第37話 誰か1人が……

 レアハンターが消えたあとに、

 実に沢山のレアアイテムが、現れた。

 何十点あるのだろう……

 これが、犠牲者の数だとしたら……

 ……勝利したのに、気持ちが晴れない。

「もう出ない…はずだったのに……」

 セインは何を知っているのか?

 ただ、その質問をすれば、彼女の深い悲しみまで、掘り起こしてしまう。

 誰も聞けない……

 これだけの実力があるのに、教会領に閉じ籠もっていたセイン。どれだけの悲しみを見て来たのか……


 レアアイテムは、使えそうな物は利用することにした。

 持ち主が復活する可能性があるとしたら、大魔王を倒すこと。それに利用するのなら、許してくれるだろう。

 元の持ち主不在が、いくつかあった。シノを狙い、ライバーとショーインを討った剣[アドバンテージ]も持ち主不在……レアハンターの初期装備だ。

 これは売ることにした。剣技スキルに差があるほど有利な剣。対人用……殺し屋専門の道具みたいで、持ってるだけで、胸糞悪い。

 その場で破壊したかったが、レア装備の破壊は簡単にできない。売ることで誰かが(もちろんシノが)喜ぶなら、その方がいい。

 気持ちは沈んだままだが、多分、大魔王打倒に一番近いのは、自分たちだ。

 ……進むしかない。

 シノは黙って[忍者グローブ]を装着した。ライバルが残した物を形見として使うことにした。

 カナは赤い宝玉の杖を手に取った。先端の宝玉の中で、炎が揺らめいている。

「[召喚獣の杖]だって」レイが教えてくれた。

 使ってみた。

 炎が飛び出し、形を変え、翼を持つ鳥を象る。

 結構デカい。翼の幅は2mくらいだろうか?これは期待が出来そうだ。

 カナと目が合った。

『フン!』

(あ、あれ……?)

『前にも言ったろうが!オレ様は自分より弱い奴の命令は受けんぞと!!』

 自分から杖に戻ってしまった。

 もしも~し!

 ノックして、もしもお〜〜~し!

 ……出てこない。

 普通は腕試しの戦闘が始まって、倒して仲間に……じゃないの??

 [フェニックス未満]という立派?な呼び名を考えたのに……

 種族名は[ファイアイーグル]。

 でも、付けられたアダ名は[ホウキちゃん]。

職場放棄のホウキちゃん。呼ばれる出番はあるのだろうか?


 当初の目的地、山奥の洞窟に着いた。

 この辺りから、急激に温度が上がっている。

『洞窟内は溶岩地帯だ。』

 案内の水龍が言う。

 そこに[完全結界]を張り、棲んでいる。

 完全結界とは、自分を無敵化できる空間。大魔王でも、この中では勝てない。もちろん、並の力では作れないし、限られた条件下で、狭い範囲にしか張れない。

『五聖獣1の問題児だ。気をつけろ!』

 言いつつも、さらに、

『この中では、我は助言も活動もできない。』 

 自分たちのみで、交渉するしかない。


 溶岩の熱気が熱い。

 歩ける部分も限られている。

 ちょっと踏み外せば……までは狭くないが、戦闘になったら、動きが制限される。

 魔物は、出ない。

 ……もう、完全結界の中だろうか?

『来おったか、人間!』

 突然、出た!

 大きな、親象が仔象に見えるほど大きな、炎の魔物。

 炎で造られた巨大な虎のような聖獣。

『炎虎様と呼べ!』

 炎の聖獣[炎虎]が名乗った。

「炎虎様、私たち…」

『俺様の用件が先だ!』

 完全結界の絶対君主。今は、彼の言葉が絶対。たとえ優位な水属性を揃えていたとしても、この中では彼に逆らえない。

『誰か1人、この溶岩に飛び込め!』

 目の前の崖の下、溶岩がボコボコ煮立っている。崖のすぐ下は見えないが、奥まで溶岩の海が広がるのが見え、崖下も容易に想像できる。

 波止場に荒波がぶち当たるかのように、溶岩の高波が上がってきた!

 背丈を有に超える溶岩波、簡単に飲み込まれそうな、広がりと勢い!

 ……何かに当たって戻っていく。

『今は止めてやっている。が、早く1人飛び込まねば、全員丸呑みだぞ。』

 本当に、聞いてた以上の問題児だ。

『ああ、解った、解った』

 勝手に何かに納得し、

 右手を……右前足をちょっと曲げた。

 お手のポーズ? 招き猫のポーズ?

「アイさん?!」

 ほんのちょっと動いただけなのに、アイが数m飛ばされた。

 最前列にいたアイが、最後列まで下がって倒れている。ダメージも負っている。

 これが、完全結界なのか?!

『解ったろ?ここでは俺様が神なのだ。本来なら俺様が選ぶところだが、お前たちに自分で選ばせてやっている。それだけでも感謝しろ。』

 炎虎が笑う。

『おっと、そこのシスターはダメだ。水龍がうるさそうだからな。』

 セインの事だ。セインは水龍と契約している。

『早く飛ばぬと皆殺しにするぞ!

 1人飛べば、他は放免だ。』

 ……究極の選択。

 こんな時に……と、思った者がいた。

「みんな、アイさんを抑えて!」

 カナが叫んだ。

 一斉に、最後列のアイを見る。

 そうだ、こんな時、

 ……アイが真っ先に飛ぼうとする!

 その時、

 ……アイの目の色が変わった!

 前へ突き進もうとする、アイ。

 肩からタックルし、止めに入るシノ!

 次々、それに続く!シノ以外はスポーツは素人だが、体を張らなきゃアイは止められない。

 ラグビーのスクラムのように重なっていくが、5人がかりでもアイは止まらない。

「ダメよ……アイ……くん」

 力は止める方に集中しているので、セインの言葉はたどたどしい。

(現実なら、止められるのに!!)

 シノが不甲斐ない自分を呪う。

 アイの表情は、鬼の形相!目が血走っている!

 遺跡の時のようだ。

 剣で貫かれ瀕死ながらも、シノを安全地帯に投げ、みんなに「入るな!」と剣を投げて静止したあの時と、

 命懸けのあの時と同じだ!

 こうなると、もうアイを止められない!!

 本気になったアイを、女5人で止められる訳がない。

 アイが、

 アイの[世界]が終わっちゃう……


 全員、振りほどかれた。

 もう、アイの前には誰もいない!

「おおおおぉぉぉお!!」

 雄叫び、そして、

 アイが飛んだ!

 溶岩の海に!!

(ああ……)

 旅が終わる……魔王討伐が潰える……

 ……最愛の仲間が一人、いなくなる………

 空……

 虚……

 ……みんなの頭が真っ白になった時、

 アイが跳ね返って、戻ってきた。

 何も無いところに、何かがあった。

 透明の壁に跳ね返された!

 仰向けになっている今しかない!また5人がかりで抑えこもうと、

 ……

 ……5人がかり?

 ……5人??

 ……

          !!


 アイの暴走理由が解った……


「カナちゃんはどこ?!!」

 セインが叫んだ。


「彼女を返せーーっ!!」

 アイがまた飛び込んだ。

 が、また跳ね返されて戻ってきた。


『約束通り、お前たちは放免してやる。』

 炎虎が笑って言った。

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