第29話 何か出てぇ!
村人は、討伐を焦っているが、時間を焦っていない。
この答えは、現場に案内されて解った。
確かに、ドラゴンと言われればドラゴン、違うと言われれば違う。
大きさは、前後に象2頭並んだくらい巨大。何かに例えるとしたら巨大な岩。動物に例えるとしたら亀、ガラパゴスのゾウガメ。
そして、歩みも亀。必死なミドリガメなら追い抜けそうなくらい遅い。
首は太く長め、口は平たく大きい。顔はオオサンショウウオ似、その気になれば、人間を丸呑みできそう。捕食はしないらしいが。
アイが攻撃してみる。走って近づいても警戒してない。
剣で一撃!
鈍い音。Xブレードは刃こぼれしてないが、魔物も少し削れた程度。
厄介なのは、ダメージ部分が、すぐさま回復したこと。
攻撃されて、初めて反応を見せる。
首がアイの方を向き、大きく口を開け、無数の石を発射した。
ギガントシールドで防ぐ。直接食らったら危ないが、盾があれば余裕。
……すべて前情報通り。単純な動きの、耐久性と回復力が尋常じゃない化物。
討伐できる人材は見つけたい。見つかったら、根気強く、何泊してもいいから、倒して欲しい。
今まで何組もの冒険者に頼んで、みんな諦めていったらしい。前金を支払ってたら、村の財政も厳しくなった。
クロノは着くなり討伐にかかったのが良くなかった。村に呼んできた案内人は、来る途中の魔物遭遇時にその強さを見て、彼らに期待しすぎてしまった。
「皆様ならきっと倒せます」言ってしまったそうだ。(それでも、その後の彼らを肯定はしない)
火、風、地、雷、氷の5属性も試したが、苦手な反応を見せたものは無いらしい。
魔物の姿の石像かと思っていたものが、十数年前、少しずつ様子が変わり、数年前、ゆっくりと動き始め、今年、村を目指して歩き始めた。
十数年前、少しずつ近隣の土が変わり始め、数年前から、明らかに土が痩せていった。
どう見ても地属性だ。[飛天三日月刀]を放ってみる。
少し削ったが、弾かれて戻ってきた。Xブレードと変わらない。
「魔剣ハンドレッドみたいなのがあれば……」
「……やっぱりあの時、根こそぎレア装備を奪っとくべきだったわ。」
蒸し返すシノ。うっかり口にし、余計なスイッチを入れてしまったと、後悔するアイ。
「そういえば、今回、金にならないのに、文句言わないわね。」
火消しではなく油を注ぐ。さすがはリアリア。人呼んで、空気を読まない女。
「子供に泣いて助けてって言われたら!
もう、背中向けられないじゃない!!」
用意してたかのような、即答!
まさか、これを言う為に、我慢してた訳じゃないとは思うが……
でも、結果的に、でかしたリアリア。
台詞を言えれば、シノはテンションが上がる。彼女の機嫌は、パーティの戦力に大きく響く。
「何か出てぇ!」
カナの召喚!ミサイルハヤブサ!
目に命中、しかし、周囲ごとえぐり飛ばした目でさえ、再生してしまった。
「何か出てぇ!」
ヤケクソのレイ!万能袋からアイテムを取り出す時、指定しないで取り出す機能。一応あるが、使い道がないので誰も使わない機能。まさに神頼み。
……で、出てきたのは、
あの、大きな[いにしえの壺]!
万能袋に、入っている時は重さゼロ、取り出す最中も重さゼロ、出し切ると、途端に重さが!
出しきって、急に重さを感じ、耐えきれず、壺を前に落としてしまった。
勢いよく落下したが、流石プライスレス!(入手困難な貴重品)壺は全く破損してない。
けれど勢いがあったので、激しく傾いて蓋が外れ、中の水が、結構派手に飛び出した。
酒樽の中身を一気にぶっかけた!そんな感じで魔物にかかった。
勢いがあったのは一瞬だったが、魔物が、水を浴びた部分が、完全に石になった。
すぐに石化は戻ったが、
元々、石化が解けて動き出した魔物!
……石に戻せるのか?!
アイが壺を運ぶ!魔物の間近まで!
横に向けて水を浴びせながら、一番効果的な高さと角度を探る。魔物は石化→復元→石化を繰り返すだけで、襲って来ない。いい兆候だ。
全体にかけるのは無理だが、顔の辺りにかけると、後ろ側はノーダメージでも、身動きが取れていない。いい兆候だ。
……あとは、壺の固定。
今はアイが担いでいる。かなり力がいる。代わりの固定台を、出来たら大至急……近くに手頃な大岩があったが、これを運べるのもアイしかいない。
「何か出てぇ!」
……出てくれました。
サイのようなバクのような四足の召喚獣。力持ちだ。[サイちゃん]と命名。岩を押して運んでくれて、とりあえず、落着。
アイがほっとする。
結構、膝に来ていたらしい。
壺の位置をしっかり固定し、一旦、村に戻る。
……嬉しい誤算があった。
出続ける水が流れ込み、水質が、少し回復。
水桃の木の表面が、少し潤い始めた。土の栄養だけでなく、水も汚染されていたのだ。
水桃というだけあって、人間よりも、水に敏感なのかも知れない。
そして、このままだったら、井戸水を利用している村人にも異常が出だしたかも知れない。
……ただ、魔物は倒せていないと告げた。
……それでも、喜んでくれた。
更にしばらくして、偵察してきた者が村中に知らせて大騒ぎ。しばらくは凌げそうだと大喜び。
倒し切る手段を準備する余裕が出来た。
水、水、水……
水属性と言っても、攻撃は氷系がほとんどで、氷結玉、氷結球はあるけど、水流玉、水流球は見かけない。
水、水、水……
……何か忘れてる。
あ!
「水神様の怒り!!」
村長宅の客間で叫んでしまった。
村人たちは、思った以上に反応した。特に年配者、水神様への信奉が厚いらしい。
壺を使い過ぎると、水神様の怒りを買う。そう説明すると、
水神様に詳しい年寄りが、
「村の北方、大きな湖に、水神様は居られる。」
伝説を知っていた。
これはきっと、ヒントだ!
……次の目的地は決まった。
水神様の怒りの方が、あの魔物より危険な気がする……会いに行かなくては!
北に湖があることは、村人に教えられずとも、セインが知っていた。
それほど離れていない。今、向かっている。
……
みんなが口にしない変化があった。
聖水晶は、ナビ機能を失っていた。
なぜ騒がないかと言うと、遺跡でアイを救った光、あの時以来、行先を示さなくなったから。
禁句……ではない。
ナビ機能とアイの命、秤にかけるまでもない。
後悔?不便?
そんなもの、アイを救えた事実を思えば、
「最初から無かった」そう割り切ればいいだけ。
……だから誰も話題にしない。
ヒントで十分。それでこそRPGだ。
で、湖に到着。
かなり広い。対岸が見えないくらい広い。
湖岸に立ち、思う。
(さて、どうしよう……)
いにしえの壺を持ってくるべきだったか?
でもそれでは、村の魔物を止められない。
聖水晶?……割り切ったばかりだ。
「インターホンとか、無いかしら?」
「ドアならありますよ。」
さっきまで誰もいなかった草むらに、
童子が1人、立っている!
……またしても、何か出ました。
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