第18話 ホントに、どれでもいいの?
地形が峡谷っぽくなってきた。
イメージするなら、グランドキャニオン?
もうすぐ[サンダー峡谷]の入口となる隣町。
町が見えてきた。小さな町だ。
交通の要所にあるため、今は峡谷の町よりも栄えているそうだ。
図書館の本の情報だから、最新ではないと、セインは補足していたけど。
町に着くと、実際、活気があった。
武器の店が多い。
街道には宿場町は点々とあるが、武器の店は少ない。
峡谷の鉱山に多く滞在していた武器職人が、こちらに移り住んで、自然とそうなったらしい。
ナイフ専門店なるものがあった。
当然、足を止めた者がいる。
引き込まれるかのように、シノが店内へ入っていく。他のみんなも、特にアテはないので付いていった。
店内はわりと広い。コンビニにしたら、休憩スペースが広く取れそうだ。壁際の低い棚に、商品がずらりと並ぶ。高級ナイフはレジカウンターのガラスケースに展示されている。
中年夫婦が営んでいる。陽気な旦那と無口な奥さん。
「おっ、いらっしゃい!冒険者かい?」
店の主人は好意的だ。
この町で一番売れる武器は、剣ではなく、矢とナイフ。消耗品ともいえる武器の補充目的の客が多いのだ。
冒険者はお得意様。ただ、それを抜きにしても、店主は友好的に見えた。
「的当て、やって行くかい?」
壁の方を親指で差す。
大きな的と、小さな的が、壁にある。
「1チーム2名まで無料。豪華な景品もあるよ」
スイッチが入ったのが約1名。
「無料」「豪華」で多分、シノのギアが2段階上がった。
「私、プロ級よ。」
差し出された2本のナイフを受け取った。
「プロ並みなら右の的だな。」
右は小さい的。
「赤い部分なら特別賞だ。」
的の中央に赤い丸がある。左の的のはバレーボールくらい。右の的のは500円玉くらい。
「特別賞って何?」
シノの目がキラキラしてきた。
「店の商品、何でも好きな物1つ!」
店主自ら、3番目のギアスイッチを入れてしまった。
反対側の壁の前、床にある目印から投げる。
と、説明を聞くやいなや、
歩いて、止まって、振り向いて、トン!
まさにそんな感じ。
見事に赤丸の中央を射抜いた。
店主は驚いて、そして喜んでくれた。いい人だった。
「好きなモノ選びな。」
カウンターのガラスケースの上で、両手を広げる。自分がNGワードを連発していた事に気づくのは、もう間もなく。
シノが、ガラスケースの左から右へ視線を走らす。目で追ったのは、ずらりと並ぶ高級ナイフ、
……の値段表。
「ホントに、どれでもいいの?」
「おう、好きなの選びな。」
シノが選んだのは、
1本1000Gのナイフ。刃物としてなら高くはないが、消耗品のナイフとしてなら約1万円は高級品だ。
「このナイフの、箱に入っているやつを1つ。」
右端の、まとめ買い用の箱を指差した。
箱は「20本」入りである。
店主は絶句。身内でさえも絶句。
みんなの考えの、遥か斜め上を行くのが彼女。
「あんたの負けだね。」
無口だった奥さんが口を開いた。彼女の方がここのボスのようだ。
「ええぃ、持ってけーっ!」
店主が高級ナイフセットの箱を、半ばヤケになって「ドカッ!」っとカウンターに乗せた。
「ありがとう。じゃあ、2本目ね。」
もう一度は、流石に止められた。
確かに、最初に「2名」と言われてた。
仲間を見渡すが、投げられそうな者は1人しかいない。
アイにナイフを手渡すシノ。
「的が小さいから、良く狙ってね。」
投射が得意な訳でも、小さい的を狙うつもりも無かったが、もう決定事項のようだ。
ウォーミングアップ。何せ人生初のナイフ投げだ。ダーツのように腕を振ってタイミングをはかる。
「あ!」
「え?」
ナイフがスッポ抜けた。
「あ!」私の投げたナイフが邪魔だ、とシノ。
「え?」何か変?間違ってる?とアイ。
気を取られてスッポ抜けたナイフは、偶然のように、当然のように、シノのナイフの隣、小さな的に刺さった。
シノのさらに斜め上を行くのが彼。
店主は絶句。身内は苦笑い。
そして、
「ホントに、どれでもいいですか?」
悪夢のセリフが彼の口からも!
(グッジョブ!リーダー!)
シノが心の中でガッツポーズ!
店主はもう、声が出ない。
ところが、アイが歩き出したのは、的のある壁の方向。
(まさかモラル王?!今投げたナイフを選ぶ気なの?!)
シノだけが、ドキドキしてた。
的に刺さったナイフの、
(右上?!)
アイが手を伸ばす先には、
(錆びた棒?)
壁から出てる、15cmくらいの錆びた棒。
とてもナイフには見えない。
じいちゃんが子供の頃からすでにあった。店主は祖父にそう聞いている。
「何をやっても、抜けないんだよ。」
その、謎の棒が、
アイが触れた途端、赤く光った!
……眩しいくらいの、ピンクがかった赤い光。
……光が収まると、棒は簡単に取れた。
アイの手には、
棒ではなく、刃先の赤い、ナイフがあった。
レイが鑑定。
赤く光るといえば、
そう、[オリハルコンのナイフ]!
「オリハルコンって、あの?!」
「柔らかくもないのに、ダイアモンドより壊れないっていう伝説の金属?!」
驚きを隠せない。
水の中でも、イルカに乗っても使えそう。
「……何か、コレに呼ばれてる気がして。」
アイだけに反応した?
もはや、金の成る木から、奇跡を呼ぶ男に!
「ドカッ!」
カウンターで、さっきと同じ音。
「こいつも持ってってくれ!」
店主が2つ目の箱を置いた音。
「騎士様の力になれるなんて、こんなに名誉な事はない!……もちろん、その赤いナイフも使ってくれ!」
……金の成る木も、健在だった。
サンダー峡谷に着いた。
途中通ったとこも、前の町も、みんな峡谷にあるのだが、とりわけ[雷鉱石]が採れた場所、長い年月の採掘で削られ、町が広がった場所を、みんなが[サンダー峡谷]と呼ぶようになった。
採掘が中止になってから10年以上経つが、採掘できない訳ではない。受け付けを済ませれば、誰でも無料で採掘可能。冒険者や王国関係者などが今でも採りに来る。
ただし、自己責任。
基本、今は山を削らず、落ちてる鉱石を拾う。
過去の採掘でできた平地は、大きな町がいくつも作れてしまうほど広い。
しかも、[砂の霧]と呼ばれる空気中に漂う微量の砂によって、遠くが見渡せずにより広く感じる場所。ここで鉱石を拾う。
「自己責任」の理由は、砂丘化しているこの場所を、勝手に掘り返し、地中の鉱石を掘り起こしているモノがいる。
魔物が出るのだ。
魔物が出たことで、鉱夫による採掘は廃れた。が、需要はある。ゆえに、魔物と戦える者が採りに来る。そして、隣町の職人に加工してもらう。
……と、図書館の本に載っていた。
宿屋が営業しているので安心だが、想像以上に、人が少ない。かつての名残で町自体は広いが、鉱石拾い以外にやる事は無さそうだ。
受け付け所も狭かった。
代表2名だけ中に、あとは外で待った。
「女の子ばかりかい?賑やかだね。」
名簿記入等もなく、簡単に済んだ。
さっそく、町の結界が及ばない鉱山エリアに入る。
パーティで新天地に足を踏み入れる時は、2パターンある。魔物が出るダンジョンなら、決まってアイが先頭になる。誰が決めた訳でもない。本人の意思による。
お宝や金目の物の気配がする場所では、シノが真っ先に進む。その後ろを妹のレイ。アイは最後を選ぶ。罠解除、鍵開けが得意なシノが先頭は理に適ってるし、自分かシノで前衛と後衛という図式が、アイにはあるのかも知れない。
ただ、魔物が現れたら、シノが前に居ようが、そのさらに前に必ず、アイが立つ。
……今回は未知のフィールド。いつもならアイからだが、お金にもなる雷鉱石が転がっているというので、先陣を切ったのは、やっぱりシノの方だった。
砂の霧のせいで、遠くが見えない。どれくらい広いのか見当もつかない。
ただし、近くは普通に見える。砂が漂っているのが人の背より上なので、呼吸も普通にできる。
一面の砂と岩、カナは嫌でも思い出す。首の長い(というより全部首?)の巨大な魔物、サンドワーム。
でも、恐怖は無い。ついこの間再会した時、アイが一瞬で、新武器の一撃で3体倒したのを覚えている。
(来るなら、来なさい?!)
何て思っていたら、ホントに来た。
入口から、まだ50歩くらい。鉱石を見つけるより先に現れた。
砂の霧に霞んだ細長い首が、こちらに近づいてくる。
だんだんと姿がはっきりとしてくる。
巨体。長い首と……胴?!
サンドワームじゃない!これは……恐竜?!
いきなり、[サンドザウルス]!。
……でも、属性色が濃いほど、苦手属性での攻撃が有利となる。以前、セインが教えてくれた。
ここの魔物が[地属性]ばかりなのも知っていた。しかし、
雷<地<風<火<水<雷……
地属性の対抗準備の為に……と追いかけて行くと切りが無い。結局、雷属性が必要まで戻ってきてしまう。
下見も兼ねたファーストトライ。どうしても駄目なら風属性探しが先となるが、中ボスでも出ない限りは何とかなるだろう。
そんな甘い考えもあった。
行き成り現れた大物!
ただ、明らかな地属性!後ろにいるアイなら!
……後ろに、いる?
あり得ない!
「アイくん?!」
普通じゃないセインさんの叫び!
うつ伏せにアイが倒れている?!
カナ達は、入口50歩で緊急事態に遭遇した。
狭い受け付け所に、別のパーティが来た。
「男だけかい?」
受け付け係が渋い顔をする。
「男は無理だよ。つい最近、おかしな現象が起きてね。男だけ、入った途端に激痛が起きるんだ。それも相当な奴。」
ガイドにも載っていない事を言われ、戸惑う冒険者たち。
「嘘だと思うなら入ってごらん。3歩も歩けないよ。痛くて我慢できないから。
助けを求めようにも、まず声が出なくなる。
次に、方向感覚がなくなる。
悪いことは言わない。やめたほうがいい。さっきは女の子ばかりだったから通したけれど、男は危険、命にかかわるよ。」
嘘を言ってるようには見えない。
「唯一救いがあるとすれば、我慢できずに3歩で倒れること。仮にだけど、まあ我慢できる人なんていないと思うけど、出来ちゃったら悲惨だよ。地獄の苦しみじゃないかな。奥へ行くほど辛くなるらしいから。」
……カナ達は、50歩目で魔物と遭遇した。
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