第105話 探し物道中

 千里眼とでも言うのであろうか。

 人間界、魔物界、亜人界、何が起きているかは解らないが、一度見た物がその後どうなったか、これからどうなるのか、物探しに適した能力を持った賢者を、ブランシェが知っていると言う。

 昔、兄に連れられて会ったという。

 かつて大魔王に仕え、多くを見てきた者。左眼で過去を知り、右眼で今を知る、そんな魔物と知り合いだと言う。

 山奥に棲むらしい。山奥のやや手前に棲むらしい。このやや手前がありがたかった。

 馬車で進める所まで来たが、そこからは徒歩。この徒歩もありがたかった。

「もうへばっているの?」

「だらしないわねえ。」

 主人2人に下僕2人が叱られる。

(俺たち、走って馬車を追いかけてたんですけど!)言ってやりたい。言えるなら言ってやりたい。言葉でも行動でも、主人に逆らえない。

 やっと徒歩で助かった。山奥のやや手前で助かった。グルメ案内しか役に立たない女子4人も付いて来ている。彼女たちは馬車組。

「山道は面倒だわ。」

 フラフラのシローの肩に飛び乗るノワール。

 迷惑そうなシロー。

「私も。」

 と、ブランシェも言い出したが、

「では、私めが。」

 と左肩に軽々と乗せた筋肉執事。

「ありがとう、セバスチャン。」

「お役に立てて、光栄です。」

 助かった俺。

「ノワール様もあっちへ乗られては?右側空いてますよ。セバスチャンさんの方が安定してますし……」

 ノワールが飛び降りた。

 あっ、と思った俺。

 確かに2人くらい軽々と担げそうな大男だが、ノワールが飛び降りた理由は、

「俺の名は、ロックハンドだ!!」

 フラフラなのに強烈な一撃を食らうシロー。

 ……禁句を伝えるのを忘れてた。

 フラフラからボロボロになり、ノワールは執事の右肩に乗ることになった。結果オーライ……と言えるか疑問だが、ほっときゃ治る俺たち、労りもせず、進み出す執事と令嬢たち。

 ぶっちゃけ、通常状態なら、この執事が圧倒的に強い。主の窮地、主のやる気で、俺たち下僕はスイッチが入る。

 以前ブランシェと一緒に来たのだろう。案内もなく進む執事。後を付いて行く俺たちと女性陣。

 NPC3名が先行し、プレイヤー6人がついて行く。女性陣はみな健脚だ。あ、違うか?俺たちが疲れているだけかな?

 人が余り来ないような、山奥へと向かう。

 人が来ない山奥なのだが、野原のような場所を進んでいる。時々藪を抜け、時々野原を通る。これを繰り返して進んでいる。

 通れるが、道として繋がってはいない。だから人が来ない。目的が無ければ、来ない場所だ。

「どんな魔物なんですか?」

 恐る恐る進むサリーが訊く。

「何でも飲み込む大口の魔物と聞いているわ。」

 知り合いなのに、聞いている?

「声はするが、姿は見せない。『姿を見たら食ってしまうぞ!』と、脅してきます。」

 執事が補足、彼も正体は知らないようだ。

 前を歩くカスミたちの足が鈍る。ヤバい魔物なのではという不安を感じたようだ。

「頼りにしてます、」

 後ろを振り向いて、ヘロヘロの俺たちを見た。

 ……

 前を向き直る。

「……ね、ロックハンドさん。」

 まあそうなるか……

 一応一緒に行動はしているが、一定の距離感が

ずっとある。まあ、俺が彼女たち側でもそうなると思う。でも……憐れみの目はヤメて!

 剣士のカスミン、魔法使いのサリー、テイマーのターニャン、シスターのナナチィ。

 カスミン以外は、間に「の」を入れないと読みづらいし、使いづらい。

 彼女らが強いかどうかは解らない。

 魔物が出ると、

 前方に出た!

 剣で倒す俺たち、主人の危機と感じると、体が勝手に反応する。彼女たちの出番はない。

 大きな岩があった。

「ここですね。」

 執事が令嬢2人を肩から下ろした。

 入口が見当たらない、大きな岩?

 無いはずの入口が、突然現れた!

 暗い洞窟が奥へと続いている。

 先頭で入り、手のひらに火球を出す執事。その明かりで進んで行く。本当に有能な執事だ。

 すぐに広い場所に出た。明かりもある。

 広いと言っても、学校の教室程度。そして何も置いてない。土の壁と、ロウソクの火しか見当たらない。

 正面の土壁に、彫物か飾りか、翼を広げた鷲のマークが大きく目立つ。製薬会社ではなく、秘密結社の方を連想して頂きたい。

『久しいな、冥界の令嬢よ。』

 鷲のマークから声がした。両目が赤く点滅している。是非とも納谷悟朗さんに当てて戴きたかった声で喋りだす。

『厳しい立場にいるようだな。まあ安心しろ、個人、組織の情報は他には売らぬ。ワシは中立だ。怒らせない限りは中立だ。』

 渋い声が響きわたる。

『人間をたくさん連れて来たな。それはワシへの貢ぎ物か?』

 怖がり出す女性陣。

『硬い方なら、ガブりとかじっても良いわよ。』

 怖がるのは俺達だったかと思う男性陣。

『ワシはグルメなんでな、ヤメておこう。』

 良かったです、グルメで。

 ……でも不思議と、恐怖を感じない。主の感情に影響される(主が怖がっていない)のか、もっと凄い恐怖(痛み)を体験しているからか、実はもっと怖い方と一緒にいるからなのか、恐怖を感じない。

『では質問を受ける条件として、1人ずつ、アークデーモンと戦ってもらおう!』

 えっ?!

「……そのジョーク、前に聞いたわ。」

『そうだったか?解った……新しいネタ、考えておく……』

 謎の賢者、実はいいヒトなのかも?

「この2人がポンコツ過ぎるから、強い剣を探しているの。魔剣でも良いわ。」

 ブランシェが切り出す。

 謎の賢者の方が多分優しい、そんな気がする。

『うむ……観てみよう……』

 本体は見えないが、千里眼スキルか何かを使っている。その時間だろう。少し待った。

『茨の剣……もう誰か迫っている。大陸の西側だ。全力で走り続けても間に合うまい……』

「よし、全力で行って来なさい!」

 いや、無理ですって?!間に合わないって言いましたよ?。

『魔王の剣……これも主が決まってしまったな。

どうにもならんか……』

「よし、奪って来なさい!!」

 だから、無理ですって?!

『おお、入手困難だが残っている剣がある!』

「よし、それにしましょう!!」

 もうちょっと説明聞きましょう、主様!

 ……こうして、その剣を取りに行く事に決まった。


 二手に分かれている。

 一方は湖、もう一方は……別の湖。

 ゴーレムの俺たちは別々、

「役立たずの方に、アシストが多くいた方がいいわ。」

 ブランシェの鶴の一声で、シローは単独、俺の方は……残り全員。

 あれ?

 俺の方が戦闘に勝ったのに、俺の方が役立たずなの?全員のアシストって、相当役立たずなの?

 俺たちがいるのは[悲劇の湖]とも呼ばれる、東海岸に近い、東の連合国家内にある湖。

 シローが向かったのは、東と西の間の中立地帯にある湖。付近の村では「水神様の湖」なんて呼んでたりする湖。

「向こうも到着したわ。」

 こちらにいるノワールが教える。主とゴーレムは、離れていてもテレパシーで連絡を取れる。だからノワールはこっちにいる。

 一方の俺は、海パン一枚で湖畔に立ち、ブランシェから、左右の肩に怪しい模様を付けられた。

「緑がGO!赤がSTOPよ!」

 小学生でも解るような指導を受ける。

「左肩の緑模様の爆発が合図、右手一本で剣を抜く。大丈夫よ、ギリギリ左手は残る程度の爆発だから。」

 小学生に絶対させては行けない指導を受ける。

「右肩の赤模様は中止の合図、何かあったら貴方が押すの。」

 そして、彼女が右手に持っていた石、赤いマークの入った小さな石をその辺に転がすと、

「そうしたら、あの石が小さく爆発して、こっちに解るから。」

 内容は理解した。

「解ったわね?」

 ブランシェに念を押される。

 俺の肩の爆発が大きい必要があるのだろうか?

 そこ以外は理解した。

「あの辺だからね!」

 道具屋で買った安い地図を左手に、指差すブランシェ。湖の上、水しか無い場所を指す。

 深そうな所、目印は一切ない。賢者の情報を頼りに、湖底に刺さっている剣を探す。つまりは、息の続く限り探せという事だ。

「いいわね、息が切れても探しなさい!」

 ちょっと違ってました……

 悲劇の湖の、新たな悲劇にならないよう努力します。

 別々の湖の底にある2本の剣を、同時に抜かなくては入手できない。

 でも多分これは、まさしくこれは、俺たちにしか出来ないイベントな気がする。

 潜った。結構深い。石が大量に入っているバックパックを背負っているので、楽に潜れる。

 一般的には、沈められたと言うと思うが。

 湖底で探す。剣を見つけた。

 連絡手段の少ない俺が、先に見つけられて安堵する。あとはシローが見つけるのを待つ。

 左肩が爆発!見つけた合図だ!結構痛い!

 シロー発見→ノワールにテレパシー→ブランシェに口頭→緑模様爆破発動……で、連絡が来た。

 右手一本で抜く。情報通りなら、同時に行えば簡単に抜ける!

 ……抜ける!……抜けると聞いた!……あれ?

 抜けろ!息が?!抜け、苦し、何で?!

 右肩の赤を押し、上に上がった。

 多分、シローも知らせを受け、溺れる前に上がれただろう。

「見つからなかったの??」

 ミイラみたいな物に刺さってて、全然抜けなかったと報告。

「役立たずね。」

 怒られつつ、再び赤と緑の模様を両肩に入れられている。模様の完成までは休めそうだ。

「あのー……」

 普段もそんなに喋らないターニャンが手を挙げる。

「地図の上下が、逆なのでは……?」

 恐る恐る伝えるターニャン。

 ブランシェが地図を再確認、俺も覗いた。

 俺たちは北の方から来て、現在、南を向いている。北が上の地図を、文字の向きのまま見ているブランシェ……地図が読めない女だったか……

「なんて悪質な道具屋なの!上下逆の地図を売るなんて!」

 ……そう来ましたか。

「まったくだわ!」

 と同調するノワール。

 ……貴方もですか……まあそうだよね。一緒に地図を確認してたもんね。

 道具屋に殴り込みに行ったりしない限りは、余計な事は言わないでおこう。

 そして、仕切り直し、別の場所を捜索し、

 無事、レア剣を2本ゲットした。


[寿命転剣]、使うたびに寿命を奪う、ゆえに強き魔剣、アンデッドなら寿命に影響なし。

[余命反剣]、余命が無いほど強化される魔剣、余命ゼロが最高威力を出せる。


 ……やっぱり俺たち用のイベントだった。

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