第19話 貴方は選ばれました
このパーティで、サンドワームを倒したことがあるのは2人!
セインは倒れているアイに付きっきり。一人でやるしかない。
召喚を始めた。
名前も知らない。姿も漠然。でも過去に召喚していれば、成功率は上がる……はず!
一撃でサンドワームを倒した何か?の召喚を狙う。相手もサンドワームより格上っぽい首長竜だけど、首から上を狙えば、たぶん一緒!(きっと……多分……)
前の時は、召喚に時間がかかった。
それは、シノが時間を稼いでくれた。
オリハルコンのナイフ!
見事に命中!
……しかし、刺さったまま、一度しか使えないことを知る。
でも怯んだ。
時間は出来た!
……そして、勝負は一瞬で決まった。
竜巻みたいな召喚獣が出た!
見覚えがある。召喚成功だ!
前に唱えた時間より早く召喚できた。竜巻ドリル(正式名解らず。セインはアイの介抱中)が、サンドザウルスに真っ直ぐ突き進む!
あっと言う間だった。
喉元あたりに命中!激しい回転でえぐって進むという時に、召喚獣が、消えてしまった。
MP切れ……
前よりは持った。
前より早く召喚できたゆえ、命中まで距離があった。もっと引き付けてからなら、倒せたかも知れない……好材料が……仇になった。
MP切れで意識を失いかける中、カナは見ていた。
サンドザウルスが、怒りで突進して来る!
首の傷は軽症ではない。だが、どんどん加速して迫る。
もう、意識が……という最後の画像、ザウルスの首が切断されたように見えた。
そのままカナは失神した。
……サンドザウルスの首は、飛んでいた。
横から回転して飛来してきた、
[飛天三日月刀]!
またもや一撃で魔物を倒した剣は、さらに弧を描いた後、主の下へ、
……主のアイは、倒れたまま?
手に取る主のないまま、飛天三日月刀は、アイの側の地面に刺さった。
カナに駆け寄ったレイがポーションを飲ませ、意識を回復させる。
ポーションは、戦闘中に飲んでも効果が薄い。延々戦い続けるのを防ぐためもあるだろう。戦闘後に飲めばそこそこ回復する。ハイポーションはさらに回復量が多い(高いけど)。
全員、倒れているアイの周りに集まり、リアリアの脱出魔法で外へ……
「覚えていないんじゃないかしら……」
セインが言う。無意識のまま、飛天三日月刀を投げたように見えたと。投げてまた、倒れたと。
宿屋の一室を借り、アイを寝かせている。
「凄いお人だねぇ。さすがは騎士様だねぇ。」
宿屋の女将が、そう言い残して去った。
「つい最近、男だけに謎の力???」
いったい何なの?サンダー峡谷?!
みんな話している。アイに別状が無いと解ったから、他人事のように話せる。
「じゃあ、レイ!」
「はい、お姉様?」
「オリハルコン、一人で回収してきて!」
元気よく返事したレイが固まる。
「……冗談よ。」
今回、オリハルコンのナイフが、戦闘後に自動で所持品に戻ることが解った。強敵相手でも使えそう。ただ、相手に刺さったままになるので、チャンスは一度、使い所が大事になる。
セインは別のことが気になっていた。
「レイちゃん。」
彼女にアイの鑑定をさせる。
怪しい見た目のゴーグル[パラスコープ]を取り出し、レイがアイのステータスを覗き見る。
「ホントだ?!『騎士B』ってなってる!」
戦士から騎士へのクラスチェンジ。ナイフ屋の主人もたしか「騎士様」と呼んだ。
「騎士の特性は、[仲間を守る力]!」
「まさに、彼にピッタリね!」
さらに言えば、「騎士B」は「戦士S」を、全ての面で上回る。
「まだあるの。」
セインは続ける。
「[義義の腕輪]?」
最初の出会いで、マントをプレゼントした時に気づいたという。両腕の二の腕に装備している、銀色の腕輪。
「あの、十面鬼が狙ってたヤツ?」
「あの、ゼロ大帝が狙ってたヤツ?」
「それと違うヤツよ、マサヒコ」
セインはやはり知っていた。でも、古いネタなのでスルー。
「騎士の特性と似ていて、誰かを守る時に、
プラスαの力が出るの。」
多分、初期レア特典ではなく、何かのイベントで入手したのだと。とにもかくにも、行動していれば見合う力が備わってくる。
それがこの[世界]だ。
アイが目を覚ますと、雷鉱石の収集は済んだことを伝えた。サンドザウルスが、十分過ぎる鉱石を飲み込んでいて、一体倒して大漁となった。
ちなみにアイは、魔物と遭遇したことさえ、覚えていなかった。
峡谷以外にも、身近に[謎の力]がある。
みんな思っていた。
翌日、アイは完全復活。
雷鉱石加工の為に、職人のいる手前の町へと戻る。加工の完成は翌日、代金は余った雷鉱石のみで支払えた。
倒す準備が万端とは言えないが、ニセ町長リグスタルの治める町、リアリアの住んでいた町を再び目指し、本日もう一つ町移動。
そこで事件は起きていた。
町中を少女が走っている。
黒い修道服の小柄な少女。
ベールは無い。長い黒髪がなびいている。
むき出しの水晶を抱え、十字架のペンダント。聖職者であることは間違いない。必死に走って何かから逃げている。
追いかけているのは、魔物。
大きさも移動速度も、大人と変わらない程度。しかし、明らかに異形。黒い霊体の体に、妖しく光る眼。名前を付けるならゴーストかシャドー?
いずれにしても、白昼堂々、町中を魔物が移動している?!
逃げる少女以外には、目もくれない。近くに誰か居ようが、ただひたすら、逃げる少女を追いかける。
「皆さん、逃げて!」
走りながら少女が叫ぶ。
「絶対、私と魔物に関わらないで!」
叫びながら、少女が大通りを走る。通行人は結構多い。それでも少女は、助けを求めない。
「嬢ちゃん、どうした?」
通行人の一人、中年の戦士風の男が声を掛けて来た。
「……ありがとうございます。でも、私に関わらないで……」
息を切らせて答える。魔物は30mぐらい後方に迫っている。
「そういう事か、任せな!」
中年戦士が剣を抜き、魔物に向かっていった。
「駄目です!」
少女の静止を聞かずに、戦士が魔物を真っ二つに斬り裂いた。
「こう見えても、昔は騎士団にいたのよ。」
ドヤ顔で少女の方を振り返る。
少女は、自分が手にする水晶を見た。
下の方1/4くらいが淡く光っている。
(まだまだ全然、貯まっていない……)
視線をすぐに戦士に戻し、
「逃げてっ!!」
戦士が向き直ると、魔物が再生している。
丸とも四角とも言えなかった形状が少し変形し、二本の腕が現れる。先には長い爪がある。
「な、何だコイツ……」
後ずさりして横にずれた戦士の方に、魔物が向き直る。初めて少女以外を標的にした。
「よ、寄るなぁ!!」
怯えながら、払うように剣を振る戦士。魔物は簡単に切断される。……が、すぐに繋がってしまう。
「も、もっと切り刻んでっ!!」
祈るような、少女の叫び。
……他に為す術がないのだ。
(また……また犠牲者が出ちゃう……)
『貴方は選ばれました。』
一面真っ黒の空間。
誰もいない。何もない。でも、AIのような女性のような、姿は見えぬが声はする。
ほとんどの人が覚えていないという最初の最初[初期設定]で、修道服の少女[ミコ]は、言われた。
『貴方には、特別な力が宿ります。』
レア特典は[聖水晶]と職業[聖女]。
『……同時に、特別な試練も課せられます。』
開始以来、ずっと謎の魔物に追われている。
『水晶の導きを信じなさい。』
最後に言われた。
……そして、水晶だけを頼りに逃げている。
「切り刻んでっ!!」という声は届いていたが、中年戦士は腰を抜かして立てずにいる。
騎士団にいた……騎士団でも騎士は幹部以上、聖教徒信者なら農民でも団員になれる。弱くはないが、強いとは限らない。歌が本職の人もいるかも知れない。
魔物の爪が、中年戦士を切り裂く瞬間に、魔物が、後ろからの攻撃でバラバラになった。
細長い刀身の、時々虹色に輝く小さめの剣。
フェアリーソード!
走って来たアイが間に合った。
バラバラの魔物が再生を始めると、再び剣で、さらに細かく斬り刻む。
まだ浮いている破片を、一呼吸してから剣の乱舞で三度刻むと、魔物はすうっと姿を消した。
NPCは、プレイヤーがどんな格好していても騎士だとわかる。感謝と同時に、アイは祈りを捧げられた。
それからアイと、追いついて来た5人とが、少女のもとに集まった。
少女も立てないでいる。喜びはない。
「ありがとう……でもごめんなさい……ごめんなさい……」
少女は泣き出してしまった
(ああ……とうとうプレイヤーの犠牲者が出てしまう……)
今まで、助けてくれた人はみんな、中年以上の人だった。冒険者は若者以外はいないという。犠牲者すべてがNPCだったのが、せめてもの救いだったのだ。
感謝はしている。何とかしたい。でもどうしたらいいか、解らない。
少女の試練は続く……
泣きじゃくる少女を見て、アイたちも、これで終わりではない事を悟った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます