第119話 今度は東へ

 北都で僕たちに依頼してきた魔法使いの青年は、東都の人間だった。

 ギルドから追い出されたのも、子供が3人いるのも解っての依頼。

「私は[イッシュ]です。東都まで同行願いたい。」

 ハルト君たちは乗り気だ。今度は東への旅となりそうだ。

 街の外に出た。イッシュの案内で、東に進む。

 最近、姉妹のように仲良しに見えるジェイルさんとヒナちゃん。手を繋いでいる。微笑ましい。

 一方、

「俺は殺し合いに負けたことはねぇ!」

 戦闘開始のたびにあの台詞を言うハルト君、レン君にうっとおしがられている。ゴメン、僕のせいだ。

 イッシュも参戦。中々の戦闘力。1人で北都まで来れるのも納得。僕らの助力が必要なのかと思うくらい。ヒナちゃんより格上の魔法使いだ。

 でも、チームにいい武器が入ればヒナちゃんは強くなる。魔法付与係として。これはハルト君レン君も強くなるという意味だ。

 やっぱり強い武器が欲しい。でも、またしても武器屋に寄り損ねた。イベントクリアの方が近道か?でもレア剣が報酬とは限らない。

 花壇?横一列に花が植えられている。

「綺麗!」

 花に近寄る女性陣。

「毒性があります。食べなければ大丈夫ですが、一応、触らない方がいいですよ。」

 イッシュに言われて興ざめ。

 その花壇に沿って今度は南下、

「この花の先は崩落する危険があります。大丈夫な所まで移動しましょう。」

 道案内のようでもあり、力量を見定められている感じでもある。僕が役立たずなのは、とっくに理解してるだろう。

 花が途切れた。そして大きな崖が見えてくる。

「高さ200mほどです。」

 崖のギリギリに立つイッシュ。みんなが(もちろん僕も)冷や冷やして見ている。

「この辺は崩れませんよ。」

 言って飛び降りた。

 ええっ?!

 ロープが一本、対岸まで張ってあった。

 布1枚を引っ掛け、スパイか怪盗かアスレチックのアトラクションかと言った感じで、ロープを滑って行くイッシュ。推進力は魔法だろうか?

 途中で器用に反転、戻って来た。崖の陰に消えると、設置してあった縄ばしごで上がって来た。

「こんな感じで東都から来ました。」

 いや、無理!無理!無理!

 みんな一斉に首を振る。

 対岸まで600m、下まで200m、命綱なし。

「下まで縄ばしごで降りる手もあります。」

 また、みんな一斉に首を振る。

「あとは、地下ルートを通るかの3択です。」

 いや、その1択ですって!

「ただ問題がありまして……」

 まだ問題が?!0択になっちゃう?!

「地下ルートの入口に、強い魔物がいて通れないのです。」

 なんだ……安心した。

「魔物が強いなら大丈夫です!」

「??」

 今度はイッシュが驚いていた。


 南下して、地下ルートの入口となる洞窟に着いた。北都よりも帝都が近い位置まで来た。

 入ってすぐ、立ち塞がる魔物を発見。岩陰から覗く。

「とんそくのゾッゾと同じくらいだね。」

「そうだね。」

(豚足よりイカ足だったけどね。)

 ハルト君に相槌を打ちつつ、心で突っ込む。音速のゾッゾ戦、結構しっかりと見ていたようだ。

(ハードル上がってるかな?)

 でも、大丈夫。体が反応した。地獄のネタ披露よりは楽に終わるはずだ。

 人型、2m半、丸い岩が重なったような岩男。触手なし。飛び道具がなければ、ゾッゾより楽に終わる。

「近寄ると戦闘態勢に入り、離れると解きます」

 イッシュからいい情報が聞けた。

 剣を抜いて飛び出す俺!

 イッシュが一番驚いていた。そうだよな。さっきまで役立たずの見学者だ。

 袈裟斬りで一刀、真っ二つにした。

 と、逆再生早送りのように、瞬時に元に戻って攻撃してきた。飛び退く俺、危ない、危ない。

 イッシュの放った大きな火球が岩男を直撃!

 その隙にさらに後退。

 ……追っては来ない。情報通りだ。

 みんなを巻き込む心配がないからと、ちょっと無用心すぎたか?

「炎が弱点なのは解っています。」

 たった今、結構強力な炎が、全く効いて無かったように見えたが?

「外皮が硬くて効かないし、再生が速くて内部に撃ち込めないのです。」

 そういう事か……

「ギルドのナンバー2が、炎の剣を持つというので、依頼しようとしたのですが……」

「大丈夫!秘密兵器を使います!」

 ゆっくりとヒナちゃんの前に向かい、

「炎魔法の付与、頼めるかい?」

 愛剣スマッシュブレードを差し出した。

 はっと気付いたヒナちゃん、魔装グローブを取り出すと、たっぷりと塗りたくってくれた。

 普段、トーストにジャムを塗らないが、使う時はたっぷり塗ってしまう僕。ヒナちゃんとは気が合うかも知れない。

 炎の剣でリトライ!

 ガードに来た両腕ごと体をぶった斬る!傷口が焼けている!治りが遅い!

 見えている傷口に炎の剣を突き立てた。

 戻ろうとした体の破片が、コントロールを失ったように、地面に落ちた。

 剣の炎が弱まっていく。ところへ、

 イッシュの炎魔法が傷口の中に撃ち込まれた。

 ……邪魔な魔物が消滅した。

「……驚きました。正直、戦力的にギリギリかと思っていました。謝罪します。すごい技をお持ちですね。」

 褒められて饒舌になり、いい剣を入手して、レン君ハルト君にも魔法剣攻撃をさせる計画だと話すと、

[プラチナソード]。東都の隊長格が持つ剣を、2本もくれた。

 ヒナちゃんとジェイルさんには[プラチナロッド]。こちらも魔法隊長格が使う杖らしい。

「依頼の前金です。」

 これは嬉しい。そして、想像以上に位の高い人からの依頼なのでは?と思った。

 ボス討伐のドロップ報酬は[漆黒の籠手]。腕をガードする装備。特殊効果は無いが、

「カッコいい!」

 ハルト君もレン君も大喜び。2対ドロップして良かった。喧嘩にならない。

 奥へ進む。

 ふと、気付いた。

(あれ?僕だけ何も貰ってない??)

 まあ良いか。補強的にはそれでいい。割り切って、また進み始めた。

 穴があった。

 岩壁に、横穴。向こうが覗ける。1mくらい先に、また通路が開けている。

 しかし、向こう側に行くには、この横穴をくぐるか、地下水路??

 入口は広いが、すぐ、完全に水没する洞窟へと繋がっている地下水路。

「200m直進すれば、水上に出れます。横穴か、水路か、今度は2択です。」

 いや、1択ですって!

 子供は余裕で通れそうな穴だが……

 そうか!子供連れなのに依頼されたのは、こういう事か!

「大人は、私と一緒に推進魔法の補助で、水中を進みます。何も見えませんが、息を止めていれば大丈夫です。私から離れたらアウトですが。」

 笑顔で説明するイッシュ。

「わ、私も穴に挑戦してみる!」

 目が笑ってないジェイルさん。僕も気持ちは同じ、でも僕には100%無理だ。

「おお、抜けた!」

 まず通ったのはハルト君。次はレン君。2人はジェイルさんを引っ張る係。ヒナちゃんは、万が一にジェイルさんのお尻を押す係。

「引き戻す魔法ならあります。頑張って下さい」

 イッシュの笑顔が、

「一緒に暗黒を泳ぎましょう。」というスマイルに見える。

(押し出す魔法も、持ってろよ!)

 多分、ジェイルさんも同じことを思っている。

「頑張って!お姉ちゃん!」

 ジェイルさん、チャレンジ。

 ……つっかえた。

 ……あれれ?

 滑るように進み……抜けた!

[スリップスーツ]。

 ジェイルさんのレア特典。不利な力を自動で逃がす。直角以外の角度は石鹸の上、氷の上のように摩擦が減って力が逃げる。ダメージを減らす装備。刀などで斬られても、角度が鋭角なら、身を斬られずに表面を滑って逸らせる、超レア装備。

シスター(修道女)なのに、修道服じゃないのはこの装備だから。

 無事抜けて、ホッとしているジェイルさん。

「幼児体型ってこと?」

「子供体型って言えよ。失礼だろ。」

「2人とも失礼よ!もう、クッキー焼いても、2人にはあげないから!」

 楽しそうな会話が聞こえてくる。現実でも会っているとは聞いていたが、そんなに親しくなっていたのか。

 ヒナちゃんも余裕で抜けて、次は……

(ジェイルさん、その服、貸して下さい!!)

 ……とは言えず、諦める僕。

 肩幅がつっかえる。着ても無理だ。

 水中へ、

 ゴボッ!ゴボゴボッ!……

 死ぬ気でイッシュにしがみつき……

 無事だった……

(二度と嫌、でも、帰りも絶対ここだ……)


「レン君ママ、若いんだよ。」

「そうなの?」

 地上へ出れて一安心。NPCイッシュも同行してるのだが、みんなリラックスムード。

 NPCは関係ない会話には入ってこない。聞こえなかった設定となる。

「いくつ?」

「20歳。」

(それは無理がある……)

「いつも訊くと、20歳って言うの。」

「26歳かな?」

 とレン君。それでもかなり若い、本当なら16歳以前にレン君を産んでいる。

「会うの楽しみにしてるって、言ってました。お礼も言いたいって。」

「私も会うの楽しみ。」

 実は僕も、住所を聞かれた。現実で会ってみないか聞かれた。

 教えなかった。

 深い意味はない。深刻だったり、苦労の渦中とかでもない。会いたくなるから断った。大変だから、教えなかった。

 魔物が出たら戦闘モード。イッシュもいるので余裕。レン君ハルト君は、貰った剣の切れ味に喜んでいる。ハルト君も剣が様になってきた。まだ剣技Bかも知れないが、Bなら剣士と呼べる。

 いよいよだ。とうとう東都が見えてきた。

 はっ?!

「とうとう、トウトが見えてきた。」

 ……

「4点!」

「3点!」

「12点!」

「10点満点だって!」

「でも面白かったから!」

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