第39話 妹

 翌日。現実の昼間、

「私も、知ってもらいたい事があるから」

 と、カナが皆を呼び出した。

 アイとセイン以外は、もう互いの素性を知り、現実でも連絡を取り合う仲になっていた。

 待ち合わせは、病院の前。

 5人揃ったところで、病院の中へ。

「誰か入院してるの?」

 慣れた感じで入院病棟に向かうカナへの質問。

「妹がね。」

 ……[世界]で死んだ妹が、入院してると聞かされた。

 驚きの事実。

「……道理でね………2番目に役立たずのアンタが、魔王討伐に頑張る訳だ……」

 シノの辛口台詞は、当人のカナが暗く沈んでないのを見計らっての発言だ。

「……て、あれ?……1番の役立たずって、ひょっとして、私?!」

 場の空気を重くしない、姉妹の見事な連携。

 妹の入院だけを教えたいなら、わざわざ案内までしない。深刻になるとしたら、カナが知らせたい事を全部伝えた後だ。

 妹の入院する階に着いた。

 エレベーターを降りたので、自粛して歩く。

 受付の面会リストに全員記入。

「おっ!直江兼続がいる!」

「おぉ!」

 戦国好きのリアリアとシノが、前の面会者の記入欄を見て、受付が無人だったのもあり、ちょっとだけはしゃいだ。

 病室は4人部屋。カナの母親も来ていたので、みんな挨拶した。

 そして、個室じゃなく騒げないので(個室でもダメです)談話室に移った。

 売店で買ったお菓子がテーブルを埋める。

「妹さん、小学生?」

 カナが本題に入りやすいような質問。

「今年から中1……まだ中学校あまり行けてないけど……」

 少し暗くなってしまった。

 でも、その間も、

  ポリポリ バリバリ パクパク

 皆がお菓子をむさぼる手は止まらない。どんな流れになっても、食欲だけは衰えそうにない。

「これ、妹の日記。」

 カナがテーブルに、赤い表紙の本を乗せた。

 妹が意識不明になってから、全て読んだのだと言う。(まだカナが[世界]に呼ばれる前で、情報を少しでも多く必要としていたので、許してやって欲しい。)

 [世界]の事が書かれているページに付箋が付いている。

 仲間の事が書かれている。

 そして、最後のページ、

『……明日は彼の誕生日、サプライズにあげるもの、キメちゃった。』

 ここで日記は終わっている。

「……どっかで聞いたようなハナ……?!!」

 シノの、いや皆のお菓子を食べる手が一斉に止まった。

「これって?!!」

 カナが少し前のページを開く。

『……彼の名前が前から気になってた。カナちゃんと見た再放送のアニメ、あの怖い悪役と同じ名前。裏切り者の名前だから変えてって言ったら、自分と同じ名前の戦国武将から付けた名前なんだとか……』

 別のページ。

『ふっふっふっ。V(ぶい)。彼の名前を変えさせました。言ってた武将の兜を調べたよ!漢字一文字だから名前もそうしよう!……見事成功!私の勝ち!』

「このアニメの悪役って『藍染』だと思うの。凄くこわがってたから……でもアイゼンなんて武将いる?」

 これが皆を呼んだ理由、戦国オタクの意見を聞きたかったようだ。

「愛染明王よ!」

 と、リアリアが即答。

 シノも頷いて、レイに何やら指示を出す。

 レイとカナがこの場を離れたところで、

「妹さん、目を覚ますよね。」

 一人だけまだ中学生のミコが、不安そうに口にした。カナの前では言えなかった言葉だ。

「当たり前よ。」

 と、リアリア。

「生きた見本がここにいるわ。」

 ミコの頭を撫でるシノ。

 そうなのだ。ミコこそ希望そのものなのだ。唯一の、いや、最初の意識不明からの生還者。

 カナの母親も、ミコを見て涙ぐんでいた。今日のカナの一番の目的は、実はミコを母親に会わせることだったのかも知れない。

 [世界]で倒れた若者の家族にとって、ミコは現実でも「希望の聖女」なのだ。

 レイとカナが戻って来た。

「直江くん、同級生……中1だって……」

 がっかりした顔のレイ。

 受付の面会者リストを(こっそり)写真に撮り、母親に知ってる人か確認する。それが、スマホを丁度手にしていたレイに与えられた指示、そして同行者は当然カナ。

 リストにあった中で、カナの妹の病室を訪ねた者は2名、その1人の名字が「直江」。

 『愛』の字の兜で有名な「直江兼続」。

 ……しかし中1。去年まで小学生。アイが去年まで小学生???

「違う!」

「違う!」

 シノとリアリアが、同時にダメ出し!

「こっちよ、こっち!」

 リアリアが指したのは、直江姓じゃない方、

「山城…守???」

「そう、山城守(やましろ、まもる)」

「直江山城守(やましろのかみ)よ!」

 よく解らないまま、もう一度行かされる2人。

「あんたの妹が、日記に『彼』としか書かないからいけないのよ!」 

 レイの愚痴が聞こえて来た。


 ……母親は彼を知っていた。「友人」としか言わなかったが、クラスメイトが来てくれたのは最初だけ。あとは時々。

 でも、この年上の友人の山城君は、毎週来てくれているという。

 ……手がかりはそこまで。完全にアイと同一人物かは解らない。


 母親と帰る予定のカナが、病院の入口で皆を見送る。

「今日はありがとう…ありがとう、ミコちゃん」

 カナのお礼の相手は、やはり彼女だ。

 奇跡の復活少女として母に紹介することを、快く引き受けてくれた。

 未だ[世界]からの生還者は彼女だけ。未成年で匿名とはいえ、大騒ぎのマスコミ、正体探しで溢れるSNS、政府関係者からの接触、etc……ミコも、彼女の両親も疲弊しているだろう。

 そんな中、母と会い、希望を与えてくれた。

「忘れちゃったんですか?」

 ミコが笑って応えた。

「今いないアイさん、セインさん、そしてここにいる皆さん!……全員みんな、私の命の恩人なんですよ。」

 現実に戻れず、[世界]でたった1人で戦っていた彼女は、アイ達と出会って解放された。

「皆さんの為なら、私、何だってします!」

 なんて真っ直ぐな、眩しい中学生。

(まさに、リアル聖女!!)


 その夜[世界]で、リアリアがド直球で質問!「直江兼続の兜って、『愛染明王』説と『愛宕権現』説と、どっちだと思う?」

 普段からしている超マニアックな会話。リアリアなら行き成りでも違和感はない。

(ナイス!空気の読めない女!)

「僕は、」

 みんなの思惑を知らないアイが答える。

「……両方だと思う」

 おや?

 アイの持論が展開。(次の★★★まで読まなくて大丈夫です)

 上杉家の重臣の家に入った形、成り上がりとも見られる直江兼続。そして、内乱等多い上杉家。上杉家自体、長尾家から領地を拡大した成り上がりとも言える中、また、領地が増えたことで様々な信仰、習慣etcの違う土地からの徴兵、出兵、『愛』を愛染明王と読む者には愛染明王、愛宕権現と読む者には愛宕権現と読ませ、あるいは2つを兼ねたのではと言う説だった。謙信ほどの絶対的な強さを持たない重臣の気苦労、または合理的な知恵者、こだわらない豪快さ、どれも兼続には当てはまりそうだと。

 直江本家の存続にも、立場的に難しかったのかも知れないが、執着感が薄い。本家が残ってないからかも知れないが、これ程の名将の信仰対象がはっきりしないのも、アイの両方説の根拠の一つだ。なにしろ、上泉(こういずみ)伊勢守と読むか、上泉(かみいずみ)伊勢守と読むかでも、アイは「両方」と答えた。関東上野(こうづけ)までは「こういずみ」上方(かみがた)に行ってからは「かみいずみ」、だったのではと言うのだ。

★★★

「なるほど!」

 リアリアは納得したようだ。

 ……って!お前の聞きたかった本題はそれなのかい?!!

 リアリアとシノ以外には、何の話かすら解らないまま、アイの正体は解らずじまい。……また、冒険に戻る。


 たしか、えーと……そうそう、3体目の聖獣を探しに東の王国へ!


「待たれよ!一行、待たれよ!」

 軍隊が近づいて来た。50人はいる。

 将が一人、近づいて来た。

「騎士アイの一行だな。」

 人違いでは無さそうだ。

「そなたらを逮捕する!!」


 ……

 ……ええっーーーー?!!

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