第95話 勇者からのメッセージ

「そろそろヤバいです!」

 ハリィが後方で叫ぶ。

 右手を上げて、特大火球を作っている。

 綿あめのように、回転しながら、ゆっくり膨らんでいる。

 制御が難しくなり、顔を引きつらせるハリィ。

 もっと引きつっているのは、相手チーム。顔面蒼白。さっきのナイフの不意討ちより、こっちの特大サイズに「反則だろ!」と言いたい。

「よし、カモォン!」

 ライバーの合図で、敵陣に走り出すハリィ。右手を上げたままなので早くはないが、大火球はしっかり付いてくる。


 [バトル]の使い道も、ライバーは詳しい。

 魔法が使えず、前のパーティに見限られたハリィ。使えるのは、初級の火の魔法、使える属性も火属性のみ。

 ……でも、続きがあった。

 膨らませるだけなら、特大の火球が作れる。ただし、敵をロックオンしても、飛ばない……

 どこでもいいから放とうとしても、飛ばずに、近くで大爆発する。

 一度、魔法が使えるところを見せようとして、やらかした。

 大火球が近くで爆発し、自分と仲間2人が大怪我。立場をさらに悪くした。その時の直径は60センチ程度。

 それを聞いたライバーは、早速実験。

 [バトル]を応用して模擬戦闘。

 バトルなら、致命傷でも死なない。

「限界まで大きくしてくれ。」

 要望通り、やってみるハリィ。

 透明化と可視化も切り替えできると見せた。

 透明化すると、全く見えない。

 可視化すると、突然現れたように見える。

 巨大な魔法は時間がかかる。相手に悟られにくくするための機能のようだ。

「いいな、その機能。」

 ライバーが言ってくれた。

「そろそろです。」

「撃てるか?」

「……撃てません!」

 やはり無理だった。

「爆発します!離れて下さい!」

 ハリィが言うと、

 ライバーは、近寄って来た!

 ……2人とも、吹っ飛んだ。

 ……引き分けで、バトル終了。

「凄いな、ハリィ。」

 大の字に寝転んで、笑うライバー。

「スゲェ痛いな。」

「……はい。」

 バトルでは死なないが、痛みは軽減されないと言われている。

「使えるな、これ……時々使ってもいいか?」

 必要とされるのが嬉しくて、ハリィは二つ返事でOKした。

 そのあと、ライバーが一言足した。


 大火球を連れて、敵陣へ迫るハリィ。

 相手は、撃てないことを知らない。

 敵には他にも足かせがある。粋がっている連中は、互いに弱みを見せない。場外に逃げたら、明日から肩身が狭い。「参った」と言った奴はビビり扱いになる……色々考えている間に、

 ハリィと、ライバーが突っ込んで来た。

 後方へ逃げてしまった敵前衛も含め、5人を巻き込む大爆発!!

 敵の待機組の目の前だったが、魔法は、バトルエリアの外へは影響しない。知らない連中が、結構後ろへ逃げ出してたけれど。

 2人残ったライバーチームの勝利。

 ハリィとライバーは爆死。

『これ……時々使ってもいいか?』

 二つ返事でOKしたハリィに足した一言。

『必ず一緒に、爆死してやるから。』


 バトルの勝利報酬はごまかせない。

 持ち物全部、出させている。

 27人が、身ぐるみ出して、パンツ一枚で正座するまでの間に雑談。

「……あとから10人出てきた時は、

 吹き出しそうになって、慌てて後ろ向いたよ」

「あん時、ニヤケ顔でこっち向くから、こっちも笑いこらえるの大変だったぞ。」

 笑いながらの待ち時間。17人分が27人分に増えたのを喜んで待つ。

 提出が終わったようだ。持ち物は、元々自分たちのと、奪った物に、分けさせた。

「なあ、勘弁してくれ。」

 元々の所持品は返してくれと、頼まれた。

「いいよ。」

 返す前に、先の被害者3名、ずっと待っていてくれた3名に、持ち物を返す。

 さらに、こいつらの所持金(結構あった)の半分を渡し、「加害者にはなるなよ」と釘さしてから、先に帰した。

「ところで、」

 正座してる連中に向き直る。

「80人は、食ってますよね?」

 奪った品が、相当ある。

「その分だけ拷問します」とは言わなかったが、

 結局許さず、パンツ一枚で放免した。

 同じことをやってた相手には容赦しなかった。正しく罰を受けて、生まれ変わってくれることを期待する。

 連中の所持品は丸ごと貰い、装備が少し強化された。面白いものも1つあった。

 奪われた分は、教会に届ける。

 バトルの戦利品は、正式な譲渡になるのだが、現所有者(ライバーたち)が届ければ、取られた元所有者が教会を訪れた時、返される仕組みになっている。

 問題があるとしたら、異教徒は教会出禁な事。

 教会によっては門前払い。運良く話の解る聖職者がいれば、中には入れなくても、預けることはできる。

 教会の外で修道士に話すと、責任者を呼びに奥へ、現れた神父は、快く受け取った。

 用は済んだ。

「お待ち下さい。」

 奥からガタイのいい修道士が4人、全員手に何か持っている。

「こちらも、貴方がたに預かっております。」

 アイテムを渡された。

 帰ってきた!

 ミツは[忍者グローブ]。万能袋から取り出す動作を省ける装備。ナイフを投げたら、次のが手に現れる、手品のような動作ができる。投げる→取る→投げる、ではなく、投げる→投げる→投げる、が可能となる便利な装備。忍者は両利き、左右で連射できる、彼のお気に入り装備。

 ハリィは[炎の石]。初期のレア特典で、何故か「炎」ずくめだったハリィ。炎の石は、炎魔法の詠唱時間の短縮と、威力増強。持っているだけで効果がある。炎特化を少し減らしても、普通に魔法が撃てるようになりたいハリィだが、戻って来たのは素直に嬉しい。自分にピッタリのネーミングだしね。

 先生は[輪唱の数珠]。普通の数珠と変わらないように見えるが、実はパーティにとっては、この数珠の返還が一番大きい。攻撃、魔法、速度、防御、魔法防御、この5つを同時強化できる補助魔法が使えるショーイン。MP消費が少ない分、効果が切れるのも早い。一人ずつバフ掛けするので、チーム全員にかけるとしたら、バフ係で終わってしまう。ライバーだけに絞っても、重ねがけ(全5段階)するなら、チーム攻撃力ナンバー2でありながら、バフ係に追われてしまう。

 この数珠を手にしていれば、戦闘行動を取っても、口で唱え続けていれば魔法継続できる。持続効果も上がる。つまりは、チーム全員5段階強化しつつ、切れて段階下がるそばから再強化しつつ、前衛で戦えるアイテムなのだ。

 アイと再戦バトルした時、ライバーは魔剣ハンドレッド、居合ブレード、ソードロッド、虹色の鞘と、4種も激レア装備を持っていた。それなりのイベントを攻略しないと入手できない。それを可能にしたのが、この[輪唱の数珠]だ。

 そしてライバーは[虹色の鞘]……のみ。

「えっ?!鞘だけ?!」

 思わず声にするライバー。

 ド派手な赤の[マタドールの服]は破損消失したが、激レアの剣はレアハンターに奪われた。壊された訳ではない。

 ……手紙が付いていた。

 勇者アイからのメッセージだ。

『ゴメン……使っちゃった。』

 ……以上。

「なんじゃこりゃあ?!」

 Gパンを履いた刑事が撃たれたような叫び!

 激レア剣3本が[X聖剣]の素材になったとは知らない。

「鞘だけ……って……」

 しかも、所持している好きな剣を任意で取り出せる特別な鞘なのに、入れる剣の方が無い。

「リーダーは、シロ○コじゃなくて、ジェ○ド中尉のポジションですよね。」

「……せめて、ヤザ○大尉と言ってくれ。」

 打ちのめされると這い上がるタイプ。

 先生はライバーをこう例えた。

 這い上がるか、活躍するか、それはちょっと先の話。

 そして、もっと先の話を少し、


 この時期よりも、けっこう後の話になるが、未来のオリンピック候補の高校生が、世界大会出場を辞退する宣言をした。

 彼は競泳のホープ。3ヶ月前、突然、記録が伸びた。ドーピングを疑われるどころか、別人と入れ代わった、サイボーグ手術を受けた、そんな噂が飛び交う程に。

 世界記録を簡単に塗り替えた。また更新、さらに更新……公式機関が拒否し、記録が非公式となる。視察、偵察に来た各国の関係者が、実際に見て唖然とする。

 どんなイカサマを使っている?!いや、例えイカサマでもあそこまで記録は出せない!

 ドーピング検査に、世界運営以外にも12ヶ国が彼の検体を持ち帰ったが、どの国でも陰性。

 彼自身が一番驚いてたが、原因があるとしたなら……[世界]?!

 同時に大勢が、謎の意識不明から復活したことにより、世間も認めだした[世界]。

 その体感者の、身体能力が上がっている。

 一部のマスコミが取り上げ、話題になった。

 そして……代表候補の辞退。

 引退も考えているという、記者会見。

 ……数日後、辞退撤回の記者会見。

 そこで本人から語られたのが、勇者アイからのメッセージ。

「……世界大会に出て欲しい。例え[世界]が原因だったとしても、元々あった、貴方自身の潜在能力が開花しただけ。可能なら、これからも現れる[世界]影響者の『目標』となって欲しい。」

 彼のブログには、以前から[世界]の事が書かれていた。中でも勇者アイは「命の恩人」と、何度も何度も語られている。悪魔クロノに襲われた街、あそこに彼はいた。絶対者ゴッドとの戦いも見ていた。攻撃が全く通じない相手に、何度も立ち向かう姿。悪魔クロノに死を覚悟する人々を救った英雄。

 その彼から、辞退宣言の直後、メッセージが届いた。

「……日本人しか出来ない凄い技、日本人が強い競技、いつだって、運営側がルールを変えた。

 その度に、日本人は新しい工夫をして、戦ってきた。

 ……世界の方が貴方を拒んで来るまで、

その力を、誇りを、世界に見せつけて欲しい!」

 これが、勇者からのメッセージ。


 ……その後、世界を席巻する日本の若者が、様々な競技に登場する……でもこれは、余談。


 しかし[世界]、まだまだ奥が深そうだ。

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