第31話 真実の王
水龍の湖から、西の王国へは近い。
ただ、西の王国は広い。
この大陸で2番目。北の帝国に次ぐ広さ。大陸の南西は、ほぼ西の王国と言っていい。
湖は、西と東の王国の間にある、中立地帯。
魔物に迫られている村も、中立地帯。
[中立地帯]とは、西と東の王国が、険悪な時に作られた部分。直接国境を隣接すると、小競り合いから戦争に発展しそうなので、作られた。
その後、両国とも、敵は魔物となり、今も仲は悪いが、戦争は考えなくなった。
では中立地帯はというと、両国ともに、軍の主力を王都に置いているので、防衛に、派兵に難ある中立地帯を欲しがらない。魔物が減れば変わるかも知れないが、今は欲しがらない。
ただ、中立地帯に存在する10数の村を、村側から編入以来が来たら、吸収しても良い決まりとなっている。
旨味があれば欲しがる。でも、どの村も、基本貧しい。
守ってもらえるなら、属したい村側。
旨味がないと、国力を注げない王国側。
ゆえに、地図は中々変わらない。
西の王国に入った。
ここからの方が長い。
王都は、王国の中央やや北側、着くまで長い。
その王国を治めるのが、[真実の王]。
おそらくは、現在の最も偉大な統治者を聞かれたら、大陸のどこの住民でも、[真実の王]を挙げる。
国民が崇め、称え、恐れる存在、それが[真実の王]。
国を愛し、国民を愛し、約束は守る。だが、約束を破った者は容赦しない。
警告は出す、しかし、警告を受けても改めなかった者は救わない。
約束とは、法律、規律、確約、宣言、等々。
警告とは、指導、要請、忠告、命令、等々。
裏は無い。悪意も無いが、畏怖される、
……それが、[真実の王]である。
その王が治める王都に入った。
南側の入口内に、オブジェがあった。
『世界で最も重い双剣』と、書かれている。
台座に逆ハの字に刺さった2本の剣。
「一対抜き出して、上段に構えし者に与える」
と、注意書きが添えられている。
「最も重い??」
ジュピターソードよりも?
ちょっとチャレンジしてみなよ、と、
アイが挑戦することになった。
……
……ビクともしない。
「最も重い剣と、最も重い双剣は別物なのね。」
セインがチャレンジを終わらせた。
「いたずらオブジェじゃないの?」
「くっついてるとか?」
そもそも、アイが持ち上げられない武器を、誰が使えると言うのか?
ただの観光スポット?
パーティは立ち去った。
早々と、アイを引かせたのには、訳がある。
……途中の街で耳にした[武道大会]。まもなく、国王主催の武道大会が開かれる。
優勝者の褒美は「可能な限り、願いに沿う」
……これは、場所といい、タイミングといい、報酬といい、まさに、自分たち用のイベント!
大会の会場となる、闘技場に着いた。
参加者の受付をしている。開催日は明後日。
「武道大会……バトルロワイヤル?」
注意書きが貼られていた。
①自分の剣を持ち込んだ者は失格とする。
②剣は闘技場にある物を使うこと。
③盾の使用は禁止。
④用意した剣には、模擬戦用の魔法処理が施してあるが、万が一に備え、参加戦闘時の死亡を事故として受け入れる旨、誓約書にサインすること。
以上、了承する者のみ、参加を認める。
……
4番目が、とんでもないような気もする。
天下一武道会とは、違っていそうだ。
大会が、始まる。
出場者は、闘技場内。関係者は観客席。一般の観戦者はいない。
ガラスに囲まれた特別席に、真実の王がいる。
側近1人と護衛兵が数名。
側近は、これまた大物。[司教7聖]の四席、
[ダイアモーラ]。温厚そうな、初老の司教だ。
真実の王は若い。30歳前後だろう。
威厳がある。アーチャーとして召喚されそうな威厳がある。
名は[ノルエルオス11世]、ただ、誰もが、[真実の王]と呼ぶ。
「うまくいくかな?」と、真実の王。
「さて……ただ、何かが起こる気配はあります」 と、司教7聖ダイアモーラ。
司教7聖も説明しておく。
[聖教会]の頂点が[法王]。その下が[司教7聖]。第一から第七席まであるが、第一席が偉いという訳ではなく同等。派閥や家柄、在年数などで順番が決められているだけ。
法王様の前に並ぶ時に、順番が決められているだけ。
さらにその下に[司教10賢]がいる。こちらは7聖の予備軍。将来有望な者が呼ばれることが多く、正式ではない呼称。10人丁度ではない時もある。誰もが使うが、俗称である。
法王、7聖、10賢、それと軍事部門の[聖騎士][騎士]が、聖教徒が、特に崇める存在。
神父、シスターよりも、更に敬う存在である。
王都などの大都市には、大抵、7聖か10賢が在任している。
この王都に赴任しているのが、7聖ダイアモーラ。赴任先は王都の大教会なのだが、真実の王が手放さない。
常時、最高顧問として傍らに置いている。王城から出るのは、国王が外出する時だけ。
その2人、何を狙う?
武道大会に、何を期待している?
バトルロワイヤルが始まる。
出場者は、闘技場のフィールドを囲むように並んでいる。50人以上いる。
フィールドには、無数の剣が散らばっている。
刺さっている物、寝ている物、100以上ある。
号令で剣を取りに行き、戦う。
見ていて楽しいかは解らないが、セインたち6人は観客席にいる。出場するアイの応援だ。
開始の合図!
……と、同時に、
反則に出た者がいる!
懐から剣を取り出した者がいる。アイたちは見覚えがある。
[キバ]だ。
あの[悪魔の剣]の所有者[クロノ]の仲間。バトルでアイを殺そうとした男の仲間。
しかし、反則で即刻退場!
万能袋が使えない結界が張られている中、直接隠して持ち込んで退場。
……何のため?
思うべきであった。
悲劇が始まる。
キバが持ち込んだ剣は、会場に残った。退場で連行されたのは、キバだけ。
平凡に見えるその剣を拾ったのは、
クロノだ!!
参加者を斬り捨て始めた。
模擬戦処理のしていない剣で、悪魔の宿っている剣で!!
……
一瞬にして、3人死んだ。負傷者はその倍!
フィールドの剣のほとんどは、平凡な剣。
クロノの剣は、平凡に見える非凡な剣。Xブレードと撃ち合って、刃こぼれ1つしない剣。
剣を手にした者は、剣ごと斬られ、逃げた者は背中から斬られた。
『中止なさいますか?』
魔法を利用した通信機から、野太い声。
会場にいる配下から、真実の王への通信。
「負傷者は治療、死者が10人を越えたら止めさせろ。」
王が冷静に指示を出す。
「アクシデントとは、これだったのか……」
通信を切ってから、呟く。
「毎度、断片的な予知で申し訳ありませぬ。もっと見えていれば、被害も抑えられたかと……」
ダイアモーラには、予知の力があるらしい。
「今回も的中した。それで充分だ。見えた部分を変えてしまうと全てが変わってしまう可能性がある……予知とは難しいものだな。
あとは、そなたの見ていない未来に、何が起こるか……」
真実の王はじっと会場を見ている。
何を期待、しているのだろうか?
クロノの凶行を止めに入ったのは、やはりアイだ!
拾った剣は、クロノと打ち合った瞬間に、折れた。
「マジか〜~ぁ!」
剣を折った相手の顔を確認して、笑い出す、クロノ。
「人生最高の日だ。一番殺したかったんだよ。」
斬りかかって来る!
「お前のことを、一番な!!!!」
拾った剣で受ける。またも、折られた。
飛び退いて、一番丈夫そうなのを手にした。
「何が人生最高の日だ!」
体制を整えながら、言い返す。
「これは、殺人だぞ!!」
クロノが、悪魔の剣の段階を上げた。
目の下の黒線は一本、眼の色は緑、体の変化はほとんど無い。剣も少し紫がかった程度の変化。
1段階アップはこの程度。
だが、剣に隻眼が現れた。
悪魔の剣の眼!それだけでも、異常!
「殺人〜? 夢の中で人を殺したら殺人か〜?」
笑いながら、斬りかかって来る。
後方に下がるアイ。
……解っている。この剣も、折られるだけと。
かわしながら、目は、もっと強い剣を探す。
「どうせ、ほとんどNPCだろ?NPCを殺しても殺人か〜?」
「フィクションていうのは、生きた誰かのメッセージだ!アニメ、漫画、映画、ドラマ、小説!!
お前だって、そのどれかに感銘や影響を受けただろ!」
「ホント嫌いなタイプだ。」
また、クロノが変化していく。
「思い出したよ。お前を圧倒したのは3段階目だった。」
目の下に、黒線3本。水泳だとしたら、かなり泳げるようになった。100mか200mは、足をつかずに泳げそうだ。
眼の色もオレンジ。体は膨張。腕には体毛。
そして、悪魔の剣が、ドス黒く豹変。
この前と同じ、異形となった。
「[世界]で格好つけてるお前が、[世界]の自由性を否定するのか?
……いいぜ、俺が全部、ブチ壊してやる!」
異形のクロノが迫って来る!
「I《俺》が[世界]を終わらせる!!
そして俺が、新たなルールになってやる!!」
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