第15話 謎だらけ

 カナとセイン、2人で願いを込めたランダム召喚で呼び出したのは、

 ……白い小さな獣?!

 イタチのような、白く、すばしっこい魔物。

 チリペッパーの願いを込めたが、レッドでもホットでも無い、ホワイトでクールなのが出てしまった。2人が召喚に願ったのは、小ささでも、速さでもない。またハズレた???

 召喚者のそんな思いを知らない白イタチは、やる気十分。縫うように床を駆け抜け、あっと言う間にリグスタルの足下へ。そしてピラミッド型の体を駆け登り、体表面をジグザグに走り回った。

 纏わりつくのが攻撃?……しかし、リグスタルは、蜂の大群に襲われたように、過敏に嫌って、振り払おうとしている。

 よく見ると、白イタチは放電している。微量ではあるが、攻撃している!

 リグスタルの赤い目が光る。魔法攻撃だ。

 ……と、目の光が消えて緑色に、

 また赤く光り、光が膨張し始めるが、

 ……消えて暗い緑色の目に、

 白イタチを払いつつ、これを繰り返している。

(電撃を受けると、魔法が撃てない?!)

 これが解ったのは、大収穫だ!

『私はゴルゴガルゾの奴が大嫌いだった』そう言ってた……自ら弱点を告白していたのだ。

 ゴルゴガルゾが多用していたのは衝撃弾。しかし、「大好物」と言ってたのは電撃。リグスタルの天敵ゆえに「大嫌い」。さらに言えば、これは導くのは難しいが、シノのナイフが帯電していたのも、ゴルゴガルゾの仕業。投げたナイフを、使える限り、回収して再利用するシノ(拾い集めるのはレイ)。ゴルゴガルゾに当たって、戦闘終了まで側に落ちていた1本が電気を帯びた。それがさっきの、1本だけ効果があったナイフ。死してなお、天敵に嫌がらせをする、流石は四天王。

 ……だが!

 ……みんな気づいている。

 ……これじゃ倒せない!

 狭い空間だから、セインの運を足しても、強い立派な召喚獣を呼べなかったのかも知れないが、この白イタチは、ほぼ嫌がっているだけ、倒せないのは明白だ。

 パラパラと、砂粒のようなモノが、白イタチとじゃれてるリグスタルから舞っている。

(体の一部が削られている?!)

 やはり電撃は効く!……だけど手段が無い!

「今のうちに!僕が1人ずつ出口へ投げる!!」

 アイが叫んだ。

 上の床は完全に消えている。でも、小屋の出入口は、リグスタルの頭上に見えている。

 脱出一択なら、あるいはそれが、ベストかも…

「ダメよ!」

「絶対ダメ!!」

 みんな反対して叫ぼうとした。その策が完全に成功したとしても、助からない1人が出る。

 アイが地下に残ってしまう……

 幸か不幸か、反対前に、作戦そのものが無くなった。白イタチが倒された。リグスタルの隙をついての脱出は、もう出来ない。

 赤い目が光り、膨張を……いや、何度も点滅して、赤い光が増えていく。ピラミッド型ボディのあちこちに増殖している。

 幸ではなく不幸。かなりヤバそうだ。10以上に増えた赤い光が、膨張を始めた。

 赤い無数の大きな目、

(怒りで我を忘れてるんだわ?!)

 そんなこと言ってる余裕もない。

(一斉発射してくる!!)

 こうなったら、

(こっちが未亡人を人質にして交渉しか……)

 どこまで本気だったのか、シノが後ろを振り向くと、ちょうどレイが縄を解いてた所だった。

「あの怪物、倒せるの?!」

「ムチャ言わないでよ!」

 意外にも、いや、当然なのか?とにかく即答、

「じゃあ何であんな偉そうに?!」

「(私の縄を解かないと)このままだと、みんな死ぬわよ」そんな風に聞こえた。

「縛られたままじゃ逃げられないじゃない!」

 自信たっぷりに未亡人が断言した。

(……もう一度縛ってやろうか!!)

 その時間も無くなった。

 魔法弾の一斉発射!!

 全部で12発!!

 ターゲットに命中すると爆発する魔法弾が、

 ……空中で、止まった??

 ターゲットじゃないモノに当たっている??

 光の壁??……これは

(バリア?!)

「…ダメ!……持たないっ!!」

 未亡人が苦しそうに叫んだ。前方に開いた両手を突き出している。

 このバリアを張ったのは彼女だ!

 バリアや結界は、突破しようと攻撃されている間、守る側はずっとMPを消耗する。

 すかさずセインが彼女に触れ、自分のMPを与える。

「みんな来て!」

 今度はセインが叫ぶ。

 他の4人も集まって、未亡人に添えられたセインの手に、自分達の手を重ねた。

 [聖なる手袋]の応用、全員のMPで補える。

 が、バリアの強度も多少は増すが、パーマンのように人数分強化される訳でもない。

 徐々にだが、押されている。

 そして、徐々にでは無くなってきた。

 自分達のバリアが迫る。手が届きそうな距離まで来てる。少しずつ後ずさるが、最後列のアイの背中が、後ろの壁に、当たってしまった。

「もっと集まって!!」

 相変わらずの命令口調で、未亡人が叫ぶ。

 その直後、

 轟音とともに、魔法弾が連続爆発し、後ろの壁が崩れた。

 爆発の粉塵はすぐに収まった。

 一面の砂煙が消え、視界が元通りになる。

 ……瓦礫の山。壁の残骸が飛び散り、地下室の壁の向こうにある土が露出している。

 6人は跡形も無い……


 ……??


 跡形も、無い??


 6人は、外を走っていた。

 長い直線の街中の通りを、時々振り返り、リグスタルが追って来ないかを確認しつつ、全員で走っていた。

「あいつ、まだ気づいてないって事ないかな?」

 真っ先に音を上げたのは、レイ。

 ただ正直言って、仮病で昼間休んだシノ以外は、もう疲れてヘトヘトだった。

「……あの体型じゃ、追って来れなくない?」

 黒ドレスの未亡人が、走りを止めてしまった。   

 一番消耗しているのは彼女。彼女の魔法で、屋敷の門前までテレポートして、助かったのだ。

(バリア…テレポート…高校生で未亡人……ホントに、謎だらけだわ……この女……)

 シノが未亡人に歩み寄る。

「テレポートが使えるなら早く言いなさいよ、未亡人!」

「テレポートじゃなくて[脱出呪文]よ。出口にしか飛べないの。ダンジョンじゃなかったから、うまく使えるか解らなかったのよ……」

「つまりアレね」

「そうよ」

「リレミト!」「テレポ!」

 ……見事に合わなかった。

「テレポなんて知名度低過ぎでしょ!みんなテレポートと同じと思ってるわ!」

「オリンピックより待たせるゲームに、知名度のこと言われたくないわね!」

 まだ、喧嘩する余力はありそうだ。

「ゆっくり移動しながら話しましょ。」

 セインが割って入った。実際、脅威が去ったかまだ解らない。

 ……実の所、脅威は去っている。リグスタルは何も無かったかのように、人の姿に戻り、ディナーを堪能中だ。人間を操れるリグスタルは、正体を知られても余り気にしない。そして、圧倒的な力の差ゆえ、アイ達を危険と認識もしてない。

 もっとも、地下の壁と一緒に吹き飛んだと思っているから、追っ手が来ないのだが……


「……とりあえず、未亡人はやめて!」

 走りを歩きに変えて、話しながらの移動。

「名前は[リアリア]」

 その響きに、過敏に反応したのが約3名。

「……有村亜梨沙。[アリアリ]って呼ばれてるから、それを逆さにして[リアリア]!

 ……言っとくけど、短命な一族でも、波紋の達人でもないから!……私、詳しくないから、それ以上ツッコまないわよ!」

 詳しくないとは言ったが、「引かれ合って」出会った可能性はある。

「職業は……一応……魔法…戦士……」

 途端に歯切れが悪く、声も小さくなった。

 けれど誰も、深くは追求しない。今聞きたいのはそこじゃない。

 アイ達は彼女の住む、ドクシーの屋敷に向かっている。助けを呼びに来た執事が、宿屋で倒れて休んでいると言ったのだが、

「[ラトラー]さんは、絶対屋敷にいる!」

 リアリアが断言するのだ。

 そして、

 向こうから、馬車が来た。

 貴族の馬車。リアリアが毎日乗っている馬車。執事のラトラーが迎えに来たのだ。

「隣町まで送ります。お逃げ下さい」

 NPCは仕事が早い。まあ、町長が魔物と思ってない彼が、屋敷から逃げてきた後を考えて馬車を出し、途中で遭遇した。そんな感じだろう。自警団も町長側と思っているのかも知れない。

 執事の勧めるまま、一行は隣町へ馬車で向かうことにした。日が沈む前に着き、隣町の宿に泊まれるという。

 現実なら、町長の正体を皆に知らせ、住民の避難、軍隊の動員などと発展していくのだろうが、

ここでは、自分達が対抗手段を手に入れて戻って来る……それがベストだ。

 貴族の馬車は、眠くなるほど心地いい。

 疲れてはいた。でもみんな、まだ残っている謎の理由を、リアリアから聞くことにした。


「ビューンって隣町まで飛べないの?」

「テレポートじゃないって言ったでしょ!」

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