第49話 僕じゃない!
前回、下手なシャレで締めたからか、問題が起きてしまった。
場所は……元々は廃墟だった街。
昔は人が暮らしていた。城もある。闘技場まである。西の王国の、最西端の防衛拠点だった。
周囲が荒野、水源も乏しい。自給自足のできない人口過密都市。防衛拠点にはなるが、付近に町村もなく、ここだけに軍隊を常駐させなくてはならない。
真実の王より数代前の国王が、都市ごと捨てる決断をした。
以来、ずっと廃墟だったが、神を語る不届き者が、この地に目を付け再興させた。
[ゴッドキングダム]偉そうな名前の独立国が誕生した。
「手配犯の保護」をアピールしたことで、やらかしたプレイヤー等が移住、人口が増えた。
監視員のチート力を使い、金も食料も無限に出せる。自分を神と崇める者たちで周りを固め、反抗する者は徹底的に痛めつけた。
殺せない機能と攻撃が効かない機能の悪用。
徹底的、徹底的、徹底的の暴力を続けても、相手は死なない。制作者は監視員がそこまでやると思ってないので、暴力の制限機能はついてない。
独裁者の王国。そこに、
どこにも行き場を無くした、クロノたちも流れてきた。
高慢高飛車同士が衝突!
……戦いにもならなかった。
攻撃が効かないうえに、悪魔の剣が無反応。
監視員がイベントに関われないように、NPCも監視員には関われない。
体もプライドもズタズタにされたまま、クロノは幽閉された。
「土下座して服従を誓えば、出してやる。」
クロノは最後まで屈服しなかった。
独房で、心がどんどん病んでいく。憎悪が膨れ上がっていく。ゴドーの力で作られた監獄、悪魔の剣は眠ったまま。
他のメンバーはと言うと、
呪いのノス、クロノの敗北で即、降伏。
人狼族キバ、仲間の安全と引き換えに降伏。脱走者を捕らえる脚と戦闘力を買われる。
怪力クラッシュ、バルハラを人質に取られ一旦降伏するが、すぐ断って投獄。
魔導師バルハラ、人質となるのを嫌って、持っていた[石化の薬]で自ら石になる。意識はあり自分の意志で石化を解けるが、キングダム崩壊まで石でいる決意をする。
クロノは間に合わなかったが、クラッシュとバルハラが暴行のない幽閉で済んだのは、キバが汚れ役をやったから。仲間の為に、何人ものプレイヤーの脱走を阻止し、嫌われていった。
そのキバが、実はプレイヤーを逃がしている?
そんな噂を問いただす、いや、粛清の為に闘技場へ呼んだ所に、アイが現れた。
……
そしてその後、
ゴドーの封印と入れ替わるように、
悪魔の剣が、目を覚ました。
『お、おい!何だこれは?!』
驚く悪魔の剣。眠っていた時の記憶はない。
すでに、病んだクロノの憎悪が、悪魔の制御の許容を超えている!
悪魔の剣がなりたいのは、魔王級の力を持つ悪魔王。じっくりと調節して育て、クロノの死で完全覚醒を遂げる予定。
しかしもうこのままでは、暴走による不完全覚醒、準魔王級の暴走破壊悪魔になってしまう。
『抑えろ!旦那!抑えてくれ!』
悪魔の剣は、持っているだけで心の闇が進む。
クロノの変身が始まった。
今まで悪魔が仕切っていた変身が、許可なく勝手に進んでいく。
独房の結界もゴドーが居て作用するもの、すでに効果はない。膨らむ体が、結界の無くなった独房の壁を破壊する。
まだまだ大きくなる。
『やめろ!旦那!……止まれ!小僧!!』
暴走、そして巨大化は止まらない。
『この……クソガキぃぃぃぃ!!!』
それが断末魔だったかのように、
悪魔の剣が、変貌を続けるクロノに吸収されてしまった。
地上。
牢獄の建物をぶち破って、
黒い巨大悪魔が出現した。
ゴドー亡き後、街をどうするか、プレイヤーの代表が話し合おうと集まっていた。
街にも活気、支配から自由へ変わろうとしていた矢先、
巨大悪魔でパニックになった。
せっかく再興された街が、また廃墟となってしまうのか?
暴れ放題の悪魔。破壊衝動で動いている。
準魔王級?
誰が相手を出来るんだ?!
一人現れた!
俊敏な動きで悪魔を撹乱する人狼族。人々の逃げる時間を稼いでいるようにも見える。
「旦那!旦那だろ!気を鎮めてくれ!悪魔に飲まれちまったのか?!」
悪魔を飲んじまったことを知らない。
撹乱して走り回っているが、いずれ捕まる。幸いにして、攻撃スキルが無い。力で破壊と殺戮をするだけに見える。魔法攻撃があったらすでにやられていただろう。
もう一人、現れた。
見知らぬ武闘家。結構ガタイがいい。電撃を放つ拳の装備で攻撃している。フットワークも悪くない。多分、いや、ここに居たのだからプレイヤーだ。
キバと目が合い、アイコンタクト。
前後で挟み、常に一方が死角になるように動き回った。
稼げる時間は増えそうだが、まだ足りない。ダメージを与えたい。
クラッシュが来た。自力で独房を破って、地上の惨状を知った。真っ先に石化したバルハラを探し、合流できた。
「お嬢は逃げろ!」
すぐ別れて駆けつけた。
その後ろから、やはりバルハラが現れた。
一人いないが、パーティでリーダーと戦う図となった。来ない男より頼もしい武闘家つきで。
その後は、誰も来ない。
クラッシュのパワーも、バルハラの魔法も、有効打にはなっていない。
ダメージを与えても、すぐに回復してしまう。
「パーティで心中か?こりゃ?」
「……だな」
悪魔の剣が消えたからか、体から悪意が抜けている気分。今までの愚行を償いたい気分でいる。
「あんたはもういいよ。これは内輪の問題だ。」
電撃使いの武闘家に手を振った。
が、武闘家は去ろうとしない。
「お嬢も、もう行ってくれ!」
クラッシュが頼むが、彼女も去ろうとしない。
誰も来ないが、逃げる時間は取れただろう。
「最後に言っておく!結構楽しかったぜ!」
「俺もだ!」
「私も!」
『オレもだ!』
?!
クロノの声?!意識があるのか?!
しかし、攻撃は別のようだ。
容赦ない攻撃が連続で襲いかかる。
バルハラが捕まった。
握り潰されそうになった時、
「ピィィィィィ!」
悪魔の手首にミサイルハヤブサが刺さった!
直後、
縦回転しながら飛んできたアイが、バルハラを掴む悪魔の右手を斬り落とした!
『アイ……貴様!!』
「まさか、お前クロノなのか?!」
右手が再生を始め、すぐに止まった。
再生できない?!
[聖水晶]をはめたXブレードの[聖騎士]。天敵中の天敵だ。
左手で攻撃するも、その左手も斬り落とされた。
『旦那!ダメだ!相性が悪すぎる!』悪魔の剣が健在だったなら、きっと言っただろう。
(クソっ!ここは一旦逃げるか!)
黒い大きな翼を広げた。
(逃げる?……俺が?……こんな奴に??)
翼を閉じてしまった。絶対に負けたくない相手だった……それが……彼の敗因となった。
「君に会えて良かったと思っている。」
『何だそりゃ?挑発か?』
ムッときたが、話を聞く。
「現実で募金箱に万札を入れる者はまずいない。
でも、この[世界]ならそれができる。
君に会って気付かされた。僕は幼稚だ。
僕は正義の味方になりたいんじゃない、
正義の味方ごっこがしたいんだ!!」
『何だそりゃ?』
腹が立った。そして解った。コイツと俺は似ているのだと。
「憧れのヒーローならそんな事はしない、
だから僕もしない。
そういう[世界]を僕は望んだ。
お前の望んだ[世界]はそれか?!」
『やかましい!!』
拳のない両腕で攻撃!
また斬り落とされ、さらに腕が短くなった。
痛みはない。もう感じていない。
心の痛み以外のものは……
「東の王国の新たな英雄を知っているか?
氷の洞窟の魔獣を倒し、
王都で魔神を倒した英雄。」
『何だそりゃ?自慢話か??』
「それは僕じゃない!リューゼクさんだ!!」
攻撃!そして更に腕が短くなる。
「君を倒したら、僕が英雄視されるだろう。
でも僕じゃない!
英雄は、
さっきまで君を止めていた4人だ!!」
(何だそりゃ?)
言おうとしたが、言えなかった。
「……それが、僕の[世界]だ!!」
トドメの一撃をくらった。
もう先に、心には、受けていたが……
ダダーーーーン!!
大地に仰向けに倒れた。
アイが顔の側まで近寄る。
黒い煙が体から上がり始める。
まもなく消える……
「生まれ変わったら、考えてくれ。」
そこで、視界も聴覚も無くなった。
……
……
生まれ変わったら考えてくれ?
やなこった!
……生まれ変わったら?
生まれ変わったら、前の記憶なんて無いだろ!
前の記憶を持ったまま、生まれ変われる場所…
……
……
ああ、俺は何てバカだ……
そんな場所に来ていたのに、
……過去の続きを選んでしまった
……
未来を選ぶべきだった……
コイツのように……
……
悔しいけど……コイツの勝ちだ………
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