第94話 バトルの達人
とある街の広場。他の街と同様、仲間募集の冒険者が集まる場所。
[ショーイン]は、チームによっては引っ張りダコのヒーラーだったが、とある理由でまだ1人だった。格好は山伏、あるいは虚無僧。頭巾や深編笠のない、顔が見える山伏または虚無僧。
その日、募集者は10組近くいた。
自分の面倒くさい事情を説明しなくてはならないので、片っ端から声をかけることはしない。
「仲間募集」
「仲間募集」
「メンバー募集」
ボードに文字を書いて持って立つ。お決まりの募集の仕方。
「ヒーラー募集」「僧侶募集」とあれば、声がかけ易いのだが、
「仲間募集」
「仲間募集」
どれも同じ。
「仲間募集」
「仲間募集」
「麦わらの一味で……」
(ん?)
全く違うことを書いている前で、足を止めた。
「麦わらの一味で一番強いのは、[???]だ!」
持っている男の顔を見る。
向こうもこちらを見て、笑った。
「一番強いをどう定義付けるかにもよるが、
俺は『ウソ○プ』だと思う!!」
大きな声で、言い切った。剣士の青年だ。
声が大きかったのは、ショーインの後ろまでハッキリ聞こえるように。
後ろに、足を止めてるもう1人がいた。
格好は忍者の若者。まだ少年とも呼べる、小柄な若者。同じく顔は隠れていない、忍者の若者。名前は[ミツ]。
「理由は簡単だ!逆に考えて、誰になりたくないか、誰の能力だったら困るかだ!」
ル○ィ?なってみたい。ゾ○?大歓迎。サ○ジ?いいね。チョッ○ー?重宝されそう。ウソッ○?……生き残れる?俺?
「……て、訳だ」
理屈っぽい奴だと思ったが、面白そうな奴だとも思った。
「俺はヒーラーで、」
ショーインが自分の事情を説明しようと思った時、後ろで揉め事が起きた。
「クビだよ、クビ!消えてくれ!」
「魔法を使えない魔法使い?……笑える!」
「名前が[ハリィ]? 超ウケるぜ!」
「名前を言えないあの人とでも、戦ってな!」
囲まれて、一方的に口撃されている、まだ少年とも呼べる、眼鏡をかけた若者。
気づくと、ウ○ップ推しの剣士[ライバー]は揉め事に首を突っ込んでいた。
「魔法使いってのはな、」
初対面なのに、もうハリィに肩を組んでいる。
「いるだけで[レア]なんだよ!」
一言も返せていないハリィの分まで吠える。
仲裁に行ったのか?喧嘩を売りに行ったのか?
「それが解らないマグルなんて、こっちから切り捨てちまえ。」
親譲りかは知らないが、無鉄砲で子供の時から損ばかりしてそうだ、
この、大病院の坊っちゃんは。
「[バトル]したら、お前らなんて、一瞬だぞ」
この挑発には、された側が一斉に笑い出す。
「やって見るか?俺が負けたら、何でもやるよ」
この時のライバーは、まだ[世界]に来たばかり、大勢とやり会えるほど強くはない。
「……その代わり、俺が勝ったら、この魔法使いを貰う!!」
負けても全く損はしない。そう思って相手が受けてきた……バトルの達人が、もう仕掛けていることに気づかず……
ライバーの出した条件は2つ、
「ハリィがやられたら、チームは負け。」
もう1つは、今向かい合っている連中との間に、自分の手で線を引いて、
「我々は、エリアの左端から開始、そっちは右の端から開始。」
つまりは、ライバーとハリィが左、相手6人が右に陣取る。
例え強かったとしても、3.4人でライバーを抑え、残る2.3人でハリィを襲えばいい。
相手側は作戦も決まり、条件を飲んで、バトルになる。
「俺が勝ったら、仲間になってくれ!」
左の陣から、観衆2人にライバーが手を降る。
「おう!」
ショーインが答えた。ミツは無言、まだ一言もない……でも、興味深く注目している。
バトルの達人は、どうやって勝つのか?
ジャッジの合図でバトルスタート!
「?!」
「?!」
「?!」
観衆も、敵も、……ハリィも、唖然?!
……勝敗は、即決した。
「わは、わは、はははははっ!」
終わっても、笑いが止まらないショーイン。
一緒に笑うライバー。
ハリィは照れ笑い。
ミツは無言だが、輪の中にいる。
「傑作!!」
ショーインの言うとおり、傑作、奇策、
……始まるなり、
ライバーは隣のハリィに斬りつけ、終了。
ハリィがやられて……終了。
やられたら、チームは負け。
……
クビ勧告の中に乱入、
勝ったらハリィを貰う、
……まだ、ハリィは敵メンバーなのだ。
陣地誘導も巧み、本来なら敵味方で左右に分かれる所を、条件に入れて認めさせる。
「面白かったよ。」
こいつと居たら楽しめそうだ。ショーインは思った。
「約束通り、仲間になってくれ!」
このやり方を笑ってくれる相手を、ライバーも求めていた。
「ああ。ただ……」
今度はショーインが腹を割る番。
設定が[異教徒]だという。回復魔法は使えるが、全ての[聖教会]に出入りできない。仲間になると、同じく異教徒扱いになってしまう。
「全く問題ない!」
ライバーが一言で切り捨てる。
「俺はただの剣士だけど、前衛。そこに、僧侶、魔法使い、忍者……完璧なパーティだと思わないか?」
みんなを見るライバー。
「あ、あの僕!人見知りで…魔法もダメだし…」
「全く問題ない!」
ライバーが笑う。ショーインも笑う。
ハリィも笑顔になる。
「あ、」
ミツが声を出した。
もし、誰かと旅するなら、ここだと思って勇気を出した。
「あま、あまり……喋……」
「全く問題ない!」
ライバーが笑う。
「むしろ、忍者っぽくていい。」
ショーインも歓迎する。
「よ、よろしく……」
ハリィにも迎えられた。
4人パーティの結成!
「よし、目標だ!……女子を仲間にするぞー!」
おーーっ!……の準備をしていた3人の手が止まる。それが目標?……って思ってから、みんなで笑った。
……あれから、人員募集は一度たりともしていない。メンバーが足りてないと思ったことが、一度たりとも無いからだ。
バトルに出くわす達人のライバー。
[世界]に復帰早々に、イジメに近いバトル現場に遭遇。
10数人の、恐らくはカツアゲバトルを得意としているチームが、裸で正座している3人の、恐らくは新参チームをシメた……そんな現場だ。
新参が、最初に生意気な口をきいたのだろう。身ぐるみ全部奪われ、正座。
「仇、取ってやろうか?」
1人で乱入するリーダー。他の3人は、呼ばれるまで待機。
大勢に笑われてる。そして、すぐに呼ばれた。
行くと一列に並ばされ、向こうの1人が、左目を光らせた。ライバーたちを見てる。
左目の光が消えると、その男が笑った。
(なるほどね……)
大体わかった。
敵の装備をまずは確認。多分そういうスキル。
「少人数じゃない時に、カモが釣れたのははじめてだよ。」
相手がバトルを受けた。どちらがカモかは、これから解る。
常習犯なのも解った。少人数で因縁つけてバトルを仕掛け、相手が受けたら援軍が現れる。大勢で戦い、根こそぎ身ぐるみを剥ぐ。
「細かいルールを決めよう。」
ライバーの条件提示。
「フィールド内は各4人まで。入れ替えは自由。
交代は、プロレスのようにタッチすればOK。」
「敵に攻撃されている最中の者は、交代不可。戦闘できなくなったら敗北。」
「いいぜ。」
相手が条件を飲み、そして高笑いをしだした。
物陰から、さらに10人ほど出て来た。これで相手は20数名だ。
「戦闘できなくなったら敗北?……吹き出しそうになったぜ。」
そう言われたライバーが、思わず敵に背を向けた。表情を読まれまいとして。
すぐ後ろの味方3人には、見えてしまったが。
「誰か1人やられるまでは、前に出れるのは2人のみ。」
相手に向き直り、平常を装って条件追加。
「これ以上、お互い増員不可……それで手を打つぜ。」
4人vs27人のバトルが始まった。
負けた方は、「所持品全部と謝罪の正座」、さっきの3人の時と同じ。
あとは通常のルールが有効。場外に故意に出ると失格などだ。
天使姿のジャッジの合図でバトルスタート!
前に出たのは、ライバーと先生。
相手側は、剣使いと棍使い。多分、敵の中でも強いメンバー2人。
近づくなり、ライバーが仕掛けた。
「君は、ぼくの心臓のことを知ってるのかい?」
間があった。
相手が固まってから、キレ気味の攻撃!
「何じゃ、そりゃ?!」
剣撃を受け、受け?!
ライバーが、思わず下がった。
一撃だが、二撃来た?!
相手が不敵に笑う。ライバーも、心の中で笑う
(その剣、欲しい!)
先生ことショーインも、思わぬ一撃を受けた。
モブと思ってた相手の棍の一撃。長杖で受けたが、思ったよりも、強力だった。
先生が、間合いを取った。
僧侶だが、杖攻撃も棍攻撃もできる先生。高野山の僧侶のように、そこそこ戦える。
「ビビったか? 使うMP増やせば、もっと破壊力がでるぜ。」
先生が思ったのは、ただ一つ、
(その棍、欲しい!!)
……そして、
「今から『伝説の布陣』ってやつを再現して見せよう。」
先生の長杖の先端が、淡く光った。
癒しの呪文の光に似ている。その光で、
空中に描いたのは[五芒星]!召喚などで使う五芒星!
その五芒星の光はすぐ消えたが、先生が何やら唱え始めた。
「我が前方にモリ! 我が後方にシバタ!」
召喚が始まった?!
「我が右手にナガシマ! 我が左手にオウ!」
?? 超ビッグネームは入っているが??
「金剛石の要に、ドイ!クロエ!
両翼には、タカダ!スエツグ!」
これは??!
「……確かに『伝説の布陣』」
ライバーが突っ込む。伝説の……『V9』!
また、間があってから、
「知るかっーー!!」
「テメェら、冷やかしか!!」
ライバーと先生、同時に猛攻を受けた。
「まあまあ、『魔術師』もちゃんと入ってたし」
塀際の……魔術師。
「スエツグよりクニマツだった?」
もう、おふざけは効かない。聞いてない。
猛攻を受ける2人も、防戦一方。
技レベルの違いであしらっているが、あと25人もの相手は無理だ。
「待った!……ひざまずく!」
ライバーが、相手を止めた。
剣を納めて、かがんで、片膝をつく。
「今更、謝ってもー」
相手は斬りかかる。許す気はない。
剣が振り降ろされる前に、
「?!」
……ナイフが2本、敵剣士の腹に刺さる。
後方のミツだ。
シノとナイフ投げで競った腕を持つ、ミツ!
怯んだ相手を、
居合ブレードほどは速くは無いが、居合で一閃し、崩れた相手に、トドメの一撃!
ライバーが相手を倒した。
[バトル]での「怪我」も「死亡」も、終了後には復活する。だから、容赦なく斬った!
「テメェ、汚ねえぞ!」
「反則だろ!」
外野の声。
『前に出れるのは2人のみ』。これは、攻撃参加が2人という意味ではない。
もうすでに、バトルの達人の罠は張り巡らされている。
すぐに1人補充しようとして、気づく。
『交代は…タッチすればOK』……戦闘不能者がタッチなんてできない!
「こっちも、遠距離攻撃入れる!代われ!」
後ろにいた参戦中の2人に指示!
誰かやられたから、もう前に出ていいのだが、3人掛かりでまず1人、そういう戦法を取るようだ。
しかし、交代できない?!
『攻撃を受けてる最中は…交代不可』受けてる?誰から?ずっと後ろにいた2人なのに?
……開始直後にすぐ「ロックオン」されていたのだ!
「ハリィ、可視化だ!」
ライバーの指示で、ハリィが魔法の透明化を解いた。
「何じゃ、ありゃあ……?!」
叫びにならない、驚き……
ハリィの頭上に、特大の火球が現れた。
運動会の大玉転がしよりデカい。
ハンドボール大の魔法でも、当たると結構威力がある。これはその、何倍?何十倍?
前衛年長コンビの時間稼ぎは、全てこのためにあった。
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