第14話 何かあるはず!

 翌日、いよいよ伝説の装備探しの開始。

 この町から近い、通称[幽霊山]、その山頂を目指すと、セインから告げられた。

 1人、町に留守番となった。

「あれ?留置場暮らしで体調崩したかな?」

 突然、シノが言い出した。

(2時間で出て来たじゃない!)

 カナが突っ込もうとしたが、

(お姉ちゃんは悪霊NGなの……)昨日、そんな言葉を聞いた記憶がある。

「幽霊、怖いの?」

 ……なんて、それこそ怖くてシノに聞けず、

 4人で出発することとなった。


 夕刻前、シノが留守番する宿屋へ、クタクタのボロボロになって4人は帰って来た。

 幽霊は出なかった……と言うより、ゴースト系の魔物を幽霊と呼ぶなら、幽霊だらけだった。

 でも疲労困憊の原因はそこじゃない。

 高尾山より低そうな山の山頂に、半日がかりでも、全くたどり着けずにリタイアしてきた。

 登り始めてすぐに、看板のある二股の分かれ道がある。そこから先は、右へ行こうが左へ行こうが、さらに進んで行き当たる幾多の岐路を左右どちらに進もうが、この看板の分かれ道に戻ってしまう……伝説目当ての冒険者がいないのは、伝説の信憑性ではなく、伝説を目指して多くの者が挫折し、やがて挑戦者がいなくなった可能性が考えられる……

 結局、サンエルノの町の開かない宝箱同様に、手掛かりを探してからとなった。

 まだ就寝にはかなり早いので、宿屋のアイの部屋に集まり、体を休めつつ今後の方針を相談し合ってた時、イベント?は向こうからやって来た。

 ドアをノックする音、

 扉を開くと、苦しそうな初老の紳士が、もうほとんど倒れた状態でそこにいた。

 見覚えがある。あの未亡人の執事だ。

 セインが治癒しようとするのを手で制する。

「……病気です……怪我ではないので…回復魔法は…効きません……」

 話すのも苦しそうだ。

「私より、奥様をお助け下さい!」


 この町の[町長]に、あの未亡人プレイヤーが誘拐され、身代金を要求されているという。

 元々、病気と噂のドクシーの財産を狙っていた町長だが、突然結婚し、突然病死、その後は未亡人が馬車であちこち出向いて散財、自分の取り分が減るのを心配して、今日、手下に屋敷を襲わせた。

 ……が、現金も金目の物もほとんど無い。事前に執事に察知され、馬車で出歩くふりをして何処かに移されたのだと怒り、隠した財産との交換だと、未亡人を拉致して去ったという。

「自警団には知らせるな。」

 お決まりの文句を守り、執事はアイ達に助けを求めた。

 シノを除く4人は、依頼を受け、町長の屋敷前にいた。お金は用意出来てない。執事が意識を失ってしまったから……

 勝手口が静かに開いた。開けたのはシノ、忍び装束の跳躍で、塀を簡単に乗り越えたのだ。

「奥の小屋が怪しいわ。」

 ついでに屋敷内の偵察もしてきていた。蔵の錠前より遥かに頑丈な物が、奥の小屋の扉に付いているという。

 当たりだった。

 シノが錠前を外して中に入ると、小屋の中央の床に畳半畳の四角い穴、覗くと地下へと続く細い縄ばしごが有り、下に黒いドレスの女性が倒れているのが見えた。

 下まで5mくらい?そこそこ深いが、照明があり、見張りはいない。地下室の広さは、学校のプールくらいだろうか、プールサイドも含めた広さ。小屋の倍くらい地下室の方が広く見える。未亡人は気絶しているのか動かない。彼女以外には何もない殺風景な部屋だ。

 いかにも罠っぽい。しかし、人の気配は無い。

 降りてみる事にした。

 アイが行こうとするのを制して、身軽なシノが縄ばしごを降りる。

 小屋の入口を女性3人が見張り、アイは真上で待機している。

 彼女を助け出すのが第一目標……屋敷へ侵入する前に決めていた。

 誘拐だけなら警察=自警団の仕事、自分たちに依頼が来たという事は、恐らくは魔物イベント。

 問題は、どの程度の魔物が出てくるか。幽霊山探索の疲れもある。無理はしない。みんなで決めていた。

 未亡人は手足を縛られ、気を失っていた。

(不可抗力、不可抗力♡)

 目を覚まさせる為に、やや強め(シノ談)にビンタした。上にいるアイまで、しっかり聞こえる音がした。

「いったーーっ!!」

 一瞬で未亡人は目を覚ました。効果はあった。

 シノと未亡人、目と目が合った。2発目の平手が準備万端の状態で。

「助けにきた……」

 ちょっと残念そうなシノ。

「助けに……?」

 完全に疑いの眼差し。

 と、

 アイが上から落ちて来た?!

 飛び降りたのではない、床が突然消えたのだ。着地を取れずに体を打った。

「助けにねぇ……」

 疑いの眼差しが強くなる。

 不測の事態にシノも驚いている。

 アイが起き上がるのとほぼ同時に、今度は残りの3人も落ちて来た。

「ホントに助けに?」

 完全に白い目の未亡人。

 でも、シノの注意はもうそこに無い。入口を見張ってたはずの3人、何かあったか……?何かが来たのか……?!

「いたたたたっ……」

 4人とも落下のダメージは軽そうだったが、

「魔法が使えないの!変な結界が張られてる!」

 落ちて来たセインの声で、緊張が高まる。

「安心したまえ、結界は上だけだ。」

 新たな声の主が、地下へ飛び降りてきた。

 まんまるぽっちゃりでチョビ髭のハゲのおっさん。それでいて、着地は完璧。

「ここにも結界を張ると、私も魔法が使えないからねぇ、オッホッホッホ」

 おっさんが笑った。

「私を解放しなさいよ!ハゲ町長!」

 この状況でも未亡人は強気だ。そしてやはり、この男が町長。

「この見た目を侮辱するのは全然構わんよ………何故なら、本当の姿では無いからねぇ」

 ハゲ町長の目が、怪しく赤く光った。

「オッホッホッホ、人質以外は皆殺しと約束しよう」

 町長の変身が始まった。

「政治家の公約なんて当てになるもんか!」

 シノの言葉は強気だが、表情に余裕は無い。

 体が膨張していく変身、この展開はヤバい!

 全長3mほどの魔物に変わった。大き過ぎない大きな敵、この展開もヤバい!

 ピラミッドに短い足と長〜い腕が生えた形状、全身がガラスかクリスタルかってほど透き通っている。体の中央に赤い目玉が2つ、それ以外はほぼ透明の魔物。

『大魔王[ヴァグディーナ]様の有能なるしもべ、魔王五将軍[リグスタル]様だ!!』

 またもや魔王の配下、そして素朴な疑問……

「五将軍?四天王では無くて?」

『四天王?……あんな小物と一緒にするな!』

「でも……将軍より王の方が上よ。」

『……』

 間が合って、

『魔王[五天王]、リグスタル様だ!!』

 言い直した。

 二つ名は適当らしい。5人そろっているかも疑わしい。

「何で魔王軍が身代金を?」

『美味い酒、美味い御馳走、贅を尽くす為よ!』

 ……人間と変わらない理由だった。

「それが、大魔王の指示?」

『そんな訳、あるかっ!!』

 ……ちょっとホッとした。

 犯罪、暴力等によって生まれる[負のオーラ]被害者、加害者の感情に宿るその[負のオーラ]を集め、大魔王復活の糧にしていると言う。

 その為に、人の姿で町に潜伏し、治安を下げたり事件を起こしたりしている。

『金集めなど、大事な用件のついででしか無い…良いな、ついででしか無いのだ。』

 二度言った。

『さて、戦闘開始と行こう。先に攻撃をさせてやる。』

 余裕の五将軍…じゃなかった五天王に、

「では、遠慮なく」

 セインが応えた。

 その右手はカナの肩に置かれている。

 そして、先制攻撃は、

 ミサイルハヤブサ!!

「!!」

 透明なボディに命中したが、傷は全く付いてない。

「こいつ……ゴルゴガルゾより硬いわ?!」

 緊張が走る。ゴルゴガルゾの時も、ミサイルハヤブサで、やっと目を潰しただけだった。コイツの目は体の中にある。物理主体のパーティには、実に厄介な相手だ。

 救出優先のミッション。5m上に地上がある。どうやって全員上がる?しかも小屋の1階の床は消えてしまっている。小屋の出口はあるが、リグスタルの頭を飛び越えねばならない。

『オッホッホッホ!そうか、貴様らがゴルゴガルゾを倒した人間共か。』

 リグスタルが笑う。

『まずは礼を言おう。私はゴルゴガルゾの奴が大嫌いだった。』

 なら、見逃して!とは流石に言い出せない。

『そして再び礼を言おう。貴様らを倒せば、奴より私の方が上だと証明できる!』

 やはり、見逃して貰えそうにない。

 アイが撃って出た!

 体は硬くても、弱い部位、俊敏性、死角……何か弱点が有るはずだ。

 長い腕の動きは早くない。格闘手段も2本の腕しか無さそうだ。

 ……しかし、やはり硬い!

 打ち合いで、アイの攻撃が何度も当たっているが、ボディも腕も、全てが硬い!

 そして、新武器[飛天三日月刀]の弱点とも言える狭い空間!投げるにしても距離が出ない!

 リグスタルの赤い両目が光った。

 赤い光が膨張を始める。これは……

(魔法攻撃?!)

「ここにも結界を張ると、私も『魔法』が使えないからねぇ」そう言ったのを思い出し、慌てて下がるアイ!

 2連の魔法弾が発射!

 その両方をアイが食らった!!

 ……倒れ込むアイ。意識はある。ゴルゴガルゾの衝撃弾より威力が低い?いや違う!

 絶対アイに当たると読んでいたセインが、間一髪、魔法耐性強化の呪文を彼に掛けていた。

(避けたら後ろの誰かに当たる!だから彼は、後ろに下がりはしても、横に避ける事はない!)

 最悪は回避できたが、ダメージはやはりデカかった。早くもない長い腕に、アイが捕まってしまった。超怪力でもない。しかし、体相応のパワーはある。

 両掌で挟んで、アイを潰そうとする。握力より腕力型のようだ。必死に抵抗するアイ。ギリギリで耐えているが、逃れられそうにない。

 シノの8連撃のナイフが、リグスタルに当たる音がした。気づいてさえいないのかという程の無反応。しかしシノには、他に武器が無い。

 再びのナイフ8連撃。どこか弱点にでも当たればという、一縷の望みの攻撃。

 と、

 1本が、ほんの少しだけ、刺さった!

 そのナイフもすぐに床に落ちたが、リグスタルは挟んでいたアイを放り出して、まるで刺さった場所が燃え上がっているかのように、命中した辺りを両手で何度も擦った。見た目のダメージは無いが、反応が過敏だ。

(何が違う?!どう違った?!……考えろ?!)

 投げた手に微かな違和感……

 何故?……は後でいい。それが何か?……が大事だ。

「!!」

 気づいた。

「チリペッパーよ!」みんなに教える。

 敵に悟られない為のとっさの暗号。

 カナには解らない……でも、他の3人には伝わった。

「カナちゃん!もう一度よ!」セインが動いた。

 アイは体制を立て直す。まだ動けそうだ。

 レイは……表情が暗い。

(チリペッパー……それが弱点だとしても……)

「早く縄、解いてよ!」

 レイの後ろにいる未亡人からの催促。

「土下座したら、考えてもいいわ」……と、からかっている余裕は無かったので無視した。

「ゲームだと思って考えてみるのも有効よ」

 セインが教えてくれた事の1つだ。

 この[世界]がゲームなら、攻略不可能なイベントは起きないはず!対抗手段が何かあるはず!

希望的観測でも、今はそれを探すしかない。

(誰かが持ってるアイテム?武器?部屋にある道具?何なの?どれなの?)

 対抗手段が何かあるからイベントが起きた前提で、頭と視点をフル回転させるレイ。

 そこへさらに、後ろから強い言葉が


「このままだと、みんな死ぬわよ!」


 レイが振り向いた。

(『何か』……って、この未亡人??!)

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