第23話 ライバルが増えた

「好きな戦国武将は『べっき、あきつら』!」

 リアリアは、コアなタイプの歴女だった。

 わざと難解な表現を選び、

「ちょっとカジッた程度の連中と、一緒にしないで!」

 多分、そんな感じで、多分、友達は少なめ。

 でもそれも、楽しみ方の1つだ。

「僕も『道雪』好きだな。」

 アイが話に乗っかった。これは危険なパターンだ。

「『立花道雪』?私もベスト5に入る!」

 シノも戦国武将に詳しそうだ。

 ……でも、今はそれはどうでもいい。

 リアリアがキラキラした目でアイを見ている。

 べっきナンタラを知っていた時点で、心奪われたようだ。

 ヤバい!ライバルが増えた。


 わりと大きな町にいる。不定期にどこかで開催する大会[スキルフェス]で賑わっている。観客も多いが、参加希望のプレイヤーの比率が高い。

 スキルフェスは、特定のスキルを競う大会。剣術部門だけでも「戦闘」「技能」「パワー」などがあり、かなり幅広く種目が分れている。

 参加した部門の経験値が多く入るので、人気のイベント。ただし、開催を知るのは運に近い。事前告知も少なく、開催は1日のみ。冒険者を一か所に、過剰に集中させない配慮かも知れない。

 全員、何かしらに出ようという事になって、現在ランチタイム。カフェテラスで食事中。

 テーブルが4人用なので2組に分かれた。まだ戦国武将で盛り上がる3人と、それ以外の組。

「本能寺の変が戦国最大の謎なんて違うと思う」

 一番熱く語っているのはリアリア。

「謀反なんて山程あったし、謀反の理由なんて性格か方向性が合わなかっただけじゃない。」

「本能寺の変はただの事件っていうのは賛成。」

「でしょ!最大の謎っていうなら……」

 サンドイッチを頬張りながらの熱弁。

「やっぱり、名前の読み方よ!」

「それは言える。」

「『こういずみ』伊勢守か『かみいずみ』伊勢守かとかね」

「おっ、上泉伊勢守!私の中で戦国最強剣士!」

 マニアック過ぎる会話が続く。

「久しぶりだな、アイ」

 後ろからの声に振り向くと、

 腰には、七色の派手な鞘。帽子は無いが、赤を基調とした闘牛士のような装備の若い戦士。

「あ、えっと……」

 ……

 ……

「[ライバー]だ!お前のライバルのライバーだよ!」

(何てわかり易い!NPCかしら?)

 ……

 プレイヤーだった。

 ちょっと……かなりクセのあるプレイヤー。

「……にしてもお前、イメチェンしすぎだろ!前のストイックな放浪戦士の方が良かったぞ。」

(いや、そっちこそ変わり過ぎだろ。前会った時は普通の戦士の格好だったろ。)

 だから解らなかったと言いたげなアイ。

「何だ?仲間も作ったのか?女性2人か?!

 ちゃんと鍛錬してるのか?!エンジョイ勢になっちまったんじゃないだろうな?!」

 アイに口を挟ませず、まくし立てる。

 後ろの仲間らしき3人も半ば呆れ顔。ちなみに彼の仲間3人は全て男。

「6人よ。」

 リアリアが口を挟む。話を邪魔されたのが気に障ったのか、油を注ぐことに気づいてないのか。

「女が6人の7人パーティ。」

 隣のテーブルを指差す。

「何だとぉぉお?!」

 案の定である。

「お前、剣技部門に絶対でろよ!今度こそ叩きのめしてやる!!」

 捨て台詞を残して去った。

 結果的には話が短くなった訳だが……

 変なライバルも増えた。


 大会は午後にエントリー。それぞれ異なる場所でほぼ一斉に始まる。できたら何か一つは出ると決め、終わったら、アイが出る剣技バトルの会場に集合、それまで自由行動となった。

 準決勝でライバーが戦っている頃、最初の一人カナが集合場所に現れた。

 以降、戻って来た順に結果報告。

 セイン。回復スキル部門、優勝。(準優勝はライバーの仲間のショーイン)

 シノ。ナイフ投げ部門、優勝。(準優勝はライバーの仲間のミツ)

 レイ。アイテム鑑定部門、優勝。

 ……

 ……カナは言い出せない。

 自分は「失格」だったなんて。

 次に戻って来たのは……剣技バトルに参加しなかった、アイ。

 参加出来なかったのだ。

 一度優勝すると出られないルール。以前の大会で、アイは優勝している。ゆえに、

 アイ。パワー部門(剣士)、優勝。

 ……ここで、セインがニコニコ顔でアイに寄ってきて、結果報告から賞品報告へと変わった。

 大会の優勝賞品は、ランダム要素が強い。レアであるのは確かだが、本人が大満足する品もあれば、自分が使うのには微妙なモノもある。

 前回のアイが貰った優勝賞品は、今カナが持っている[隠れ身マント]。カナと出会った時には活躍したが、仲間がいないと使っても効果がないので、アイにとっては当たりかどうかは微妙な品だ。(ちなみに、この時の決勝でライバーと対決した。)

「これ、欲しかったの!」

 セインがアイに見せたのは白い靴。

[ジャンプシューズ]。MPを消費して跳躍力を増す靴。小さな羽根の飾りのある白い靴。

「履いてみて」

 セインに言われると断りづらい。それも満面の笑みなら尚更だ。もう「あげる」と決めている。

靴のサイズは自動調節される。仮に他人のお古であっても、汗も臭いも残らない仕組み。今後の作戦・戦闘も考えてなのだろう。

 後に「蛙いらず」と呼ばれ、召喚獣バルーンフロッグの出番を減少させた靴が、今、アイの物となった。

 シノの優勝賞品は[忍者入門]手引書だ。

 読む(自分に使用する)だけで、職業が盗賊から[忍者]にクラスチェンジ。こちらも当たり、本人大満足だった。

「やっと盗賊なんて、私に似つかわしくない職業からオサラバできるよ。」

 本心なのか冗談なのか解らず、みんな返答に困っていた。

 シノが天職盗賊から[忍者]になった。忍者は投射、跳躍、忍び足などの精度がさらに上がる職業。元盗賊などの資質がないと、忍者入門を持っていてもなれない。

 レイも優勝賞品に手引書を貰った。

[錬金基礎入門]。こちらは職業ではなく、スキルとして『錬金C』を入手できる。アイテム鑑定のスキル所持者じゃないと、やはり使えないのだが、レイも条件をクリアしていた。

 『錬金C』は、まだ基礎中の基礎。簡単な薬の調合程度だが、安い元手でアイテム入手できることに、シノの方が喜んでいた。

 アイの優勝賞品は[一心刀]。

 漆塗りのような黒い木刀(っぽい剣)。能力も地味。しっかりとヒットさせると会心の一撃になるが、それ以外だと、棍棒で殴った程度のダメージしか与えられない。剣技スキルの向上には有効だが、Xブレードに勝っている点があるかと言うと、ハズレと言えた。

 で、カナの番になる所で、リアリアが帰還。

 まだ失格で最下位と言えてないので、ホッとするカナ。

「最下位だった。」

 リアリアの開口一番に、更にホッとするカナ。

「……ま、3位だったけど。」

(どういう事?!)

 リアリアの出場したバリア部門は、希少スキルのため参加者3名。バリアの耐久度を競って、最初にMP切れしたので3位。ちなみに、3位入賞から表彰される。

(何それ?ズルくない?!)

 大声で叫びたかったカナ。

 召喚獣部門の参加者は4名だった。

 今回はバトルではなく、離れた位置にある旗を回って折り返す、タイムレースの形式。

 運よく思い通りにミサイルハヤブサを出せ、

(修行の成果が出てる!)

 と、思ったのもここまで。

 ぶっちぎりで旗に到達したピィちゃんは、そのままターンせずに、遥か彼方へ……で、失格。

 最後に戻ったのが、ミコ。

「……失格でした。」

 涙を流して抱きしめたい気持ちのカナ。

 迷った末に解毒部門に出場したが、うまく行かなかったという。

 と、そこへ、大会審査員のNPCが現れ、

「参加者全員からの要望で、優勝となりました」

 聖女ミコに告げに来た。

(何だそりゃ?!……聖女忖度??この世界にも忖度があるの??!)

 優勝賞品の[回復の指輪]を渡し、審査員は去って行った。

 文字通り、初級回復呪文が使えるようになる指輪。やはり、戦術レベルで考えているセインが、入手を一番喜んだ。

(ブルータス、お前もか……)

 カナは自分の結果を伝えるタイミングを、完全に逸してしまった。

 実はミコの繰り上げ優勝は、訳を聞けば納得できる。解毒のタイムアタック勝負、ミコが祈り始めたら、なんと他の出場者の分も、一斉に解毒されてしまった。ミコはそこで退場。でも他の出場者にしてみれば、圧倒的な力の差を感じてしまった……というわけで、忖度ではなかった。

 で、いよいよ、みんなの視線がカナに向く。

「私達だけ騒いじゃってゴメン」だったのか

「そういえば、まだ結果聞いてないよね」なのか

もう言い逃れもごまかしも出来ないと思った時、 

「優勝者、ライバー!!」

 剣技バトルの勝者が決まった。

 とりあえず、大歓声に救われたカナ。

 ランダムな賞品より、参加で貰える経験値を目当てに、成績はダメ元で出るプレイヤーが多い大会。剣技バトルは、その中でも資格所有者が多いので時間がかかる。ゆえに、出場済の人達が観客として集まりやすい。

 そんな中での優勝。湧きに湧く観衆。そしてこの男、抜け目ない。


「アイ!今からお前に[バトル]を挑む!」

 大観衆の前で叫んだ。

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