第26話 絶対に許さない!!
シノがアイを刺した。
全員がそう気づいた直後、
アイの形相が鬼の様になった。
気絶しているシノから剣を奪うと、その剣を、待機している仲間の方へと投げた!
勢いよく横回転して飛んできた剣は、付着した血しぶきを5人に遠心力で飛ばしてから、左手側に逸れ、壁に刺さった。
次に飛んできたのは、気絶しているシノ!
勢いはない。剣よりずっと重いが、それだけではない。アイが、上半身どころか、刺された腹部より上しか動かせていない状態だ。
シノの体は、バウンドしてから転がり、白線を越えた所で止まった。仲間への命中はまたも無かった。
が、次の動作、
今度は背中のXブレードを抜くと、
やはり鬼の形相で、仲間の方へ投げた!
……と、同時に力尽き、前に倒れた。
Xブレードは力無く縦回転し、みんなの手前、ちょうど白線上に立つように刺さった……
攻撃は止んだ。
(!!)
悪夢から覚めたように動き出すみんな。
シノはレイが確認した。気絶しているだけ。
「待って!!」
アイに近寄ろうとする皆を、セインが止めた。
「でもアイさんが……」
ミコが泣いている。命の恩人が瀕死で倒れているのだ。
「私とミコちゃんが行く!他は絶対ダメよ!」
そう言って、セインが白線を越えた。
ミコも決心して続く。
行き成り起き上がって襲って来ないか、セインたちも狂わされないか、不安要素は幾つもある。
「あ!」
と、カナ。
「……大丈夫よ。アイさんは正常なんだわ!」
「正常?」
訊いてきたリアリアの顔にも、訊かれたカナの顔にも血の飛沫が付いている。
「全部メッセージだったの。」
カナが説明する。
白線上の剣は「迂闊に入るな!」
シノは「白線の中だと狂わされる!」
壁の剣は「壁の文字を読め!」
そして壁の文字は
『力ある者だけ進め』
『正しき力を持たぬと死を招く』
つまり、
「……正しき力は[聖なる力](騎士、シスター、聖女)このメッセージをセインさんは解いたのよ!だからもう大丈夫!」
言い切ったカナだったが、大丈夫じゃない事態が起きていた。
(……魔法が使えない?!!)
恐らく白線の中だけ。ここまでの戦闘では普通に使えた。
スキルフェスの回復部門1位がいるのに、回復魔法が発動しない!
アイテムに切り替えた。最上級回復薬、スーパーポーション、高級魔法紙には「絶対助かる」と書いて貼り付けた。
発動しない!
アイテムが発動する瞬間を魔法扱いとされるのか?魔法無効結界と回復無効結界が張られているのか?何も起きない!!発動しない!!
アイの体が、微かに光り始めた。
淡く光って点滅したら、もう終わりだ。
「ダメよ!ダメ!ダメっ!!」
セインが泣き叫ぶ!
「お願いっ!」
ミコが聖水晶をアイの上に乗せて祈る。
「戻って来なきゃ、絶対に許さない!!」
半狂乱のセインは初めて見る。
そしてそれが、どんなに非常事態なのかが解ってしまう。
「聖水晶、お願いっ!!」
ミコが叫んだ、その時?!
「?!」
光った!!
聖水晶が白く光り出し、
光は、倒れているアイの全身を包むくらいまで大きくなった。
アイテムが一斉に発動!
……アイの顔に、
……血の気が、戻った………
聖水晶が、魔法無効結界を封じた光だった。
「……もう大丈夫。」
セインが口にしてからは、
真剣なのか、おちゃらけなのか、
白線まで、意識のないアイを乙女2人では運べない。
そこで登場したのは、ダンジョン内では大きさギリギリ、再びお目見えのバルーンフロッグ。
べろーん!と舌でアイを絡め取り(意識が無くて良かったね、アイさん)、
そのまま大きな口の中に?!
慌ててカナが召喚を解除して、全身唾液まみれは間逃れた。(舌が触れた部分はベチョベチョだけど……意識が無くて良かったね、アイさん)
全員白線から下がった所で、リアリアが試しに脱出呪文!
……やはり白線の中だけの結界だったようで、あっさりと地上へ帰還。
宿屋の人達の力も借りて、気絶している2人を運び、今は別々の部屋に寝かされている。
……
先に目覚めたのは、アイ。
無事を喜び、みんなにお礼を言う。
先に歩けるようになったのは、シノ。
バツが悪そうに、アイの寝ている部屋に入ってきた。
残念な事に、シノは刺したことを覚えていた。
「本当にゴメン!」
頭を下げたのはアイだった。
みんな当然驚く。
「ああいうイベントは、加害者をやらさらた方が絶対損だよ。」
そして、事前に気づいて攻撃を防げなかったことを、改めて詫びた。
そして笑顔。
……これは反則だ。
「ところで、」と、セイン。
「さっき気づいたんだけど、アイくんの剣、置いてきちゃって、あの部屋に刺さったままなの。」
所有する装備は、他人には盗られない。その点は急がなくても安心なのだが、
「完治しだい、取りに行く予定なんだけど、貴方もリベンジ、行く?」
「当然!」
シノにも笑顔が戻った。
部屋を出るとき、シノが軽く妹の頭を叩いて、
「ゴメン」
と、小さく一言。
姉妹ゆえ、レイにはすぐに理解できた。
隣にいたカナも、部屋ではシノの表情がずっと見える位置にいたので、解ってしまった。
これでライバルは、ミコも含めれば5人。
……ただ、当のアイが、バリバリの攻略組なので、誰かとどうこうなる心配は、当分無いと、カナは思っている。
……ただ1人、謎多き6人目を除いてだが。
で、翌日もうリベンジ。
聖水晶の結界封じによって、高級回復アイテムが一気に発動したアイは、もう全快。
そして、飛天三日月刀だけでも楽々最奥の部屋に到着。
そこから、アイ、セイン、ミコの3人だけ白線の先へ。
奥の壁の文字がやっと読めた。
リベンジなのに参加できないシノはちょっと不満。でも絶対自分は白線を越える気はない。
奥の壁際には簡単な「祭壇」が3つ。
中央の祭壇には[黄金の剣]。そして壁にヒントとなる?文章。
左の祭壇には、日本刀っぽい普通の刀。壁にはアルファベットの26文字。
右の祭壇には、刀置きのみで刀はない。壁には左のアルファベットを鏡に映したような、並びも形も反転しているアルファベット26文字。
謎解きの始まり。
『左右の違いを見極めろ』
『無いモノを手にしろ!無いモノを使え!』
『誰もが解る左右の違い、そのそれぞれを押して潰せ! 寝て見れば、違いはより解り易い』
『最後に、元凶を叩き斬れ!』
中央の壁に、4つの文章が書かれていた。
(これがヒント……)
謎解きしようと思ったら、
目を輝かせ、ピョコピョコ動きながら考えている少女が前にいた。
(か、かわいい……)
愛くるしい小動物のようなミコ。
セインも同じ気持ちだったようだ。相談するでもなく、ミコ主体の謎解きとなった。
「左右の…違いを……見極め…ろ……」
下がったり、首を振って左右交互に見たり、夢中になってる動作全てが
(かわいい……)
後ろで見守る2人。
……その更にずっと後ろ、
「何か、授業参観みたくなってません?」
冷ややかな視線で見てる。
「…あるいは、親子で遊園地みたいな雰囲気?」
6人目のライバルは危険!みんな解っている。
そんな視線を知らずに、脱出ゲームに参加している親子3人……じゃなく、ミコたち3人。
「無い…モノを…手に……」
と、右の祭壇の刀置きに、手を伸ばしてみるミコ。
「わっ!何かある?!」
叫ぶミコ。刀置きしか無いその上に、何も見えないが、感触はある!
細長い!これは……鞘に入った刀?!
さらに、持ち上げると、刀が現れた。正しくは、見えるようになった。
でもまだ不完全。鞘しか見えてない。金属の重量も感じるので、刀もあるはず、
柄があるはずの部分を触る。
見えないが、確かにある!
ミコが抜いてみる。刀が抜けた!……が、
「刀……あるの?」
ミコが抜刀した仕草は見たが、手にあるはずの刀は未だ見えない。
「はい、あります」
持ってる本人が言うのだから間違いない。
と、ここで、ミコが困った。
見えない刀……鞘に戻せるだろうか?
恐る恐る、ゆっくりとやってみる。
「あ、できた!」
鞘と刀を近づけただけで、勝手に戻った。これで、使えるのは解った。
ヒント3つ目に進む。
「誰もが解る左右の違い?」
今、違いを見つけて刀を取ったばかりだ。
「寝て見れば、わかりやすい?」
首を横にしてみるミコ。くどいようだが、やはり仕草がかわいい。
解らないので、体を低くしていく。このままだと、人骨のオブジェ(と思うようにしている)が散乱する床に、本当に寝てしまいそうなので、
「今度の左右は、漢字そのものの方じゃないかな?」
お父さん(多分、まだ未成年だって!)が助太刀参戦。
「漢字の左右……?」
ちょっと考えこんでから、
「『エ』と『ロ』……?」
そこでアイがさらなるヒント。首を横にして見せる。
ミコも真似して横にして、壁の漢字を見てひらめく!
「『H』と……『O』?!」
「ねえ、こっち見て!」
今度はお母さん(絶対、怒られますよ!)が参加。
「アルファベット表、よく見ると一文字ずつ膨らみがあるの」
ミコがパタパタとセインの側へ。
「ホントだ!」
膨らみがあれば、『押して潰せ』る!
『それぞれを』だから、左の祭壇の「H」右の祭壇の「O」を、『無いモノを使え』なので、抜いた透明の剣で押し潰した。祭壇の上の壁の表まで、小柄なミコが刀を使うと、ちょうど届いた。
……一方の白線で待機組。
楽しそうな家族(チームです!)を遠目で見ながら、
「……来世は私、シスターに生まれ変わりたい」
退屈そうに呟く。
「……私も、来世はシスターか聖女がいいな」
(来世って、死んでから後じゃん?!)
と、突っ込もうとしてやめるカナ。今の気持ちは自分も同じ。
その時、
[白線]が、消えた!
これはもう、内側に下がって待つ必要はない!
真っ先に駆け出すシノ、
「どうなったの?!」の代わりに発した言葉は、
「黄金剣!!」
と叫びながら、祭壇へ。
「飛龍覇皇剣!!」
レイも続く。
駆けつけたシノが見たモノは、
「ゴメンなさ~い……」
祭壇の上の、砂山……??
その前で、涙目でシノに謝るミコ。
……
「H」と「O」を潰したら、中央のヒントの4列目の「最後」の文字が点滅したので、
ミコは中央祭壇の前に行き、書かれた通り、元凶(黄金の剣)を、透明の刀で叩き斬った!
ゲーム、クリア!!
……クリアはしたようだが、
斬られた黄金の剣は、砂と化してしまった。それも……砂金ではなく、ただの砂。
ミコの手にあった、鞘も、透明の刀も消えた。
涙目のミコを見て、
(かわいい……)
シノは思ってしまった。
とても、絶対に許さない!!……などとは言えない。
「ゴーーーーーーン!」
音がして、
中央の祭壇の下が開いた!
出てきたのは……大きな[壺]?
椅子としても、十分座れる大きな[壺]?
現れた勢いなのか、斜めに傾いて上蓋が外れると、
水!水!水ーーーーっ!!!
大量の水が、流れ出した!
とっくに容量以上は流れている。が、止まる気配はない!
慌ててアイが立てに戻すと、水は止まった。
レイが壺を鑑定。
[いにしえの壺]。傾けると水が湧くが、使い続けると、水神を怒らせる……と説明。
「いくら?!」
シノにとって、一番大事な情報。
「……プライスレスです。」
つまりは、売れない。鑑定でとっくに解っていたが、怒鳴られると思って黙っていた。重要アイテムは売れないものが多い。
……呪いイベントは、終わった。
みんな思った。
……呪いで金の亡者になってた訳じゃなかったのね。
その日、宿屋に戻ると、もう一つの悲劇が、
「さあ、錬金術士の出番よ。」
同部屋にチェックインした妹の前に、かき集めてきた黄金の剣の残骸……砂山が置かれた。
錬金術のスキルCがあるだけで、錬金術士になった訳ではない……などと、言い返せないレイ。
仮にスキルが『SS』でも無理だと思う……なんて言ったとしても、多分やらされるのは同じ。
こうして寝る直前まで、錬金術(粘土細工?)をさせられた。
「店長、時給を上げて下さい……」
……当然、どうやっても戻りませんでした。
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