ませる作戦?その手には……まあ暇だ、乗ってやろう。
読み始めたら、静かに聞いている。こういう大人しい子供なら、別に嫌いでは、
「チィちゃーん!」
「はーい!」
女性の呼ぶ声で、女の子は去って行った。
……
てか、直ってないじゃん!鉄格子!
女の子の力で、簡単に壊れたぞ!
呼ばれてルークたちの元へ戻ったチィ。
「あの人、どうかな?」
バリア使いのヤサ男を指差すセピア。
今度の基準は、嫌悪感を示さなければ合格。もうほぼ、間違いないだろう。
「何でも買ってあげるよ。」
(あっ!)
出たかったのか、ヤサ男。禁句を口にしてしまった。
「何でも?」
チィが反応した。
「うん、何でも。」
笑って話しかけるヤサ男。笑えるのは今のうちだと、セピアもシュロスも思っている。
「……ある意味、合格だな。」
シュロスの言葉で追加メンバー確定。
名前は[キャンベラ]。苗字の海江田を文字ってキャンベラ……は、少し無理がある。
中学の地理の時間、受け持ちはクラス担任の先生。オーストラリアの首都は、シドニーでもメルボルンでも無いという話で、2都市の争いを避けるために生まれた首都キャンベラ。
教壇から生徒の席はよく見える。並んでいる顔を見てるうちに、よせばいいのに担任教師、美男美女のクラス委員に挟まれている、海江田くんのようだと例えてしまった。
先生からしてみたら、勉強1位が海江田くん。2位と3位がクラス委員。妥当な例えと思ったろうが、クラスメイトには、美男美女に挟まれた地味な奴……あだ名キャンベラが定着した。
彼がその名を捨てない理由、
先住民の言葉で「出会いの場所」「人々が集う場所」という素敵な意味を持つからと、
「キャンでいいかな?」
「よろしく、キャン君!」
キャン……スペルは違うけど、みんな「CAN」と呼ぶ。可能性を秘めた名だから!
……
「それと、」
刑務官に追加注文するセピア。
「彼女もお願い。」
一人離れた、ビキニアーマーを指名した。
セピアはしっかり見ていた。
ママはしっかり子供を見ている。
チィから寄って行った。絵本を読んでもらっていた。それだけで、もう合格。
指名が多いのだから、戦闘も期待できるかも。
地上への階段を昇りつつ、
「セクハラしないと思うけど、彼は絶対攻撃しちゃだめよ……下手すりゃ死ぬわよ。」
前を登るルークを指差すセピア。
(……そんなに強いのか?あいつ?!)
正直、戦闘力には自信あるシュガー。もう、このチームのナンバー1のつもりでいた。
視線をルークにロック・オン。
「今のは『私の男に手を出すな』って意味だ。」
後ろからシュロスが余計な一言。
(あー、なるほど!)
そういえば、子供が「パパ」「ママ」と呼んでいたのを思い出す。
「違うわよ!」
セピアが否定、さらに反撃。
「セクハラしそうな方には、好きなだけ攻撃していいわ。」
「承知した。」
何だかんだで和気あいあい。
その後ろ、最後尾、
溶け込めるか不安のキャンベラ。正直、バリアしか自信がない。
空気は読めそうだが、自信がない。
スキルフェスで、空気を読めない女性に勝ってはいるのだが、自信がない。
でも、囚人と一緒はもう嫌だった。
普通の仲間が欲しかった。
このパーティが、普通かどうかは、まだ解っていないようだが。
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