第51話 やっと来たか

 五聖獣と再び転移した場所。

 今度は五聖獣が消えずに済む広い場所。

 薄暗いが、皮肉なことに闇の空より明るく感じる場所、そこが、

 [大魔王ヴァグディーナ]の居城!!

 50mほど離れているだろうか?

 少し高くなった場所の玉座に、


 大魔王が座っていた。


『やっと来たか。』

 王冠とローブをまとった老人?

 威厳はある。

 しかし静かだ。家臣も誰もいない。

 これが、完全復活した大魔王?!


 復活したと言っても、滅んでの復活ではない。

 大魔王は、ずっといた。

 冬眠……いや、休憩していただけ。

 過去、彼に挑んだ5人の勇者、そして、魔王同士の戦い……

 そのどれにも、一度も、敗れていないのが、この大魔王。

 無敗を誇るのが、大魔王ヴァグディーナ!

 戦いで消耗したエネルギーの回復、配下が集めた負の力で、回復……そして、補給の完了。

『時間をやったのだ。せいぜい足掻いてくれよ、人間ども。』

 そんな嘲笑が、聞こえてくるようだ……


 立ち上がり、ゆっくりと歩いてくる。

『もっと揃えて来なかったのか?

 これならもっと、部下達を、

[人類総攻撃]の方へ回してやるべきだった。』

 ?!!!

 すでに始まっている?!

 闇の空の中、人類総攻撃が始まっている?!

 さて、

 立ち止まった大魔王。

 王冠とローブをまとった老人。

 額に第3の眼が現れると?!


 ゾゾゾゾゾゾゾゾぞっ!!!


 背すじが本当に凍りつくような感覚?!

 間違いない!

 大魔王本人だ。

『では、始めようか。』

 大魔王の三つ眼が光った。

 一瞬、何が起きたのか解らなかった。

 ……ただそれは、先頭にいたアイだけ。

「ア、アイさん……」

 弱々しいレイの声で振り向く。

「なっ?!」

 彼女しかいない。レイしかいない。

 他の5人と五聖獣がいない?!

『まあ、安心しろ。』

 大魔王が笑う。

『大群に放り込んだりは、していない。』

 どこかへ、飛ばした?

『まあ、五聖獣だからな。

 それなりの相手と、それなりの場所で戦ってもらう。』

 また笑う。楽しいゲームが始まったかのように

『心配か?他人の心配などしてどうする?』

 大魔王が左手を横に伸ばした。

 その先の、やや離れた場所に、スポットライトのような光が射した。

 何かが床に刺さっている。

 5本の棒?

 無造作でいて、墓標のようにも見える。

『余のコレクションだ。』

 棒ではない!

 剣?!

『お前の先人の武器だ。』

 かつて挑んだ5人の勇者たちの剣?!

『お前のも、そこに並べてやろう。』

 アイの額に汗が伝う。

 聖剣を構える。

『そう、慌てるな。』

 まだ大魔王は構えない。

『語りべ……解るか?……余の勇姿を、今からの戦闘を人間共に伝える役目だ。』

 大魔王がレイを指差す。

『おめでとう、小娘。貴様だけは唯一、生きて帰れる。』

 だから、この場に残された。

『戦闘に巻き込まれぬよう、余のコレクションの側にいろ。あそこは攻撃しないでおく。』

 アイが、レイを見て頷いた。

 ゆっくりと、そして小走りに5本の剣の側に行くレイ。

『では、始めるか。』

 大魔王が、変身を始めた。

 体が膨張。

 色はダークグリーンに変わる。

 一本の大樹のような、太い幹のようになり、

 高さは5m。頭部はまるでハロウィンのカボチャ、牙と犬歯の大きな口と三つ眼のジャックランタンのようになり、

 幹のような体からは、3対の触手のような蔦のような、6本腕が生えた。

 最後に額の目の上に、サイのような角が生えて完成。

 完成?

 もっと肉食獣的な、魔界の怪物的な巨大な進化を想像していたが、

 植物の最終進化型魔王、と言った姿になった。

 改めて、聖剣を構えるアイ。

 5つのスロットには、聖水晶と、水属性以外の4種の魔法球がセットされている。

『ゆくぞ!』

 大魔王が攻撃してきた。

 いきなり、額の一本角を発射した!

「ジャキィィィン!」

 聖剣で、見事斬り裂くアイ。

 角なし大魔王になってしまったが、

『ワハハハハハ!!!』

 大魔王が笑い出した。

 この笑いの意味を、このあとすぐに、

 アイは思い知ることになる……


 その頃、別の場所。


 大きな湖の上。


 活火山のある大地。


 広大な砂漠。


 抉られた峡谷。


 荒れ果てた荒野。


 別々の6つの場所で、

 [世界]を賭けた戦いが始まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る