第33話 二つ返事?

 クロノたちの追放が決まった。

 王都からの追放。立入は生涯禁止。今後、西の王国で事件を起こしたら、王国への進入も禁止。(その前に、事件の刑罰も受ける)。

 重くはない。犠牲者を考えると軽過ぎる。

 死者は5名、負傷者10 数名。プレイヤーの死亡者2名(現実での意識不明2名)。

 事前の契約書「参加戦闘時の死亡は事故」が無ければ、大量殺人事件である。

 この契約があったので、形式上の罪は、剣を持ち込んだキバの方が重い。

 クロノは、戦意喪失者を背後から斬った罪、形式上はそれだけ。

 ただ、危険人物として、マークされた。

 正確には、超危険手配人物。

「非常に、厄介です。」

 最高顧問ダイアモーラが言う。

 すでにかなり[悪魔の剣]に支配されている。

 この[悪魔の剣]の真の狙いは、


 クロノを「殺させる」こと!!


 所持者の「憎悪」を力に変える[悪魔の剣]。

 殺される間際に抱く「憎悪」によって、完全覚醒を遂げ、[魔王級悪魔]になるのが狙い。

 今、ここで処刑したなら、王都で魔王級悪魔が暴れる大惨事に発展する。

 ……回避する方法は2つ。

①不完全に覚醒させ、討伐する。

 悪魔の剣が制御できないくらい、所持者の憎悪を膨らませ、暴走させる策。ただ、調節はできない。殺さず、勝手になってくれるのを待つのみ。

②所持者が「改心」して悪魔の剣の誘惑に勝ち、支配を逃れる。……これも、中々に難しい。


「くそーっ!どうやったら奴に勝てる!」

 王都を出る時に、クロノが吐いた。

(殺意を抱いている間は無理だ!)

 思っていても、仲間は誰も言わない。

 リーダーが[悪魔の剣]の所有者の場合、パーティ全員が洗脳される。倫理感が狂う。

 思っていても、言えないのだ。

(もっと育ってくれよ、小僧……)

 悪魔の剣が笑っていることを、クロノは知らない。


 クロノが王都から出ていく、ちょうどその頃、

 城の謁見の間では、

 アイが、配下となる勧誘を丁重に辞退し、

 さらに、ややこしくも、

「……つまりこうか?」

 真実の王の顔は、穏やかではない。

「聖剣の所有者となるは拒むが、

 ……聖剣を貸せ!……そういう事だな?」

 アイを睨む。

「はい、仰せの通りです。」

 みんなの心拍数は急上昇!もちろんアイもだ!

 深々と頭を下げたまま、怖くて上げられない。

「……うむ、可能な願いだ。許す!」

 やっと頭を上げられた。

 丁重に礼を言う。優勝報酬は認められた。

「しかし、だ。」

 続きがあった。

 再び、戦々恐々。

「貸すからには、担保が必要だ。」

 当然といえば、当然。

「仲間を『1人』置いていって貰おう!」

「承知しました!」

 何と、即答!

 即答したのは、シノ!

 嫌な予感がしたのは、もちろん、

 ……微笑むシノと目が合って、

「行って来い、セリヌンティウス!」

 肩を叩かれ、押し出される妹。

(ええっーーーっ?!)

 思わず振り向いて、みんなを見るレイ。

 みんな、姉以外は、不安そうに見てくれたが、

 ……すぐに悟ってしまった。

 不可欠、不可欠、聖女、暴君、バリア、召喚、

……残るのは、自分しかいない。

 風の戦士が、抜け忍を思いとどまるよう諭され時、思ったように、

(自分が、こん中で一番…弱い……)


 姉以外は悩んでくれたが、結局決まった。

 渡された聖剣には、監視役も付けられた。

 仕官3年目の若い兵士長。

「適当に部下を連れて行け」と総隊長に言われ、何と10人も選んだ。総勢17人の旅になった。

 ぞろぞろと退室したあと、

「さて、セリヌンティウスとやら、」

 1人残ったレイが、王様に声をかけられた。

 王様は、記憶力も良かった。

 ……さて、何と説明したら良いやら?


 ぞろぞろと、大所帯の旅が続く。

 水龍は、こんなに大勢、結界に入れてくれるだろうか?

 彼らにも、水龍の居場所を教えて良いのだろうか?

 ……などと、考えながら進んでいる。

 砂漠地帯に入った。

 ここでも、先頭はアイ。

 雷聖剣を手にし、もはや無敵状態。

 地属性だろうが、一撃必殺!

 砂丘が大きくへこんでいる窪みの近くで、ちょっと休憩となった。

「アイ、ちょっと来てくれ。」

 若い兵士長カリノに呼ばれ、穴の側に行く。

「説明しておく。この穴はー」

「きゃあ!」

 後ろで悲鳴。

 アイが振り向くと、

 1人に対してきっちり2人、兵士から剣を向けられている仲間たち。

 兵士全員が、敵!

 ……となれば、当然、

「抵抗するなよ、アイ。」

 兵士長カリノが親玉だ。

「待って!大人しくするわ!」

 両手を挙げ、ゆっくりと、最年少のミコの側に行くセイン。怯えるミコの肩を抱く。

 バラバラだった他の3人も集められ、囲むように、10本の剣が向けられた。

「仲間を助けたかったら、この穴に飛び込め!」

「わかった。」

 アイが躊躇なく飛び込んだ。

 ……呆気にとられる。

 間があってから、

「……ハハハ!バカめ!この穴はな、」

「知ってるわ!アントライオンの巣でしょ!」

 平然と、人質状態のセインが答えた。

 アントライオン。大きなアリジゴクの魔物。

「来る途中、何度も倒したもの……彼1人で。」

 兵士長が驚くより早く、

 ジャンプシューズで、アイが戻って来た。

 もちろん、中の魔物はもういない。

 慌てる兵士長カリノ。そして、押されて慌てる兵士10人。

 リアリアのバリアに押されたのだ。集まってる人質5人は、もう安全地帯。

 どちらかと言うと、兵士たちの方が、安全を守られているのだが、気づいていない。

「狙いは何?何が目的?!」

 セインの強い声!シノがナイフを構える。

 早く答えないと、安全が保証できなくなっちゃいますよ。

「?!」

 口封じ?!

 10人の兵士が、次々倒れた。

「ご安心を、味方です。」

 男が1人、近づいてくる。

「影衆か?!」

 兵士長カリノが警戒する。

「ご紹介ありがとう。東の工作員さん。」

 影衆と呼ばれた男は、忍者のような、迷彩服の傭兵のような、格好をしている。

 気づけば、すでに周囲に10人ほどの、同じ格好の男たちがいる。こいつらが、手裏剣のような武器で、セインたちを囲む兵士を倒したようだ。

「西の王家直属の影衆[ソノイチ]と、我が手の者です。」

 偶然か、あるいは偽名か、名前など無いのか、いかにも影衆、隠密っぽい名前だ。

「アイさん、危ない!」

 兵士長カリノの手に、魔法玉が光る!

 音を立てて爆発!

(自爆した?!)

 最も近くにいたアイは、ソノイチの声で反応でき、ギガントシールドで難を逃れた。

「ありがとう、ソノイチさん。」

「お礼を言われると、心苦しいです。」

 ソノイチの方が、頭を下げた。

「我々は、その工作員をあぶり出すため、貴方たちをエサにしました。申し訳ございません。」

 それほどの驚きはない。むしろ、真実の王が敵だったよりは、いい。

 狙われた理由も、説明された。

 東の国王は、何かと西と張り合い、現在の聖剣使いの数が、1対1から1対2になるのを恐れた。

 アイを抹殺して、1対1に戻したかったらしい。

「あわよくば、聖剣も奪おうとしたのでしょう」

 アイが躊躇なく魔物の巣に飛び込んだので、助けるタイミングを失ったらしい。

「あんたらは信用できるの?」

 バリアは解除したが、シノはまだ、警戒を解いてない。

「私の別名は[忍者ハッタリくん]です。」

 突然、NPCにあるまじき発言?!

「お仲間のレイさんが、こう言えば解ると。」

 1字違いは、レイがボケたか?この男が間違えたのか?どっちだ?

 ……まあ、多分味方で合ってるだろう。

 と、シノが、

 いきなり拳でソノイチを殴った?!

 かなりガチ、言葉にするなら

「修正してやる!」

 驚いた?!……というよりも、

 妹が人質なの、覚えてますかーーっ?!!

「今のは、ミコちゃんを怖がらせた分よ。」

「納得いたしました。」

 腫れた頬を押さえながらのソノイチ。

「でも、ご理解下さい。聖剣といえば、都市1つ国1つ以上の代物とも言われてます。お貸しするリスクに多少見返りがあっても良いかと……」

 つまり聖剣は、九十九髪茄子に匹敵する?

 そのあと、お詫びとしてか?目的が済んだからか?監視同行は終了だと言って、工作員の手下を捕縛連行して、本当に全員去って行った。

「レイさんは元気です。ご安心を!」

 そう言い残して、去って行った。

 聖剣が選んだ相手を信じる。そんな信念が、真実の王には、あるのかも知れない。

 ……もっとも、聖剣を返さねば、話は変わる。


「あのコ、玉の輿に乗れないかしら?」

 ……ちゃんと妹のことを覚えてました。

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