第40話 次から次へと

「そなたらを逮捕する!!」

 ……

 ……ええっーーーー?!!

 みんな一斉にシノを見る。

(何した?!)

(何したの?!)

(何しちゃったの、お姉様?!)

(してないわよ?!)

 首を振りつつも、はっきり声にできないシノ。

(何した、私……?!)

 ちょっと思った。

「恐れながらザイス殿!」

 副官らしい男が、一人だけ馬上の将に近づく。

「騎士に縄打つのを、みな嫌がっております。」

「陛下の言葉は絶対だ!」

 馬上から睨む。

「解っております。ただ、みな神罰を恐れているのです。」

 東の王国の北西には、聖教会領がある。この国は、大陸で最も信者の多い国なのだ。

「何の罪でしょう?理由をお聞かせ下さい。」

 セインが一步前へ出た。

 兵士の多くに拝まれた。そして、一人が気づく

「聖女様だ!聖女様がおられる!」

 次々膝をつき、深々とミコを拝む。

「神罰などと、馬鹿馬鹿しい!」

「この辺りも信心深い者たちばかり暮らしております。下手な扱いをされると、暴動に発展しかねます。」

「ば、馬鹿なっ?!」

 馬上から怒鳴りつけ、そこで気づくザイス。兵士の敵意は、罪人ではなく自分に向けられている。

「護送車を手配し、早急に連れてまいれ!私は報告に戻る。逃がしたら、厳罰が下ると思え!」

 と言い残し、自分が逃げるように馬を走らせ、ザイス将軍は去って行った。


 護送車など田舎にあるはずもなく、やっと調達できたのが荷馬車1台。鉄格子どころか幌もないので、不思議な光景が生まれていた。

 50人の兵を連れた馬車、何だろうと見に行くと騎士と聖女が乗っている。あれよあれよと噂は広まり、お供え、お布施、面会etc……断っても断っても来るので、お布施以外は受けることに。

 護送中だと理解してる者がいるのかどうか……

「この子を抱いてあげて下さい。」

 男の子はアイへ、女の子はミコへと依頼殺到、農作業等が忙しくて地元を離れられない下級層には、聖人と出会う滅多にない機会。牛車のように護送車はゆっくり進む。

(私たち、一応容疑者なんですけど……)

(さらに言うと、普通の中高生なんですけど…)

 護送隊長代理となった副官にまで懇願される。地元がこの辺りの兵士も多く、家族に知らせに行く始末。隊長代理の家族まで来た。近所の子供はぞろぞろついてくる。

 村の外れでパレード?は解散。ここまでと言われて家路につく子供たちと、荷台の上から手を振って別れる。

(何やってんだろ?私たち……??)

 なんて思っている中、広い場所で馬車が停まった。

 副官を先頭に、荷台に向かって整列して跪く。

「皆様、このままお逃げ下さい!」

 副官が代表しているが、総意ということなのだろう。

「王都へ行けば、間違いなく殺されます。」

 聖教徒の多い国だが、国王は別らしい。

「我らはどんな罪なのでしょう?」

 さっきまで、歓迎ムードが強すぎて口にできなかった事を、やっと訊けた。

 罪状は「家臣殺し」。

 西の王に聖剣を借りて窮地の村を救いに行った時、西の兵士になりすまして襲ってきた東の工作員を覚えているだろうか?そのリーダーの事らしい。アイたちはほとんど攻撃もしていない。西の影衆にバレて、勝手に自爆したのが真実だ。

 が、そこは論点ではないと言う。

 そもそも、東の王は、恐らくだが、その工作員の顔も名前も知らない。本当の処刑理由は、

「西の王国に、聖剣使いを増やしたくないのです。」

 恥じ入るように話す副官。

 現在、聖剣所持数は、東1西2だが、聖剣使いの数は東西1人ずつ。アイの存在が邪魔なのだ。

 そこまでなら、同じ大迷惑でも、国家間の抗争に巻き込まれたと壮大に語れもするが、魔王復活の危機が迫る中、西の王国に敵意が無いことも、アイが仕官を断ったことも、すでに聖剣を返上したことも報告を受けながら、西から送り込まれたスパイだと邪推して、持論を曲げない。

 人間同士が争っている場合ではないと説得しても、今が殺せる好機だと譲らない。

 ……そう、説明を受けた。

 なんとも、である。

 なんとも言いようがない。

 噂はちらほらと聞いていた。

 西の[真実の王]に対し、東の国王についた呼び名は、[愚王]。

 カップ麺ならお得感も感じるが、想像を遥かに下回る愚かさだ。

「我々が逃げては、厳罰が下るのでは?」

「騎士様たちの処刑を手伝ったとあっては、我らはどのみち村に戻れません。」

 あの歓迎ぶりを見れば、確かにそうだ。これは意外と判断が難しい。行っても逃げても難しい。

「このまま、護送されましょう。」

 セインが言った。

 頼みの軍師に、策が浮かんだらしい。


「護送中に、王都の聖堂前を通りましょ。」

 セインのその目論見は、早くも外れた。

 信者の目にできるだけ付くようにと考えていたのだが、王都の入口で待ち構えていた、別部隊の鉄格子付きの護送車に移され、後ろ手に全員枷をはめられ、さらに幌で覆われて、人目に付かぬように城内へと運ばれた。

 愚王の前に、手枷つきのまま引き出される。

「全員殺せ。」

 第一声だった。裁判も審議も無い。

「陛下、流石に聖女を処刑しては……」

 大臣らしき男が弱々しく発言した。

「スパイは死罪だ。そう決まっておる。」

 その理論だと、アイに罪は無くなる。

 そう反論したところで、全く耳を貸さなそうな、傲慢な顔つき、玉座に座る傲慢な姿勢、傲慢な口髭、見た目からして[愚王]だった。

「エセ騎士の首を今すぐ刎ねよ!

 クナンダース、お前がやれ!」

 命じられたのは、アイたちを逃がそうとした護送副官。あのあと[クナンダース]という名前も聞いて、知っていた。

 地位も意外と高く第三軍隊長。もっとも、第三軍以降は地方出身、寄せ集めの徴兵部隊ではあるが。

 クナンダースは覚悟を決めた。

「お断りいたす」発言すれば自分の死罪は確定。それでも腹を決めた。

 もう一人、決心したのはシノ。

 牢獄や手枷には、スキルや武器の封印効果が伴うが、例外もある。鍵開け、縄抜けなどのスキルだ。シノなら、後ろ手の手枷など簡単に外せる。

続けてアイとリアリアの手枷もすぐ取れる。

 覚悟を決めた2人、それよりも先に、

「ロンビーニ様が、至急お目通りをと!」

 伝令が飛び込んで来た。

(間に合った……)

 クナンダースが、セインが思っていた。

「後にしろ!」

「ロンビーニ司教をないがしろにされるのは…」

 煮えきらないが、諫める大臣。

 今、この国では、多くのデモと小さな暴動が頻発している。国政への不満で、民は暴発寸前なのだ。それを抑えているのが聖教会。その中心が[ロンビーニ]司教だ。

 『政治不介入』が大前提の聖教会だが、第一は『平和維持』、暴発の鎮静をやめるとは思えないが、いま聖教会が手を引いたら、この国は暴動→反乱→革命となりかねない。

 渋々会う。

「手短にな。司教10賢ゆえ、会ってやるのだ。」

 露骨で高圧的な愚王。

 しかし、そこは司教10賢。初老で温厚な人徳者でもあるロンビーニ。

「司教10賢と申されましたが、そこのセイン殿も、司教10賢だとご存知ですかな?」

 驚く一同。もちろんアイたちも。

「わ、私は、実は、知ってた……」

 レイが一言。

 真実の王の人質になっていた時、王の筆頭顧問の司教7聖ダイアモーラから、セインと知り合いだと聞いていた。

 だから色々順調に進んだのだ。

「セイン殿が黙っているのだから、時が来るまでそなたも内密にしてくだされ」

 念を押されていた。

 今はすごく納得できる。司教10賢と知られたら、今までの冒険も大変だったろうと、今回の護送中の出来事でも解る。

 教会は階級制ではないのだが、一般的な人気で言えば、法王>司教7聖>聖騎士>司教10賢>騎士>司教>神父、シスターといった感じになる。聖女はちょっとややこしい。法王なみに敬う人もいれば、シスター程度に思う人もいる。

「ありがとう。黙っててくれて」

 セインの言葉で、みんなも少し落ち着いた。

「全員を一旦教会へお引き渡し下さい。罪状を確認ののち、再度陛下へ委ねたく思います。」

 堂々たる発言は、ロンビーニの共として同行した若きシスター。ミコよりは上だが、セインよりも年下かもしれない。透き通る緑の髪の美少女。

「黙れ!小娘!」

 怒鳴る愚王に大臣が耳打ち。

「あの[シスニア]様も司教10賢です。しかも、司教7聖第三席の娘でございます。」

 ぐぬぬぬ!愚王の表情がどんどん険しくなる。

「次から次へと、何故こうも出てくるのだ!」

 そこへ、

「ア、アレクサイト様が面会を求めております」

 大慌ての伝令がまたも来る。

「誰じゃ?!そやつは!!」

 王国側で解らないのは、激昂している愚王のみ

「司教7聖アレクサイト様が、聖騎士ランスフェザー様と、お、お見えです。」

 流石に愚王も青ざめる。

「次から次へと、何なのだ?!」

 伝令へ怒鳴り、アイたちへも怒鳴る。

「貴様ら一体、何者だ?!」

 それは多分……アイたちも思っている。

「法王様とも知り合いだったりする?」

「そこまでは流石に……」

 セインも苦笑いしている。想定はロンビーニまでだったようだ。


 7聖の第七席、アレクサイトが現れた。

 若い。スラリと背も高く、美型。同行している聖騎士ランスフェザーも美型。アレクサイトのお付きの修道士、こちらは……普通の若者。

 3人通された時、アイたちの姿は無かった。

「リューゼクがどうしてもと言うのでな、奴の元へと送った。」

 また知らぬ名前が出てきた。

 リューゼクとは、この王国の第二軍隊長。王都の北、王国最北の街を守りし者。

 そして「送った」と言うのは、城の設備を使った[魔法移動]。

 移動魔法は幻スキル、移動魔法アイテムは超激レア、大都市の[魔法移動設備]も、魔力充電までに半年は掛かるという、北、西、東の3大国の都にしかない、緊急脱出用設備。

 それをこの男は、意地のためだけに使用した。

 7聖、聖騎士、10賢と、これだけ聖人が揃っても、愚王の愚行は止められない。

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