第22話 千本ノックを食らうわよ!

「リグスタルちゃ~ん、遊びましょ!」

 こんなに緊迫感のない中ボス戦があっただろうか?

 インターホン越しに呼びかけると、奇跡的に、町長の屋敷の門が開いた。

 中庭へ入ると、本邸の玄関前でハゲ町長が待ち構えていた。

「誰だ?貴様ら?」

 こちらを覚えていない。自分の正体を知る者を確かめるために、出てきたようだ。

 人間を操れる能力を持つリグスタルは、正体を知られても動じない。だからアイ達を覚えていない。ただ、知っている者の存在は気になるようだ。

「私を覚えてないかしら?」

 リアリアの方には、忘れもしない、さらわれた恨みがある。

「知らんなぁ」

 あの時の黒いドレスは着ていない。こちらを忘れているのは想定内、そして好都合。

「この、白い召喚獣は覚えているかしら?」

 カナの肩に、事前に召喚済の白イタチが乗っている。

「き、さ、ま、ら、かぁ!!」

 ハゲ町長の変身が始まった。

 同時に、こちらは二手に分かれる。

 陸上競技場のように横長の中庭を左にアイが走り、残りは右に移動。ここまでは予定通り。

 変身したリグスタルが、庭のほぼ中央に出てきた。見事に釣れた。狙い通り。

 白イタチのいる女性陣の方を向いている。ここまで、順調過ぎるくらいに順調。

 最初の懸念、広い場所で戦えるかを、まずクリア。

 白イタチが走り出し、リグスタルへ向かう。

 赤い目から魔法がいきなり出た!

 ピラミッド型のボディに届く前に倒された。

『出力を抑えれば、すぐに撃てるのだ!』

 天敵を倒し、上機嫌のリグスタル。

(なんという……嬉しい言葉!)

 作戦参謀のセインが喜ぶ。

 懸念その2、敵の魔法詠唱の早さ。

 出力を抑えればすぐ=高出力には時間が必要。不安材料が一つ消えた。

 白イタチがリグスタルの透明ボディを登る!

 事前召喚済は2体いたのだ。

 反対へ走ったアイが隠し持ち、背後から接近した。好材料がさらに判明。

(背後は見えない!)

 前回同様、過剰に反応して嫌う。が、前回よりかなり早く払われた。

 これも……想定内!

 アイの背後からの一撃!

 ……これでどのくらい削れるかが、戦闘を左右する。白イタチの微放電で粉くらい削ってた。ボールくらいは剣で削れるのが想定!

 問題は、どのボールかだ!

 ゴルフボール?野球のボール?バレーボール?

「ガキィィィイ!!」

 凄い音がして、塊が飛んだ。

 Xブレードが斬り取ったのは、

(バスケットボール大!!)

 想定を上回る手応え!

 しかも、斬られた後も、痺れた反応を見せている。

「3撃くらいで倒れなさい!じゃないと、地獄の千本ノックを食らうわよ!」

 出番がないシノが叫ぶ!

 その間にアイが、Xブレードにはめられた雷撃球を、次の新品と交換する。

 そして二撃目!

 また、リグスタルの体の破片が飛んだ。

 雷撃球をまたチェンジ、そして斬撃!……これを繰り返す。何度も……そして何度も。

 アイの体力が勝敗の鍵を握る。

 バスケットボール何個分?!剣撃が二桁を越えたが、まだピラミッド型とはっきり解る。

 ちなみに、クフ王のピラミッドは、230万の石で出来ているとも言われている。この情報知ってたら、士気が下がったかも知れない。

 剣撃の後に麻痺するのが救いだ。魔法の反撃がないのが大きい。

 この間に、女性陣がリグスタルに近づく。

 そして、セインのバフ(戦闘強化魔法)!

 ここでも嬉しい誤算。対面前に1回目を掛けたときに判明したサプライズ。

 ミコなのか、聖水晶なのか、両方そろってなのか、強化魔法の効果をさらに聖女が跳ね上げる。

 アイをセインが、セインをミコが強化する。

 残りのみんなもセインの[聖なる手袋]で繋がる。MPは十分にある。2回目となる強化は最初より強めだ!

 速さとパワーが増す!

 空になった雷撃球が、地面にゴロゴロ転がっている。これがシノの言ってた、千本ノック!

 かなりの数を用意したが、雷撃球が尽きないことを祈るしかない。

 応援団から、攻撃に一人参加!

 オリハルコンのナイフが片眼を潰した。

 アイが前を削って、貫通距離が短くなっていた左眼を狙い、見事に刺した。

 リグスタルから蒸気のようなものが出だす。怒っている。尋常ならざる怒りが出てる!

「アイくん、下がって!」

 セインの合図で合流し、7人が固まった。

 リグスタルが、

 いきなり魔法準備全開!

 残った体に赤い魔法弾が6つ、それをいきなり撃ってきた!

 これは、この速さは想定外!

 リアリアが慌ててバリアを張る!

 前回は12個の魔法弾に力負け、今回は、ミコも増えたのだが、6個なのに、前回より強力だ!

 ……これは

 ………想定外…………

 バリアが押され、あっという間に、

 あっという間に、爆発!!

 7人の後ろにあった、本邸の玄関部分が大破!瓦礫が散らばり、白煙が上がった。

 7人は、跡形も無い。

 ……そう、跡形も、無い。

「!」

 後ろから迫る足音。

 すでに3割以上が破損しているリグスタルが振り向いた時には、アイが目前で、上段に振りかぶっていた。

 大きな音が2度鳴って、千本ノックの続きが始まった。

 リグスタルの右肩が斬り落とされた斬撃音と、その肩が右腕ごと地面に落ちた落下音。

 魔法で爆破した相手が背後から現れ、戸惑う敵に怒涛の剣撃ラッシュ!全てセインの作戦通り!

 アイの最初の猛攻の間に、6人は本邸玄関前まで移動。ここは、屋敷の正門の向かいになる。

「本邸の中、人が居るか解る?」

 ダメ元で聞いたが、ミコの聖水晶は答えてくれた。

「1階0人、2階4人」文字が浮かんだ。

 セインの「巻き込んじゃったらゴメンなさい作戦」開始!

「アイくん、下がって!」と呼ぶとバリアの準備にかかる。

 バリアは脱出魔法を使うまで持てばいい。

 セインの右手はリアリア、左手はアイ。右手には全員の手、これでバリアと脱出魔法に十分なはず。そして左手では、後半戦用のMPをアイに補給する。

 敵の魔法が、速く強力だったのは計算外だったが、何とかなった。そして、

 屋敷の正門まで脱出した後、みんなのMPも添えてアイを送り出す。

 目前までリグスタルが気づかなかったのも、想定以上。さらにオマケの、

「ファイト!一発!」

 アイの背中に貼られた魔法紙。

 今回、インターホンを押した以外に出番の無かったレイが、自腹で貼った[白い諭吉]。

 呪文名じゃなくても魔法を発動してくれるのだが、流石にこれは……と思っていたが、

 見事にリグスタルの右肩を切断した!

 それから、怒涛!怒涛!怒涛!

 どれだけの雷撃球が消費され、地に転がっただろう。

 千本ノックは、ノッカーと受け手の持久戦とも言える。

 リグスタルを、削って、削って……遂に両眼ともボディから斬り離した時、

 リグスタルの動きが止まった。

 黒煙を出して砂と化し、消滅した。

 歓喜に湧く女性陣。アイはヘトヘト、輪の中で笑っているのが精一杯。それでも完全勝利と言えた。

 強くなった。そして、

(もっと強くならなくては……)

 新たな決意をした。

  

 リグスタルに操られてた人達が正気に戻り、一件落着。

 例によって副町長やら神父やら野次馬やらがワイワイ駆けつける中で、戦闘報酬を受け取る。

 [高級魔法紙]5枚つづり。かなり高度な魔法も発動できる優れモノ。買うと1枚10万円くらいする。白い紙なのは[魔法紙]と同じだが、金の縁取りが高級感を増している。言うなれば[金の諭吉]ってとこだろうか。

 何人かで分け持とうと相談する中、野次馬の一人がリアリアに気づいた。

 あれよあれよと噂が広がり、悪女から一転、町を守った英雄に。

 ゴルゴガルゾの時に比べると、被害は少なく見えた。それでもすり替わられた町長を始め、二桁以上の被害者はあったようだ。


「よし、じゃあ1年(レイ)、使えそうなボール(使用済雷撃球)があるか解らないから、全部拾っておくように!」

 シノの冗談で幕を閉じた。


 翌日、町中に惜しまれつつ出発。

 行き先は、聖水晶が指す東!

 今いる中立地帯を抜け、[東の王国]に向かうことになりそうだ。

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