第93話 あれから、どれくらい

「ミツ!逃げろーーっ!!」

 リーダーが叫んだ。

 僕は、窮地の仲間を背にして逃げた。


 あれから、どれくらい経ったのだろう……


 [レアハンター]……[世界]が意図しない、恐らくは「バグ」か「ウィルス」であろう魔物。[世界]のクリエイターとは別の誰かが、[世界]を混乱させる為に、送り込んだ魔物。

 倒すのがまず「不可能」とされている魔物。

 僕たちは遭遇してしまった。

 レアハンターと解るや、リーダーは僕に幾つか指示を与えた。その間に……盾になった先生が斬られた。

 僕はダッシュでその場を離れ、すぐに隠密歩行に切り替えた。

 少しして、遠くで大爆音が聞こえた。

 これは多分、ハリィの自爆魔法……

 ステータス画面を開く。少し距離を置いてから確認しろとリーダーは指示していた。

 パーティ欄の先生とハリィに……死亡の文字を確認……

 ……そして、確認中に、リーダーにも「死亡」の文字が……

 確信した。レアハンターが勝ち、次は僕を追ってくる!!

 [隠密歩行]は僕のレアスキルの一つ。気配も消せ、姿も消せる。ただ、走ると解除されてしまう。もし、レアハンターの追跡能力の方が優れていたら、僕は助からない。

 街の中には入って来ないという噂、僕は、僕のスキルとその噂に、全てを賭けた!!


 あれから、どれくらい経ったのだろう……


 目が覚めたら、ベッドにいた。

 ここは……病室?……現実の病院??


 (……生き返ったのか?……僕?)

 ぼんやりと、病室の天井だけが見える。体をほとんど動かせない。長い入院で筋力が弱っているのだろう。

 (他のみんなはどう…)

 考えている途中で、見えた!

 涙が止めどなく溢れて来て、通常に戻りつつあった視界が、またゼロに近く濁ってしまった。

「遅かったな、ミツ!」

 この声は、間違いない!!

「まあ、僕たちも、さっき目覚めたばかりですけどね。」

 涙で見えなくなる前に、確認できた人影は3つだ。

「やってくれたな。お前のお陰だ、ミツ!!」

 先生、ハリィ、そしてリーダーの声だ。

(リーダーの指示のお陰です!!)

 返そうとしたが、声にならなかった。


 僕たちは、オフ(現実)でも何度か会い、互いの素性も知っていた。

「みんなの素性は強要しないが、自分の事は是非知っといて欲しい。」

 そう言い出したのは、リーダー。リーダーは大学生、私立の名門校。

 先生は2年目になる小学校教師。登録名「ショーイン」で教師だから「先生」。

 僕とハリィは高校生。

 で、リーダーが言い出した理由は、父親が大病院の院長である事。

「もしもの時は、全員入院できるように手を打っとく。」

 その言葉通り、僕たちは入院できた。


 感染症患者で病床が足りない中、[世界]で倒れ意識不明になった若者たちは、回復困難な謎の病、病床不足で優先されなかったり、家族が諦めてしまう例も少なくなかった。

 リーダーの父親も、意識不明の原因が[世界]否定派で、何度も衝突して親子関係も不仲だったが、

「もし突然、仲間が面会を求めて来たら、会ってやってくれ。」

 その言葉は守ってくれた。

 息子が突然、意識不明になったその日、いきなり面会に来た高校生。

 院長室の、ブラックジャックの絵の入った手塚治虫のサイン色紙、何故か飾られている事を知っていた息子の友達、その友達だという高校生の言葉通りに、サイン色紙の裏に貼られていた息子の手紙、

「俺たちはきっと生き返る。俺が突然倒れたら、友人の安否も確認して、この病院に入院させて欲しい」友人の名前と連絡先も書かれていた。

 会いに来た1人、ミツだけは健在。

「でも、すぐに僕も倒れると思います。」

 その言葉通り、ミツも翌日入院した。


 今、全員生還!

 ……あの時のリーダーの指示が「全て」だったとミツは思う。

『ミツ、お前は俺たちより1日長く生きろ!』

 そして指示を出され、1日生き延び、リーダーの父親に会いに行った。

「今日からまた一緒、そろってリハビリだな。」

 全員で笑った。


 ここ、来羽医院では、この日だけで、意識不明者が12人も目を覚ました。

 その日のトップニュースはどの放送局も同じ、首都圏全域で目覚めた患者は3ケタに上った。一方で、家族が延命措置を諦めてしまったケースも話題に上がった。もしかしたら助かったかもと、嘆く遺族も少なくなかった。

 父親の病院経営方針に反発し、民事の弁護士を目指そうとしていたライバー。経営側から父親の方針に口を出せる力をつけたいと、経営学を学ぶことにしたようだ。医者ではない形で跡継ぎを目指すらしい。

 ショーインは、休み中に後任が決まっていたので無職となったが、[世界]の悩みを持つ生徒のいる学校は多く、[世界]経験者の先生として引く手数多だそうだ。

 ハリィとミツは高校生。復学する。出席日数は何とかなりそうだ。


 あれから、どれくらい……って、

 ……まだ数時間のはずである。


 ミツは、とある街にいた。

 ……間違いなく、[世界]だ。

「遅かったな、ミツ!」

 振り向くと、ほんの数時間前に感動の再会を果たした3人が立っていた。

 半ば呆れての全員大笑い。そして、

「あっちの銅像見たか?」

 案内されつつ中央広場へ。

 ……移動しながら、ミツはあるパーティの事を考えていた。

 昼間もちょっと気になった。みんなより1日遅れたミツ。昼間にライバーの父親と会う役目を果たしたその夜。

 街には入って来ないというレアハンターだが、狙われたパーティは、全員ロックオンされ、全滅するまで追われる。

 街にいると、街の近くには来るであろうレアハンターに、出入りする冒険者が襲われる可能性がある!

 そう判断し、人が来ないような僻地にレアハンターを誘導、そこで殺られる決心をした。

 その向かった山奥で、顔見知りのパーティと出会ってしまった。

 その直後、殺られたミツ、

(あいつら、無事だったかな……?)

 ずっと気になっていた。

 ……その答えが、案内された先にあった。

「大魔王を倒した勇者の像だってよ。」

 広場の人だかりの視線の先、7人揃った像がある。中央が勇者、その両側に仲間たち。

 ミツが笑った。

(レアハンターから逃れて、魔王まで倒してたのかよ?!)

「さすがは俺のライバルだな。」

「ああ、また差がついちゃったけどな。」

「リーダーは、ベジー○じゃなくて、ヤム○ャのポジションですよね。」

「せめて、クリ○ンと言ってくれ。」

 ……日常が戻った気がした。

 その後、重大な事に気がつく。


「装備が足りない?!」

「俺もだ?!」

 ステータスを確認して気づいた。

 レベル等は下がってない。

 が、肝心のレア装備が消えている。

 ……

 そうだった!

 レアハンターに殺られたのだ。レア(装備)をハントされたに決まっている。

 幸い、所持金は減っていないが、テンションはダダ下がり。

「マタドールの服も無い!」

 これは、ハントではなく破損。レアハンターとの戦闘で破損して消えてしまった。

 悪趣味の派手な赤、リーダー以外はちょっとホッとしている。

 落ち込みつつ武器屋まで歩いている途中、

 またしても彼らは、いや、ライバーは遭遇する。


 少数が大勢に囲まれていた。

 パンツ1枚にされて正座させられている男3人が負けた方、10数人で囲んで嘲笑っているのが勝った方、[バトル]が行われた後らしい。

 レアハンターはスキルは奪えない。

 今もライバーの初期レア特典は使える。

 [バトル知識]プレイヤー間で行う[バトル]のルールに詳しいという、珍しいレアスキルなのだが、

 (第三者のバトルに、ホント良く遭遇する!)

 ……こっちこそがレアスキルなのでは?と、先生は思ってしまう。

 そして……必ず首を突っ込む。


 あれから、どれくらい経ったのだろう……


 4人の出会いも、[バトル]に始まったと言ってもいい……

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