第25話 白線の内側

「単純な話よ。別に秘密にしてた訳でもないわ。気を使わずに訊いてくれれば良かったのに。」

 シノが言う。

 その前方に、シノにドヤサれながら、道案内をするレイがいる。

 [黄金の剣]。姉妹の確執を生んだお宝。

 呪いの噂を気にして、姉が大事にしていた黄金の剣を持ち逃げして売った。だから追いかけた。そしてアイ達と出会った。

 姉妹で別行動をしていた理由はそれ。

 シノ目線だと、確かに単純だ。

 一方のレイは、

「うまく説明できない」と言う。

 何か嫌な感じがしたので、手放した。単純ではあるが、明快ではない。


 パーティが今いるのは、その[黄金の剣]を入手した[遺跡]と、それを売った店がある街。レイは来るのを反対していたが、聖水晶が示した先にこの街があった。向かう以外の選択肢はない。


「そこの裏路地の奥の店です。」

 狭い路地だが直射日光で明るい。だが、その日光をとことん利用している。顔の高さより下にまで、万国旗のように繫がった洗濯物が干されている。奥に向かうには、それを5.6回はくぐらないとダメだ。

 路地の両側が、3階立てのボロアパート。狭い所に大家族が住んでそうな部屋がいくつも並ぶ。

 奥にはレイ一人で行くことになった。

「よし、440円で取り返して来な!」

 流石にそれは無理である。レイの足が鈍る。

「じゃあ、お前の所持金を全振ろう!」

 姉が痺れを切らしているのが解ると、レイは洗濯物の奥へと飛び込んだ。

 で、すぐに戻って来た。

 ……店が無かったと言うのだ。

「通りを間違えたんじゃないの?」

 シノも確認に行こうとした時、

「武器屋なら潰れちまったよ。」

 NPCが教えてくれた。

「店主が、呪いで死んだって噂だよ。」


 宿屋に戻って、会議となった。

 この[世界]の「呪い」は難しい。

①呪われているかの判断が難しい。

 聖なる力に長けた者でも、呪いを感知するのが容易ではない。

 ただし、更にややこしくなってしまうが、わかり易い「呪い」も多い。最も多いケースが、姿を変えられた「呪い」。

 魔物のような容姿の者が、稀に堂々と町中を歩いている。「呪い」を受けている設定のプレイヤーだ。色々不便ではあるが「強い」などの利点がある。レア特典として考えると、ハズレよりアタリの方が多い。

②「呪い」を解くのが難しい。

 呪った超本人(または元凶)を見つけ出す必要がある。そして、強い力を持つモノである確率が高い。下手に首を突っ込むと、さらなる呪いを受けかねない。

 セインの説明は、こんな感じであった。

 ……さらに、

 すでにシノかレイが呪われていて、継続している可能性もある。セインもミコも、解毒は出来るが、解呪は苦手だ。

 ……それなのに、その[黄金の剣]があったという[遺跡]の方向を、聖水晶は指している。

 黄金の剣が、遺跡に戻っている??

 ……ここで、

 沈黙していたシノが口を開いた。

「このイベントって、盗ってきては大金で売るを繰り返せるのかしら?その度に店主が死んじゃうのかしら?」

(強欲は呪いのせい?それとも素?)

「……とりあえず、[遺跡]に行ってみましょ!案内するわ!」

 シノが立ち上がった。

 ……幽霊は怖くても、呪いは怖くないらしい。


 ミイラやゾンビも、怖くないらしい。

 [遺跡]の中のダンジョンを、先導して道案内するシノ。一度来ているとはいえ、軽快に進んでいる。

 イメージするなら、ピラミッドの内部?

 ただし、たいまつが要らないくらい明るく、通路も広め、天井も十分に高い。学校の廊下を進むような感覚だ。

 魔物も、多くはないが出る。ゾンビっぽいのとミイラっぽいのが。本来なら筋肉が腐って歩けているのも不思議なのだが、ゲームや映画によくある、そこそこ怪力で、そこそこ耐久力がある。

「よく二人だけで入ったね。」

 確かに感心する。出会う前の戦闘力のシノとレイが、奥まで進んでお宝まで取ってきたのだ。

「忍び足と隠れ身と罠解除、ほとんどそれだけかな」全部シノのスキルだ。

「……はい、私……入口付近に隠れてました。」

 レイが苦笑い。

「行けるとこまで行ってみる!」

 そう言い残し、なんと、いきなり黄金の剣を持って帰って来たらしい。

 確かに、今も順調に進めているのは、シノの罠解除のお陰だ。[罠解除]スキルは、罠の発見も優れている。

 大きくはないダンジョンとはいえ、もう最奥らしき部屋まで着いてしまった。

 学校の教室を、縦に2つ繋げたくらいの広さ。

 入口に扉はない。中も照明があるかのように明るく、入る前にある程度確認できた。

 床一面に散らばるモノ、鎖かたびら、鎧、兜などが壊れた破片、折れた剣、使えそうな剣、垂直に地面に刺さっている剣もいくつかある。それらに混ざって人の骨らしきものも、10数人分?あるいはもっとだろうか?

 リアルに考えたら不気味、

「オブジェと思うか、自分が考古学者だと思えば大丈夫よ。」

 シノが平然と部屋に入っていく。

 幽霊は怖くても、こういうのは平気……暗いとダメとかなんだろうか……?

 部屋の中央やや手前に、木製の立て札がある。

 『壁の文字を見ろ』……と立て札にあるが、外から見る分に、部屋の壁に文字はない。一番奥の壁には何か書かれているが、近づかないと読めそうにはない。

 部屋に入ってみる。

 入ってすぐ、5mもない所に、横一線の白線が引かれている。線を堺に、何かが仕切られている感じだ。

 ……ただ、シノはもう、白線を越えている。前回来ているからだろう。警戒心は薄い。

 入ってみて解った。立っているすぐ左手の壁、目線より上の位置、壁に文字がある。

『力ある者だけ進め』

『正しき力を持たぬと死を招く』

 ……と、ある。

 不気味と言えば不気味だ。

 ……が、

「これこれ!この裏側!前に見た時、笑っちゃったの!」

 立て札の裏側にいるシノが、笑って手招きしている。

 緊迫感が……

「……とりあえず、行ってみるよ。」

 アイが白線を越えた。

 残りは、とりあえず待機。

 アイも立て札の裏側に回る……何も起きる気配はない。

「……そういえばさ、駅のホームで『白線の内側まで〜』のアナウンス聞くと、一瞬迷わない?」

「?」

「あ、わかるぅ!」

 白線で待機組も、リラックスできたのか、緊張を紛らせてるのか、雑談を始めた。

「……踏切だったら、内側は入っちゃダメな方でしょ?」

 待機組は、別に警戒を解いている訳ではない。それぞれが別方向を見つつの雑談。ミコは聖水晶を見つめたままだ。

 かたや先行組、

「よくあるのは『こちらは裏側だ』とかよね。」

 と、シノの前フリを受けて、アイが立て札の裏側を覗くと、

 ……

『このラクガキを見た時、お前は』

 思わず笑うアイ。

 微妙に違うが、間違いなくあのオマージュ。

 ……ただ、書いてあるのはそれだけ。

「?!」

 !!……文字に血しぶきが増えた。

 ……いや、違う!!

 たった今、飛び散ったのだ!

「きゃあああああっ?!!」

 部屋に響き渡る絶叫ーー!!

 剣が、背中から前に、

 ……完全にアイの体を突き抜けている!!

 現実なら致命傷、大量に血が流れている。

 アイが振り向こうとすると、ブロックされた。正確には、ダメージで力が入らないアイが、振り返ろうとするが、後ろから強く体ごと押し付けている敵に邪魔され、うまく反転できない感じだ。

 意識が薄れかける中、右腕が敵に届いた!

 強引に前に引っ張り出し、床に叩きつけた!

 そこで両ひざを突く……脚に力が入らない。あとどれくらい、動けるだろうか?

 気配が無い後ろのシノが心配だ!

 動いていないコイツは後回し、まずは背後に他にもいるのか?そして何よりシノの安否を!

 ……と、今度こそ振り返ろうとしたアイだったが、前を向いたまま動かない……

「……嘘……?!」

 待機組もみんな固まった……

 叩きつけた敵、アイを刺した敵は、


 ……シノだった?!!

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