第50話 すんなり進む
今度こそ、最後の問題児の所へ向かう。
五聖獣の「ごたいめ」と「ごたいめ〜ん」。
m(_ _)m m(_ _)m
……何て思っていたら、
『あやつはいい奴だよ。』
問題児4人が口を揃える。
あれ?
……そして、いざ会うと、
『……では、契約を致そう。』
ホントにすんなり進む。
けれど、ここからが正念場の2人、崖っぷちの2人は必死だ。
五聖獣は残り1、未契約は、勇者候補のアイを除くと2。
[地甲](じこう)。 クジラのように大きな、岩色の、センザンコウに良く似た五聖獣。
センザンコウは、漢字で書くと穿山甲。
目は可愛いが、元々からして巨大化させたら、恐竜?怪獣?十分強そう。
実際に巨大ほぼセンザンコウを見て、モンスターだと再認識した。
その前に、祈るように立つレイとリアリア。
『……わしは面食いでな。』
(よっしゃ~〜っ!!)
(よっしゃ~〜っ!!)
双方、心でガッツポーズ!
……で、選ばれたのは、
「ドンマイ!」
打ちひしがれる妹をからか……慰める姉。
「そうですか〜〜!強さに加えて、見た目でも戦力外ですか〜〜っ!!」
泣きじゃくるレイ。
「生きていれば、死ぬ前に一度くらい、良いことあるわよ。」
ポンと肩を叩き、傷口に塩を塗りまくるシノ。
『さて、いよいよだ。』
『例の場所へ向かうのか。』
『決戦が近いな。』
話を進める五聖獣。
あといくつか、町村を経由すれば目的地。
そのうち街と呼べる規模の場所は、次が最後。そのあとは、小さな村がいくつかあるだけ。
方角はここから東北東。
位置は大陸のほぼ中央、聖教会領からさほど離れてないが、大きな山々が間にあるので、西の王国からの迂回ルートとなった。
最後の街に、早くも到着。
ここは、西の王国の「西端」であり「北端」の街。北の砂漠を越えると、大陸最大の国[帝国]があり、砂漠の途中で東北東に進路を変えると、独立した村が5、6ある。
その最後の街で、
アイが引ったくりに会った。
アイにぶつかり、何も言わずに走り去る子供。
「お金盗られたんじゃない?!」
シノが尋ねた。
プレイヤー同士なら有り得ないが、NPCのイベントとしてなら起こり得る。
「うん」
平然と答えるアイ。シノに見えたのだ。アイに見えないはずがない。
そして、反応できないはずもない。
「いくらくらい?」
「うーん」
確認している。
「2万ゴールドくらいかな」約20万円だ。
シノが追跡モードに移った。目に本気の炎が宿る。
……が、辞めた。
もう少しで、お金なんてどうでも良くなる。
アイも、そう思って……
いや、ちょっと違うな。
子供だから、見逃した。
幼いからではなく、有効利用される確率が高いから……
もうその辺は理解できる付き合いだ。
それも、もう少しだ……
北の砂漠の途中で東北東に移動、小さな村に着いた。
「こんにちわ!冒険者ですか?」
元気な少年が挨拶してきた。
「こんにちわ。」
と返した後で、
「小学6年くらいかな?」
何て雑談していると、
「中1です。」
「あ、そうなんだ。ゴメンね。」
笑って謝ったあと、
……
……
「ええっ?!」
NPCは中1とは言わない。
こんな小さい少年までプレイヤーに選ばれるとは、これにはセインも驚いている。
それから少し雑談。
まだ[世界]に来たばかり、今日で2日目。
この村には、他にプレイヤーは居らず、まだ仲間もいない。
これは連れて行かないと……と思ったが、これから恐らく最も危険な場所へと向かう。とても連れてなど行けない。
村を見ると、戦力になりそうな住人もいない。ただ、簡単な結界発生装置があった。ちょっとした魔物なら防げるし、ちょっとした魔物しか現れないような場所だ。
「気をつけて。無茶と勇気は違うよ。」
アイが言うとちょっと違和感もあるが、それでも様にはなっている。
「はい!」
元気に答える少年。
その時、
「ガチャン」
アイの両腕から、
[義義の腕輪]が外れて落ちた。
みんな驚いたが、
「これを君に託す。」
アイがすんなり少年に渡したのにも驚いた。
「ありがとう!」
少年の笑顔を見て、止める機会を失う。
大事な腕輪、大魔王戦に必要なのでは???
……セインが教えてくれた。
義義の腕輪は、装備者が完全に「義の心」を持った時、外れて次の持ち主を探すのだと。
直感で、あるいは腕輪の意志が、アイに伝わったのかも知れない。
手を振って村を後にする。
「あっ」
少年の名前を聞き忘れた。
少し後ろめたさがあった。彼は来たばかりなのに、世界を終わらせたら、もうプレイ出来なくなる。でも、そうなる事を願っている。
ハッピーエンドを、みんな願っている……
で、すんなり目的地に到着。
正確には、目的地の少し手前で、準魔王級の魔物と遭遇しているのだが、すんなり進める。
『ここだ』
『うむ』
『着いたな』
『来たか』
『……』
五聖獣が実体化して出て来た。
ここは[ゾーン]と呼ばれる場所の一つ。
MP不要で召喚獣が行動できる場所。
様々なパワースポットでもある。
『あやつは元気にしておるかのぅ』
『行ってみればわかるさ』
『何年ぶりだ?』
『んんなもん、忘れたわ』
『……』
その時、
?!
な?!
空が
雨雲が発生するように暗くなり始め、
日食のように、いや、紫色に近い闇が、
辺り一面、
そして大陸全体を包んだ。
『始まったか!』
のちに、[闇の空]と呼ばれる現象。
これは、[大魔王ヴァグディーナ]の完全復活を意味していた。
『我々も急ぐぞ!』
五聖獣が光を放ち、全員どこかへ転移した。
???
ここは?
壁がない。物もほとんどない空間。
薄暗いが、昼間にカーテンを閉め切った程度。
よく見える。何ヶ所か、下から弱い光を放っている場所がある。
そして、目の前には大きな水晶?
大玉転がしのボールくらいの水晶がある。省エネの、ごくごく弱い光を放っている。
男が一人、迎えた。
多分、男。
顔はヤギか羊?体は人。背丈は普通、腕だけは太い。
『錬金術師だ。』
多分室内なので、五聖獣は引っ込んでいる。声だけ聞こえる。
「お前たち、諦める気は無いか?」
錬金術師にいきなり訊かれた。
『そう言うな。せっかく来たのだ。』
「大魔王は強い。お前たちで勝てるのか?」
それは、こちらも訊きたい。
「ここは時の流れが違う。もう一日経っている」
言われて思い出す。
そういえば、さっき現実で眠ったばかりだ。転移で一旦解散(現実で目覚める)。一日が終わって[世界]に戻る(現実で眠る)……があった。
その辺の記憶を曖昧にし、演出効果を高めているようだ……なので、以後は日にち経過は省く。
「お前!」
錬金術師に指差されたのは、レイ。
「今から私の弟子になれ!」
(来た〜〜〜〜!!私の出番来た〜〜〜〜!!)
心で小躍りするレイ。
引き受けてから、思う。
(あれ?私このまま、魔王戦離脱ってことないよね??)
急に不安になる。
「残りはあそこだ。」
次に指したのは、下から光が出ている場所。
「転移の泉だ。行って来い!」
(私、やっぱり置いてきぼり???)
淡く光る床、丸い証明のような床にアイが乗ると、光に包まれて何処かへ転移した。
他の5人も続く。
(ここは?!)
見覚えがある。
後続が到着。
「サンエルノだわ。」
セインが知ってて当たり前、ここで彼女と出会ったのだ。ずっと彼女はここに居たのだ。
「ここって?!」
シノも覚えている。
サンエルノの街の入口の真ん前。ここにある物を、シノが忘れるはずが無い!
「宝箱よ!!」
門の脇、蔦に隠れた場所に、まだあった。
よし!っと、シノがガッツポーズ。
セインが気になったのは別のこと。
聖教会のお膝元、大聖堂へと繋がる街、でも、人通りが全くない。
闇の空のせい?みんな隠れている?
そして気付いた。
「まだ、時の流れが違う中にいるんだわ。」
だから誰とも会わない。
だとしたら、宝箱に集中して良さそうだ。
みかん箱サイズの石の箱、アイが触れると蓋が現れ、謎の文字が浮き出るが、読めない。
そして、鍵穴もなく、後回しとなった。
リアリアとミコは初めての宝箱。
あとの5人は、おっとレイはお留守番だった。
「『聖騎士よ、拳をかざせ』」
「えっ?!」
「ミコちゃん読めるの?!」
読めないけど、頭に入ってきたという。
パーで箱を触ったが、グーではまだ試していない。もっとも「聖騎士」とあるので、以前のアイでは知っていても無理だ。
ついに、箱が開いた!
光が溢れ、アイの体に、パーツとなって装着された。
東の王都で会った聖騎士と似た、白銀の鎧。
ティアラのように軽そうだが、神秘の力をかんじる白銀の兜。
ジャンプシューズを押しのけて装着された白銀の靴。
完全な[聖騎士]の誕生だ!!
どのくらい強くなったかは解らないが、
確実に強くなったことを実感できる!!
……
転移の泉から、パーティが戻って来た。
「そうじゃない!」
「へい、親方!」
腕まくりして、ねじり鉢巻をしたレイが、錬金術師の指導を受けていた。
ただいま!
……と、言っていいものなのか?
集中しているようにも、コントにも、見える。
「……まあ、いいだろう。」
親方のお許しが出たようなので、
「ただいま。」
声を掛けて近寄った。
「よし、戻ったな。[錬金]を始めるぞ!」
特大水晶の近くへと移り、
親方、レイ、アイの3人が水晶を囲んだ。
「念じろ!」
錬金術師が両腕を水晶にかざす。
「レイ!」
「はい!」
親方の真似をして両腕を出す。
「アイ!」
「はい!」
アイも続いた。3番目なので迷わず出来た。
水晶の淡い光が、
だんだんと強くなって、
アイの腰、万能袋がある辺りから、
持っている剣が、水晶の上に、次々出てきて、
縦に、
剣先を下にして縦になり、
空中で、
ちょうど水晶と同じ円周の輪になると、
時計回りにぐるぐると回り始めた。
空中に直立する、剣たちのメリーゴーランド!
回転が早くなる!
体感では10分ほどだった。
この空間の外ではどのくらいかは解らない。
回転が、超高速に、何が回っているのか解らないほどに早くなり、
眩しく光った!!
剣たちは、
一本の新しい剣へと生まれ変わった。
「[聖剣]の完成だ!」
新しい剣、[聖剣]がゆっくりとアイの手元に降りてきた。
手にしてみる。
しっくりくる。
特大の十字架のような、銀色の剣。
近くでみると、滑らかで研ぎ澄まされた流線型の、じっくりと見とれてしまう壮大で優雅な剣。
球をはめるスロットが5つ。柄の、十字架の横を象る部分に横並びに5つ、反対側が見える穴となって付いている。魔法球が5個セットできると言うことだろうか?
『準備できたな!』
『ああ、いいのが出来た!』
『聖剣の誕生!』
『勇者の誕生だ!!』
『……』
五聖獣の声が聞こえた。
空間から戻った。
[闇の空]は続いている。
時間の流れも戻る。
行ってから戻るまで、多分、数日経っている。
何も起きていなければいいが……
不安が増す。
緊張も増す。
いよいよなのだ。
五聖獣が現れ、転移魔法を使う。
行く先は、
大魔王ヴァグディーナの居城!!
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