第21話 一つになる時

 幽霊山を登っている。

 前回4人で試み、どのルートを選んでも、最初の分岐点、看板のある二股に戻された。

 今回は7人。ナビ(聖水晶)を持つミコ、いざと言う時の脱出魔法があるリアリア、体調万全のシノが加わった。

「……で、ナビのゴール地点にストーカーゴーストの家族がいて、そこで人の姿になるんじゃないかと思うの。」

 シノは饒舌だ。

 体調が良い理由は単純、彼女の基準では、ゴーストは幽霊じゃない。ホラー映画やお化け屋敷のような幽霊が出ないなら、留守番する必要はないのだ。

「……で、『仲良くしましょう』って言って来たら、『貴方は何人殺しましたか?』って返すの」

「5人」

「80人は喰ってますよね。」

 シノブが言いそうなセリフだ。

 もはや、探索というより遠足に近い、緊迫感のない登山。出る魔物も弱い。

 と、ここで、魔物が現れた訳でもないのに、シノが足を止めた。

 前を歩くアイとミコが引き返してくる。

 これで何度目だろうか。

 分岐点を、前回2択と思って登っていたが、聖水晶のナビ通り進んだら、来た道を戻る、左右の分岐の間の藪に入る、真横の道なき斜面を下る。

 ……ナビが正しいと信じる要因は、看板の分岐に一度も戻されない事。そして、時折開ける展望で、確実に標高が上がっていると確認できるからだ。

 周囲の景色が変わってきた。

 今までと違う敵が出そうな雰囲気だ。

 ここからは、戦闘に全員参加。しかし、雑談の時間が無くなっただけで、やる事は変わらない。

 幽霊山に翻弄されているのか、ナビに翻弄されているのか、行ったり来たり、登ったり下りたりを繰り返す。

『一つになる時が来ました。』

 もう何十回目のY字路だろうか。そこで声が聞こえた。

 ミコが辺りを見回す。

「どうしたの?」

 みんなには聞こえていない。自分にだけ、声の主は……

(聖水晶???)

 だとしたら、自分にだけのメッセージ??

「……ゴールが近いのかな?って思って。」

 文字として出なかったので、とりあえず、胸の内に。

 その水晶に文字が浮かぶ。

 直進の矢印、左右の分岐の中央の茂みに突っ込むパターン。

 まずアイが、続いてミコが、そして後続、もう決まっているパターン。

 抜けた先が、少し開けている。

 アイが現れ、ミコが現れ、……次が来ない。

「何やってるのよ」

「通れないの」

 微かに声が聞こえるだけで、後続が来ない。

「どうしたんですか?!」

 あちらの声は微かに聞こえるが、こちらの声は全く届かない。

 アイの方を振り向くと、

 開けた場所の中央で、光を放つモノの前に立っていた。

 キラキラと光を反射する銀色、美しい……美しいモノが地面に刺さっている。

 これは……剣だ。

 アイが出会ったどの剣よりも美しい。

 アイが心を奪われている。

『一つになる時が来ました!』

 また、ミコの頭に声が響いた。

『差出しなさい! 全てを委ねるのです!』

 今、この場には2人。

『彼に全てを任せるのです!』

 声の届かない場所にいる男女。一つになる。全てを任せる。

(えええええええっ????!!)

 ミコの顔が真っ赤に染まる。

 アイが剣を引き抜いた。

 手にした姿が、逆光を浴び、彫刻のように美しい。

 赤面しながらも、フラフラと引かれるように足が動き……ちょっとつまずいた。

(?!)

 手から転がった水晶が、アイの下へと転がって行く。

 導かれたように、足元の、剣が刺さっていた穴に、水晶がはまった。

 それを拾って、アイがミコに近づいてくる。

 左手に剣、右手に聖水晶を持ちつつ、ミコの正面に立つと、優しく微笑んだ。

 ミコの心拍数が急上昇!

「ありがとう。解ったよ!!」

(な、何がですかぁぁぁぁあ??!!)

 聖水晶からの警告!

 奴が、ストーカーゴーストが現れる!

 アイはすでに、ミコを守るように前に立ち、警戒している。

 左手に銀色の剣、右手に聖水晶。

 心の花束と背中の人生は、まだ背負うには若いが、立派なサムライに映った。

 現れた!

 そして、一つになる時!!

 新たな銀色の剣、ジュピターソードほどではないが、それでも長剣に属する。普段は背負うことになるだろう。

 刀身はスマートに長く鋭利だが、柄の付近は広がり、丸い穴が開いている。

 そこへ、

 聖水晶をはめ込む!

「!!」

 光った!

 銀色の刀身が、温かみのある白い光に包まれ、美しい剣が、何倍にも神々しく見えた。

 ゴーストを一刀両断!

 斬った部分とその周囲が、熱で溶かされたようになって、蒸発した。

 ゴーストが再生を始めたが、繋がって復活した姿は、明らかに以前より小さい。

(倒せる!!)

 二撃、三撃と繰り出す。

 フェアリーソードほどの軽さはないが、大きさを考慮すると、かなり扱いやすい。

 魔物の再生を待ち、さらに小型化しているのを確認して、剣舞!

「アビャ!」「ビャ!」」ビャ!」

 無言だった魔物が悲鳴を上げている。

「ビャビャーーーァッ!!」

 断末魔の叫びを上げ、ゴーストは消滅した。

 同時に、剣からひとりでに外れた聖水晶が、受けとめたアイの手の上で、優しい光を放った。

 終わったのだと、ミコには解った。

 ドタドタドテーン!

 よくある漫画の1シーンのように、残りの5人がなだれ込んできた。

 閉まっていた扉が、急に開かれ、勢い余って前のめりという奴だ。

「あたたた……」

 聞き耳を立てていたのではなく、押し通ろうと頑張っていた分、転んだ痛みは強かったが、

 新しい剣、

 ジュピターソードより、やや小さめの長剣、美しい剣、

 その剣を、背中でくるりと時計回りに一回転、

 新しい鞘に収める、アイの姿があった。

「手にいれたの?!」

「それが……伝説の装備?!」

 2人の無事のみを思っていた一同、思わぬ収穫に驚いている。

 そして、

「多分……終わった。」

 肩で息をしながら、振り向くアイ。

「はい、もう出ないと思います。」

 ミコが涙ぐんでいる。

 もう1つ、収穫があったのだと、認識した。


 レイが新しい剣を鑑定した。

[X(エックス)ブレード]。『SSレア!』

 SS以上は世界に一本、同じ剣は二つとない。求めていた伝説の装備で間違いない!

 穴にはめ込んだ魔法球の[属性剣]となる。聖水晶のようにMP消費するものをはめると、振るうたびにMPが失われるが、魔法球の力に剣の力が加わる一撃となるので、その力は強大。

 使いようによっては、SSS(聖剣クラス)にも匹敵する。

「凄い……」

 その一言しか出ない。

(聖水晶様、ナビを疑ってゴメンなさい!!)

 何人かは、心の中で謝っていた。

「……にしても、ミコちゃんの件と伝説探しが、一つになるとはね。」

「……これで、残る課題は一つになったわね。」

 ミコは勘違いを思い出し、改めて赤面しつつも

 ……しつつも?

 安心を覚え

 ……そして、

 ……ミコが消えた。

「!」

「?!」

 でも、この消え方は、

(……眠った?)

 夜、宿屋でなら、誰も心配しない。

 昼間、ダンジョンで、眠りに入った。

 この後どうなる?誰も解らない。

 セインの知識だけが頼みだが、前例は記憶にない。推測するしかない。

 頂上は魔物が出ない。気配で解る、ここは安全地帯、結界の中のような場所。町中でも現れる魔物しか出ない。でもそれはもう倒した。

 様々なパターンを考えた上で、セインは最後の選択をリーダーに任せた。

「下山して宿屋で待とう!」

 アイの答え。これはセインの誘導とも言える。個人の意見なら「残る」と言うはず。

 責任を丸投げした訳ではない。外で眠るのは前例がない。二次遭難を防ぐためだ。

 そしてアイは、自分が残ったら全員残ると解っての苦渋の決断。

『起きたら絶対、ここで待ってて』

 置き手紙を残して下山。

 そして迷ったが、聖水晶は持ち帰った。これはセインの決断。

 聖水晶のある方に「現れて」欲しい。そういう思いと、責任を負う覚悟。もちろん、確率が高そうな選択をしたつもりではいるが。

 ミコが宿屋(聖水晶)に現れなかったら、朝イチで山頂を目指す。それも決まった。

 どこにも現れないことは、今は考えない。

(現れてくれるよね……)


 翌日、大ニュースになった。

 ミコは現れた。

 セインの読み通り、聖水晶のある宿屋の方に。

「おかえり」

 涙を流してセインが喜んだ。決断の重さをみんなが知る。

 その頃、町で、いや[世界]のプレイヤー達がざわついていた。

 話題は昼間の大ニュース!

 現実の昼間のニュース報道。

「初めての生還者!」

「悪夢から戻った奇跡の15歳!」

 多くの番組で取り上げられていた。

 意識不明で眠ったままだった少女が、3週間ぶりに目を覚ました。若者だけが見る[世界]という夢を見ていた少女。

 名前は報道されていないが、立川在住の15歳の少女。カナ達にはピンと来た。


 生き抜く方法はきっとある!大ニュースはプレイヤーに希望を与えた。

 カナ達も、

「大魔王を倒せば、きっと!」

 思いは強くなる。


 まだ、他のプレイヤーが知らないニュースを知っている。

 魔王を倒すための「希望」=[勇者]も目覚め始めている。

 この[世界]の悪夢を終わらせるのは、

 きっと、彼!


 「 I《アイ》が[世界]を終わらせる! 」

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