第20話 バカねえ
「バカねえ」
と、シノ。
涙の後が残る少女から、説明を受けた後での、開口一番。
謎の魔物は倒されても復活する。ダメージを多く与えると復活が遅れる。一番効果があるのは、彼女の聖水晶から放つ光。……でもこれは、時間を置かないと次が撃てない。
他に解っていることは、消滅して復活する時には、必ず彼女の側に現れる。復活直前に水晶が察知して、そこから逃亡劇の再開となる。
それと、攻撃した者は、少女以外でも標的となる。消滅しているうちに、町を移ればリセットされ、少女が標的で再スタート。
なので、と、
少女が町を移るからと、別れの挨拶をしようとした時、
「バカねえ」
またもやシノが一言。
「逃げられる訳ないでしょ!
うちのお人好しリーダーから!」
みんながうなずく。アイも笑っている。
「……でも、水晶の矢印が」
少女がみんなに聖水晶を見せる。矢印が7本、同じ方向を示している。
いつも聖水晶から[お告げ]を受けると、必ず従っていると言う。
矢印がほとんどだが、稀に文字もあるという。
今回の7本の矢印が示す先には、隣町がある。
「7本には意味があるの?」
と、セイン。
「……解りません。いつもは1本なんですけど…
次の町に行けば解るかも……」
「バカねえ」
本日3度目だ。
「顔を上げなさい。そうすれば解るわ」
少女が顔をあげると、彼女に優しい目を向けている人達が……6人……自分も足すと……
「そう言うことよ」
7人目の少女の名前は[ミコ]。
みんなより(多分)年下の15歳。
レア特典は、超激レアの職業[聖女]。超激レアアイテムの[聖水晶]。
「シスターの格好なのに[ミコ]?」
「本名ミコトで[ミコ]です」
素朴な疑問の替わりに、大きなネタを放り込んでしまった。ミコト、小柄なシスター、聖人ならぬ聖女。
修道服が白だったらと……私も思ったが、それではセインと丸被りしてしまう。
「学園3位だったりする?」
「?」
「お嬢様学校?」
「いいえ……」
「立川近辺在住とか?」
「どうして解ったんですか?」
みんな真面目に受け止めるミコ。
「テレポートする変態に気をつけてね。」
「?」
「私は変態じゃない!それにテレポートじゃないって言ってるでしょ!」
一人増えて、さらに賑やかになった。
「一人で町移動してたの?」
やっとセインが本題に入る。
フィールドの魔物には、一度も襲われなかったという。多分、聖水晶の力だと。
今、隣町へ移動中、何度か魔物と戦闘した。
自分だけ狙われないが、一人だと効果が出ない[隠れ身マント]の真逆のスキルのようだ。
「いつから追われてるの?」
この質問の答えで、みんなの表情が変わった。
「三週間……」
三週間、一人で逃げてた……
「バカねえ、は取り消すわ。」
「ホント……頑張ったね。」
ミコがまた、泣き出した。
町につく頃、ミコがまた、アクビをした。
何度目だろう。
大きなアクビをした後、顔を真っ赤にして小さくなる。それが可愛い。
現実でも寝不足なのだろうか?(現実の体調不良が反映するかも謎だが……)
いずれにしても、倒せない敵から一人で逃げ回る、RPGじゃなくて、もはやホラーゲームだ。現実の死に繋がるのなら、ゲームですら無い。
「私達も、導きが欲しかったの。」
むしろ、こっちが助けられたような口ぶりでセインが話す。
確かにそうなのだ。
雷鉱石の加工で入手したのは、雷属性の投げナイフと雷撃球。消耗品以外の、剣などのランクの高い属性武器は、特別な職人しか造れない。雷属性武器の個数は揃えたが、ナイフや魔法球だけで中ボスを倒せるイメージが湧かない。次に目指す目標を思案中だった。(ちなみに、魔法球は魔法玉の強力版。雷撃球は雷撃玉より強力。大きさはほぼ同じで、野球のボールくらい。でも値段は全然違う。)
突然、ミコの聖水晶から警告!
謎の魔物、ミコのストーカーゴーストが現れる知らせだ。
今度はミコは逃げない。彼女にとって初めての事。動いたのはアイ。
フェアリーソードを抜いて身構え、現れた瞬間に八つ裂き(みじん切り?)にした。
これで多分、明日まで大丈夫。
今日は、この町に宿を取る。
大部屋に雑魚寝、初めてである。
しかも、男女一緒。
万が一を考えて、ミコとアイは同室がいい。でも、2人きりは大問題(ミコは中学生)、なら一層……という訳である。
パジャマに着替える訳でもなく、眠るだけ。それも、一人ずつ消えていくだけ。(こちらの)朝になると、また現れる。それがこちらの眠り。
誰も眠気に逆らえない。強制的に眠りに就く。そして、現実の生活に戻される。
みんな安心させる為に、頑張ってミコより後に眠ろうと努力したが、やはり眠気に勝てず、ミコが最後の一人となった。
このまま朝まで、不安な時間を過ごす。夜中に謎の魔物が出たのはまだ数回、いつも聖水晶で攻撃できるよう備えている。水晶のエネルギーを夜に満タンになるよう、無駄遣いしない。
現れたら誰も助けは来ない。自分で撃退するしかないのだから。
……そう、彼女は寝ていない。
……[世界]に来てから一度たりとも。
それは、現実世界で、一度も目覚めていない事を意味する。
いつも宿屋は個室がほとんどなので、みんな気づいていないが、一番に起きるのは決まってセイン。現実の生活サイクルによるのだろうが、目覚める(現実では眠る)順もほぼ同じ。もしかしたら、規則正しい生活を送っていることも、プレイヤーとしてこの[世界]が選ぶ必須条件の一つかも知れない。
寝起き直後でも、寝起きの顔も寝癖もない。だから男女同室でも気楽に眠れた。
セインが目覚めるとミコがいた。
「眠れた?」
「はい」
ミコが心配をかけまいと嘘をつく。
みんなが現れるまでの間に、聖水晶を見せてもらった。7本矢印の示す方向は変わってない。このままなら、ニセ町長リグスタルのいる町に今日中に着く事になる。目的地はそこなのだろうか?戦って勝てるのだろうか?
疑問はある。聖水晶を疑う気は無いが……
……でもその前に、
「矢印、1本にしちゃわない?」
ミコに言ったのだが、返事をしたのは、
『○』
水晶に文字が現れた。
最初の賛同者は彼?(彼女?)だった。
みんな起きたら早速提案、満場一致で可決。
本契約を済ませ、ミコが正式メンバーに。
「最初の任務、みんなの朝ゴハンよろしくね。」
お金を持たせて買いに行かせる。念の為、アイが同行する。
その間に、
「多分、ミコちゃん、寝てないわ。現実に戻れてない。」
チームの頭脳は騙せなかった。
「私より早起きなんて、有り得ないもの。」
ひょっとして、セインさんは朝が早い高齢者さん?……何てことは、思い浮かんでも誰も口にしない。
多分きっと、怒らせたらシノより怖い……何となくだが、みんな思っている。もちろんシノも。
年齢の話題になると、うまく話をはぐらかす。さらに突っ込めるチャレンジャーは出ていない。(アラサーぐらいの可能性は有り得る?)
でも口にしない。関係がギクシャクするのも嫌だし、セインの事が、みんな大好きだし必要だから、大した疑問じゃない。
朝食が戻る頃には話がまとまる。リグスタルより、ミコが優先事項になった。リアリアも快諾した。
「もう一度、水晶に聞いてみて。」
ストーカーゴースト退治を最優先とする、聖水晶の導きを依頼。アイはもちろん反対しない。
聖水晶に、一本の太い矢印が現れた。
ちなみにだが、眠気→眠る→体がシルエット化→消える……がこの[世界]の眠り。目覚めはその逆、消えた場所にシルエットが現れてから、戻ってくる。
……で、結局、リグスタルの町にいる。
(ナビ、大丈夫?)
口には出さないが、思っている者もいる。
矢印の示す通りに来た。
このままだとニセ町長の屋敷前に……と、
(素通り?)
さらには、以前泊まった宿屋も通過……ここでちょっと足を止め、情報収集。
……やはり、執事ラトラーは亡くなっていた。
教会に入院してまもなく、病死。
運ばれたのは、自警団の詰め所前から。
「屋敷に強盗団が来て、家財も金も奪われた。」
よれよれの体で知らせに来たそうだ。
屋敷はラトラーの報告通り、金目の物ほぼ全て消えていた(もう残ってなかったんだけどね)。
冒険者であったリアリアが、強盗団を追って行ったというオマケ証言まで付いていた。
まだリアリアを疑う者もいたが、昔から有力者ドクシーと執事ラトラーは、町の人に愛されていた。大抵の人はその証言を信じていた。
(プランC、ありがとう。ラトラーさん。)
宿屋の女将は、目の前にリアリアがいるのに気づいていない。黒いドレスを着ていないから。
……とりあえず、本当に優先事項はミコ。リグスタルに大きな変化はなさそうだった。
……で、矢印は
ドクシーの屋敷も通り過ぎ、
……ここは?!
(幽霊山?!)
間違いなく幽霊山を指している。
聖水晶が優先させたのは……
ストーカーゴースト??
それとも、伝説の装備??
「でもまた、迷子になるだけなん……」
言いかけて、カナが口をつぐんだ。
(ナビがある!!)
みんな思った。
「……ストーカーゴーストを、幽霊山の仲間の元に返すとか……そんなオチじゃないわよね?」
そんなオチでは無いです…………多分。
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