第28話 危険な男

「[バトル]で白黒つけようぜ。勝った方の言うことを聞くってのでどうだ?」

「待っ!」

「良いだろう」

 セインの静止の前に、アイが受けてしまった。

 クロノの怪しい剣から、天使の人形……ジャッジが現れ、空中に浮かんだ。こうなると、もう引き返せない。

「条件提示をするわ。」

 セインの顔は厳しい。何か嫌な感じがする。この男は危険だと、直感している。

「バトルエリアは中型!場外は負け判定!」

「3回だ!場外は3回で負け判定!」

 セインの提案に上乗せしてくる。

「女、慣れてるな。」

 危険な笑いをセインに向けた。

 ……この男も、そうとうバトル慣れしている。

「対決は1vs1、反則負け以外は、最後の1人を倒した方の勝ち!」

「おい、おい、いいのか?全員参加?戦えるのかよ?残り全部女だろ?」

 危険な笑いに危険な眼力が加わる。

「うちの連中は手練れだぞ。」

 クールな男[キバ]。大男[クラッシュ]。宙に浮く女[バルハラ]。下卑た男[ノス]……全員一癖ありそうだ。

「待機者は必ずエリアから5m以内!それ以上離れたら失格!」

「外野を攻撃した奴も失格だ。」

 言い足して、セインに近づくクロノ。

「そこの野郎は、パワーに自信があるってところか?……面白え殺し合いになりそうだ。」

 殺し合い……そう言った。

「俺が勝った時の要求は、『殺させろ』だ!」

 ……やはりコイツ、イカれている!!

「作戦タイムは無制限」「3回だ!」

「日没で引き分け」「引き分けたら両軍自害!」

「……外野は固まって見学」「…何だそりゃ?」

 そこでセインが口をつぐんでしまった。

「もう、無いのか?」

 優位を悟り、高揚していたクロノの声は普通に戻る。

「……外野がゼロになった方の負け。」

 苦し紛れのように足されたセインの言葉。

「小細工は出尽くしたようだな……じゃあ始めようぜ。」

 狂気の笑みと、勝ち誇った目。

 セイン以外は、今の問答でどれだけ影響するかも解っていない。緊張が張り詰める。

「アイさん、これを。」

 エリアに入ろうとしたアイを、ミコが呼び止めた。そっと聖水晶を差し出す。

「他人の装備を使うのは禁止だ。」

 クロノが条件を足した。

「……その代わり、残りが女だけになったら、生き残りは解放してやる。」

 聖水晶を受け取ろうとした、アイの手が止まった。

「アイ君、ダメよ!!」

 セインが叫んだが、受け取らなかった。

『あの水晶はヤバかったぜ、旦那!』

「やっぱりそうか。」

 戦闘準備に入るクロノが会話する相手は……彼の剣?

 剣と喋っている?!

 そして、戦闘開始の直前、

 天使の人形[ジャッジ]の色が??

 白から……黒へ?!

 姿も、天使から悪魔の人形に変わった?!

「何なの?!」

 驚く、アイ側の陣営。

「俺様専用の[ジャッジ]だ!……安心しろ。審判は公平だ。」

 バトル開始!クロノが斬りかかって行く。

「……ただし!このバトルの[死]はそのまんま[死]だ!生き返ったりしねえ!!」

 笑いながら、殺し合いを始める。

 やはりこの男、イカれている!!


 パーティが動揺する中、

 アイは冷静に見えた。

 ……つばぜり合い、剣技は互角?アイが若干に有利程度だが、

 力は勝っている!クロノをどんどん端へ押しやる!そして!

 畳3畳!!

 ライバーから貰った巨大な盾[ギガントシールド]が、ここで登場!

 巨大シールドを横向きに出し、驚いたクロノにシールドごとタックル!

 場外へ押し出した。

 歓声!と笑い声!

 クロノの仲間、とくにキバとクラッシュが、大声でリーダーを嘲笑っている。

「おいおい。」

「俺と替われ!旦那!格好悪いぞ!」

 まんまと押し出されたクロノも、

「思ったよりやるな。」

 慌てる様子はない。

『2段階上げますか?旦那?』

「いいや……3段階だ!」

 再び剣と会話する。

 中央へ戻る両者。

「何……あれ?!」

 クロノが……変化している?!

 黒い涙が流れたような黒線が、両目の下に3本ずつ。眼の色もオレンジ色、充血とはちょっと違う怪しい色。体も一回りまではいかないが、筋肉量が明らかに増している。まくった腕の肌が見えていた部分は、黒い毛むくじゃら、まるで

 ……「悪魔」に、近づいた?!

 そして、もっと明らかに変わったモノ!!

 クロノの剣が、ドス黒い刀身になり、さらに赤く不気味な隻眼が現れた。完全に別物だ!

 隻眼の黒目が動く。剣が生きている?!

 セインは、ミコは、感じとっていた。

 だから、聖水晶を渡そうとした。

 今度はアイが、押されている!

 聖水晶つきのXブレードなら、この邪悪さを打ち払えた。加護のある2人は思っている。

 ……それは、アイも同じ。

 同じ聖なる加護を持つ騎士、クロノに違和感は感じていた。

 でも、「生き残りは解放してやる」そちらの条件を選んだ。

 後悔はない。でも、押されている。

 一番不利なのは、

「作戦タイム!」

 セインが1回目をここで使った。

 一番不利なのは、勝ち=相手の死=実際の死、味方の命のために、相手を殺せるか……だ。

 セインがアイに作戦を伝える。少し長めの指示を出している。

「やれる?」

「解った……やってみる。」

 細かい指示を受けて作戦タイム終了。

 バトル再開。

 と、

「おいおいおい。」

 クロノが呆れる。

 自軍応援団の前に陣取るアイ。

「何の真似だ?」

 と言いつつも、クロノのラッシュ!

 必死で剣を受けるアイ、時々かわす。

 かわした内の一回が、後ろのシノに当たりそうになる。

 ……攻撃を止めたのはクロノ。

「……そういう事か。」

 嗤い出す。

「反則狙いってか?」

 声をあげて嗤い出す!

「クククッ!いいぜ!……後ろの奴を貫通するくらいの反則をしてやるよ!!」

 仲間がギリギリ前に出ているのにも気づいている。そして、本気だ!

 攻撃を受ける前に、アイが走り出した。

「おいおいおい。」

 また嗤う。

 そしてゆっくり歩いて近づいていく。

 アイが次に陣取ったのは、敵応援団の前?

「お前ら、死んでも文句言うなよ。」

 クロノが嗤っている。

 彼の仲間も嗤っている。

 クロノが近づいた時、

 攻撃を仕掛けたのは、アイ!

 横に振ったアイの剣が、クロノの右脇腹をかすめる。

(投げた?!)

 Xブレードではない、飛天三日月刀!!

 まだ射程があったのに攻撃され、投げたことにも意表をつかれ、慌ててかわした。かわされてしまった。

 丸腰になったアイがXブレードを取り出すまでの間に、

 攻撃して来ない!来てもギリ受けただろうが、クロノはアイも攻撃して来ないその間に、投げた剣を目で確認した。

「……そういう事か。」

 理解してから攻撃開始!やはり戦闘に慣れている!

 手の内を読まれたアイ、だが、背後から迫るタイミングまでは、

 タイミングまでは読めていないが、背後を見ている眼が!

 ……クロノの剣にある!!

『来たぜ、旦那!』

 剣に知らされ、背後からの飛天三日月をかわそうとするクロノだが、

(?!)

 軌道が、少し、違う??

 その時、

「!!」

 再びの畳3畳!

 今度は縦に、通常の向きでギガントシールドが出され、注意が、注目が、

 後ろの観客も、巨大な盾に注目した!

(ヤロゥ!!)

 クロノが気づいた!

 盾の横を飛天三日月が抜ける!

「……外野がゼロになった方の負け。」

 最後にセインが足した条件。

 ヤロゥ!!とは、野郎ではないセインに向けられた感情!

 弧を描く飛天三日月刀、後ろの観客は急接近でやっと気づいて、後方へ慌てて避難!

「動くな!!」

 飛天三日月刀が、叩き落とされた。

 戦い慣れは、1人では無かった。

 大男クラッシュが叩き落とし、誰も5mより外に、いや、1人下卑た男ノスだけ出てたが、失格は1人、チームの勝利には全然満たない。

 アイは動いていた。

 盾の左側から抜け、再びXブレードを取り出して構える。

 と、

 残された盾が、後方に倒れていく。

 ……この巨大な盾も、下敷きになったら、ただでは済まない!

 また、音がした!

 盾が倒れるのを止められた音。

 大盾を支えたのも、大男クラッシュ。

 ……ここで、

 ジャッジが反則負けの判定。

「……つまんねえ終わり方だ。」

 不服そうなクロノ。アイチームが続行を拒否したらバトル終了。条件通り女性陣は助かるが、アイは……殺される。

「リプレイと再審議を要求するわ。」

 セインは諦めていない。

 空中に、みんなが見れる映像が現れる。

 セインが希望し、飛天三日月刀が迫るあたりからの、クロノ陣営側視点の映像。

 刀が迫り、クラッシュが落とす、アイが横に飛び、Xブレードを取り出して構える。

 ……ここまで映し出された。

「……見た通り、妨害行為により、相手の反則負けを要求します。」

 当然のように主張するセイン。

「どこがだ!くそアマ!!」

 クロノがキレた。

「まず第一に、飛天三日月刀、

 ……この軌道では、後ろの観客には当たらないわ。」

 仮想進路を算出した映像が出る。

 ……確かにギリギリ当たらないで、弧を描いてアイの左手側に回る進路だ。

「場外の待機者に当たりそうな攻撃、その時点で反則だろぉが!!」

「おやおや~」

 セインがイタズラっぽく笑った。

「それを言うなら、貴方の攻撃の方が先に、場外にいたうちの大事なシノちゃんに、当たりそうになってますよ〜」

 アイが味方を背にした時だ。

(この女?!計算尽くか?!)

 クロノが思ったのは、まだまだ浅かった。

「……次に、ギガントシールドが観客側に倒れたのは、敵のせいで不可抗力です。」

 盾の横からの再現映像。アイはクロノ側に傾けて横に抜け、前に倒れかけたのを、クロノが押し返したのが見えた。

「対戦相手に傾けたのは立派な攻撃、反対側に倒れたのは、そちらさんのせいです〜」

 ぐぅの音も出ない。……いや、出た。

「じゃあ、バトル再開だ!!」

 怒りのクロノ。

「……何言ってるの?大事なのはこれからよ。」

 セインが再度、映像を要求。

 アイが盾裏から左に抜ける映像、その後すぐにXブレードを取り出して構える。

「……ここです!」

 さっきも見た映像と変わらない。

「……剣が無かったから、Xブレードを取り出した……そうですね、アイさん。」

「は、はい!」

 言わされているような返事。

「……盾を捨て、戻ってくる飛天三日月刀を取って、反動を利用した攻撃をしようとした。なのに、当てが外れた……そうですね、アイさん。」

「はい!」

 2回目なので少し慣れた返事。

「……このように、観客に攻撃を邪魔されて不測の事態になったのが、映像で明らかです!」

 優秀な弁護士になれそうだ。

 今度こそ、ぐぅの音も出ない。

 が、気持ちを切り替えて

「バトル、再開だ……」

 反則になるのは、自分か、クラッシュか……そんな風に思っているのだろう。言葉に力がない。

「あれあれ〜?何言ってるのかな〜?」

 セインの口撃は、まだ終わっていなかった。

「『反則負け以外は、最後の1人を倒した方の勝ち』……どういう意味か、おわかり?」

 最初の方に、確かに言った。

「反則負けは、即、バトル終了って意味よ!」

 ……チェックメイト!!

「凄いわ、セインさん!」

 歓喜で迎えられた。

 条件提示も作戦会議も、どこかで反則勝ちを狙うつもりの何重もの計算。

「マークする相手を見過ったな。」

 寄ってきたクラッシュに、

「てめぇのせいで反則負けだろ!」

 怒りの矛先が自分に来て、クラッシュが苦笑。

「アイさんも、お疲れ様。」

「凄かったです!」

 セインの指示通りとはいえ、寸分狂わず実行できたのは、やはりモラル=運の高さだ。

「生きた心地しなかったわ……」

 リアリアの言葉……ただそれは、セインも同じ気持ちだった。狂気の相手、独りだったなら今、へたり込んでいるだろう。

 レイが、集まっているみんなの前に出た。

 手にしたモノを広げる!


       『勝訴!!』


 ……魔法紙に書かれていた。

 魔法紙は高いけど、笑いと喜びに奮発。

 ……チームに笑いが戻った。

 そして、敗者への要求は、

「二度と、接触して来ないで!」

 セインが言い放った。

「……それから、今すぐこの村から出てって!」

 勝った方の言うことを聞く、一般的なバトルの勝利条件。

「落とした水桃も拾って、村の人たちにも謝っていけ!」

「……そんなに幾つも聞けるか!」

 クロノたちは、謝らずに村を出て行った。

 最初に色々勝利条件を提示しなければ、最低限(1つ)守ればいい。それとは別に、同じ場所にいたくない場合、勝者が敗者を追放できる。クロノたちは、その最小限だけ守って消えた。

 アイも深く追求しなかった。

 セインの嫌悪を感じ取っていた。

 プレイヤー殺しを嫌っている!


 ……そして、気持ちを引き締める。

 あの手練れ連中も倒せなかった敵と、明日戦うのだ。

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