第24話 これが欲しかった

「アイ!今からお前に[バトル]を挑む!」

 盛り上がる観衆の前、一番断りづらいタイミングで挑んできた。

 さらに盛り上がる挑発、

「お前が勝ったら、俺のレアアイテム、何でもくれてやる!」

 そして、

「俺が勝ったら、お前の仲間を、一人よこせ!」

 悪役になろうとも、観客を乗せればバトルは断りにくい。そう狙った発言。

 だがこれは、アイには逆効果だ。

 仲間をモノとは思わない。

「乗ったわ!」

 代わりに返答したのはシノ。

「そっちが勝ったら、ウチの看板娘を好きにしていいわ。」

 妹を前方へ押し出した。

 いきなり注目を浴びるレイ。とりあえずポーズを取ってみる。……微妙な看板娘だ。

(あれ?……嫌がってない?)

 エセ巨乳にヌーブラふんどし、目立つ要素は十分だが、運気を上げるもので、目立ちたがりな訳では無かったはず。

 レイの頭に怪しいゴーグル[パラスコープ]が乗っている。使用時以外はしまうレアアイテム。つまりは使った。ライバーのステータスを確認済だ。となると、姉に報告済み?

 いや、NGワード「何でもくれてやる」を聞いた時点で、シノ主導で動いた可能性もある。

 挑発に乗ったのはこちら。でも、調子に乗ったのはそちら!……とでも言いそうだ。

 ともあれ、アイとライバーが[バトル]する事になった。

 [バトル]について説明する。

 プレイヤー同士の合意の上での対戦。個人戦、団体戦、勝ち抜きなど形式も様々、1勝、全滅させる、合計勝数など勝利判定も様々。細かいルール調整を事前に取り決めもできる。

 まあほとんどは、全力で戦って生き残った方という、単純ルールで行われる。

 「生き残った方」……そうなのだ。実際、殺し合うくらいの全力が出せ、そして「模擬戦闘」判定で、致命傷を負っても死亡しても、バトル後は無傷という特別な戦闘。

 喧嘩や恐喝にも利用されているのが現実だが、本来はポケ○ンバトルのように楽しむのが目的。ステータスの見せ合いで、戦闘関係のパラメーターが見れないのも、このバトルを楽しむ為だといわれている。

 天使の人形のようなモノが空中に現れた。

 バトルの審判[ジャッジ]である。

 細かい設定を希望できる時間が、それぞれに与えられる。実はライバーは、バトルのルールに詳しい。初期レア特典は[バトル知識]……なのだが、今回は何も細かい希望はしなかった。

 かたや銀の剣を使う白マントの戦士、かたや赤い刀身に赤いマタドール服の戦士、対象的な2人が対峙、バトルが始まった!

 剣を撃ち合い5合、6合……そこで一旦止まったのはライバー。

「教えておこう」

 アイに剣を見せつけた。

 黒い柄に、真っ赤な刀身の剣。派手なマタドール姿で目立たなかったが、剣だけ見れば、かなりの異形。

「魔剣[ハンドレッド]!」

 剣を高々と揚げた。

「100回撃ち合えば確実に相手を仕留める魔剣!

 相手を斬りつければ(-10)受けても(-1)、このカウントが0になれば貴様は終わりだ!」

 剣を横にして刀身を見せた。柄の近くにある数字は現在「94」

 ニヤリと笑うライバー。マタドールの格好をしているだけあって、追い詰めるのが上手い。

(本気で来い!)

 ライバーの目が叫んでいる。


 騎士Bは、全ての面で戦士Sを上回る。

 セインが以前言ったこの一言が、姉妹を後押しして始まったバトル。ライバーは戦士「S」、アイは騎士「B+」、この間の「B」からさらに成長している。SからS+になるのに比べ、BからB+になるのは遥かに早い。クラスチェンジの利点とも言える。楽勝だと受けたつもりのバトルだったが、果たしてどうだろうか?

 前回はライバーの完敗。

 その後、一人鍛錬を重ねたアイ。

 一方、パーティで色々攻略して、レアアイテムを増やしたライバー。

 外観が変わったアイ。装備が大きく変わったライバー。

 力の差は、どうなったのか……?


 アイの応援席という訳ではないが、6人もちろん固まっている。

 そこへ、

「さっきは完敗でした。」

 セインの隣に寄ってきたのは、ライバーチームの[ショーイン]。回復部門の決勝で戦った相手だ。

僧侶といっても、山伏や修行僧といった和の感じの格好をしている。

 まさかの場外バトル?

 ではなく、礼儀正しい若者だった。年は多分、二十歳以上。互いに社交辞令があった後、

「いい奴なんだが、熱血過ぎる感があってね。」

 と苦笑い。男だけのチームも何となく納得。

「さっそく不躾だけど、隣の2人はともかく、私はどっちを応援しているでしょう?」

 セインに負けず、中々の策士を匂わせる。

 その彼の言う隣の2人とは、もちろん仲間。

 1人は、シノと決勝で戦ったミツ。顔は出しているが、首から下は、黒子のような格好をしている。

 そちらへは、シノの方から近づいた。

 この2人も戦った同士。そして、実は接戦だった、ナイフ投げ決勝。

 10本x3段に並んだ瓶を、端から順番に倒していくタイムレース。順番が無ければシノの圧勝だが、順に狙うと両手は難しい。 

 左右で4本ずつ、半端は2本投げで倒したシノ。

 ミツは、1本ずつだが、腕を振るだけ。投げ終わった後、手品のように手にナイフが現れる。

 投げ終わったら腰(万能袋)に手をやるシノ、腕を振るだけのミツ。僅差でシノが勝利。

「あれ、どうやったの?」

 忍者のスキルなら覚えたい。そう思って訊いたのだが、[忍者グローブ]レアアイテムのスキルだった。

 残念な表情を浮かべてから、

「うちの妹とグローブ、交換してくれない?」

 シノの冗談。

 ……

 ……冗談ですよね? お姉様?!


 そちらはさておき、

「実は頼みが2つある」

 ショーインがセインに切り出した。

 その目の前で、

 ライバーがアイに斬りかかる。

 魔剣ハンドレッドのカウントは「77」。ここでライバーが、魔剣を一旦、鞘に納める。虹色模様の入った派手な鞘だ。

 刀の柄に手を掛けたまま、ライバーが詰め寄ってくる。これは居合?!

「!」

 受けて立とうとしたアイが、何かを感じて慌てて後方へ!

 速い!今までの3倍の速さはあった!

 アイの胸に大きな一文字の傷が!

 ……しかし、斬れたのは胸のレザーアーマー、まさに間一髪、皮一枚って奴だ。

「よくかわしたな。」

 抜き放ったのは魔剣ではなく[居合ブレード]居合斬りの速度が3倍になるSレアの剣。

 ライバーが再び剣を、派手な鞘に戻す。

 そして間合いを詰めてきて、

 さっきより早めに放った!

「?!」

 まだ届かない間合いのはずが、届いた?!

(これは?!)

 鞭?!

 鞘から出て、柄がついてて、居合の軌道で、刀身が鞭になっている剣?

[ソードロッド]剣技スキルで扱える鞭。

 そして、所持してる中からなら好きな剣を出せる鞘[虹色の鞘]。ただの派手な模様の鞘ではなかった。

 ライバーが魔剣に戻した。

 カウントは「77」のまま。2撃与えたが、魔剣で与えねば、カウントされないようだ。

「タイム願います」

 セインが声を出し、ジャッジに許可された。ルールにある行動のようだ。

 アイの側に走り寄り、二言三言話しかけ、セインが戻って来た。

「そのまんま、話して来たわ。」

 セインが言葉を交わした相手は、ショーイン。

「頼みが2つある」そう言っていた。それをそのまま伝えに行ったようだ。

 そして、試合が再開。

 深呼吸するアイ。

 目つきが……変わった。

 攻める!攻める!攻める!!

(こ、こいつ?!)

 ライバーが防戦一方になる。剣で受ける度に魔剣のカウントがどんどん減って行くが、気にしない。

 速い!重い!鋭い!

 ここで、

「ガゴォォォン!!」

 鈍く大きな金属音。

 2人の間に、赤く巨大な壁が現れた。

 ……動きが止まった。

[ギガントシールド]畳3畳はある超巨大な盾。ハンパない防御力を誇る。

 まだあったライバーの取って置き。Xブレードの一撃でも傷1つ付かない。

 ……ただし、できたら取って置きのままにしたかったSレアアイテム。

 壁が、ギガントシールドが、アイの方へ倒れて来た。

 ……攻撃でも、嫌がらせでも無い。

 重い……ただそれだけの理由。

 袋から出す→身を守る→支えられない。扱いにくい強力な盾だった。

 再び、アイのラッシュ!

 居合ブレードも、ソードロッドも、ギガントシールドも、出落ちに近い。一度見せたらもう想定内。

 そして、

 ライバーの魔剣が弾き飛ばされてしまった。

 カウント100は多過ぎた。

 他の剣はまだ使えたが、ライバーは潔く降参した。実力差を知ったのだ。

 勝負あり!

 湧き上がる歓声の中に、

「自分で挑んで降参かよ」という類いの罵声。

「派手な装備の目立ちたがり屋」なんて声もあった。

「ありがとう」

 真っ先に言ったのは、ライバーの仲間のショーイン。

 2つの頼みのうちの1つは

「本気で戦ってくれ」だった。

(ありがとうは早過ぎますよ)

 セインの隣にいたカナは思った。極悪シスターズが動き出したからだ。

「何でも持ってってくれ。」

 ライバーが、自分のSレア装備を地面に並べ始めた。

 魔剣ハンドレッド、居合ブレード、ソードロッド、虹色の鞘……

「うちの看板娘の代金が、1つってことは無いわよね。」

 そう言いながら寄ってくる極悪姉に、さすがのライバーも青ざめる。

(やっぱりね。)

 カナが再び思ったが、

 2つの頼みの2つ目が、

「絶対、遠慮せずにアイテムを選んでくれ」だったとは知らない。

「理由を訊いてもいいかしら?」

 セインの問い、そしてショーインが答える。

「もっと強くなって欲しいから、かな。」

 目標があると伸びるタイプ、打ちのめされると這い上がるタイプだと言う。だからこそ、全力を出してくれる目標が必要なのだと。

 そしてそれは、仲間が居てこそ成り立つ。

「これがいい。」

 極悪姉妹がライバーの展示品に近づく前に、アイが決めてしまった。

 姉妹は揃って、顔をしかめている。

 一番場所を取っていたレア装備、

 畳3畳こと[ギガントシールド]。

「おい、ホントか……?」

 ライバーも流石に驚いた。

「いいリーダーだな。」

「ちょっとお人好しだけどね。」

 セインが微笑んだ。

「それは重たくて無理だぞ。」

 ライバーが言うのを、確かに少し手こずりはしたが、転がっていたギガントシールドを、アイはしっかり立てて見せた。

 姉妹がやって来て不満そうなのを見て、

「ホントに、これが欲しかったんだ。」

 アイが笑顔を見せたので、何も言えなくなってしまった。

「何でもって言ったけど、多分だが、渡すの拒否するモノが一つだけあったと思う。」

 と、観客席のショーイン。

「君たちのリーダーは選ばなかったと思うが、あの[マタドールの服]は、多分、譲らなかったと思う。」

 [マタドールの服]。装備する者が、敵に狙われやすくなる。レア度で言ったらAランク。

 Sレアの剣を何本も入手しているライバー。けれど、あのマタドールの服を手に入れた時が、一番喜んでいたと言う。

 戦士の自分、僧侶、忍者、魔法使いの4人チーム。戦士である以上に、チームの盾としてありたい。そういう事なのだろう。

「前衛としても、リーダーとしても、似た者同士なのかもな。」

 ショーインが笑った。

「ホントに、これが欲しかったんだ。」

 アイは言った。

(盾が欲しかった?!)

 ……みんなを守れる盾が?!


 ライバーチーム撤収。

「完敗だったよ。」

「……だな。でも、決勝よりいい試合だった。」

「うん」

「はい」

「次は勝つぞ!」

「だな」

「うん」

「はい」

 負けても清々しい。チームワークを感じる男所帯。

 アイチーム撤収。

「おい、あそこ!失格のお嬢ちゃんがいるぞ!」

 野次馬から声が聞こえた。

「召喚獣がぶっちぎりで旗まで飛んで、帰って来なかった奴か?!」

「ありゃあ、笑えたな!」

 外野がご丁寧に、カナの大会の結果報告をしてくれた。

「言わせとけ、言わせとけ。」

シノが肩を組んで来た。

「そうそう。」

反対側からはレイ。

「優勝するより、標的にぶっちぎりで到達する方が凄いって、解らん奴には言わせとけ!」

 こちらも、チームワークに溢れてた。

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