第34話 再び
水龍のいる湖に着いた。
着いたはいいが、どうしたら水龍に会えるかは、実は解っていない。
「おや、お客様ですか?」
待ってましたよ、ややこしい案内童子。
結界内に通され、デルちゃんの案内で進む。
「お客様なんて珍しい。200年ヒゲおや……水龍様の側にいますが、来客なんて……そう言えば、ついこの間、一組来ました。あの方たちは、元気でしょうか?」
(今、ここにいます)
「この、大きなドラゴンは[クーちゃん]です」
頭上の、小さな黒ドラゴンを紹介する。
(知ってます)
「私のことは…………………思い出すまで呼ばないで下さい。」
(了解です。デルちゃん。)
前回のおさらいのような会話をしつつ歩いて、到着。再び、水龍と対面。
坊やが良い子でねんねしそうなドラゴンの、リアルバージョン、大迫力の青い龍だ。
「この間の連中が、水龍様を成敗に来ました。」
本当に、デルちゃんは、覚えているのか?いないのか?
『ほう、雷聖剣を持ってきたか。』
で、実力試しの戦闘に入ると思いきや、
『戦いはもうよい。聖剣が認めたのだ。合格だ』
「水龍様は、電撃が怖いのです。」
『怖い訳ではない!嫌いなだけだ!人間とて、少しの静電気でも嫌がろう。』
「ビリビリに、ビビりなのです。」
上手いこと言ったと、ドヤ顔するデルちゃん。
「ビリビリに、ビビりなのです。」
2度言った。それほど上手くもないと思うが。
『代わりに、もっと凄いモノを見せてやろう。』
水龍が上空に上がると、
空中で、クネクネ、グルグルと、
鰻がのたうつように……では失礼なので、新体操のリボンが何重もの円を描くように、激しく動いている。
雷雲が、発生した!
黒い雲が、どんどん大きくなる。
ビビり返上のため、いつもより多く回ったかは解らないが、巨大な雷雲が出来上がった。
ゆっくりと降りて来た。
『どうだ、凄いだろう。』
師匠?も、弟子?に負けじとドヤ顔。
『例の魔物に、豪雨をプレゼントしてやろう。
お前たちは、あの雷雲を追って行くといい。』
水神様の威厳を保った。
雷雲には、早足程度で追いつけた。
いにしえの壺で足止めしている魔物の場所へ、ちょうど雨が振り始めた頃に着いた。
振り始めといっても、夕立ちのように、いきなり土砂降り。夕立ちと違うのは、通り過ぎないこと。雲が消えるまで、ここに降らせてくれる。
魔物は、雨で完全に石化している。所々が黒ずんだ、灰色の石の塊、魔物の彫像のように。
「終わ…り……?」
なら、拍子抜けだが、村は助かる。
「いや」
アイが聖剣で斬りつけた。
石の欠片が飛び散る!
……が、再び、再生を始め、元通り。
動いてはいないが、まだ生きている。雨が止んだら、復活する!
「見て!」
と、セイン。地面を指さす。
飛び散った一部、黒い石が落ちている。
他の欠片は、再生とともに、すっと消えた。
本体を見直す。黒い石がハマりそうな、欠損がある!
完全再生では無い! 黒い部分は治らない!
そして、雨によって、黒い部分が少しずつ増えている!
雨中の攻撃が始まった。
聖剣は破壊力はあるが、まだ慣れてない。疲れが出る。アイは剣を替えた。
Xブレードに変更……と思ったが、取り出したのは[一心刀]。
スキルフェス、パワー部門優勝の商品。漆黒の木刀のような地味な剣。能力も地味。
しっかりヒットさせると会心の一撃となるが、少しズレただけで、木刀程度のダメージまで落ちる。扱いの難しい剣。
しかし、止まった敵なら、外さない!
「いでよ!光牙(コアンヤア)!」
カナが叫ぶ。
意味も解らず、叫ばされた。
召喚したのはもちろん別物、ミサイルハヤブサが発射される。
土砂降りの中、ポジティブじゃなきゃ、やってられない。
今ここに通りかかったら、岩相手に打ち込む、謎の集団にしか見えない。
どこかで雨宿りをと、アイに言われたが、彼ひとりに任せっきりは、やはりできない。
……それから数十分、ちょうど雨が上がる頃、解体作業は終わった。
散らばった黒い石が、暗い煙を上げ、灰になったことで勝利を知った。
村人が見に来て、大喜びして、走って村に知らせに帰ったので、戦後処理に移ったと解った。
[いにしえの壺]は村に預けた。水龍の言葉と共に。
水に困っている時以外は使わないこと。そして水神様への水桃のお供えを欠かさないこと。
……ああ見えて、水龍は甘党だった。
村から王都への土産も持って、帰路についた。
再びの王都。
拝謁は、すぐに許された。門番から知らせが行っていたのだろう。
謁見の間で、聖剣を返却するなり、王様が意外な一言。
「姉妹で殴り合わなくて、よいのか?」
シノにはすぐにピンと来た。
「行って来い、セリヌンティウス!」
妹を残す時に言った台詞。王様に聞かれ、レイがメロスの話をして説明したのだと。
「では、陛下。御前ながら失礼致します。」
一礼して、レイの元に向かうと、
「バキッ!」
レイの頬へ拳で一撃!
驚く一同。これが、若さか……
と、殴った後、
ゆっくりと元の位置に戻り、また畏まった。
さらに驚く一同。
「そなたは殴られぬのか?」
王様も怪訝そう。
「恐れながら、陛下、」
まったく恐れず、堂々たるシノ。
「陛下のお言葉により、妹が、置き去りにされる不安を抱いたと察し、一撃与えました。」
そして、さらに悪びれない。
「しかしながら、私めは、そのような考えなど、
微塵も抱かなかったゆえ、そのまま戻りましてございます。」
言い切った。
見事!本心なら見事!殴られぬ方便なら、これも見事?
「わはははは!気にいったぞ、シノとやら!」
真実の王が認めたなら、真実だろうか?
何より、王様よりも殴られた当人の方が、その言葉に感動していたので、みんなも納得することにした。
王様を笑わせたシノに、褒美が与えられた。
黄金の……小剣。
武器としては使えないが、美術館の目玉になりそうな装飾の輝く小剣。
シノ大満足!呪われてないので、皆も満足。
そのあと、陛下への土産、
側近ダイアモーラの合図で、御前に水桃が運ばれてきた。
「うむ、美味だ。…うん、昔、食した気もするな……」
「はい、昔は王都にも、出回っておりました。」
陛下は味に満足顔。でもまだ満足してもらっては困る。
村長からの嘆願、「王国領となりたい」旨、「水桃の収穫、流通への援助を希望する」旨を伝えた。
「ふむ……」
と一言発して、最高顧問の顔を見る。
「村への視察は、誰を考えておる?」
「……陛下には隠し事などできませぬな……
サファイルズが適任かと存じます。」
「よし、まずは視察報告を受けてからだ。」
話が進んだ。
アイたちの役目は果たせた。
お礼の言上に、
「礼はダイアモーラに言え。彼の者が視察官の名を挙げねば、余は、益なしと断っていた。」
最高顧問ダイアモーラ。聖教会の法王に次ぐ、7人のうちの1人。先代王が王太子の教育係として招いて以来、真実の王は彼を手放さない。即位前からの信頼関係なのだ。
「ところでだ、言っておきたい議と、聞いておきたい議がある。」
真実の王が、真顔になった。
「聖剣が次なる所有者を選ぶには、前所有者が健在では難しいとしたら、どう思う?」
雷聖剣の使い手を見つけるのに、犠牲者も覚悟の大会を開いた王である。ただでさえ、苦労しているのだろう。
「恐れながら、」
その問いに答えるのは、この人。
『時来たらば、自ず、現れる。
時来たらば、自ず、目覚める。』
こちらも、仲間からの信頼厚いセイン。
『急く、無かれ。誤る、無かれ。』
「……聖教会に伝わる聖剣伝説の一節です。ダイアモーラ様も当然ご存知の節なれば、不安も心配もございません。次の方が現れることをお祈り申しあげます。」
「……うむ……惜しいな」
真実の王が呟く。
「手元に置きたい者ばかりだ……が……
『急く、無かれ。誤る、無かれ』か……」
「はい、陛下。縛られぬことこそ、彼らに必要かと」
真実の王は、真実には逆らえない。
惜しまれつつ、再び、7人での旅となる。
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