第12話 ありがとう
時系列だとこうなる。
①「作戦タイムを下さい!」
アイが倒れている砂場で、アイに回復魔法をかけつつ、作戦会議が始まる。(回復魔法は、すぐに全快にはならない。回復を早める魔法と言った方が近い。一度かければ放っといても少しずつ良くなっていくが、重傷の場合、魔法を続けなければならない。)
動けないアイを見て泣き出すカナに、
「まだ泣くのは早い!」シノが一喝する。
②共同作業
みんなで短冊に願いを……ではなく、魔法紙に重さアップの魔法が発動するワードを書き込む。
急いで枚数こなすため、平仮名、英語筆記体、崩れた文字、色々混ざった。
③行動開始
特攻隊員レイが目くらましの砂煙幕で撹乱している隙に、アイ、シノの順でバルーンフロッグの背中にジャンプ。カナが念じて命令したことで、最初のジャンプとはケタ違いの跳躍になる(ただし、召喚獣への命令指示はMPを追加消費する。これがあとで響く)。シノは忍び装束のスキル[跳躍]で、アイより更に高く飛んだ。
④時間稼ぎ&視界封じ
カナが再び命令し、バルーンフロッグの舌攻撃発射(どんな技を持ってるかは、魔物図鑑を愛読していたセインが知ってた)。右目を狙ったがカナのMP切れで失敗!ピィちゃんがフォロー!
⑤アイの攻撃!
「多分、倒せない」とセインは読んでいた。それでも手負いのアイを飛ばせたのは『コンボ』が発生するかも知れない(ゲームでよくある、連続攻撃の2撃目は攻撃力にボーナスがつく)のと、もっと大事なこと、モラル=運の高いアイは狙いを外さない!同じ軌道で落下すれば必ずシノも命中する!飛躍の頂点に達したシノは、アイの落下軌道を確認しつつ、手にしていた魔法紙を、手当り次第に体に貼る!
⑥そして!
シノの一撃で、眩しいくらいの緑の光を放った
ジュピターソードの刀身が、シノと共に、凄い勢いでゴルゴガルゾを両断した!!
刀身はそのまま地面にめり込み、シノは両足に激痛を感じて倒れた。
その左右両側で、黒い切断面を上に向け、半分になった四天王の亡骸が、音を立てて外側へと同時に倒れた。竹が真っ二つに裂けたように。
黒い邪悪な煙のようなモノが蒸発した後、亡骸は風化して灰のような砂へと代わり、砂山が2つできた。
……今度こそ、倒した。
アイとシノがお互い見合って、親指を立てた。勝利のガッツポーズの代わりに。2人共、もう指を動かすのがやっとだ。
セインが駆け寄り、2人に回復魔法を施した。カナはそれを確認すると、
小さくなったピィちゃんの元へ行き、両手で優しくすくい上げた。
「ありがとう、ピィちゃん」
もう動かないピィちゃんにお礼を言う。
「カナ」
シノに呼ばれて振り向く。
「もう、泣いていいよ。」
「……うん」
泣きながら、優しく抱きしめると、ピィちゃんは、淡い光を放ってから、半透明になって、ゆっくり消えた。
ゴルゴガルゾより先に絶命していたはずなのに、カナに別れの挨拶がしたかったかのようだった……
一方セインは、レイの元へと向かった。
「ありがとう」
レイに優しく微笑み、
「もう、泣いていいよ」
レイを優しく抱きしめた。
カエルの舌攻撃が失敗してから、いや、もっと前、投げた煙幕が晴れてからずっと、レイは一歩も動いてない。そこまでが、自分の役目。その後は、怖くて動けなかったのだろう。攻撃力を持たない身で、一番長く、化物と対峙していたのだから。
「ふえぇぇぇーーん!」
レイが子供のように泣き出した。一番勇気を出したのは、彼女かも知れない。
誰一人欠けても、強敵を倒せなかった
誰一人欠けること無く、強敵を倒せた
長い……長く思える戦いが終わった………
時代劇の主人公が悪党一味を倒した後で、捕り方が「御用だ!御用だ!」と現れるかのように、刑事ドラマの主役が事件解決した後で、サイレンを鳴らしたパトカーが次々到着するかのように、
町を支配していたゴルゴガルゾを倒してホッとした頃、町長(いたの?)が自警団(あったの?)を引き連れてやって来た。
老神父も現れ、住人達の野次馬も遠巻きに群がり始めた。
ありがとうと何度も感謝され、お決まりのお礼の品(戦闘報酬)を貰った。
[飛天三日月刀]。刀身が三日月型の剣。町長が所有していたが、使える者が誰も無く、蔵に長い間眠っていたという。ジュピターソードと同じSランクの剣、もちろんアイの物になった。背中に差すか腰に差すか迷う大きさだ。
[聖なる手袋]。純白の、花嫁が着けそうなシルクの手袋。接触した相手に、自分のMPを分け与えられる……セインが使う事になる。教会に秘蔵されていた物を老神父が持って来た。
そして、[形見のリストバンド]。保安官ブロッソンの遺品を、自警団がシノに手渡した。装備すると、シノの投射スキルが『S+』に跳ね上がった。『S+』はもう、百発百中と言っていい。[同時投げ]と[両手投げ]のスキルも備わっていた。[同時投げ]は、指の間を利用して、ナイフを4本同時に投げれるスキル。投射『S+』も合わさると、4ヶ所の別々の的を同時に射抜ける。[両手投げ]は文字通り、利き腕の関係なく両手が使える。つまりは一度に8ヶ所射抜ける、投射名人が誕生した。まるで、
……まるで名手ブロッソンが、後継者にシノを指名したかのように……
もちろんきっと、能力アップがなくても、シノは身に付けていただろうけど。
自警団が、負傷したチンピラ6名を逮捕&連行した後さらに、町長から、ギャング一味が貯め込んだ大金と、ギャングの懸賞金が渡されたが、アイは全部、それを町に寄付した。金に目が無い姉妹も異論は無く、他のみんなも同意した。
(ブロッソンさん、ありがとう……形見までくれて、ありがとう……)
戦闘報酬は、クリアしたパーティの構成を考慮した上でランダムになる。サイトでは、そう言われている。
今回の報酬で、
「一番助かった」のは、剣を折られたアイ。
「一番いい物を受け取った」のは、シノ。
「一番強くなった」のは、
「多分、あなたよ」
セインがカナに向かって言った。
余談だが、戦後処理はゲーム仕様で、ホントに展開が早い。朝礼の校長先生のスピーチより早いかもって感じで進む。敵を真っ二つにしても内蔵等が飛び出さずに、断面が黒一色なのもゲーム仕様、アニメの北○の拳なみの配慮だ。
敵を攻撃した反動もゲーム仕様、上空から何倍ものGで落下したシノが、足の痛みだけで済み、回復魔法で十数分後には歩けるのも、その日は動くので精一杯だが、特別なダメージを受けなければ翌日から戦闘できるのもゲーム仕様。
これが本来の[世界]。元々はテーマパークのような楽しむ空間だったのだ……
翌日、次の町への移動中に出現する魔物は、新装備の練習相手となった。
「ピィィィー!」
ミサイルハヤブサが、猪型の魔物を縦に貫通して倒した。
これでカナは、ランダム召喚で、5回連続でミサイルハヤブサを出している。
「……やっぱり強力ね。」
と、カナの後ろにいるセイン。連続成功に大きく貢献しているのが彼女。
ランダム召喚は、1度召喚した事のある魔物ならば、念じれば、多少高確率で出現してくれる。
その「多少」をほぼ確実にしているのが[聖なる手袋]を着けた右手を、カナの背中に添えているセイン。[聖なる手袋]は、MPを分け与えるだけでなく、ステータスの一部共有も可能だった。シスターとしてモラル=運の高いセインと、協力して召喚しているのだ。
一方、ナイフの達人と化したシノ。飛来する昆虫型魔物を、8体同時に仕留める上達ぶり。ナイフ投げが更に楽しくなって没頭してたが、複数投げは、やはり1本より威力が落ちると解った。主力として戦いたい彼女には、まだ物足りなさを感じていたが、それでも一気に十歩は前進した。
そして[飛天三日月刀]、ある意味、ジュピターソードより癖のある剣だった。
名の通り三日月型の刀身の剣。ブーメランのように投げる剣だった。回転しながら飛んで行き、命中すると跳ね返るか、敵を斬り裂いて戻ってくる。飛行時間が長いほど回転が増していき、回転が早いほど威力を増す。[風属性]も付与されていて、[地属性]の魔物に相性がいい。
直線に投げるより、弧を描くように投げた方が効果的なのも解った。敵に弾かれても、地面に叩きつけられても、そこからまた回転して戻ってくる。
圧巻だったのは、サンドワームが3体現れた時だ。40mほど先に、20mくらい体を出したサンドワームが3体、カナに死を覚悟させた因縁の相手だ。射程距離の限界を知りたかったので、すぐに飛天三日月刀を投げてみた。失敗しても返ってくると信じて。
右斜め前方に投げた三日月刀は、視界から消えるくらい右へ飛んでから、回転を加速させて敵に届いた……どころか、3体全て切断して戻ってきた。射程距離の判定はパワー、命中判定は投射ではなく剣スキル、どちらも『S』越えのアイも達人級の使い手となった。[風属性]がサンドワームに有効だった事もあるが、音も無く飛ぶので使い方によっては、かなり強力な武器となる。
ただ、剣として使うと、至って普通……Sランクとは思えない。Bランク程度の武器でしかなかった。ボス戦には向かないかも知れない。
やはり、『伝説の装備』が必要だ。
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