第30話 水神様

 突然、扉が開いた。

 いやいや、扉が無かった所に扉が現れ、それが開いた。

 童子の言う「ドア」は本当にあった。

 童子が中へ入る。

 扉の奥は……同じ景色?

 景色が全く変わらず、両開きのコンビニの自動ドアのような、扉の枠だけが見えている。

「いらっしゃいませ。」

 店員さん……ではなく、2歩進んで振り向いた座敷わらしのような童子。

 頭に、手乗りサイズの黒いミニドラゴンが乗っている。

 ドアよりも、こっちの方が不思議な存在か?

「ご注文は、お決まりですか?」

 コンビニじゃなくて、ファミレス?

 この小さな童子が、まさか水神様?

 すぐに違うと解る。

「まさかとは思いますが、あのダメおや……水神様に会いに来られたのですか?」

(どんな人物??)

 水神様も、この童子も、掴めない。

「どうぞ、お入り下さい。」

 あっさり中へ入れてもらえた。

 でも、景色は同じ。一面の湖が広がるだけ。

(?!)

 先導する童子が、水面の上を平然と歩きだす。

「あ、平気ですよ。普通に歩けますので、ついてきて下さい。」

 恐る恐る乗ると……本当に、普通に歩けた。

 滑らない氷上を歩くような景色。感触は雪の上のよう。

「あの暇なおっさ……水神様のお力です。」

 水神様より、この童子の方がずっと気になる。

「あ、自己紹介が遅れました。私……私は……デ……[デルちゃん]とお呼び下さい。うん、そうだ。確かそんな名前だ。」

 何とも不安な先行きだ。

「何しろ私、名前を呼ばれたの、200年も昔の事でして……」

 歩きながらも、よく喋る。悪人では無さそうだが、どこまで信用してよいのやら……

「ちなみに、この子は[クーちゃん]です。」

 頭上のミニドラゴンを指す。

「クー」

 間違っては無さそうだ……多分。

「デルちゃんは覚えてなくても、クーちゃんはすんなり言えるのね。」

「はい。私はデルちゃんには会ったことも無いです……誰ですか?デルちゃんって?」

 ……会話は疲れそうだ。

 ……にしても良く喋る。

 どんどん喋るので、みんな聞き手に回ることにした。

「何しろ私、人と話すの、200年ぶりなんです」

 それが本当なら、お喋りも納得。

「だから私の事、気軽に[デルちゃん]と呼んで下さい。」

 名前、覚えてるの?忘れたの?どっち?!

「あ、ちなみに、この体は[義骸]といって造り物でして、昔、どこぞの偉い神様に造って頂いたのです。」

『我じゃよ、我!我が造ってやったんじゃよ!』

 突然、目の前に現れたのは、

 大きなドラゴン?!

 色は青いが、ボールを集めると願いを叶えてくれそうな、東洋のドラゴンだ!

 迫力!そして威圧感!

 ……偉い神様と聞いた直後でなければ、臨戦態勢をとっていたかも知れない。

「……そうでしたっけ?何しろ、200年も昔の事でして」

『それからずっと一緒におるだろ!』

「そうなんですよ、私、200年も監禁されているのです、このクーちゃんと一緒に。」

『人聞きの悪い事を言うでない!』

 話相手ならいたじゃん!しかもツッコミ役!

 一気に緊張がほぐれる。

「ちなみに私、魔王が復活した時に戦うべく、こうして生き長らえています。」

 どう見ても、デルちゃんが戦えるようには見えない。

 でも丁度いい。デルちゃんの喋りが止まず、本題に入れないで困っていた所だ。

「私達、大魔王打倒のために旅をしています。」

 話をそちらへ持っていく。

「えっ?そうなんですか?!……いやぁ、私は大魔王は管轄外でして……」

 まだまだ続く、デルちゃんトーク。

「……ああ、そうでした。倒すのは魔女でした。200年前に倒した相手が、魔王でした。」

 もう、何を信じて良いのやら。

「……にしても、200年経ちましたか……いやいや、クーちゃんも大きくなるはずですよ。昔はちっちゃくて手乗りサイズでしたが。」

(今も手乗りサイズにしか見えない……)

「今やすっかり大きくなって、私の方が乗せてもらってますよ、ハハハハハ」

 どう見ても、乗れるサイズではない。

『……で、何用だ?人間共。』

(ああ、神様ありがとう!その言葉、待ってました!)

 来たいきさつを話す。

 それなりに長く説明したのだけれど、デルちゃんのせいで、割愛されてしまった。

『……事情は解った。あの壺、まだあったのか』

 祟りは忘れて大丈夫そうだ。祟りの元を、忘れているくらいだから。

『どれどれ。』

 水神様の目が光り出す。

「千里眼というやつです。離れてても、着替えを覗けます。」

『我の品格を下げるでない。』

 目の光が止んだ。

『ふむ、アレを倒すまでは、使ってよい。』

 見えたらしい。そして、好意的な神様らしい。

『……ただし、力は貸さぬぞ!魔王討伐ならともかく、ザコを相手にしては笑い者になる!』

 違う?こちらも面倒くさい感じなのか?

「神様は、実はお優しい方ですから、待っていれば、ヒントくらい下さると思いますよ。」

 まさかの所から助け舟……そして神様、お世辞に弱かった。

『我と一戦交えて、そこそこ戦えるようならば、力を貸してやってもよい。』

 デルちゃんの軽口に救われようとは。

「水龍様は電撃が大嫌いだから、ビリビリさせるといいですよ。」

 またもデルちゃんナイス!

 雷撃球等を取り出して準備にかかる。

『話にならん!雷聖剣くらいは用意せぬか!』

 機嫌を損ねてしまった。

 雷聖剣……[聖剣]?!!

「……ああ、ちなみに、雷聖剣は今、西の王が持ってます。実はこれから伝説の装備を集めようと思ってまして、ちょっと事情通なんです。」

『わざわざ教えてやらんでもよい!このおしゃべりめ!』

「いいじゃないですか?!約200年ぶりの人との会話なんですよ?!」

 結果的に、水神様よりデルちゃんの方が、ヒントをくれた。

 次はいよいよ、王様に拝謁かな?

 相手もどんどん大物に……て、もう神様に会ってたんだった。

 と、思いきや、

 水を操るから水神様として祀られているが、正確には[五聖獣]、名前の方も、水神様ではなく[水龍]だと教えてくれた。

 一般に神様というと、聖教会の神様のことらしい。

「そうなんですよ。間違って水神様と呼ぶ輩がいて困ってるんです。」

 いやデルちゃん、ずっと呼んでたよ、あんた!

『試練と思え!行き先が解ってしまってるがな』

 最後に水神……水龍に言われた。


 セインがワクワクしている。

「[五聖獣]に[五聖剣]、色んなワードが出て来たわね。」

 もう、その上は、[勇者の聖剣]くらいしか無いようなワードだと言う。

 そしてレイも、何かを思っている。

 水龍の結界から出た途端、

 湖に向かって叫ぶ!

「ギャルのパン○ィ、おくれーーっ!!」

 流石に面と向かっては言えなかったようだ。

 さあ、七つの玉……じゃなかった、雷聖剣を入手するため、西の王国へ!

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