第11話 「残念」の応酬
『ああ、そうそう、言い忘れていた。』
頭部に折れたジュピターソードをめり込ませたまま、四天王ゴルゴガルゾが不気味に笑った。
『俺様には[魔法]は効かないぞ。』
絶望とも思える一言を吐いた。
もう、魔法玉ぐらいしか対抗武器はないのに。
唯一の前衛、アイが倒され、剣が効かないゆえシノのナイフも無理、カナのランダム召喚で当たりを出すのは、残りのMPを考えると確率ゼロに近い。魔法アイテムくらいしか残ってない。
「作戦タイムを下さい!」
まるで学校で、小学生が先生に答えるかのように、背筋をピンと伸ばしてセインが手を挙げている。
(こんな時に……ボケ?)
(それとも……天然?)
シノもレイも、カナも流石に唖然とした。
『死ぬ順番を決めるのなら、少し時間をやろう』
意外にも、あっさり要求は通った。
集まったのは、公園の砂場。アイが飛ばされて倒れてる場所だ。他の4人はまだ動けるので、必然的にそうなった。
プレイヤーが死ぬ時は、淡い光を発してから、体が半透明になり、どんどん透けて、最期は消える。アイはまだ消えていない。意識もあるようだった。
アイの回復をしつつ、セインを中心に、作戦会議が始まった。
一方のゴルゴガルゾにも、ちょっとやりたい事があった。
足元に残った最後の1つ、元人間だった黒い丸石。それに背を向けて、しゃがみ始めた。
頭の中央に深く刺さった折れた幅広の剣、20cmほどめり込み、5cmほどはまだ上に突き出している。前後が長い。ジュピターソードの刀身ほぼ全てが残っている。前の出っ張りは10cm、後ろは見えないが1mくらい?
……邪魔なのだ。
そして、仲間には見られたくない!!
さらに言うと、心臓下にある左目からはまだいいが、右肩付近にある右目の真横に出っ張りがあり、必ず視界に入ってうっとおしい!
前の部分を両手で挟んで取ろうとしたが……届かない!頭上だけでなく、前にも手が回らなかった。
そこで後ろ、長い後ろの出っ張りを黒丸石に乗せて、しゃがみつつ上に押せば……
極太の屈強な脚は、しゃがむのには向かなかった。玩具メーカーが可動フィギュアを……はもう前回書いたか……
『役立たずめ!』
元子分の黒丸石を、遠くに蹴り飛ばしてしまった。もう周囲には何も無い。
15m程先に、
「ゲコッ」
締まりのない顔の大蛙がいる。
作戦会議から2分経過、
「ゲコッ」
2分半経過、
「ゲコッ」
『ええぃ!もう待てぬ!とっとと順番に、殺されに来い!』
痺れを切らす四天王に、
「はい!」
元気な返事で走って来る者がいた。
戦闘力が無に近いレイだ。
小走りだが遅い!もう殺してやろうかと衝撃波を撃とうとした時、
「[バンブー作戦]行きます!」
何やら言ってきたので、ゴルゴガルゾは待つことにした。
(人間を完全に見下しているから、下手に出れば隙きを見せる可能性があるわ)セインの助言だった。彼女はそうして、賭けだったが作戦会議の時間も与えられたのだ。
次の賭け「バンブー作戦」の開始!
「とお!」
魔法が効かないはずなのに、レイが投げたのは魔法玉?
ゴルゴガルゾの手前で玉は開き、中から視界が塞がるほどに拡散したのは……砂?
……砂と白煙で一面覆ったが、すぐに払われてしまった。
『何だ、コレは?』
「雷属性には地属性かと思って、その、砂場の砂を……」
本当に、煙玉に砂を混ぜただけらしい。
『死ね!』
呆れるより先に(殺そう!)と思ったゴルゴガルゾが、衝撃弾を放とうと左手を伸ばした時、
「残念ね、私は囮よ。」
ジョジョ立ちをしながら、レイが言った。
……一瞬の記憶の整理。
剣士を右手で吹っ飛ばした時、ほぼ真っ直ぐだったが、やや右よりに飛んで砂場に着地した。
そこで人間共は全員集まって相談し、時間切れを宣告すると、一番ザコっぽい奴が、正面やや右よりから走って来てしょーもない煙幕を……煙幕を正面やや右よりから投げた後、煙が晴れたら俺様の左半身側に??
だから俺様は無意識に左手で殺そうと……?!
何かが、右側の目に向かって来る!
「行っけぇ!!」
カナの叫び声!
迫ってくるのは、バルーンフロッグの舌!
カメレオンが離れたエサを一瞬で捕らえるように、勢いよく伸びてくる!
それが、どのくらいのダメージを与えられるのかは解らなかったが『バンブー作戦』の要となるその召喚獣の攻撃は、
ゴルゴガルゾに届く直前で、消えた……
カナのMPが尽きた為に……
「げえっ?!」
一番驚いていたのはレイ、その「げえっ?!」はマジの「げえっ?!」だった。
再び照準を一番近いレイに戻すゴルゴガルゾ、
『残念だったな。』
不気味に笑うゴルゴガルゾに、涙目でコクコクと2回頷くレイ。
(作戦失敗しました。お願いです。見逃して下さい!!)
目で訴えかけたが、チワワのようには行かなかった。命乞いは、失敗した。
「!!」
物凄い衝撃音がして、何かがゴルゴガルゾの右目に突き刺さった!
超スピードの物体、そんな攻撃ができる者は、チームには残っていない。
……でも、自分もチームの一員だと思っているモノがまだ居たのだ!
衝突直前の叫び声で、それが誰か解った。
「ピィィィーー!!」
ミサイルハヤブサのピィちゃん!
一度サンドイッチをあげただけなのに、町まで付いてきていたのだ。
今、そのサンドイッチが、何万倍にもなって返って来た!!
鉄板を貫通するというミサイルハヤブサの攻撃力でも、ゴルゴガルゾの右目を潰しただけに終わった……そして、頭上や眉間に届かない手も、右目のある肩までは届いた。
突き刺さった状態のピィちゃんを鷲掴みにして引っこ抜き、力任せに地面に叩きつけた。
「ピィちゃん!!!」
バリンという音を立て、ピィちゃんの片翼がもげ、胴体にも大きな亀裂が走った。
ピィちゃんはもう動かない。最初の犠牲者が出た……
そこへ!
上から、アイが降ってきた!!
まだ完治してないはずのアイが、戦える武器はもう無いはずのアイが、手にしているのは、強烈な一撃で跳ね飛ばされても手放さなかった、ジュピターソードの……柄?
もはや剣とは呼べないモノを真下に構え、ゴルゴガルゾの頭上に迫る。右目を潰された魔物は気づいていない!
だが、刀身部分は、横に測れば25cmほど残っていたが、縦に測れば10cmにも満たない。それを下に向けたら、刃先が当たらない。
(刃先は、真下にある!!)
激突の瞬間、折れた剣の断面と、刺さったままやや飛び出ていた刀身の峰の部分が、見事に重なった!
「うおおおぉぉぉお!!」
残った力を振り絞っているのか、痛みをこらえているのか、あるいはその両方か、だが、激突した後もアイは柄を手放さない。
折れて刺さっているジュピターソードの刀身が、緑色に光り始めた。
(ジュピターソードは渾身の一撃を放つ時、刀身が、緑色に輝く!!!)
1回目より、輝きが強い!
メリメリと、刺さった刀身が、さらに深く沈んでいく。
「ドサっ」
音を立てて地面に倒れたのは、アイだった。
遂に、剣の柄から手が離れた。
力尽きたように、足を立っている魔物の方へ向け、仰向けに大の字に転がった。
一方のゴルゴガルゾは、さらに15cm以上深く沈んだ刀身、代わりに頭部に、ジュピターソードの柄と、一緒に繋がっている刀身の残りの一部が出っ張っている状態、前より不格好になった。
『残念だったな。』
何回目かの、ゴルゴガルゾの不気味な笑い。
クサビを打ち込んだように、パックリと割れているのに、上から見れば15cm以上も割れ目が開いているのに、平然としている!!!
刺さった刀身が、今度は心臓下の左目の視界に入ってうっとおしい。余計なモノを更に足されて不快、その程度にしか思っていない。
こんなにめり込んでもまだ、浅いのか?!
竹を縦に割く場合、ある程度刃物が入れば、そこから力を加えれば一気に真っ二つになる、それが『バンブー作戦』……のはずだった。
上体が割れている魔物がまずやったのは、体を左右に振ること。そして、新たに加わった剣の残骸が、前のと強力接着剤で付けたように剥がれないと解ると、すぐに諦めた。
今はこっち、浅い傷より処刑が先だと。
『あのまま倒れてりゃ、死ぬのは一番最後だったのに。非力な身の程を知るべきだったな。』
アイに最後の言葉と、不気味な笑いを贈る。
非力……そう、力が足りないのは解っていた。
……だから、落下を利用した。
「……残念だった……な」
アイも笑って応えた。
「俺も、囮だ!」
……上空でバタバタと音がする。
何かが、いや、もう1人降って来る!
顔は見えない。バタバタと振動している無数の白い紙が邪魔している。
大きめの短冊を沢山付けて、下から強風で煽っているような感じ、落下の加速のせいだ。
白い紙は……白い諭吉、[魔法紙]だ。
文字を書いて体に貼り付けると呪文が発動する アイテム。呪文名じゃなくても、呪文効果を意味する言葉でもいい。漢字、仮名、英語もOKのスグレモノ。一度貼り付けたら、呪文の効果が切れるまで絶対に剥がれない!
書いてある文字はバラバラ、筆跡もバラバラ、でも、内容は同じ!
「重い」「ちょーおも」「ゲキ重」「ヤバおも」「heavy」etc……
それらが忍び装束に貼り付いている。
そう!
降って来るのは!
「ブロッソンさんの……仇ィィィィっ!!!」
急降下してくるシノの手に、武器はない。
武器はすでに、
足下にあるのだから!
「ガキィィィーーーン!!」
激しい音がした。
アイが新たに足したジュピターソードの金属部分に着地、いや、
強烈な一撃を与えた!
重い、ちょーおもな、ゲキ重の、ヤバおもで、heavyな一撃が決まった!
ゴルゴガルゾに刺さっているジュピターソードの刀身が、三たび光った。
今度の輝きは、今までで、断トツに一番強い!
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