第17話 私の純潔を返せーーっ!!
翌日の午前中に、更に隣の町へと移動した。
目的地はもっと南の[サンダー峡谷]。
セインの頭には大陸の地図がある。サンダー峡谷は[雷属性]の鉱石が採れるらしい。
町で軽く、ランチタイム。
そこで新人の品評会と言う訳ではないが、
「あんたホントに[魔法戦士]?」
シノが切り出した。
リアリアは、黒いドレスから、至って普通の戦士の装備、冒険者の服にレザーアーマーという、地味な格好に着替えていた。
手配されている可能性も考えてのことだが、やっと喪服を脱いだ。そんな感じにも見えた。かなり地味になったが。
ただ、シノが言ったのは容姿の事ではない。
今朝の移動中、リアリアは全く戦闘に参加しなかった。別に余裕だったし、経験値やお金の取り分を返せと言う気もない。
けれど、まだリアリアの謎が完全に消えてはいない。
ランチ中のテーブルに、いきなりドカッと、リアリアが長いモノを置いた。
きれいな剣。
ときどき虹色に光る細い刀身の、やや小さめの剣。レイピアと呼ばれる剣に近い。
「[フェアリーソード]よ。これあげるわ。受け取って。」
アイの方へ滑らせた。
[フェアリーソード]ランクはSレア。羽根のように軽く、燕返しどころか、初心者でも2、3往復なら簡単に刻める剣。威力は低い。経験値が半分になるマイナスもある。でも、そこらの店で売ってる剣よりは、遥かに使える。
「受け取ってよ……じゃないと私、肩身が狭い…私……剣が使えないから……」
断りきれず、アイはフェアリーソードを譲り受けた。ジュピターソードと正反対とも言える剣。これも運だろうか。
それは一先ず置いといて、
まだまだ謎を持ってたこの女……
リアリアの初期レア特典は[フェアリーソード]と職業[魔法戦士]。まずまずの当たり、特に魔法戦士は超レアだ。
だけど、最初の町で『アイツ』にあった。
身長は子供、顔はおっさん。黒い大きな帽子に黒の燕尾服。あだ名を付けるとしたら、「黒いピエロ」か「ミニチャップリン」。
手にしたステッキをくるくる回し、冒険開始直後のリアリアに、笑顔で寄って来たという。
奇妙な小男は[プレゼンター]と名乗った。
「ラッキーぃチ〜ャンス!!」
特別に、超激レアスキルをプレゼントと言う。怪しい感じはしたが、始めた早々に幸運イベントが起きた、そう思って受けた。
[バリア]か[脱出魔法]もしくは両方くれるという。代わりにステータスの何かを交換。リアリアは武器と職業はレアだが、ステータスにレアは無い。取られて損するとも思わず、気楽な気持ちで交換した。
取られたのは、剣スキル。元々すごくは無かった『剣技C』が『剣技F』に。
(F? 剣技Fって何?!)
Fは、技能が全く必要ない剣しか持てない。武器屋で売ってる、特売の剣くらいしか使えない。
もう一つ取られたのは、経験値の概念。今後何をしても、一切経験値は上がらない。
超激レアの代償に、反則的なモノを奪われた。
キャンセルをしようとした時、プレゼンターは手品のように、白煙を出してドロンと消えた。
その後、途方に暮れてた時に、花嫁募集の貼り紙を見た。つまりは出会った町で起きたこと。
「剣が使えない魔法戦士……とりあえず、笑っていい?」
シノが茶々を入れた。
「好きにすれば」
リアリアは怒っている。シノにというより、思い出して、またムカついて来たのだ。
「……私の純情はボロボロだよ」
思わず口に出た。
プッ!っと遠慮なく吹き出したのは、もちろんシノ。
「今のも、笑っていい?」
もう笑っている。
「好きにすれば」
完全な怒り口調、今度はシノに怒っている。
と、
突然、リアリアが立ち上がり、
「私の純潔を返せーーっ!!」
……
かなりの大声。
流石のシノも笑えなかった。
ランチ時の、食べ物の店が並ぶ大通り。NPCに混じって冒険者も多くいる。
NPC連中は「突然の大声」程度の反応だが、
冒険者には「何だ?何だ?!何があった?!」尋常じゃない目で注目を浴びた。
当の叫んだ本人は、
……顔を真っ赤にしてうつむいている。
……「純潔」と「純情」を言い間違えた。
うつむいたまま、真っ直ぐ前を指差し
「……アイツを追って」
小声で言うのが精一杯だった。
「アイツって?」
リアリアの指の先には、
遠くの方に、人混みに紛れて走って逃げる、黒い大きな帽子の小男。
(アイツって、いま話してた『アイツ』?!)
アイとシノが同時に駆け出す。
シノの身体能力は高い!
しかし、この[世界]では、アイの方が早い!
対する小男は、
……あれ?
遠くに見えてたが、もう追いつきそう。
帽子を除けば小学生並みの身長。よく見ると、上半身は小さい大人。足の長さが幼稚園児。
あっさり捕まえた。
アイに首根っこを掴まれて、空中で足をバタつかせる。体重3、40キロはあるのだが、ジュピターソードよりはずっと軽い。
(コイツで合ってる??)
ドロンと消えもしない。
「はなせ!人間!!」
あ、「人間」って言っちゃったね。
間違いなさそうだ。
残りの4人も、追いついて合流した。
「私の能力、返しなさいよ!」
「そんなもん!もうある訳なかろう!」
即座に返されてしまった。
「[負のオーラ]に変換されて、大魔王様の復活に捧げられたわぃ」
またまた出た[負のオーラ]。大魔王復活に必要なモノらしい。
「経験値が得られないのも、負のオーラに変換されたの?どちらかと言うと[呪い]に近いと思うのだけど。」
セインが割って入った。
簡単に言うと、奪ったモノ(剣技スキルなど)は変換できるが、付与した呪い的なモノ(力が出ない。化物にされた等)は、奪ってないので変換できない。セインの質問の意味はこうだ。
「……鋭いな、小娘。」
アイに吊るされたまま、小男が偉ぶる。
「経験値を止めてるのはワシの力だ。お前が得るはずの経験値が、負のオーラに変換されてるのだ。」
「わたし全然、戦ってないわよ。」
「……」
小男の沈黙。
「スキル盗られて、剣も使えないのよ。」
追い討ちをかけるリアリア。
「脱出魔法もらったら、ダンジョン行きたくなるだろ!」
「戦えなきゃ死んじゃうじゃない!」
「バリアもらったら、強い敵と戦いたくなるだろ!」
「戦えなきゃ、最後は死んじゃうじゃない!」
「……」
しばしの沈黙。
「ぐぅぅぅぅっ?!何人も抑えているのに、ワシのノルマが低いのは、そういう事かぁ?!」
何とも言えない会話になった。
「もっと戦え、バカ者がぁ!ノルマに足りてぬとワシが怒られとるのだぞ!」
もはや愚痴である。
「経験値を抑えるのに、どんだけ魔力を使うと思っとるんじゃ!……そのせいで、瞬間移動もできやせん!」
「なら、解除したらどう?」
セインの一言。
短い沈黙。
小男の体から、小さな光の玉が3つ飛び出し、2つはどこか遠くへ、1つはリアリアの体に入っていった。
「ワッハッハッハッハ!」
小男が高笑い。
「ぬかったな、小娘ども!」
体から、白煙が出始めた瞬間、
後ろから一刀両断された。
首根っこを掴んでいた相手は、小娘でも、ぬかってもいなかった。
小男は、白ではなく黒い煙を出して消滅した。
「あっ!」
リアリアが叫んだ。
「経験値が入った……」
今倒した、名前も、正体も解らなかった魔物の分だ。
みんながホッとする。だが、
「剣技Fのままだ…Cなんてずっと先……」
自分のステータスを確認して落ち込む。
シノが強めに肩を叩く!
「失った物ばかり数えるな!」
親分肌の発言だ。
「そうよ、諦めたらそこで試合終了ですよ。」
セインの方も、年上感ある言葉だ。
「さあ、サンダー峡谷へ向かいましょう。あとはもう、小さな町を1つ経由するだけ!」
「セインさんは何でも知ってるね。」
レイも参加する。
セインが知らなくても、返し方は姉が知っている。
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ。」
セインはやっぱり、知っていた。
簡単に言えるどうでもいいコトと、
なかなか言えない大切なコト、
お姉ちゃんはね、
ダメだった人に「笑っていい?」なんて
絶対言わないよ
気づきなさいよ
「アタリ」の選択をしたことに
独りのままなら、使えない「ハズレ」
仲間がいれば、役立つ「アタリ」
もうみんな、アンタを戦力に数えてる
だからアンタこそ「笑っていい」のよ
きっと気づいてる……
今、気づいてなくても、これから気づくわ
だって彼女には、
「笑って」くれる、仲間がいるもの
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