第32話 ヤバい!

 3段階目のクロノをかわせたのは、ジャンプシューズの力だった。

 [バトル]の時は、撹乱移動を優先して使わなかった。それが幸いした。

 MP消費で大ジャンプできる靴。

 かなり後方へ一気に飛んだ。

 追うクロノ。更に下がるアイ。

 2回跳躍で下がってから、さらに下がると思いきや、新たな剣を持って、戻って来た!


 何かに(呼ばれた?)

 そう感じた。

 人ではない何か?この状況で、優しい感覚……

 呼ばれた所まで一気に下がり、

 誘われるように、声の主を手に取った。

「!!」

 全身を何かが駆け巡る!!

(いける!!)

 直感で思った。

 どう「かわす」かしか無かった選択肢に、どう「倒す」かが加わった。

 剣1つで、こうも変われるものなのか?!

 追ってくる相手に向かって飛ぶ。

 体が軽い!

 まるで、磁力に弾かれるように加速する!

『旦那!ヤバいぞ!!』

 悪魔の剣が警告する!

 加速したばかりだが、急ブレーキをかける。

 変貌したのは自分のはず、

 なのに……動きの変貌は向こうが上?!

 突っ込んできたアイの剣を受けた!

「ぐぉ?!」

 全身に、電撃が走る?!

 2撃目が来る。逃げるクロノ、追うアイ。

 ……立場が逆転した。

「どうなってやがる?!」

『あれは[聖剣]だ!!

 聖剣は、手にした時点で、もうヤバい!!』

 剣を持てた時点で、ヤバい!!

 誰もが使えるという訳では無いのだ。

『聖剣の初心者でも、上級魔法の達人と思え!』

 焦るクロノがかわす。

 かわしたが、電撃を食らった!

 構えるだけで、雷を帯び、剣撃を放つと、雷をまとった剣が襲う。

 当たらなくても、雷が追って来る!

 鋭利な銀色のフォルムの剣。銀色だが、常に光を反射して、金色に輝いている。

 [雷聖剣]!!

 一言でいうなら、『美しい剣』!

 星の輝きをもってつくられた訳ではないが、美しい!

「4段階まで上げるぞ!」

 半分悪魔と化したクロノが剣に言う。

『4段階でも無理だ、旦那!』

 ゴチャゴチャ言うなと返そうとしたが、

『聖剣2本相手じゃ、敵わねぇ!』

(2本?!)

 横から何かが迫る!

 音を立てて、地面が盛り上がって迫る!

 細いトゲトゲの岩が、連鎖反応で破裂してるかのように隆起して向かって来る!

 一度隆起した場所はそのままに、確実にクロノに迫る。大きな魚の背びれ、巨大な怪獣の背びれのように、移動の跡を残して迫る!

 かわしても、かわしても、反転して追って来て……突然、止まった。

「リタイアしろ。」

 野太い声。真実の王と、通信していた声だ。

 プロレスラーのように頑丈そうな大男が近づいてくる。王国の兵士と同じ鎧をまとっている。

 手には[聖剣]!

 雷聖剣と、同じ形の色違い。銅色の聖剣。

 [地聖剣]だ!!

「第5段階だ!解放しろ!!」

 クロノの絶叫!

『まだ早い、旦那!今やると、旦那が死ぬ!!』

 固まるクロノ。

「リタイアしろ。」

 地の聖剣使いが、ゆっくり迫る。3度目の警告は無さそうだ。

 自分のレザーアーマーの肩口を、クロノが両方同時に引き裂いた。

 両腕に、腕輪がある。アイの[義義の腕輪]とそっくり同じ、一対の腕輪が。

「コイツも解放だ!」

『無理だ、旦那が死ぬ。……今はヤバい。』

 と、

 悪魔の剣が、普通に戻り、クロノの豹変も解けてしまった。

 ……クロノはリタイアとなり、兵士に連行された。

「今の、義義の腕輪?」

「何であんな奴が?」

 観客席での会話。義義の腕輪は「仲間を守る時に、プラスαの力が出る」アイの装備。そう説明したのは、セイン。

「あれは、[我我の腕輪]よ。マサヒコ」

 自分の欲望を貫く時、プラスαの力が出る。

「……なら、アイツには、お似合いか。」

「顔は10コ無いけどね。」

 まあとりあえず、セインたちも一安心。

「あ、もう体制崩していいわよ、カナちゃん!」

 セインに言われ、召喚準備しつつスナイパーのように構えていたカナ。ミサイルハヤブサをクロノに放つことも、必要なくなった。

 体制を崩す。

 すぐ後ろのセインも、カナの背中から手を離した。MPを送る準備を解いた。

 そのさらに後ろ、セインに送る予定だった4人も、同様に離れる。万が一の時は、パーマン6連並みの超高速召喚獣が、クロノに発射される予定だった。

「さて、」

 と、下の会場の巨体の聖剣使い。

 再び聖剣を抜いた。

(あれ?!)

 銀色だ。アイの雷聖剣と全く同じ色、形も同じなので同じ剣に見える。 

 自分が凸凹ギザギザにした地面を、一瞬にして聖剣の力で平らに戻す。聖剣が銅色に見えた。

 銀色だが、戦闘モードになると、固有の色で輝くようだ。

 と、その地聖剣使い、

「バトルロワイヤルの続きだ。」

 アイに向かって、聖剣を構えた。

(あれ?)

 全くその気の無かったアイ。キョトンとしてから、慌てて体制を整えた。

(あれ?)

 観客席の女性6人。

(終わってないの?!)

 みんな思った。

 ……すでに、他の参加者は戦意喪失している。

(元の参加者に、いたっけ?あんなの?!)

 地聖剣使いが、攻撃してきた!

 雷聖剣で、突起した岩を破壊するアイ!

 アイの雷撃!

 土の壁が現れて、防がれる!

(これは、ヤバい!)

 相性がヤバい!

 雷属性<地属性……絶対的に不利だ!

「ボゴン!!!」

 土の壁をショルダータックルで壊し、突っ込んで来た!

 さっき一瞬で突起を戻した。壊す必要はない。土壁を、暖簾くぐり程度にしか思っていない!

聖剣なしでもヤバい相手だ。

 剣撃を受けるアイ!

 受けきったが、重い!!

(これは、ヤバい!)

 パワーもヤバい!聖剣のキャリアも違う!

 多分、剣無しでクロノに追われてた時より、今の方が、ヤバい!!

 相手が、止まった。

「はっ!」

 かしこまり、地聖剣を鞘に収めた。

『もう、良かろう。』

 真実の王からの通信指示があったようだ。


 アイと仲間達は、大会優勝者と同伴者として、王城内の謁見の間に通された。

 目の前に、真実の王が座っている。

(さて、どうしたら???)

 みんな、セインに倣おうとしている。

 が、

 最初に呼ばれるのは、当然、優勝者。

「その方の出身地の礼儀で良い。」

 ありがとうございます、王様!

 ちょっとだけ、緊張がほぐれた。

「さて、褒美だが、」

 王様の方から切り出した。

「……と、その前に、」

 思い出したように、話す王様。

「……おっと、その前のその前に、」

 またまた思い出したかのような王様、

「うちの総隊長、[アルドス]だ。」

 傍らの巨体兵士を紹介する。

 アイと戦った、地聖剣使いだ。

「実に面白かったぞ、なあ、ダイアモーラ。」

「はい、陛下。」

 側近の、紹介済の司教に話しかける。

「とくにあれだ!観客席からアルドスを狙っていた娘ども、あれが愉快だった!」

 笑う王様。

 バレていて、血の気が引く後ろの6人。

(……ヤバい!)

 一旦解いた、ミサイルハヤブサ召喚体勢だが、アイがアルドスと戦い始め、再準備してたのだ。

「褒美のその前にの方だが、」

 すぐに話題が変わってホッとする。未遂だが、妨害してたら、処罰があったかも知れない。

「わしに仕えぬか?アイよ!」

 王様は、雷聖剣の使い手を欲していた。

 ……それを見つける為の、大会だったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る