第36話 レアハンター
[先生]がやられた。
淡い光を放ってから、点滅して消えた。
仲間をかばって、盾になってやられた。
[先生]の登録名は[ショーイン]。仲間だけが[先生]と呼ぶ。
……そう、スキルフェスで出会った彼だ。
そのショーインが、殺された。
「ミツ!逃げろーーーっ!!」
ミツが走り出した。
仲間を背に、走り出した。
([レアハンター]……こんなにも、チート野郎なのか……)
リーダーのライバーは、ただ1人が助かる道を選んだ。
アイたちは、人が余り来ないような、山奥へと向かっていた。
人が来ない山奥なのだが、野原のような場所を進んでいる。時々藪を抜け、時々野原を通る。これを繰り返して進む。
通れるが、道として繋がってはいない。だから人が来ない。目的が無ければ、来ない場所だ。
道案内をしているのは水龍。声だけの水龍。
ガサガサと、横の藪から物音がした。
また魔物か、と思ったら……人?
それは、相手も思ったこと。
人が居て、こちら以上に驚いている。
「逃げろーーーっ!!」
突然現れて真顔で叫んだのは、冒険者。
顔見知り、ライバーの仲間の……?!
後ろから、刺された?!
背後から現れたもう一人に、刺された。
「レ…ア…ハン……ター………」
言い残して、ミツは消えた。淡く光ってから消えた。
一番血相を変えたのは、セイン。
[レアハンター]……それが何かを良く知っていたからだ。
人型、身長180cm程度、全身タイツのような濃い茶色一色の体。ここまでなら悪の戦闘員。
大きな光る両目、というより、顔には目しか無い。ここまでも、ギリ戦闘員。
装備はシンプルなベルトとマントと、腰に虹色模様の鞘、剣士だ。
光となったミツから、アイテムが浮かび、この男の体に吸い込まれた。
今のは、シノが欲しがっていたレアアイテム[忍者グローブ]!
そして、ミツを刺した剣は
[魔剣ハンドレッド]!
レアハンター……レアアイテムの収集家。
今奪ったグローブが、彼の手に現れた!
装備の具合を確認して、しまった。剣士には不要と判断したのだ。
それから、アイたちを見た。
『お前たちを、[ロックオン]した。』
これは、死の宣告。もう逃げられない。
「サイトに載ってた……あのレアハンター?!」
「ヤバい奴なの?!」
セインの並ならぬ緊張感が、すでに全員に伝わっている。
[世界]の情報サイトで、危険な魔物として良く載っている一例が、サンドワーム。
「出会ったら、刺激しないで逃げよう」警戒ランクは『A』。
『A』以上はいくらでもいる。いくらでもいるが、この[世界]はガチ勢が少ない。アイが簡単に倒してしまうサンドワームが、危険な魔物の代表なくらいだ。
もっと格上と遭遇している人はいる。ネタバレ防止機能で、起きた時に思い出せないのか、ガチ勢が投稿しないのか、ほとんど載っていない。フィールドだと警戒『S』級はまず遭わないが、ダンジョンやイベントなら普通に出る。
ゴルゴガルゾやリグスタルは、多分『SS』。
で、レアハンターはというと、『SSS』以上。
測定不能として、サイトに投稿がある。
『SSS』以上なのに載っているのは、冒険者のレベルに関係なく遭遇してしまうから。
仲間の犠牲の隙に逃げのびた投稿者ばかり、
「街には入って来ない。でも出たら殺される!」
「攻撃が効かない!」
「どこまでも追って来る!」
投稿者たちは、全員、それが最後の投稿。
こいつだけは、起きても、現実でも、ハッキリと覚えている恐怖。
『処刑タイム、スタート!』
レアハンターが、アイテムを前にかざした。
砂時計のようなアイテム。
上が青マーク、下が赤マークの砂時計。
くるっと反転させて、赤を上にし、腰のベルトに下げた。
「何これ?!」
「足が動かない?!」
叫んでいるのは女性陣。
つまりは、アイ以外は動けない。
[半減の砂時計]。パーティに男女両方いる場合、片方の戦闘を不能にするレアアイテム。青が上なら男、赤が上なら女が戦闘不能になる。砂が落ち切るまで有効。砂は下に落ちると消える。また一定期間貯めないと再使用できない。戦闘行為(武器、アイテムの使用。助言。移動)は出来ないが、話したりはできる。
嘲笑った後、
レアハンターが突っ込んで来た!
アイが剣撃を受けた。
そこから8連撃、全て受ける。
剣技は互角?だが、
『いいのか?』
剣を見せられた。
魔剣ハンドレッド。
カウントが『91』。最初の1と合わせて9回受けた。
しかし、かわすと動けない女性陣がいる。
これ以上、下がれない。
ギガントシールドを出し、強引に押し返す!
ただでさえ重い盾、数mは下げたが、
『盾など出すから、16回も打ってしまったよ。』
カウント『75』。
盾でもカウントダウンは防げない。
レアハンターが剣をしまった。
(これは?!)
攻めに行くアイ!待つレアハンター!
互いの間合いに入った。
アイの袈裟斬り!レアハンターの居合斬り!
……速いのは、レアハンター!圧倒的に速い!
しかし、
その速さを解っていたように、かわす。
いや、解っていた。
[居合ブレード]が来ると!
紙一重でかわしての、一撃!
命中!
(?!)
しない?!
体をすり抜けた??
左肩に剣が入るなり、流れるように、右脇へ押し出された。
(実体が無い?!)
そう感じるほどの、空振りに近い感触!
驚きは、さらに続く。
空を斬ってアイの左へ流れたレアハンターの居合の剣が、
右肩、そして右肘の関節が異様な曲がりを見せて、
背中を通って、レアハンターの身体をすり抜けて、アイを襲った!
斬られた!
浅いが、斬られた!
レアハンターの右手が、関節を無視し、自分の体の存在を無視し、一回転して攻撃してきた!
……こんな奴、どう倒せばいい?!
また敵が、居合の構え、
向かって行くが、策はあるのか?
こちらも、居合を真似た構えで進む。
剣を替えた。こちらは虹色の鞘では無いので、何を出したか見られてしまう。
一心刀、それで向かった。
さっきより、遠い間合いから、敵の居合が来た!
(よし!)
と思ったのはアイ。
来たのは鞭、剣のような鞭、射程の長いソードロッド!
一心刀が絡め取られた。
予知していたように、別の剣を出す。
アイしか動けない戦い。
……しかし、一人で戦ってはいない!
味方がいる!
バトルで戦ったライバーが、レアハンターに倒されたライバーが、敵の動きを教えてくれる!
一心刀が絡んで鞘に戻せず、レアハンターがソードロッドを捨てた。これで使用継続と判定される虹色の鞘も使えない。
何が来るか見えるようになった。
これで、条件は同じ!
アイの袈裟斬り、さっきと少し軌道を変えた。
敵は、居合ブレードを準備、本来の鞘に収まった居合ブレードが現れた。
アイの剣は、また、すり抜ける。
そこへ、居合!
左脇を斬られた!避けきれなかった!
……しかし、この傷ならまだ、
(?!)
敵の左手の追撃?!
魔剣ハンドレッドが左から来る?!
……二刀流?!
左脇の傷が増えた!さっきよりも深い!
条件は同じ?!……甘かった……
下がる!
女性陣との距離がギリギリになってしまうが、下がった。
うずくまる。
傷によるダメージ。
手当をすれば動けそうだが、薬を使う余裕がない。
女性たちは、喋れるし、足以外は動かせたが、戦闘行為が取れない。敵のアイテムの砂時計に縛られている。回復動作も戦闘行為なので、できない。
敵が詰めてきた。
直前で盾を出した
進行も視界も防がれたが、敵はお構いなし、
ギガントシールドを連打する。
ガンガン音がなる度に、魔剣のカウントが減っていく。
20…30…40…連撃は終わらない!
盾が前に倒れる、支えきれなくなったのか?
後ろへかわすレアハンター、
視界が開ける。
もう後がないアイと対面……
……
「モォ?」
誰だ?こいつ??
いや……何だ?こいつ??
「モモォ?」
盾を支えていたのは、
サイのようなバクのような四足の召喚獣。力持ちだ。
「ご苦労さま、サイちゃん」
役目を終えて、サイちゃんは消えた。
『?!』
アイもいない?!
どこだ?!
上から来た!!
ジャンプシューズを使った跳躍!
「キィーーン!」
空中から振り下ろすXブレードを、魔剣で受けた音!
アイの傷が治っている?!
さらに、
跳馬を飛ぶように、足を横に広げたアイの下から、
「キィーーン!」
敵の左手の居合ブレードを弾き飛ばす、高速の一撃?!
サイちゃんの次は、ピィちゃんだ!!
レアハンターが、右腰の砂時計を確認する。
(無い?!)
いつから、無い?!
……
左脇を2回斬られる直前、すこし軌道を変えた袈裟斬り、すり抜けるのを見越して、最初から腰の砂時計を狙っていた。
レアアイテムが壊されたのは、ここ。
しかし、
彼女たちが参戦してたのは、もっと前、
……
300万円と交換するかと聞かれたら、今でも悩むだろう。
超スペシャルディナーの代わりに、買って貰ったペンダント。
[教訓のペンダント]と名付け、お揃いをみんなで首に掛けた。
その後のこと、
一人がため息をついた時の心の声が、みんなに聞こえた。
このペンダントだ。(服の上からでも)ペンダントに手を当てて何か思うと、付けてるみんなに伝わる。安価だが、役に立つアイテムだった。
戦闘行為はできないし、助言も口にできないが、胸に手を当てることはできた。
レアハンターの、知る限りの情報が、セインから皆に伝わる。
弱点があるはず!
それを見つければ、勝てる!
……
この[世界]を妬み、邪魔しようとして、創造主以外の者が無理やり登場させたチート、バグ、ウィルスといった存在、それがレアハンター。
ただ、[世界]で存在するには制限がある。
フィールドを移動できる魔物の制限範囲内で存在している。チートに近いスキルとそれに見合った弱点、そのバランスを無視しているのがレアハンター。
弱点が無いものは存在できない、そこは守る。
イベント以外で、街(結界内)に魔物は入れない、そこは守る。
設定できるスキル数、そこは守る。バランスを無視して全て超強力にする、そこがチート。
弱点も、解りにくいものを選択、ゆえに強敵。
アイが戦っている間、セインが弱点を探す。
……
候補がいくつか挙がった。
その1つが、
真上からの攻撃!
振り下ろす一撃を、すり抜けさせず、剣で受けた。そこが気になる。
(勝負に出るわよ!!)
セインがみんなに伝えた。
その間も、アイは撃ち合っていた。
『そろそろかな?』
レアハンターが魔剣のカウントを確認する。
……『6』
あと6撃で、アイは死ぬ。
剣で受けても、盾で受けても、死ぬ。
『消えろ!』
レアハンターの猛攻、チート野郎は疲れを知らない。
対するアイは、かなりの疲労……
膝が、崩れた?!
そこへ、レアハンターの一撃!
剣じゃないモノを捉えた音!
「残念ね。」
受けたのは、シノ。
オリハルコンのナイフで受けた!
「残念」の意味も大きい。
違う標的を撃ち、魔剣ハンドレッドのカウントが、リセットされた!!
しかし笑う、レアハンター。
『いいや、狙い通りだ。』
空いている左手に剣を出す。
剣の名は[アドバンテージ]。剣技スキルに差があるほど、ダメージを与える剣。
ショーインとライバーの命を奪った剣。
アイには使わなかったが、シノには有効、その剣がシノを襲う!
バリア!!
シノの手前ギリギリにバリアが張られた。
「ベロベロバー!」
と、やってから、シノが奥へと下がる。
アイも転がり込む。
さっきは、動けるのを悟られぬよう、盾の陰で簡単な応急処置しか出来なかったが、今度はしっかり手当てができる。
セインとミコ、レイがアイに駆け寄る。
残る出番は、
「ドスーーーン!!」
地響き。
上から降ってきた。
巨大カエルを、レアハンターの頭上に召喚。
(久しぶり、バルーンフロッグ!)
後方に簡単にかわされたが、一応、真上からの攻撃??
ゲコっと鳴いて、カエルは消えた。
(水龍が出せれば……)
セインは思っていた。
部外者レアハンターがイベントに関われないのと同様に、イベントキャラも、レアハンターに関われない。レアハンターが近くにいる間は、強制的に眠りに入ってしまう。
リアリアのバリアも、長くは続かない。
敵は通さず、味方は出入り自由。
便利だが、その分、消耗が激しい。
『?!』
またもいない事に気づくレアハンター。
巨大カエルの召喚の間に、アイが消えた!
そして、
レアハンターの頭上から降って来るアイ。
真上から、
剣を振り下ろすアイ!!
相手は受けれない!
剣がレアハンターを縦に斬る!!
「!!」
……
着地、直立するアイ。
その目を見て、
『あばよ!』
レアハンターが、左右の剣で、同時にアイを斬りつけた。
敵は受けれないのではなく、受けなかっただけだった。
真上からも、効果なかった。
アイの一撃は、すり抜けた、だけ……
「ああ、あばよ」
返したアイの体を、レアハンターがクロスに斬り裂いた!
避けられなかった。
レアハンターのクロス斬りは、すり抜けるように、綺麗に決まった。
アイの体から、何か出て来る?!
8つの……突起?
これは……8本のナイフ?!
アイをすり抜け、レアハンターもすり抜けた。
……4本だけ。
4本は、命中した?!
降りていたアイの剣が、下からレアハンターを斬り上げた!
どうなっている???
……
アイの背中から、見てみよう。
少し巻き戻す。
……
レアハンターの、クロス斬り!
斬られるアイの背中に、
白い諭吉!いや、金の諭吉!
[高級魔法紙]が貼ってある!!
『物理完全通過』と書いてある。
物理攻撃を受けると、その瞬間から10秒間、攻撃を完全通過する。
避けられなかったのではなく、避けなかった。
すり抜けるようではなく、すり抜けた。
(勝負に出るわよ!!)
セインが伝えた弱点候補は2つ!
真上からの攻撃……これが、あっさり決まるようなら、こっちはフェイク!
真上からを受けたのが、誘いのようで、逆に気になった。
そして、最初から、レアハンターが狙おうとしていたのは、シノ。
動けるアイが立ち塞がったが、一直線にシノを狙った。
シノだけが、対抗できる?
倒せる技を持っている?
もしかして?!
多数攻撃?! 彼女は8本同時に投げれる。
……何回以上が弱点か解らないから、全部投げさせ、5本以上、5回以上がヒットした!!
ナイフが刺さっている間は、
攻撃全てが5回目以上だ!
アイの剣が、下からレアハンターを斬り上げる!
それより早く、またしても、アイの体を抜けて、シノのナイフが8本刺さった!
これで、多数攻撃が弱点確定!
そこへアイの斬り上げ!!
後ろへ避けたレアハンターだが、深手を追ってる。斬った!確実に当たった!
ダメージで、動きが鈍い。
と、そこへ、
……長い対空時間だった。
音も無く飛ぶ。
弧を描いて飛ぶ。
対空時間が長いほど、
ダメージが大きくなる武器!!
巨大カエルの陰から投げた、飛天三日月刀が、レアハンターを、真っ二つに斬り裂いた!!
駆け寄るアイ!
消えるまでは、安心できない。
レアハンターは、
煙を上げて、灰の山に変わった……
終わった……
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